ニュースレター国内版 2022年・春(283号)

日賑グローバル・ニュースレター国内版(第283号)

 

1. ウクライナへの兵器供与を通じロシアとの代理戦争に入りつつある米国

2. プーチン批判でトランプとの違いを見せようとするペンス前副大統領

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化 

 

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1.ウクライナへの兵器供与を通じロシアとの間接戦争に入りつつある米国

 

2014年のロシアによるウクライナのクリミア半島併合の後、アメリカはウクライナに対し30億ドルもの軍事支援の提供を約束した。 

その後、2018年にJavelin対戦車ミサイルが210セット、そして2020年に150セット米国からウクライナに供与されている。

さらには昨年、10億ドル以上もの軍事支援が実行され、米国から対迫撃砲レーダー、秘匿無線機、電子装備品、医療器材、車両並びにJavelin対戦車ミサイルなどがウクライナに提供された。また、Island級警備艇9隻とMi-17輸送ヘリ5機が米軍の兵器在庫の中からウクライナに供出されている。 

 

今のところ、米国以外に13の国々が対戦車や防空兵器をウクライナに提供しているという。そしてワシントンポストによれば、ロシア軍がウクライナとの国境沿いに兵力を集結させた昨年12月下旬には、M141単発型携帯ロケットランチャー、M500ショットガン、Mk19手りゅう弾ランチャー、M134ミニガン(ヘリ搭載用)及び防護服など総計2億ドル相当が米国からウクライナにもたらされた。先月2月下旬には3.5億ドルもの米国による軍事支援が承認され、内、2.4億ドル分の装備品が既にウクライナに輸送されている。 

 

ここ数日で、米国がウクライナに提供した兵器には携帯型地対空ミサイルのスティンガーが含まれている。バイデン大統領は米軍をウクライナに投入する可能性は否定しているものの、アメリカからウクライナに提供されている兵器の種類や量、能力の点で、アメリカの通常兵器がロシア軍と戦闘を行っている状況とも言える。

 

実際、米国防省はウクライナ軍のカウンターパートと毎日打ち合わせを行い、現場での兵器のニーズを聴取したり、アドバイスを送ったりしている。 

ワシントンポストが密かに入手した兵器リストの内容を見ると、多方面から侵攻するロシア軍に最も効果的に対応するための兵器を米国がウクライナ軍に持たせている状況。そして仮にロシア軍がウクライナの主要都市を掌握したと宣言しても、そこから市街戦に持ち込むための兵器も含まれている。既に日本でも報道があったように、NATOに属するポーランド軍に米国製戦闘機を供与し、その代わりにポーランドが保有する戦闘機をウクライナに融通させることも米国政府は手配しようとしている。

 

但し、ポーランド側はこれに応じていない。米議会のナンシー・ペロシ下院議長はウクライナに対する人道的、経済的並びに軍事的支援として100億ドル相当の支援パッケージを今週法制化すると発表、昨日の時点で136億ドルのパッケージとして下院を通過した。米国としてはロシアに対する経済制裁が効果を十分に現すまでの時間をウクライナへの軍事支援を通じて稼ぎ、有利な形で停戦合意に進めたいのであろう。

 

2.プーチン批判でトランプとの違いを見せようとするペンス前副大統領

 

先月の当ニュースレターでマイク・ペンス前副大統領がトランプ前大統領に批判的なスピーチを行ったことを紹介したが、先週金曜日の夜に行ったスピーチにおいてもペンス氏は“トランプ”の名前を直接は出さないながら、誰もが聞けばトランプ前大統領への批判と分かる内容の発言をした。場所はニューオーリンズで、共和党支持層の政治資金提供者に対するスピーチにおいて、ロシアによるウクライナ侵攻を取り上げ、「旧東欧の人々がもしNATOに入っていなければ、今頃彼らはどうなっていたか考えてみてください。また、もしNATOが自由の境界線を拡張していなければロシアの戦車は今頃どこまで来ていたか想像してみてください。 我ら共和党にプーチンを肯定する余裕など到底ありえません」と発言している。トランプ前大統領はこれまでプーチンを称える発言を繰り返してきており、“smart, savvy(通である)”, genius(天才)”といった表現を使っていた。共和党の幹部もプーチンのウクライナ侵攻を非難しており、かつて「プーチン大統領は有能な政治家で、多くの天賦の才を持っている」と語ったマイク・ポンペイオ前国務長官も例外ではない。 

 

さらには議会上院共和党の重鎮の一人のリンゼイ・グラハム(サウスカロライナ州選出)が「ウクライナ危機を終わらせる唯一の方法はロシア人がプーチンを暗殺することだ」とのコメントを出したことから民主党はもとより共和党の同僚からも批判を浴びている。因みにこのグラハム上院議員はトランプが大統領に就任来、今日に至るまで、彼に最も近い理解者であり続けている。ところが、当のトランプは、先月末、「問題はプーチンが賢いかどうかということではなく、因みに彼はもちろん賢いが、真の問題は我々の指導者がのろまなこと。のろまで非常にばかであることだ」と語りバイデンを貶めながらもプーチンを相変わらず称えている。ペンスのスピーチも「ロシアがウクライナ侵攻を2022年まで待った理由は現在の米国の大統領の弱さにある」と語って、現政権に対する批判でトランプと足並みをそろえたが、プーチン自身に対する評価において反プーチンで固まる共和党支持層にトランプとの違いを見せ、共和党をしてウクライナに対する人道的支援や難民支援を促した格好である。 

 

但し、トランプは相変わらず、2020年の大統領選挙で“勝利が盗まれ”、その勝利を“ペンスは議会での選挙人数のカウントを判断する上院議長の立場で取り戻すチャンスがあったのにそうしなかった”という全て虚偽の発言を繰り返している。昨年16日の議会襲撃事件もこのトランプの発言に呼応して「ペンスを吊るし上げろ」と叫んだ暴徒が起こしたことであることから、ペンスのスピーチも、「共和党支持者のみなさん。 我々が次に勝つためには我々の最高の価値観に基づく将来のための楽観的なビジョンに向けて団結する必要があります。 過去の闘いに改めて勝とうとしたり、過去の出来事を訴えても我々は勝つことはできません」と語っていた。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国

l  価格の安定化を図る中国

中国政府・国家発展改革委員会(NDRC)は、コモディティー市場の安定化に向けた措置を取るとする一方で、実需に近い新たなインフラ建設は加速するという方針を示している。工業の安定的な成長を促進する為の取り組みの一環とも説明されている。NDRCとその他当局は連名で通達を出し、工業セクターの押し上げに向け、財政、金融、環境面などの政策に関する18の措置を発表し、一次産品や、鉄鉱石や肥料など主要な原材料が確実に供給されるようにすると共に、価格を安定させたいとしている。また、投機の動きを意識、コモディティーの先物、現物市場の監督を強化し、価格も監視する方針も示している。

 

l  恒大集団問題のその後

経営危機に陥っている中国の不動産開発大手である中国恒大集団は、国有信託大手2社に対して、計4件の住宅プロジェクトを売却すると発表した。

信託2社は建設を引き継ぎ、住宅の受け渡しを保証するとしており、公営化して債務危機を薄め、これ以上の混乱が拡大しないように中国政府が動き始めたと見ておきたい。こうしたオペレーションを基にして、習近平国家主席の意にそぐわなかった恒大集団幹部はその権力基盤を失っていくことになるとも見られている。尚、当該信託2社は、国有企業大手の中国光大集団と中国五鉱集団を親会社に持つ信託会社である。恒大集団が重慶市や広東省広州市などで進めていた住宅やリゾート施設のプロジェクトを取得し、資金を追加投入して完成まで手掛けるとしている。

 

l  台湾の半導体製造に悪影響を及ぼしかねないウクライナ危機

半導体の製造工程では、通常、ネオンガスなどの不活性ガスが欠かせず、ロシアとウクライナは共にネオンガスの生産国であり、市場調査会社であるトレンドフォースのデータによると、ウクライナは世界の高純度ネオンガスの70%近くを供給しているとされている。また、パラジウムは半導体の主原料として知られ、ロシアはその世界最大の生産国であり、世界の生産量の約40%を占める。こうした中、今般のロシアのウクライナ侵攻の問題が長期化すると、半導体生産大国である台湾経済に悪影響を及ぼすとの懸念が台湾国内では出てきている。

 

l  ロシア製品購入でロシアを支援する中国

ウクライナへの軍事侵攻を受けて主要先進国各国がロシアへの経済制裁に乗り出す中、中国政府は、「ロシアと正常な貿易協力を進める」と制裁に反対する姿勢を表明した。中国政府は、欧米や日本などによる経済制裁について、「あらゆる違法な制裁に断固反対する。制裁は問題を解決せず、争いをエスカレートさせるだけである」と主張している。その上で、「中国とロシアは引き続き正常な貿易協力を進めたい」とし、天然ガスなどの購入を続ける考えを強調している。また、中国はロシアからの小麦輸入を拡大すると発表しており、西側諸国の経済制裁を受けるロシアへの支援を強化、近年、利害が共通するロシアと共に、穀物の輸入ルートの多元化に乗り出し、「一帯一路」構想をも巧みに使いつつ、食糧調達の「脱西側諸国依存」をロシアに恩を売る形で着々と進めているとも見られている。更にまた、ウクライナの侵攻を理由に欧米日から金融制裁などを受けたロシアに対して、中国のインターネット上では、ロシア製品を買ってロシアを応援しようという動きが中国では出ている。中国のロシア大使館公認のオンラインショップではチョコレートや飲料水、ウォッカなどが次々に売り切れている。

 

(2) 韓国/北朝鮮

l  スーパーボウルの広告で自動車ブランド1位となったる韓国車

米国で開催された大型スポーツイベントである米プロフットボールリーグ(NFL)王座決定戦のスーパーボウルに於けるCM人気調査で、韓国自動車大手の起亜自動車の電気自動車(EV)「EV6」のCMが自動車ブランド1位、総合4位を記録したと韓国の朝鮮日報は報じている。同じ現代自動車グループの広告代理店で、起亜自動車のCMを製作したINNOCEAN WORLDWIDEが、米国紙USAトゥデーのオンライン調査の結果を基に伝えたものを朝鮮日報は引用している。米国に於いてはスーパーボウルで、中継の合間に放映されるCMも大きな注目を集める者の一つとなっているが、今回の調査は2月13日のスーパーボウル中継で放送された約70本のCMを対象に実施されたものとされている。

 

l  対露制裁で揺れる韓国企業

米国やNATOの対ロシア制裁が本格化していることから、韓国政府・産業通商資源部・大韓貿易投資振興公社(KOTRA)・韓国貿易協会などには、韓国企業からの問い合わせが相次いでいる。米国政府が、半導体・情報通信など7分野57品目についてロシア向け輸出を規制し、米国の技術を使った部品の輸出も阻むと発表した為、韓国の主要企業には間違いなく悪影響が少なくとも一時的には出る。特に、ロシア現地に工場がある三星電子・現代自動車・LG電子などの経営陣は緊急対策会議を相次いで開き、影響を最小限にとどめる対策は無いかと議論を重ねていると報道されている。これらの企業は、「現地の工場稼働に関しては今すぐには大して支障がないだろう。しかし、今後、制裁のレベルがさらに高まったり、長期化したりすれば、工場閉鎖も避けられない」と懸念している。韓国産業通商資源部は、対ロシア制裁に関しては輸出不可能な品目が明確でなく、米国側と協議をしたいとしているが、韓国政府に、米国とのそれだけの協議余地があるのかも不透明である。

 

l  ウクライナ情勢とウォン安

ウクライナ情勢が緊迫化する中、インフレ問題が顕在化、米ドル金利の上昇、そして米ドル高が見られると言う環境下にある。最近では、久しぶりに、「有事の米ドル買い」なる言葉も出始め、米ドル高傾向が定着してくる可能性が出てきている。ロシアがウクライナ最大原子力発電所であるジャポリザ原発を攻撃したというニュースも出て、戦争拡散の懸念が大きくなったことから、米ドル対ウォンの為替レートが21カ月ぶりに1,210ウォンを突破、2020年6月以降、1年9カ月ぶりのウォン安水準となっている。

 

[主要経済指標]

1.    為替市場動向

韓国:1米ドル/1,217.18(前週対比-16.72)

台湾:1米ドル/28.16ニュー台湾ドル(前週対比-0.16)

日本:1米ドル/115.36円(前週対比+0.21)

中国本土:1米ドル/6.3144人民元(前週対比+0.0035)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,713.43(前週対比+36.67)

台湾(台北加権指数):17,736.52(前週対比+84.34)

日本(日経平均指数):25,985.47(前週対比-491.03)

中国本土(上海B):3,447.649(前週対比-3.757)