ニュースレター国内版 2022年・夏(294号)

日賑グローバル・ニュースレター国内版(第294号)

 

1. 改名し、規模を縮小して何とか実現するバイデンのBuild Back Better

2. 利上げの影響を受けず好調な米国雇用市場

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化  

 

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1.改名し、規模を縮小して何とか実現するバイデンのBuild Back Better

 

87日、Inflation Reduction Act of 2022が米議会上院を通過した。元々はBuild Back Better(B3)と呼ばれていたものが、国民の喫緊の関心事であるインフレへの対応を重視した法案名に改名されている。賛成50票が全て民主党議員、反対50票が全て共和党議員で、カマラハリス議長が賛成に1票を投じたので本法案が上院を通過し、米国時間の今日、下院での投票が行われることになる。下院では民主党が多数を占めることからその通過は問題なく、同法案はバイデン大統領の署名を以て正式に法制化される。

 

本ニュースレターでも昨年来お伝えしてきたバイデン大統領肝いりのBuild Back Better(B3)法案は議会でとん挫したままになっていた。フランクリン・D・ルーズベルト大統領のニューディールやリンドン・ジョンソン大統領のニューソサエティに匹敵する、2兆ドルもの超大型の社会投資を行うことでアメリカの長期安定的成長と格差是正を図るのがB3の狙いであった。昨年下院を通過したB3であったが、一人の造反も許されない上院では石炭産業擁護と財政赤字削減を強く主張する身内民主党のジョー・マンチン上院議員(ウェストバージニア州選出)の反対に遭い、頓挫していたわけである。 

 

この大型社会投資法案には医療や教育その他社会保障での弱者救済と共に、気候変動対策を一気に進める投資、そしてそれらの財源としての大企業や富裕層への増税が含まれていた(収益が10億ドル以上の企業に15%の最低課税や、自社株買いへの1%課税等)。昨年からこれまでの間に、インフラ投資法や米国内の半導体製造力を強化する法律が通り、バイデン政権としても、それなりの実績を残しているが、やはり本命のB3を、上下両院で民主党が多数党にあるうちに通すことが最大の眼目となっていた。 

 

その間、上述のマンチン上院議員が当初のB3の規模を大きく削減し、石炭産業を持続できる形での代替案を示し、民主党上院院内総務のチャック・シューマー上院議員との間で調整の上、合意を見ていたが、今度は同じ民主党のキアステン・シネマ上院議員が代替案の増税と気候変動対応内容に反対を示していた。84日付のワシントンポストでは上述のシューマー院内総務やマンチン議員とシネマ議員との間で代替案の調整がついたという。 

具体的には再投資する投資家への増税を抑え、連邦政府に納税していない企業に最低課税を行う際に、先端製造業を対象から除き、気候変動に伴う干ばつ被害への対策費を設けるといったもののようである。当初の規模からは3分の14分の1にまで縮小したB3ではあるが、中間選挙を前に、どこまでインフレ抑制効果を示せるか注目される。

 

2.利上げの影響を受けず好調な米国雇用市場

 

40年ぶりと言われる高インフレに対抗すべく米連邦準備制度理事会が今年に入って既に4度利上げを行い、その結果なのか、米国のGDP成長率は第一、第二四半期連続でマイナスを記録している。株式市場も今年数兆ドルの価値を失っている。また6月の消費者信頼感の1つの指標は記録的低さを示していた。これらは技術的には米国経済が不況に陥りつつある兆候とみなされる。

 

一方、先月7月の新規雇用者数は528,000人と、バイデン政権はもとより、それ以外の専門家やエコノミストの大方の予想を大幅に上回る値となった。結果として、失業率は3.5%1969年来の低さにある。インフレ抑制が進まないバイデン政権に対する支持率は40%を切る低さであるものの、ことこの雇用状況に関しては、大統領就任来の19か月間、平均で毎月50万以上もの雇用を創出してきている。コロナ禍の影響を受けたレジャーなど接客業界を中心に雇用が積み増されている労働市場での唯一の懸念の1つは労働参加率が改善されていないこと。先月は0.1ポイント下がって62.1%となっている。

 

コロナ禍の影響を受けた“Great Resignation”という転職や早期退職はもとより、職場を離れても仕事そのものに就こうとしない人口が多い状況が懸念されている。労働市場がタイトであることに伴う賃上げが、さらなるインフレを誘発するという賃上げとインフレのスパイラルも懸念だが、インフレ抑制の兆候はみられるという。ガソリン価格は下降気味であり、在庫量の積み増しといった供給増が見られている。賃上げと雇用拡大(失業率減少)が共存し、雇用市場はインフレの嵐をうまくすり抜けているというのがこのワシントンポスト記事の結論のようだが、GDP成長率では減退気味の米国マクロ経済に対し、連銀が9月以降に予想される次の利上げをどう行うか注目される。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国

l  総書記3期目入りを前に政敵排除を進める習近平

中国共産党の習近平総書記兼国家主席は、今秋開催される予定の第20回共産党大会を前にして、党内の引き締めを強めていると見られている。規律違反の疑いで現職閣僚の調査に乗り出し、収賄などの罪で起訴した前司法相の初公判を実施しているが、これらは、ライバル候補を貶める為に行われているのではないかとの見方も一部では出ている。習総書記は最高指導者として異例の3期目入りを目指していると見られており、政敵排除を進めて異論を封じ込める思惑があると見られている。党の中央規律検査委員会は、肖亜慶工業情報化相を規律違反や違法行為の疑いで調査していると発表しているが、現職の閣僚が調査を受けるのは異例と言われている。

 

l  中国景況感悪化

中国では「厳しいゼロコロナ政策の推進」によって景気が鈍化しているとの見方が強まっている。実際にこうした見方が強まる中、今般、中国の製造業部門の景況感を示す重要な指標が 2カ月ぶりに悪化し、中国経済が再減速しているとの見方が出てきている。中国政府・国家統計局は、セクターの購買担当者の購買指数(PMI)が本年7月に49.0と、前月から1.2ポイント低下したと発表している。同局は 3,200社の企業を対象にして調査しているとしている。

 

また、このPMIは数値が50を超えると改善を示し、それ以下の数値は悪化を示すとされており、今回は49となったことから、悪化傾向に入っていると分析されている。

一部都市での新型コロナウイルス感染症の再燃もあり、内需が十分に回復せず、ゼロコロナ政策の断行によって、工場の生産活動は低調に推移している。中国の製造業者の景況感は、今年初めに上海で行われたロックダウンなどのウイルス対策による抑制によって減速した後、最近になり、若干の回復傾向を見せていた。ホテルやレストランを含む非製造業のPMIは、7月に53.8となっている。

 

しかし、これも、6月からは0.9ポイントの下落となっており、懸念される状況である。中国共産党指導部は7月下旬に会議を開催し、2022年後半の経済政策について話し合ったが、指導部では、政府の通年の年間経済成長目標約5.5%については、結局、言及せずに会議を終了している。こうしたことから、中国指導部たちは積極的に目標を追求しないというスタンスに事実上シフトしたと見られており、今後は秋の党大会以降、如何に指導部が経済政策を遂行してくるのかが注目されている。

 

(2)  韓国/北朝鮮

l  支持率を下げるユン・ソクヨル新政権

ユン・ソクヨル政権と文在寅前政権の「どちらを評価するか」という設問に対して、韓国国民の57.8%が「文前政権」と回答し、「ユン政権」との回答が32.8%しかなかった。これは、新興の世論調査機関デアル「メディアトマト」が示した調査結果である。

ユン大統領には屈辱的な結果であったであろうが、韓国国内の約4割を占める中間層は、状況を見ながら、共に3割を占めている右派と左派の間で泳いでいる。

 

l  韓国上半期経済成長率2.9%

韓国の本年上半期(1~6月)の経済成長率は3%に迫り、本年通年の経済成長率は2%台中盤となる可能性が高まったと韓国政府はコメントしている。しかし、主要国の金融引き締めによる下半期(7~12月)の世界の景気低迷の可能性や物価高などのリスク要因は残っているともしている。韓国政府と中央銀行である韓国銀行によると、韓国の上半期の実質国内総生産(GDP)は前年同期対比2.9%増となった。このままのペースなら今年の年間成長率は2%中盤となる可能性が高いと見られていることがこうした見方の背景にある。

 

また、7~9月期と10~12月期の成長率が0%だったとしても今年の成長率は2.5%となる。マイナス成長でなければ韓国政府が6月に発表した新政権の経済政策方向を通じて予測した成長率見通しである2.6%に近くなるとの見方も出てきている。

 

一方、韓国国内では、高物価・高金利・米ドル高の所謂「3高」危機に、新型ミロなウイルス感染再拡大が加わり、ビジネスマインドの冷え込みも指摘されている。更に、韓国の経団連とも言われる全経連が飲食店業、卸売業、その他サービス業などを営む自営業者500人を対象に「2022年上半期実績及び下半期見通し調査」を行った結果、自営業者3人のうち1(33%)が廃業を考慮しているとの結果が出たとも報告されている。

 

l  韓国内電気自動車普及急増

韓国政府・国土交通部の統計の中に、本年6月末時点の国内の電気自動車(EV)の普及台数は累計29万8,633台となり、1年前の17万3,147台から大きく増加したことが報告されている。韓国自動車業界関係者の説明によると、現時点では既に累計30万台を超えていると見られており、「韓国政府の補助金政策などが維持されれば、EVの成長は今後も続くであろう。」とコメントしている。

 

確かに、韓国のEV市場は最近、急成長しており、2012年に860台だった普及台数は2018年に累計5万台を、2020年に累計10万台を突破、昨年末には23万1,443台と累計20万台を超えてから、この6カ月余りで30万台を上回ったと見られているのである。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,299.13(前週対比+6.84)

台湾:1米ドル/30.01ニュー台湾ドル(前週対比+0.02)

日本:1米ドル/134.79円(前週対比-1.27)

中国本土:1米ドル/6.7610人民元(前週対比-0.0169)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,490.80(前週対比+39.30)

台湾(台北加権指数):15,036.04(前週対比+35.97)

日本(日経平均指数):28,175.87(前週対比+374.23)

中国本土(上海B):3,227.027(前週対比-26.211)