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日賑グローバルニュースレター第358号

1.半世紀ぶりに移民流出が移民流入を上回る可能性が高い米国

 

革新系のシンクタンクであるブルッキングス研究所と保守系のシンクタンクのアメリカン・エンタープライズ研究所というワシントンの2つのシンクタンクに所属する経済学者たちは、今年米国を離れる移民者数が米国に流入する移民数を半世紀ぶりに上回る可能性が高いとの論文を共同で準備しているとワシントンポストが報じた。

いずれのシンクタンクもトランプ前大統領の移民政策がこの逆転の主要因であると分析している。

具体的には、南部国境の事実上の封鎖、留学生のビザはく奪の脅威、新規移民の法的地位はく奪といった施策である。

また、ロサンゼルスなど各地で抗議活動を引き起こした職場での強制捜査による国外退去の増加も一因とされている。

移民の純減(純流出)は、インフレ圧力の高まりにつながると経済学者らは警鐘を鳴らす

これは、トランプの関税政策によるインフレリスクをさらに悪化させる可能性がある。

また、コロナ禍で深刻化したような労働力不足の再来も懸念されている。

長期的には、納税者や社会保障制度を支える層の縮小により、財政政策にも影響が及ぶ可能性があるという。

実際、労働省のデータによると、外国生まれの労働者数は3月以降100万人以上減少している。

これは、バイデン政権時の2024年に記録的な水準に達した移民労働者数の急増からの急激な反転である。

当時は、移民労働力が米国経済の回復に大きく貢献したが、現在進行形の移民労働力の減少は、農業・建設・観光業など移民に大きく依存する産業に特に大きな影響を与えるとみられる。

この「移民大量流出」が実際に起きるかどうかはトランプ政権が掲げる「100万人の退去目標」の達成如何に左右される。

先月下院で可決され、現在上院で審議中の共和党主導の歳出法案が法制化されれば移民取り締まり強化に1,500億ドルが割り当てられ、大規模な強制送還の加速が可能となる

ただし、トランプ政権は数々の障壁にも直面している。

裁判所の介入や、ロサンゼルスをはじめとする各地の抗議活動は、強制措置の遂行を妨げる要因となっている。

ニューヨーク・タイムズによると、先週、農業・ホテル・レストラン業界での取り締まりを一時停止するよう政権が命令を出したとのこと。

これは、トランプ氏の主要な支持層であるこれらの産業が労働力喪失に抗議したことが背景にある。

専門家によれば、純移民流入数がゼロあるいはマイナスに転じることは、米国の人口・経済の歴史における転換点となる可能性があるという。

国勢調査局によると、昨年は米国に約300万人の純移民が流入しており、これがゼロ乃至マイナスに反転する影響は計り知れない。

ベビーブーマー世代の退職が進む中で、労働力の自然成長はすでに鈍化しており、移民制限はその傾向に拍車をかけることになる。 

わたしが最後に駐在した2008年から2012年のころの米国は、人口が年1%のペースで増加し、その過半が純移民流入でした。 

また、テスラ、グーグル、ヤフー、エヌビディアなど移民がトップを務める会社が急速に成長していたころでした。 

移民は米国の原点の1つであるフロンティアスピリッツと、失敗を恐れず挑戦する若さを同国にもたらしていると肌感覚で感じたものです。 

生粋のアメリカ人だけであれば国の保守化、少子高齢化が進み、それがトランプの支持基盤を強固にしていくことは間違いありませんが・・。

 

2. 自らの79歳の誕生日を34年ぶりの軍事パレードで祝ったトランプ大統領

 

先週14日土曜日、米国の首都ワシントンDC34年ぶりに軍事パレードが行われた。

表向きアメリカ陸軍創設250周年を祝う形で行われたこのパレードは、トランプ大統領の誕生日に合わせたものである。 

これに対し、“No Kings”のプラカード掲げて抗議するデモが全米各地で見られたことは日本でも報道されていた。 

アメリカがまだ若い共和国だった頃から第一次世界大戦にかけては、戦争勝利を祝う儀礼的な軍事閲兵やパレードが行われてきたが、現代のアメリカには公共の場での軍事パレードの伝統は存在していない

第二次世界大戦の終結以降、アメリカが実施した大規模な軍事パレードは、1991年の湾岸戦争後にジョージ・HW・ブッシュ大統領のもとで行われた「ナショナル・ビクトリー・セレブレーション(National Victory Celebration)」の1度だけで、ワシントンD.C.のコンスティテューション通りを兵士たちが行進し、戦車も行進した

ワシントンポストが軍事パレードの伝統を持つ世界の状況を報じたのでそのうちのいくつかを紹介する。

フランスでは、1789年に革命家たちが王政の圧政の象徴であった旧要塞・国家刑務所「バスティーユ」を襲撃したことを記念して毎年軍事パレードが行われる

この軍事パレードは、プロイセンとの戦争後の1880年から続いており、フランス革命の歴史的記憶の中でも重要な要素となっている。

これはヨーロッパで最も古く、最大規模の軍事パレードであり、約6,500人の行進、200頭の馬、219台の車両、さらに約100機の飛行機やヘリコプターが参加する。

2017年には、トランプ大統領が参加しており、今回の米国の軍事パレードのモデルとなっている。 

ロシアでは、第二次世界大戦におけるソビエト連邦のナチス・ドイツに対する勝利を祝う「戦勝記念日(Victory Day)」として軍事パレードが行われている。

先月の戦勝記念日パレードでは、モスクワでイスカンデル弾道ミサイル、ロケットランチャー、ウクライナで使用されている重火炎放射システムなどが披露された。

核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイルも赤の広場を行進している。 

イギリスでは260年以上にわたり、「トゥルーピング・ザ・カラー(Trooping the Colour)」と呼ばれる式典と軍事パレードを通じて、君主の誕生日を祝う伝統が続いている。

現在のチャールズ3世の最初のパレードでは、1,400人の兵士と200頭の馬、300人の音楽隊が参加した。

今年のパレードは米国と同じく6月14日の土曜日に行われ、王室の多くのメンバーがロンドン中心部に集まり行進を見守っている。 

インドでは、インド憲法の施行を祝う「共和国記念日(Republic Day)」に毎年恒例の軍事パレードが行われている。

2015年のパレードには、バラク・オバマがアメリカ合衆国の大統領として初めてこの式典に出席している。

中国では、毛沢東による中華人民共和国建国の宣言を記念し、10年ごとに人民解放軍と中国共産党によって大規模なパレードが開催されている。

このパレードには、数千人の兵士を含む10万人のパフォーマーが参加する大規模な式典となっている。

2009年のパレードでは、部隊や装備の編成行進に加え、「奮闘と創始」「科学的発展」「輝かしい成果」といったテーマを掲げた盛大なフロート(山車)の行進が行われ、約2,000人の行進者がそれを囲む「ページェント(祝祭パレード)」も披露された。

日本では、公共の場での軍事パレードは存在しないが、陸上自衛隊朝霞基地での観閲式や相模湾などでの観艦式が概ね3年に一度実施されています。

内閣総理大臣などが自衛隊の部隊を公式に視察・激励する儀礼的な目的で、軍事力の誇示ではありません。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  EUへの希土類金属の輸出承認を進める中国

中国政府は、EU域内企業に対する希土類金属の輸出承認手続きを迅速化するとの計画を示唆している。

中国政府・商務部は6月7日、条件を満たす申請の承認手続きを迅速化すると発表した。

中国政府による希土類金属の輸出制限は、既に欧州の自動車産業に影響を及ぼしている。

一部の工場は操業停止を余儀なくされている。

こうした中、米国企業ではなく、EU域内企業を対象とした輸出緩和策は、中国の意図を感じる。

EUは既に中国に対して、状況の改善を強く求めてきていた。

 

l  TSMCとの関係を深めるAMD

米国半導体企業であるAdvanced Micro Devices(AMD)は、米国・カリフォルニア州サンノゼで「AIアドバンシング2025」のイベントを開催した。

そこで、AMDは、2026年に発売予定の次世代Zen 6アーキテクチャEPYCサーバープロセッサ「Venice」を披露した。

これは、台湾積体電路製造TSMCの2ナノ・プロセスを用いて製造され、現世代のプロセッサに比べてコンピューティング性能が70%向上しているとされており、AMDとTSMCは更に強力な提携関係を構築していくものと台湾では見られている。

AMDは韓国の三星電子との提携も強化しており、今後の動向を注目したい。

 

l  対米輸出で大幅減なるも輸出全体では増大中の中国

中国政府・税関総署が6月9日に発表した本年5月の貿易統計(米ドル建て)は、米国向けの輸出額が前年同月対比34.5%減の288億米ドルとなっている。

減少幅は4月の21.0%減から拡大している。

中国と米国は5月中旬、相互に掛け合っていた高関税を115%分ずつ削減することで合意しているが、トランプ政権の外交姿勢が不透明なることから、米中間の貿易は低調なままとなっている。

5月の米国からの輸入も前年同月対比18.1%減の108億米ドルとなり、減少幅は4月の13.8%から更に拡大し、3カ月連続のマイナスとなっている。

対米輸出から輸入を差し引いた中国の米国に対する貿易黒字は41.5%減の180億米ドルとなっている。

トランプ政権の動きによって、米中間では関税の掛け合いが4月上旬からエスカレートし、一時は米国の対中追加関税が145%、中国の対米関税も125%に達していた。

5月中旬に互いに115%分ずつ削減することで合意したものの、その後も中国本土のレアアース輸出管理に米国が不満を表すなど緊張関係が続いていた。

米国政府は中国人の入国管理の規制姿勢を強め、ことは貿易だけに留まらなくなってきている可能性もある。

尚、中国本土の欧州連合(EU)向けは12.0%増、東南アジア諸国連合(アセアン)向けは14.8%増、日本向けも6.1%増となっており、この結果、中国の5月の輸出総額は4.8%増の3,161億米ドルとなり、輸出額全体は引き続き拡大を続けている。

 

(2)  韓国/北朝鮮                                  

l  5月として過去最高を記録した韓国のICT輸出

韓国政府・科学技術情報通信部は、5月の情報通信技術(ICT)分野の輸出額が208億8,000万米ドルと、前年同月対比9.6%増となったと発表している。

所謂、トランプ関税による不確実性が高まっている中、ICT分野の輸出が増加傾向を維持して5月としては過去最高を記録している。

品目別でみると、半導体の輸出額は138億米ドルであった。

DRAMの固定取引価格の上昇、広帯域メモリー(HBM)など高付加価値製品の輸出好調が続き、5月としては過去最高となったとの見方である。

携帯電話の輸出額は4カ月連続増加となった。

部品輸出が10.2%減少したが、スマートフォン完成品の輸出額が30.7%増加し、全体では2.8%増の10億5,000万米ドルを記録した。

通信装備の輸出額は10.2%増の2億ドルであった。

米国向けの輸出額が67.2%増加したほか、高速通信規格「5G」の需要が高いインド向けも147.0%増加している。

コンピューター・周辺機器の輸出額は、主力品目のSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)の需要が回復し1.7%増の12億米ドルとなった。

 

l  大韓航空とアシアナ航空の統合の状況

韓国航空最大手の大韓航空と同2位のアシアナ航空の統合を巡って、公正取引委員会は、大韓航空側が提出した2社のマイル統合案について、修正・補完を要請したと発表した。

大韓航空がアシアナ航空を吸収して一つの会社になる為、アシアナ便で貯めたマイルが大韓航空でどのように扱われるようになるのか注目されている。

公正取引委員会は、「マイルの使用先が、アシアナ航空がこれまで提供してきたものと比較して不足した部分があった。

マイルの統合比率と関連した具体的な説明などに於いて、公正取引委員会が審査を開始するには多少不十分な部分があると判断した」

と説明している。

公正取引委員会は消費者の利益を保護する為に、アシアナ航空利用者の信頼を保護し不利益が生じてはならない、両航空会社の利益がバランスよく保護されなければならない、などの審査基準を設定していたが、これを満たしていなかったとされている。

 

l  米国軍艦市場への橋頭保を築きつつあるハンファグループ

韓国の防衛産業としては国内第1位となっているハンファグループは米国の軍艦市場に進出する為の一つの大きなハードルを越えたと見られている。

即ち、ハンファグループは本年3月からオーストラリアに本社を置く防衛産業関連企業であるのオースタルの株式の19.8%を取得して最大株主になることを試み、これを梃子に米国の軍艦の修理、建造のビジネスチャンスを得ることを模索し始めている。

オースタル社は米国・アラバマとサンディエゴ造船所で米国海軍の小型水上艦と軍需支援艦を作るこの分野のシェア1位企業である。

外国企業が米国軍艦を建造に関連するオーストラリア企業の株式を取得しようとしているだけにオーストラリア政府と米国政府の承認を受けなければならないが、米国政府許可が先に出たとして、韓国国内では期待感が高まっている。

今後、オーストラリア政府の承認を受ければ、韓国の防衛産業関連企業として初めて米国軍艦を建造するのに直接的に関与出来るようになる見通しである。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,366.61(前週対比-7.43)

台湾:1米ドル/29.52ニュー台湾ドル(前週対比+0.40)

日本:1米ドル/144.01(前週対比+0.83)

中国本土:1米ドル/7.1810人民元(前週対比+0.0076)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,894.62(前週対比+82.57)

台湾(台北加権指数):22,072.95(前週対比+412.29)

日本(日経平均指数):37,834.25(前週対比+92.64)

中国本土(上海B):3,376.700(前週対比-8.658) 

 

4.弊社の「協働的リーダーシップ研修」に関するコラムのこと

 

弊社が提供する「協働的リーダーシップ研修」において提携させていただいているLEC東京リーガルマインド殿が、同研修に関するコラムをリリースいただきました。

下記リンクをクリックいただければお読みいただけます。

https://www.nisshin-global.com/blog/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%97/ 

一方、弊社ウェブサイトにて「協働的リーダーシップ」に関する様々なブログをリリースしておりますので、お時間があるときに御笑覧いただけますと幸いです。

https://partner.lec-jp.com/biz/column/management-003.html