社員とのウィンーウィンの関係づくり(リンクトイン創業者リード・ホフマン著『ALLIANCE』より

Yoneyama, Sept 2022

社員とのウィンーウィンの関係づくり(リンクトイン創業者リード・ホフマン著『ALLIANCE』(ダイアモンド社)より

 

前々回、社員と会社の間で「コミットメント期間(ツアー・オブ・デューティ)」を設け、その期間の相互の達成目標に合意し、双方納得づくでその期間の役割に従事するというリンクトインでの人事管理法を紹介しました。

このコミットメント期間には3つの類型があるそうで、今回以降で一つずつその類型を紹介していきます。

 

1.ローテーション型

1つ目はローテーション型といわれるものです。ローテーション型にも二つのタイプがあり、一つ目は、体系化された有期の制度で、通常は新卒や経験の浅い社員を念頭に置いたもののようです。たとえば、投資銀行や経営コンサルティング業界には2~4年のアナリスト・プログラムがあるそうです。プログラムに採用された社員は全員、決まった基本ローテーションを経験します。このコミットメント期間は決められた期間、一回限りで終わるのが一般的です。

 

こうしたプログラムは大抵、「高速道路本線への合流ランプ」として明確に位置付けられているようです。即ち、新卒者を学校から職場へ、転職者を前の会社からあなたの会社独特の職場環境へと誘導しながら加速させるものです。

 

この種のローテーション型コミットメント期間の目的は、会社と社員の双方に長期的な相性を見極める機会を与えることです。相性がよいようなら次のステップに進み、よりパーソナライズされた第二弾のコミットメント期間を設けることで、相性の良い分野をさらに活かします。もしどちらか一方が、相性が良くないと感じたなら、その社員は恐らく会社を去るでしょう。ただし、それが本人の履歴上汚点になったり会社との関係悪化につながったりすることはありません。。

 

シリコンバレーのトップ企業も大半は、ローテーション型のコミットメント期間モデルを採用しているそうです。日本の大手企業と同様、新人レベルの社員をまとめて採用して、「同期」として研修を施します。たとえば、グーグルのピープル・オペレーションズ(人事)部門は、新卒の社員に体系化された27カ月のローテーション型コミットメント期間を提供しているそうです。新人は9カ月ごとのローテーションを繰り返し、3つの異なる職務を体験することができます。ローテーション型コミットメント期間にはもう1種類あり、これは新人からベテランまであらゆる社員に適用できるものです。

 

このタイプのコミットメント期間はきちんと体系化され、大半が制度化されている点で、1つ目のローテーション型と似ています。しかし、このタイプの主眼は、その社員を将来の別の職務に向けて訓練することではなく、現在の職務と社員の相性を高めることにあるそうです。ブルーカラーの仕事の大半がこのタイプに当てはまるようです。

 

前回はコミットメント期間の3つの類型の中の1つ目の「ローテーション型」をご紹介しました。今週は2つ目の「変革型」についてご紹介します。ローテーション型とは異なり、変革型コミットメント期間は社員ごとにパーソナライズされていてその期間を一定に定めることは重視せず、特定のミッションを完遂することに重点を置いているようです。内容は、上司であるマネジャーと社員本人が一対一で話し合って決めます。

 

 

現状、管理職の多くは、部下の「管理」に多大な時間を割いているが、率直な対話を行い、具体的な期待水準について合意するためのしっかりした枠組みはあまり見られません。コミットメント期間という枠組みを使えば、あいまいで暗黙の「対話」プロセスを本人にもわかりやすく体系化し、言語化・見える化することができるというのがポイントのようです。ALLIANCE』の中で、著者は自社(リンクトイン)と共にPGやグーグル、HBSCの変革型コミットメント期間についても触れています。

 

変革型コミットメント期間が革新的なのは、その社員が自分のキャリアと会社の両方を大きく変革させるような機会を得る約束をすることである。このコミットメント期間が終了した暁には、その人のリンクトインのプロフィール(または職務経歴書)は、見違えるように立派なものになっているはずだ。変革型コミットメント期間が最終段階に入った社員を、引き続き会社に留めておきたいという場合、早めに次のコミットメント期間について話し合いを始めると良い。ローテーション型と比べると、変革型の方が将来を見据えた関係という色合いが濃い。そのため、前提として、社員もマネジャーも初めから長期的な視野に基づく人的投資を望んでおり、次の変革型コミットメント期間を見定めたいという期待がある。経験則で言えば、その人材の初めての変革型コミットメント期間は2年から5年ほどになる。この年数はほぼすべての組織や業界に当てはまる普遍的な期間のようだ。ソフトウェア業界では、2-5年という期間は一般的な製品開発サイクルに合致するので、一人の社員が大きなプロジェクトを最初から最後まで経験できる。一般消費財業界を見ても、プロクター・アンド・ギャンプルなどの企業では、新しいブランド・マネジャーはまず、2-4年間のコミットメント期間から始まる。

 

「(コミットメント期間の)1年目で目的を果たすのに重要な背景事情が理解できるようになる。2年目は、変革を実現し、自分のやった仕事だとはっきり示すための時期だ。3年目から5年目にかけては、自分の生み出した変革を根付かせ、発展させていく時期。もしくは、期待通りに物事が進まなかった場合は、方向転換をするための時期だ」グーグルの会長エリック・シュミットも、コミットメント期間は5年と決めるのが好ましいと我々に語った。まず2年ほど学び、次の2年で成果を挙げ、1年かけて移行準備をする、というわけだ。会社と社員とのパートナー関係が強固になるにつれ、次の変革型コミットメント期間の年数は伸び、標準的な2-5年を超えることもある。同じ会社内で何度も変革型コミットメント期間を持てるよう設計すると、社員にとっては、良い社内異動の機会が確保できる。

 

「金融サービス業の社員は、時に自分が成長していないと感じることがあります。キャリア開発とは出世の階段を上ることだと思っているからです。しかし横への異動も同じくらい価値が高いケースもある。我々は、社員がさまざまなタイプのスキル、会社・社員の双方にメリットが生まれるようなスキルを身に着けるサポートがしたいのです」とHSBC北米事業の人事担当者は語る。

 

社員の成長と会社の発展のために両者納得づくでベクトル合わせを行い、2~5年で進捗確認をおこなうのが変革型コミットメント期間のようです。