ニュースレター国内版 2022年・夏(293号)

日賑グローバル・ニュースレター国内版(第293号)

 

1. 中間選挙を前にエスカレートする党派間対立

2. エネルギ価格高騰の最中、熱波に襲われるアメリカ

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化 

 

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1.中間選挙を前にエスカレートする党派間対立

 

中間選挙まで3カ月余りとなり、予備選が終わっている州では民主党、共和党間の党派対立が際立ってくる。健全な政策論争よりも相手の存在そのものを否定的に表現する或いは嫌悪感を前面に出し、時に武器闘争すら連想させる広告が飛び交う対立状況をワシントンポストが特集した。 

 

「党派対立」や「アメリカの分裂」の議論はかなり以前から言われているが、オバマ大統領に対するトランプ氏(当時ビジネスマン)を筆頭とする共和党支持層による批判(アメリカ生まれではないとの疑惑や世界におけるアメリカの力を弱体化させているといったもの)という根拠のない感情的なものが契機となり、「アメリカ的なもの(筆者注:白人とその価値観を守る)」と「非アメリカ的なもの(同:それに反対するもの)」という非論理的・感覚的なもので対立の溝を深めている。 

 

当のトランプが政権を取った後は、リベラル派は同政権を“ファシズム”と表現、一方、保守派は白人であるバイデンが大統領となると、その政権と民主党候補者に対して、「アメリカを嫌い、意図的にアメリカを弱体化させようとする反ファシズム主義者」のレッテルを張っている。 

 

「バイデン政権の政策はガソリンや食料品の価格を上げ、アメリカの経済を破たんさせるように決められている」というのが今の共和党側のポピュラーなキャンペーンテーマとなっている。

 

昨年バイデン政権が行った大企業社員への「ワクチンか感染テストの強制」政策は、結果としては最高裁により否決されたものの、保守派をして「バイデン政権が単に無能なだけでなく、何かアメリカに良くないこと、中国のようなことを国民におしつけている」との見方を強めるターニングポイントとなったという。

 

今年5月に中絶を違法とみなす最高裁の判断のメモが事前に漏れた際に、リベラル派の一部が暴力的な示威活動を行ったり、最高裁の保守派判事の1人の暗殺計画を企てたのが極左的志向の人間であったり、さらには共和党のLee Zeldin下院議員(ニューヨーク州選出)がニューヨーク州知事選に向けたキャンペーン中に聴衆の一人に襲われたりといった事件を通じ、共和党側は民主党と支持層がテロや暴動を肯定しているようなメッセージを出している。バイデン大統領もハリス副大統領もかかる暴力行為を非難する声明を出してはいるものの、ブラックライブズマターなどに象徴されるデモと、それを規制する警察との衝突において集団的力を肯定する民主党と、治安と社会の秩序を維持する警察を支持する共和党といった意味付けも共和党側は行っている。 

 

一方で、昨年16日のトランプ支持者による連邦議会襲撃に関しては共和党サイドは「政府が市民に戦闘を仕掛けている証拠」と表現している。そうした過激なメッセージを背景に、“闘争”の必要性を想起させる意味で武器を手に振り回すランボーのような姿でテレビ広告に出る共和党候補者が散見されるという。政府のウェブサイトであるYouGov.comによる先月の世論調査では民主党支持層も共和党支持層もいずれも過半数が、「アメリカはいずれ民主主義国家であることを止めるのでは」と回答している。

 

互いの異なる発想や価値観、長所を持ち寄って創造や革新を起こしていくダイバーシティ価値を実現しているイメージが少なくともビジネス分野では強いアメリカだが、肝心の政治家の一部とその支持層は南北戦争前のごとき闘争のレトリックを用いていることに失望と懸念を感じる。

 

2.エネルギ価格高騰の最中、熱波に襲われるアメリカ

 

今月カリフォルニア州を襲った熱波は山火事を起こしてヨセミテ国立公園周辺の9,500エーカー(1エーカーは4,047平方メートル)を焼失させた。 その熱波が先週末アメリカの北東部を襲い、ワシントンDC、フィラデルフィア、ニューヨークそしてボストン一帯に華氏で95度から105度(摂氏35度から40度超)の高温をもたらした。 

 

湿度を加味したHeat Indexという体感温度はさらに高いものになっており、1億人を超えるアメリカ人が暑さにうだった。ボストンで開催予定であったトライアスロンは急遽8月末に延期となり、ニューヨーク市でのトライアスロンやデュアスロンは自転車やランニングの距離を短縮して行われた。この暑さの中で、市民が通りにある消火栓を勝手に開けて噴出する水で涼む姿が多く見かけられたようだが、消防署はそうすることで消火栓はもとより周りにもダメージをもたらすとして消火栓を開かないように嘆願している。 とはいえ、ガソリン代や電気代の高騰で、車や自宅のエアコンも節約しているアメリカ人もいる様子がワシントンポストの記事からも伝わってくる。

 

在ワシントンDCの世界的法律事務所の大成DENTONSから送られてくる情報によれば、気温上昇の激しいアメリカの南部と中部での就労者の生産性は7%も落ち、全米でもこの熱波の影響による就労者の生産性の落ち込みに伴う損害額は1千億ドルに及ぶと見積もられている。熱波襲来による生産性低下がもたらす損失は2030年までに倍の2千億ドルに達すると見られている。 

 

さらには高熱に伴う労働災害被害者数が今年一年で12万人に達すると見られており、この数字も2050年までには45万人に達すると見られている。

連邦政府の戦略的石油備蓄を一日100万バレル取り崩したり、連邦政府保有地での石油掘削の許可を出し、連邦政府からの借地で原油生産を開始していないか、生産を停止中の井戸に対し何らかの支払いを行わせる法制を議会に諮っている。

 

また、大統領自ら石油会社のトップに対し、ガソリン価格高騰で増大している収益を石油精製施設増強のために投資するよう懇願したり、はたまたベネズエラ独裁政権への制裁を緩和して同国の原油輸入再開の可能性を模索したりと、ガソリン価格低減のために供給を増す努力を重ねるバイデン政権だが、それが気候変動に悪影響を与えるという悪循環の可能性があると認識していても背に腹は代えられないということであろう。とはいえ、この熱波は改めてアメリカ人の多くに気候変動問題の存在を強く感じさせている。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国

l  秋の党大会で再選が見込まれる楊チエチー政治局員と王毅国務委員兼外相

異例の三期目を目指していると見られている習近平総書記・国家主席が示す共産党人事が注目されている。既に、かつてのライバルたちの後進を抑え込む人事が部分的に見られているとの声がある中、その共産党大会では、例えば、外交部門の人事にも注目が集まり、これまで習近平外交のトップとして海外を駆け回ってきた、72歳となる楊チエチー政治局員や68歳となる王毅国務委員兼外相が引退年齢に達しているものの、再選されるとの見方も出てきている。混沌深まる中、米中覇権争いも拡大する兆候が見られ、中国の国力と共に国際社会に於ける発言力が増してきたことを現在の外交トップの貢献度が高いとの見方があり、外交分野の大きな世代交代は今回は見られないとの観測が出てきている。

 

l  世界の航空会社評価で8位に順位を上げた台湾のエバー(長栄)航空

オーストラリアの航空会社評価サイトである「エアラインレーティングス」が発表した、「2022年版世界の航空会社トップ20」では、台湾のエバー(長栄)航空が8位となった。昨年より順位を1つ順位を上げている。尚、全日本空輸は10位、日本航空は13位となっており、台湾勢の自信となっているとの声も出ている。エバー航空によれば、同サイトのジェフリー・トーマス編集長が、「同社が1992年に世界に先駆けてプレミアムエコノミークラスを導入するなど、サービス革新のパイオニアとして、航空市場で優れた商品とサービスを提供してきたことを評価してくれた」としている。

 

(2)  韓国/北朝鮮

l  弱者救済の経済・金融対策を進めるユン大統領

ユン・ソクヨル大統領は、「非常経済民生対策会議」を開き、新型コロナウイルスの感染拡大で被害を受けた自営業者や青年など弱者階層を支援するため、125兆ウォン規模の金融支援策を盛り込んだ、「金融部門民生安定計画」を発表した。

借金を返済することが困難な自営業者に対し、元金を最大90%減免し、満34才以下の青年層の利息を30~50%減免することが柱となっている。尚、韓国では、借金をして投機をするような傾向もあり、これと本当に借金苦に陥っている借入人をしっかりと区別しないと、「モラルハザード」に陥る危険性もある。尚、ユン・ソクヨル大統領は、この「非常経済民生対策会議」には、経済・金融トップなど(今回は、チュ・ギョンホ経済副首相、金ジュヒョン金融委員長、李金融監督院長、チェ・サンモク大統領室経済首席など)を出席させ、民間からは信用回復委員会の顧客相談職員や金融委員会金融発展審議委の青年委員など、ジン・オクドン新韓銀行長などを出席させて、幅広く、国民の意見を聞く会議とした上で、国民の為に役立つ具体策を打ち出す会議とするとし、「毎週民生現場に出席をし、国民の困難を聞く。」としている。尚、ピョン・ヤンギュン大統領室経済顧問は、「企画財政部長官などの経済政策を担当している人々がこれまではうまくやっていると思う」と評価、その上で、「経験と知識を活用してユン・ソクヨル政府がうまくいくようにする」と抱負を述べている。

 

l  上半期輸出前年同期比15.6%

韓国国内では、「貨物連帯によるストライキの拡大、中国本土のゼロコロナ政策による都市封鎖など、対内外の状況悪化が顕在化しているにも拘わらず、本年上半期の韓国の輸出実績は比較的堅調であった」というコメントが出ている。即ち、上半期の韓国の輸出は前年対比15.6%増え、新型コロナウイルス感染拡大からの復活により、26%成長をした際を除けば、2017年以降最も高い増加率を記録した。6月にも操業日数を考慮した1日平均の輸出額も15%増えており、歴代6月の最高輸出額を達成している。しかし、下半期の輸出状況に関する予測を見ると、「どんよりとした曇り」との見通しが支配的であり、韓国輸出を支えてきた国際経済情勢に、「スタッグフレーション(景気低迷下の中の物価上昇)の懸念」が出ている為、グローバル需要が鈍化する兆しが出てきていることが、先行きの悪化に繋がっていると見られている。韓国では、もし輸出が悪化すると、14年ぶりに3カ月連続で赤字を記録した貿易収支の赤字は下半期には、更に悪化し、景気先行きにも不透明感が広がる可能性があるとの声が出てきている。

 

l  半導体人材育成のため「人材養成戦略会議」を創設するユン大統領

韓国大統領室は、国家レベルで半導体分野の専門人材を育成する為、ユン大統領が主宰する、「人材養成戦略会議」が新設されると発表した。ユン・ソクヨル大統領は、閣議でパク・スネ副首相兼教育部長官から半導体関連の人材育成策について報告を受けたとした上で、「大統領が主宰する人材養成戦略会議を新設し、官民合同で人材を育成する為の協業体系を構築する計画である」と説明した。向こう10年間で新たに必要となる半導体業界の人材が約12万7,000人に上ると予想されるため、パク副首相は15万人以上の人材育成策も報告している。即ち、「果敢な規制廃止を通じて地域を区別せずに力量のある大学を対象に定員の増員を認める要件を緩和し、現場の専門家が任用されるよう教員資格の要件を緩和する」

と素案が示されている。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,314.92(前週対比+2.82)

台湾:1米ドル/29.89ニュー台湾ドル(前週対比+0.03)

日本:1米ドル/137.58円(前週対比+0.95)

中国本土:1米ドル/6.7698人民元(前週対比-0.0133)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,393.14(前週対比+62.16)

台湾(台北加権指数):14,949.36(前週対比+398.74)

日本(日経平均指数):27,914.66(前週対比+1,126.19)

中国本土(上海B):3,269.976(前週対比+41.915)

 

 

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