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日賑グローバルニュースレター第326号

1.トランプ前大統領を利する民主党内部の獅子身中の虫

 

ミネソタ州選出のディーン・フィリップス下院議員が民主党の大統領予備選に立候補し、「バイデン大統領は民主主義への脅威となっている」と批判している様子をワシントンポストが報じた。

同候補の批判の根拠民主党の予備選においてフロリダ州が投票を経ずにバイデンを次期大統領候補とすることを決定したり、来年123日に民主党予備選のトップバッターとなるニューハンプシャー州の予備選にバイデン大統領が立候補しなかったりという「バイデンで決定」の姿勢にある。 

最近の世論調査ではトランプ前大統領への支持がバイデンを上回る状況下2ポイントから最大10ポイント差)、「世界で最も危険な人物を大統領にしないために、民主党の予備選も民主的な競争に基づくべき」というのがフィリップス議員の問題意識のようである。 

フィリップス議員は、10月に立候補を表明した際には、「称賛以外の何物もない」とバイデン大統領を称えていた。  

その時点でのフィリップス候補の立ち位置は、80歳のバイデン大統領に対する54歳の若さとしての選択肢の提示にあった。 

それが上述のとおり、自らは予備選を通じた論戦にすら参加できない状況が見えてきて、その不満を「民主主義への脅威」といった極端な表現で表し、その批判攻撃をバイデン大統領にぶつけるという構図となっている。 

曰く、「予備選は戴冠式ではなく、共和党候補に勝利し得る最良の候補を選択する民主的なプロセスであるべき」と。 

それがフロリダやニューハンプシャーのような状況では州民は公民権を奪われた格好にあると批判する。 

民主主義国サミットなど自由と民主主義、人権主義を外交の前面に押し出してきたバイデン大統領にとって「民主主義への脅威」との批判は全く当たらないとバイデン陣営では歯牙にもかけないようだが、フィリップス候補によるこのバイデン攻撃は共和党、特にトランプ陣営にとってはバイデン攻撃のさらなる口実となりつつあり、民主党幹部も党内の不協和音に懸念し始めている。

 

2.DEIに向けたアファーマティブ・アクションへの揺れ戻し

 

今年8月以来アメリカの保守系団体の「平等の権利のためのアメリカの同盟」が、大手法律事務所のダイバーシティフェローシッププログラムを白人やアジア系といった特定の人種を排除するもので不当であるとして訴えを起こしている様子や保守系の州の司法長官が全米トップ100の法律事務所に同様の特定人種への優遇処置を行っていることへの警告書を送りつけている様子をワシントンポストが伝えた。

今年6月にアメリカの最高裁は大学入学選抜時に人種や民族を考慮するアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)は違憲とする決定を下している。  

上述の保守系団体や州司法長官による動きはこの決定に意を強くしてアファーマティブ・アクションへの流れを止めさせる動きと解釈されている。

米国では1960年代のマーチンルーサーキング牧師の活動に代表される公民権運動を経て制定された公民権法を通じ、人種平等を担保する法制が整ったが、それまでの差別の蓄積からマイノリティが高等教育を受けられる割合は人口比に対し低く(但しアジア系は例外)、住宅ローンの審査、企業での採用、登用など様々な評価においてそのプレゼンスは低く抑えられていた。

この差別状況を積極的に是正しようとしてケネディージョンソン政権時代に立ち上げられたのがアファーマティブ・アクションであった。  

その後、大学入試選抜から企業の採用・昇進、プロスポーツ界のチームメンバーの構成に至るまでマイノリティのシェアの目標値を定める形で「積極的な是正」が図られてきた。 

企業側もDiversity, Equality & Inclusion (DE&I)の社会的価値推進の名の下に、独自のアファーマティブ・アクションのルールを制定してきている。

最近では法律事務所業界がアメリカンフットボールのNFLRooney Ruleというアファーマティブ・アクションのルールを参考にしてマンスフィールドルールというものを2017年に定めている。 

これは幹部候補の30%を女性かマイノリティが占めることを求めるもの

この法律事務所業界がなぜ保守派のアンチ・アファーマティブ・アクションの最初のターゲットとされたかといえば、法律事務所はリスクに最も敏感なので、訴えられたり警告書を受けたりするとリスクを避けるべく是正措置プログラムの変更を真っ先に行い、それが社会に波及しやすいとみられるため

トランプ前政権時代に保守系判事が一気に3人も増えて63の大多数を握った最高裁が中絶違憲判断や今回のアファーマティブ・アクションの違憲判断を行う動きに勢いを得て、これまで50年間進めてきたDEIの動きに対抗する訴訟などが出てくる可能性もある。 

多くの既存のダイバーシティプログラムは問題ないとみられるが、特定の人種や性別を金銭的に優遇するという内容は現状では裁判所において厳しい判断を示される可能性が高いという。 

マッキンゼーが3年ごとに行うダイバーシティ調査では経営幹部の多様性(性別・人種)が高いほど、業績も高いという相関関係がみられていることからして多様性を追求すること自体は「社会的是正措置」の段階から「経営的常識」に代わりつつある中での保守派による揺れ戻しの動きと感じる。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  中国の信用格付け見通しを引き下げたムーディーズ

中国経済は不動産問題から崩れていく可能性があると言った見方が国際金融市場の一部からは流れている。

こうした中、「不動産は供給過剰で、空き家は30億人分あるとの推計もある。

14億人では住みきれない」といった見方が、中国国内の討論会で、政府筋に近い人間のコメントとして示されたと言った報告もなされている。

中国では恒大集団グループやカントリーガーデングループなどの不動産大手が次々と経営危機に陥っており、特に地方での行き過ぎた不動産開発が不動産バブルの原因となっていると見られている。

世界的な格付け機関であるムーディーズ・インベスターズは、中国の信用格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げている。

中国の地方政府や国有企業の過度な負債、不動産市場の低迷が国の経済を脅かしているという理由からの引き下げである。

ムーディーズは、中国の長期格付けを5番目の格付けである「A1」に据え置きつつも、格付け見通しは引き下げたことになり、これは、信用格付けが今後引き下げられる可能性が高いことを意味している。

ムーディーズは、「中国の地方政府と国有企業の負債が財政・経済・制度に広範囲なリスクをもたらす為である。また、構造的に遅れている中期経済成長と持続的な不動産分野の縮小も反映させた」

としている。

尚、今年の中国の年間国内総生産(GDP)成長率については、ムーディーズは、「今年3月に中国本土政府が発表した目標値5%内外を達成できるものと見られる」とは評価している。

その一方で、来年と2025年の中国の年間成長率は4.0%に下がり、2026~2030年には平均3.8%に鈍化すると予想、長期的には厳しい見方をしている。

尚、こうした厳しい見方が出る中、中国では、中国共産党幹部らが、来年、内需を拡大することで低迷する中国経済を軌道に乗せる計画を立てているとの見方が出ている。

中国国営・新華社通信によると、党中央委員会政治局が招集され、会議は習近平国家主席が議長を務める中、中国は外部からの圧力に耐え、国内の課題を克服してきたとし、来年は内需拡大を軸にして中国経済を再生させていきたいとする政治姿勢を改めて示している点、付記しておきたい。

 

l  中国株を売り急ぐブリッジウォーター・アソシエイツ

世界には、国際金融界で信頼されるヘッジファンドというものが存在しているが、その一つに米国のブリッジウォーター・アソシエイツというヘッジファンドがある。

そしてその、ブリッジウォーターは本年第7~9月に中国株式を大量に売却したと国際金融市場は見ている。

電気自動車会社のシャオパン・リオト、製薬会社ハッチメッドなど、ブリッジウォーターが保有していた10種目については全ての株式を売り切り、電子商取引のプラットフォームのピントゥードなど17種目はその保有割合を減らしたと市場は睨んでいる。

そして、ブリッジウォーターが保有している中国の株式はこの1年で60%ほど減少したと見られ、更にその売却の理由としては、「中国の景気鈍化と習近平国家主席体制に対する懸念などがある」と見られている。

 

(2)  韓国/北朝鮮

 

l  韓国初の民間商用衛星試験打ち上げ成功

韓国政府・国防部は12月4日、「済州島付近の海上で、国防科学研究所の固体燃料推進宇宙発射体技術を活用した民間商用衛星の試験打ち上げが成功裏に完了した」と発表している。

先に韓国軍は昨年3月と12月の2度にわたり、固体燃料宇宙ロケットの試験発射を行っている。

国防部はメディア向けの告知を行う中で、「今回の打ち上げは民間企業(ハンファ・システム)の主管の下で行われたもので、国防科学研究所が開発中の固体推進発射体および軌道進入基盤技術を基に、民間企業が発射体および衛星を製造し、実際の発射を遂行した」とコメントしている。

国防部によると、今回の打ち上げは衛星とロケット技術を連携させた初の「民・官ワンチーム」協力の事例であり、民間が主導するニュースペース産業活性化支援の為のモデル事例であるとしている。

更にそのハンファ・エアロスペースは、K9自走砲などを追加輸出する26億米ドル規模の「2次実行契約(Executive Contract)」をポーランド軍備庁と締結したと発表している。

今回の契約は、K9の契約物量残余(460両)中の一部である152門を、金融契約の締結などを条件として2027年までに順次納入することを骨子としている。

これより前、ハンファ・エアロスペースは、昨年7月にポーランド軍備庁とK9自走砲672門、多連装ロケット砲「チョンム」288両を輸出する為の基本契約(Framework)も締結している。

同年8月にはK9自走砲212両、11月にはチョンム218両の1次実行契約を済ませた。

                                        

l  中国産尿素輸入不足問題

中国産尿素の輸入が滞って「第2の尿素水大乱」の懸念が高まっている中、中国肥料業界は需要の最も多い来年第1四半期(1~3月)まで尿素の輸出を中断することとした。

また、中国の主要各社は、来年の輸出規模も平年の5分の1の水準に抑えることで合意している。

車両用・産業用尿素の90%以上を中国に依存してきている韓国産業界への衝撃は大きいものと予想されている。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,311.65(前週対比-11.76)

台湾:1米ドル/31.33ニュー台湾ドル(前週対比+0.08)

日本:1米ドル/144.44(前週対比+3.56)

中国本土:1米ドル/7.1539人民元(前週対比-0.0129)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,517.85(前週対比+12.84)

台湾(台北加権指数):17,383.99(前週対比-54.36)

日本(日経平均指数):32,307.86(前週対比-1,123.65)

中国本土(上海B):2,969.559(前週対比-62.077)

 

4.寺島実郎さんメディア出演情報

 

一般財団法人日本総合研究所から掲題情報を入手しましたので下記申し上げます。

 

TOKYO MX1「寺島実郎の世界を知る力」

【第3日曜日】第39回放送:1217日(日)午前11時~

今回は「2024年の世界展望-戦争にはレイシズム(人種差別)のにおいがする」をテーマに放送いたします。

寺島が毎年注目する英国ロンドンの『エコノミスト』誌の新年展望(The World Ahead 2024)を冒頭の語りとし、

ウクライナ戦争とイスラエル・ガザ戦争の2つの戦争がもたらした世界における地政学的なインパクトとその総括、

そして中東地域に活動拠点を置く反イスラエルの主要組織に触れながら、

紛争の長期化による中東情勢の構造変化について深掘りします。

また、2つの戦争が進行する中で迎える2023年の年末、「ひとはなぜ戦争をするのか」をテーマとした、

1932年のアインシュタインとフロイトの2人のユダヤ人が交わした往復書簡を切り口に、

戦争とレイシズムのつながりや現代社会への教訓等、

「戦争」について寺島独自の視点から考察を深めます。

 

5.中東フリーランサー報告25

 

三井物産戦略研究所の大橋誠さんから掲題の報告を受領しましたので共有させていただきます。

大橋さんからは以下のコメントをいただいています。

 

今年最後の中東フリーランサー報告をお送りします。クリスマスプレゼントには似合いませんが、年末年始のお時間がある時にご笑覧頂ければ幸甚です。

今年の中東は人の流れも回復し、各地の紛争も沈静化が進み、アラブ・イスラエル接近も加速する中、後はイランがどうなるかと言う感じだったのですが、突然のガザ危機の発生で、一気に「地政学リスク」モードになってしまい、「危ない中東」のイメージに逆戻りしてしまったのはまことに残念です。おかげでせっかく「コロナ明け」のクリスマス観光客を見込んでいたベツレヘムには人影が無く、商店街はガックリの体です。振り返れば、あのシリア内戦中でもシリアのクリスマスは盛況でした。クリスチャンが多くいるからで、シリアのクリスマスは言わば自立型。この点ベツレヘムはインバウンドのクリスチャン頼みで、いかにも外部支援依存の体質を象徴しているように見えました。しかし見方を換えれば、パレスチナには世界に真似を許さない観光資産が山ほどある訳で、ガザの東地中海沿岸も含めた観光立国へのポテンシャルは想像を超えるものです。ツーリズムインフラさえ整えば、パレスチナの繁栄と人々の笑顔が戻る気がするのですがどうでしょうか。

年末を迎え、来年への願いを込めてみました。皆さんも良いお年をお迎えください。

大橋誠

 

 

 

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中東フリーランサー報告25.pdf
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