ニュースレター国内版 2022年・春(284号)

日賑グローバル・ニュースレター国内版(第284号)
1. ウクライナ危機とバイデン大統領の訪欧
2. 次期大統領選を意識した上院司法委員会での最高裁判事候補の審議
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化 
4.中東フリーランサー報告12号
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1.ウクライナ危機とバイデン大統領の訪欧
昨日ベルギーで開催されたNATO首脳会議、EC首脳会議並びにG7首脳会議の全てに参加したバイデン大統領の訪欧に関し、ワシントンポストが「5つの問い」というタイトルで特集した。 
1. バイデン大統領はウクライナを訪れるか? 
長年バイデンと交流のある前ウクライナ大統領のペトロ・ポロシェンコ氏は、バイデン大統領に、この週末にウクライナを訪問することを強く求めた。 ただ、ホワイトハウスのサキ報道官はツイッターで、「大統領がウクライナを訪れる予定はない」と語っている。 戦争地域であることが訪問しない理由とは言いにくい。 なぜならトランプ前大統領は2019年6月に南北朝鮮間の非武装地帯を訪れており、その前のオバマ大統領は2010年12月にアフガニスタンのバグラム空軍基地を訪れている。さらにはその前のブッシュ大統領は2008年にイラクに立ち寄り、そこで会見中に投げつけられた2つの靴から身をかわしたりしていたが、いずれも戦争地域といえる。ただ、それらの訪問地には米軍の駐留軍があってロジの面から安全確保まで全て十分な対応が行えたという点がウクライナとは異なる。 
2. NATOはどのような発表を行うか?  
バイデン大統領の訪欧の最大の眼目はNATO首脳会議への出席であり、そこでの何らかの意思決定が注目される。ただ、これまでのところ彼も、NATOの同盟諸国もウクライナのゼレンスキー大統領が強く求める「飛行禁止区域の設定」には反対しており、ポーランド等を通じた旧ソ連製戦闘機の提供ですら否定的な状況にある。「NATOの領土を1インチも譲らず、防衛する」という宣言を繰り返すことと、新たに対装甲兵器や防空兵器を提供するということ以外に真新しい宣言があり得るのかは不透明な情勢。アメリカの大反対にも拘わらず、トルコがロシアから調達したS-400地対空ミサイルを、トルコ自身がウクライナに提供することは劇的であろうが可能性は低い。 
3. ウクライナ難民受け入れ国に対する支援は?  
ハリス副大統領が最近ポーランドを訪問した際、同国のアンドレ・デュラ大統領は、ウクライナから大量の難民を受け入れている状況がいずれ難民災害となりかねないとの懸念を語っている。バイデン大統領のEC首脳会議参加と、金曜日のポーランド訪問は米国としての難民支援の在り方を伝える場となろう。ポーランドはもとより、モルドバ、ルーマニアその他のウクライナ近隣諸国が対象となる。  
④中国に対するメッセージは発せられるか? 
3月18日にバイデンは習近平とのテレビ会談でロシアへの軍事及び経済支援を行わないよう警告しているが、同じメッセージをNATOとして、或はECとして発するかは不透明な状況にある。 
⑤プーチンの反応は? 
これらのバイデンの動きに対し、プーチンがどう動くか、はたまた動かないのか。ロシア軍の侵攻は当初の計画通りには進まず、マリウポリでは民間人の存在に拘らず激しい制圧攻撃を行っている。キエフに対し同様の攻撃を展開するのか、或はウクライナを軍事面で支援する米国やNATO諸国に対するサイバー攻撃をしかけるか、或は近隣のNATO国に侵攻を進めるようとするか予断を許さない。かねてからNATOの弱点と言われていたバルト海からベラルーシに伸びるポーランドとリトアニアの間の国境のスワルキー回廊(Suwalki corridor)をベラルーシ経由で制圧することを目指すと予想する専門家もいる。米国は他国の軍からのサイバー攻撃を宣戦布告とみなせる原則を有しており、仮にロシアからのサイバー攻撃があった場合のバイデン大統領の対応が注目される。
2.次期大統領選を意識した上院司法委員会での最高裁判事候補の審議
現在の最高裁判事でリベラル派が少数派となっている中で、かつてクリントン大統領が指名したリベラル派のステファン・ブライヤー判事(83歳)が引退を表明したことから、2月25日にバイデン大統領はワシントンDC連邦控訴裁判所判事のKetanji Brown Jackson女史(51歳)を指名した。 連邦議会上院司法委員会で承認されれば、米国で初の黒人女性の最高裁判事となる。今週始まった上院司法委員会での審議状況を報道するにあたり、ニューヨークタイムズは、委員会のメンバーの中の4人の共和党上院議員に着目した特集記事を出して
いる。まず4人全員が男性であり、多少の差はあっても基本的に40代から50代前半で、アイビーリーグでの学位を最低1つは持っており、将来の大統領を目指して自分のイメージが共和党のイメージとなるよう活動してきている。こういった4人の野心家にとって最高裁判事指名者の審議の場は審議されるジャクソン女史以上に自らが主役を演じようとする場となる。実際、2020年に、民主党大統領候補をバイデン大統領と争ったカマラ・ハリス副大統領は、それ以前にトランプ大統領が指名した最高裁判事候補のブレット・カヴァノー判事の審議において、上院司法委員会の委員として徹底して厳しい質問を行うことでリベラルな有権者層に対し“目立って”いた。今回、そのときのハリス上院議員と異なるのは、共和党には現状、高い人気を誇るトランプ前大統領の存在があること。従い、自ずとこれら4名の共和党上院議員の目立ち方も考慮が求められる。 その4名は下記の通り。 
  
Tom Cotton: アーカンソー州選出の44歳。イラクとアフガンで陸軍のレンジャーとして兵役経験あり。 対中強硬派。国内政策では超保守。 
Ted Cruz: テキサス州選出の51歳。茶会党。2016年の共和党大統領候補選ではトランプに次いで2位。 トランプ支持の姿勢。  
Josh Hawley: ミズリー州選出の42歳。 キリスト教福音派。 強硬な保守派。今回のジャクソン判事の審議でも真っ向から反対。  
Ben Sasse: ネブラスカ州選出の50歳。 元大学の学長。 反トランプ。 2回目の大統領弾劾裁判で有罪投票をしている。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1)  中国
*  米国からのサイバー攻撃を非難する中国
中国本土国営新華社通信は、「海外から中国へのサイバー攻撃が2月以降続いており、ロシアやウクライナ、ベラルーシをターゲットとする為に中国国内のコンピューターが乗っ取られる事例が相次いでいる。その攻撃の大半は米国発である」と報道している。
*  親日度の高さが目立つ台湾
台湾の蔡英文総統は、自身のツイッターに日本語で、「東北地方を中心に、日本がまた大きな地震に襲われたと聞き心を痛めています。被害が最低限に留まるように祈っています」と投稿している。
また、日本の対台湾窓口機関である日本台湾交流協会は、台湾人を対象に実施した対日意識に関する2021年度の世論調査の結果を公表したが、「台湾を除いて最も好きな国」の1位は日本となり、過去最高の60%に上っている。最も好きな国の2位は中国で5%である。年齢別では、日本が最も好きな国であると回答した人の割合は、30代が73%と最も高かった。更に、「今後台湾が最も親しくすべき国」では、日本が前回の2018年度調査に比べて9ポイント増の46%となり、3回連続で1位となっている。2018年度調査で2位であった中国本土は前回の31%から15%と大きく減少し、調査開始以降初めて3位となり、代わって米国が2位の24%となっている。
*  中国、不動産税導入延期
中国国営新華社通信は、日本の固定資産税に当たる「不動産税」の試験導入を計画していたが、これについて、来年以降に延期すると報じている。年内に一部都市で導入する予定であったが、「総合的な状況を考慮した」として、導入を延期する可能性が高いと見られている。中国国内の不動産市場の回復が遅れ、ウクライナ情勢で世界経済のリスクが高まっていることが真の背景と見られている。
(2) 韓国/北朝鮮
*  大統領選挙の投票行動分析
韓国国内では、大統領選挙の勝敗を分けた一つの要因としては、ソウル市内の住民税の高い地域の有権者がより多く、ユン・ソクヨル候補に投票したとの見方が出ている。
即ち、ユン・ソクヨル候補はソウル25区のうち14カ所でイ・ジェミョン共に民主党候補より多くの票を得たとされ、その14カ所のうち、東大門区を除いた13カ所の土地公示価格が11億ウォンを超えるアパートが多い地域となっており、住民税の高い地域の住民がユン候補支持に回ったと見られているのである。
文政権の不動産政策の失敗などが影響したとの見方にもなる。
*  コロナ禍の経済状況評価で勝ち組と評された韓国
韓国の主要紙である朝鮮日報は、ドイツ経済研究所のレポートに基づき、「韓国は、新型コロナウイルス感染症拡大前に比べて拡大後の経済成績が経済協力開発機構(OECD)加盟国・地域のうち勝者に属するという分析結果が出た」と報道している。即ち、当該記事では、ドイツ経済研究所(IWケルン)が、新型コロナウイルス感染症拡大前に比べて、2年後のOECD加盟19カ国・地域の経済成績を分析した結果を発表、これによると、デンマークとスウェーデンに続いて、韓国が先頭グループに属していることが報告され、このデータを基にして上述のような報道がなされているのである。
同研究所が最近発行した、「2年間のパンデミック 誰が勝者で誰が敗者なのか」と題する報告書では、新型コロナウイルスの世界的感染拡大直前の2019年第4四半期に比べて、2021年にこれらの国・地域の実質国内総生産(GDP)成長率、失業率、物価上昇率、実質家計所得、投資、債務の対GDP比、株価など、七つの指標の変動レベルを比較・分析した結果によって、順位が示されたとされている。尚、スペインや英国、日本、ドイツ、イタリアは当該報告書では経済実績が最下位グループに属している。
*  大型韓流イベント「KCON」5月開催
韓国の総合コンテンツ大手であるCJ ENMは、大型韓流イベントである「KCON」の開催を発表した。本年5月に、韓国・ソウルと日本・東京(幕張メッセ)、米国シカゴでKCONの開始を告げるプレイベントとなる、「KCON 2022 Premiere」を順次開催し、8月には米国ロサンゼルス、10月に東京でKCONを開くとしている。KCONのオフライン開催は2019年9月以来となる。
CJ ENMは、今年のKCONでは新型コロナウイルスの感染拡大を経て変化した文化消費パターンとZ世代(1990年代半ばから2000年代前半に生まれた世代)のトレンドを反映してコンテンツをアップグレードする一方、開催地の地域的な特性を考慮し差別化したプログラムを実施する計画であるとしている。また、同社音楽コンベンションライブ事業部長のキム・ドンヒョン氏は、「今年からデジタルとオフラインを合わせた企画で時間や空間を克服し、さらに多くのファンがKCONを体験できるようにする」ともコメントしている。
[主要経済指標]
1.    為替市場動向
韓国:1米ドル/1,214.32(前週対比+17.97)
台湾:1米ドル/28.37ニュー台湾ドル(前週対比+-0.00)
日本:1米ドル/ 119.04円(前週対比-2.11)
中国本土:1米ドル/6.3615人民元(前週対比-0.0228)
2.      株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,797.02(前週対比+135.74)
台湾(台北加権指数):17,456.52(前週対比+191.78)
日本(日経平均指数):26,827.43(前週対比+1,664.65)
中国本土(上海B):3,251.072(前週対比-58.675)
4.中東フリーランサー報告12号
三井物産戦略研究所の元研究員でおられた大橋誠さんから掲題のレポートを頂戴しましたので共有申し上げます。 大橋さんからは下記のメッセージを頂いております。中東フリーランサー報告12号をお送り致します。連日悲惨なウクライナの情景がTVに映し出されるのが見ていても辛いですが、国境を越えて来る人の長蛇の列も含めて、自分にとってはシリア内戦でいつか見た光景のような気がすることに、我ながら恐ろしくなっています。今までは、中東だから有り得る風景と思っていなかったでしょうか。欧州の地で戦争が現実となった今、中東だからと当然視していたのではないかと、自責の念を覚えています。途上国であろうが、先進国であろうが、理由はどうあれ、いざ始まってしまえば、戦争の実相は変わりありません。
ウクライナ戦争前は、油価高騰がGCCにとっては追い風ムードでもあったのですが、こうなって来ると浮かれてはいられません。コロナ禍がようやく下火になりそうな雰囲気の中で、ドバイ万博も大団円で、次はFIFAドーハ大会だなどと言うお祝いムードも吹き飛んでしまいました。
中東エネルギーを巡る情勢も、今後激しく変わって来るでしょう。この辺については、もう少し考察を深めるとして、今回はウクライナ侵攻直後の状況に関し、中東各国や周辺国の動きを纏めてみました。書き足りないことも多く、残りは続報します。じゃあどうすれば良いのかの結論などはありませんが、多少なりとも皆様の参考になれば幸甚です。
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