ニュースレター国内版 2020年・春(238号)

 

 

 1. 雇用のV字回復を妨げる経営者の心理と社会不安

 

 

2. 高齢者に冷たいアメリカ? 介護施設とトリアージの事実報道

 

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

 

4. 中東フリーランサー東京報告49

 

 

 

 

 

 

1.雇用のV字回復を妨げる経営者の心理と社会不安

 

 

 

58日に発表された米国の失業率は14.8%1948年に統計を取り始めて以降の最悪を更新中である。  

 

 

企業側はウィルスを問題としない、スマートな機械を導入することで、より少ない人数でも同じアウトプットを出そうとすることから、COVID-19収束後の求人ニーズは抑制されると見る向きも多い。

 

 

ヒーターとエアコンを製造するCarrier Globalの製造現場ではアッセンブリーラインのベルトコンベヤーに沿って工員が立つが、従来は肩と肩が触れ合う密度で立っていたものの、現在は工員数を間引きソーシャルディスタンスをとっている。 

 

 

このスペースに今後機械が入ってくるため、その分の工員が職を失うことになる。 

 

 

また、年配の方が重症化しやすいことから年齢での区分けができる可能性もある。 

 

 

実際、トランプ大統領は先週、60歳以上の教員はまだ学校に戻らないほうが良いと記者会見で語っている。 

 

 

1930年代の大恐慌時にはドイツ、スペイン、イタリアでのファシズム政権の台頭を生じたが、当時のアメリカの制度や規範、政治体制は反ユダヤ主義や社会主義的運動を柔軟に抑え込めていた。 

 

 

一方、現状の政治環境は当時よりも毒性が強く、腐敗気味であり、ポストコロナの反体制的動きの可能性に対し、どこまで抵抗力があるかはわからないとスタンフォード大学名誉教授のデイビッド・ケネディ氏は警鐘を鳴らす。

 

 

2008年に世界同時金融危機・不況と10%を超える失業率の後に、ウォールストリート占拠運動や、民主社会主義者と自称するバーニー・サンダース上院議員の人気が生じ、英国ではポピュリスト的風潮からBREXITが生じ、アメリカでもリアリティーショーのトランプが大統領となっている。 

 

 

今、人々が感じている怒り、恐怖、悲しみといったものが前回の大不況時後にもたらされたもの以上の力となって我々の政治に影響を及ぼすことになる」とケネディ教授は語る。 

 

 

ほんの数か月前の2月には失業者数は580万人であったものが先週金曜日の段階では2300万人となり、現在アメリカ人の2人に1(51%)しか働いていない状況にある。

 

 

ワシントンポストによれば失業者の78%はパンデミックが収束次第、元の職場に復帰できる見通しと語っているので、そうであれば経済の早期復活が期待できる。 

 

 

失業者に占める一時的解職者の割合が高いほど経済の復活が早いことが歴史的に認められているとゴールドマンサックスの最近の調査で語られている。 

 

 

一方で、今回の失業者の4分の1が娯楽や飲食、エンタメ、観光業など顧客とじかに接する業種であり、それらのビジネスがどこまで早く復活できるかは疑問である。 

 

 

米国でのビジネスの再開は各州での判断に基づくが、ある州ではレストラン再開の条件として受け入れ客数を最大の4分の1までとしているという。 

 

 

多くのエコノミストは今年第3四半期には雇用が急速に戻ると予想しているが、一方で、前述の機械化のケースなどと合わせ、今の失業者の42%は一時的でなく本格的に失職する可能性があると著名なエコノミストは警告する。 

 

 

議会予算局の試算では来年2021年末の失業率は9.5%と予想している。 

 

 

オバマ政権時の経済顧問のジェイソン・ファーマン氏は米国の失業率が5%を下回るのは2028年以降と予想する。 

 

 

最悪の失業率が発表されたその日にホワイトハウスのマケナニー報道官は「トランプ大統領は米国経済を現代史上最もホットなものにしてきました。 パンデミックの後もそうしてくれるででしょう」と強弁した。 

 

 

ただ、“当然と思う日常”が奪われることがあり得るという経験をした人間は、同じことが起こることに恐怖感を持つ(ことからコロナ以前の社会体制に戻ることにブレーキがかかりやすい)と前出のエコノミストは語る。 

 

 

日本語でいう「羹に懲りて膾を吹く」傾向が少なくとも雇用のV字回復を妨げる可能性があるということであろう。 

 

 

そうなると今の米国社会と政治体制の分断状況においてどこまで不満分子の運動や暴動を抑え込む柔軟性や余裕があるのかという懸念がシリアスになってくる。

 

 

 

2. 高齢者に冷たいアメリカ? 介護施設とトリアージの事実報道

 

 

 

パンデミックはアメリカが高齢者に冷たいという事実を明らかにした、というセンセーショナルなタイトルの記事をワシントンポストが掲載した。 

 

 

米国内の多くの高齢者向け介護施設では新型コロナウィルスが発生しているが、例えばミネソタ州のニューホープ市にある施設は全米でも最大規模の死者を出したクラスターを形成した。 

 

今回の取材で分かったこととして、この施設が昨年州当局から衛生と安全面での改善勧告を数十回受けていた事実である。

 

 

また、3月に米国内でも感染者が出始めたころに米国全体の反応が鈍かったのは「コロナで亡くなるのは専ら高齢者だけだ」という感覚が共有されていたためという。 

 

 

ワシントンポストが3月の時点でコロナに対する政治家や一般読者の注意を向けさせるためには記事のタイトルに「コロナのリスクにさらされているのは高齢者だけではない」と強調する必要があった。 

 

 

換言すれば、「高齢者だけが亡くなる病気なら問題ない」という認識がアメリカ国内に明らかにあったという。 

 

 

この認識はそのまま医療資源不足の状況に陥った際に反映され、結果として同じ程度の重篤者がいる高齢者介護施設への資源配分は控えられた。 

 

 

その結果58日の時点で、州内のコロナ感染による累積死亡者数の半分以上が高齢者施設からのものであった州が15にも上ったという。 

 

 

カイザーヘルスニュースの調査では全米で約15,600ある高齢者介護施設のおよそ3分の22017年以降、感染症を防ぐための規則の違反が報告されてきている。 

 

 

州当局は違反が見つかると改善命令を出すが、そのあとに改善がなされたかを確認するフォローアップは行っていない。 

 

 

また違反に対する罰金も余ほどの違反でない限り科されず、その罰金額も昨年41,260ドルから28,405ドルに減額されていた。 

 

こういった事情が規則と実態の乖離を生んでいる。

 

 

一方、子供を預かる保育所が州のルールに違反した場合、営業許可証がはく奪され、施設は閉鎖されることになる。 

 

ルイジアナ州の医療機関へのトリアージの指針は65歳以上の感染者を劣後させるとうたっている

 

 

ペンシルベニア州は暫定的ガイダンスで12歳から40歳、41歳から60歳、61歳から75歳、75歳超の4つの分類順に優先順位を決めている

 

 

米議会は1975年に年齢による差別を禁じる年齢差別防止法を制定しているが上述の州のルールが違法という議論は起こっていない

 

 

年齢に基づくトリアージは単なる余命のみならず、国民は等しく人生の意味のある変化するライフステージを経験すべきという機会均等の概念からも「高齢者が若手に機会を譲る」という視点で幅を利かせている

 

 

結局、高齢者に対する“不平等”な仕打ち(介護施設の杜撰な扱い)が感染を広げ、そのしわ寄せをまた高齢者が受けるという状況を特にアメリカ社会が問題視せず、“人生機会の公平性”の議論でトリアージしてしまうという安易な高齢者切り捨ての発想がパンデミックとの戦いの質を下げているというのがワシントンポストの主旨と感じた。 

 

 

トランプ大統領も、バイデン候補も78歳だが自分が第4カテゴリーにいるという自覚は恐らくはないでのであろうが、大切な票田の1つではないであろうか・・。

 

 

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

 

 

(1)  中国

 

l  台湾で働く高度外国人材は日本人がトップ

 

台湾政府・労働部は、台湾で働く外国籍高度人材に関する統計を発表している。

 

これによると、2019年末の時点で労働許可を取得した人は3万1,125人で、このうち日本人が23.5%と最多となっている。

 

国籍別の上位3カ国は日本のほか、マレーシア(13.5%)、米国(11.8%)となっており、この3カ国の合計が全体の約5割を占めている。 

 

また、今回はマレーシアが初めて米国を抜き、2位となった点が特筆されている。

 

同部は、台湾に留学し、そのまま就職した人が増加した為と分析している。

 

一方、中央感染症指揮センターは5月8日午後の記者会見で、台湾で同日新たに確認された新型コロナウイルスの感染者はいなかったと発表している。

 

台湾国内の感染者数は計440人を維持している。

 

 

 

l  業績が戻りつつある上海汽車

 

中国の最大手自動車メーカーである上海汽車集団(上汽集団)が発表した本年4月の新車販売台数(速報値)は、前年同月対比8.6%減の41万7,560台となっている。

 

但し、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、同社の販売台数は今年に入り大きく落ち込んでいたが、3月の58.6%減から減少幅、減少率は縮小している。

 

また、これにより、本年1~4月の累計販売台数は前年同期対比44.9%減の109万6,588台となっている。

 

 

 

l  中国本土情勢について

 

中国国内では、新型コロナウイルス問題により全世界の反中感情が1989年の天安門事件以降では最悪となっており、米中武力衝突の可能性にも備えなければならないとの見方も出ている。

 

中国・国家安全部傘下のシンクタンクである中国現代国際関係研究院が4月初め、このような内容の報告書を中国指導部に伝えている。

 

 

 

(2)韓国/北朝鮮

 

l  9週連続で支持率を伸ばす文在寅大統領

 

世論調査会社の韓国ギャラップが発表した最新の文在寅大統領の支持率は、64%となっている。 

 

9週連続で上昇し、同社の調査で2018年10月第2週の65%以来、約1年6カ月ぶりの高水準となっている。

 

不支持率は4ポイント下落の26%となっている。

 

 

 

l  コロナ状況下でも過去最高のペースで研究開発投資を行う三星電子

 

先行投資の成功体験を多く持ち、特許を国内のみならず、米国など先進国でも取得している、韓国のトップ企業である三星電子は、2020年1~3月期の研究開発(R&D)費は5兆3,600億ウォンとなったと発表している。

 

新型コロナウイルスの感染拡大で経営の先行き不透明感が高まる中でも、四半期ベースで過去最高を記録している。

 

 

 

l  電気自動車、バッテリー搭載シェアでトップに立ったLG化学

 

韓国のバッテリーメーカーであるLG化学が世界での電気自動車搭載バッテリーの市場シェアを伸ばし、日本のパナソニック、中国本土の寧徳時代新能源科技(CATL)を抜き、市場シェアトップとなっている。

 

即ち、市場調査会社であるSNEリサーチによると、LG化学のバッテリーは本年1~3月に世界各国で登録された電気自動車のバッテリー搭載量の27.1%を占め、前年同期の10.7%と比べると、シェアを2倍以上伸ばしている。

 

本年2月まで世界2位であったLG化学は、パナソニック(25.7%)を集計開始以来、初めて抜いたこととなる。

 

 

 

(3) イラン情勢 - 通貨名称を「リアル」から「トマン」に変更する法案を可決

 

イラン国会は、現行の経済混乱の中、イランの通貨単位を1万分の1に切り下げ、通貨の名称を現行の「リアル」からカジャール王朝(1796~1925年)時代の「トマン」に変更する貨幣銀行法改正案を可決した。

 

イスラム法学者らで作る「護憲評議会」がこれを追認すれば、2年程度で実施されることとなる。

 

新型コロナウイルスによる大混乱の中で、一気に「標準」を変更し、体制の立て直しを図ると言う意図も見え隠れする。

 

 

 

[主要経済指標]

 

1     対米ドル為替相場

 

韓国:1米ドル/1,219.60(前週対比+2.06)

 

台湾:1米ドル/29.85ニュー台湾ドル(前週対比-0.01)

 

日本:1米ドル/106.37円(前週対比+0.41)

 

中国:1米ドル/7.0743人民元(前週対比-0.0142)

 

 

 

2.      株式動向

 

韓国(ソウル総合指数):1,945.8(前週対比-1.74)

 

台湾(台北加権指数):10,901.42(前週対比-90.72)

 

日本(日経平均指数):20,179.09(前週対比+559.74)

 

中国(上海B):2,895.344(前週対比+35.262)

 

 

 

4. 中東フリーランサー東京報告49

 

 

 

三井物産戦略研究所の大橋研究員から掲題の報告を頂戴しましたので皆様と共有させていただきます。 大橋さんからは下記のメッセージを頂戴しています。

 

 

 

中東フリーランサー東京報告49をお送りします。前号ではコロナ感染者数・死亡者数の数値を見間違え、まったく見当違いの結論を出してしまい、大変失礼しました。読者のご指摘を受け、急ぎ訂正版をお送りしましたが、改めましてお詫び申し上げます。今回は正確を期したつもりですが、またお気づきの点があれば、どうかご連絡をお願い致します。コロナ禍のせいで、今年に入ってから現地出張ができず、だんだんと現場感の無い記述になりつつあるかも知れません。その点について危機感を覚えつつ、想像力を働かせて書いたつもりです。多くの読者の皆様が、ステイホームに倦まれていることかと思います。本稿で少しはリラックスして頂ければなによりです。