ニュースレター国内版 2021年・冬(279号)

日賑グローバル・ニュースレター国内版(第279号)

 

1. インフレのスケープゴートとなりかねないバイデン政権

2. 黒人奴隷制度の歴史を振り返ることはアメリカの人種間の相互理解につながるか?

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

4. 寺島実郎氏メディア出演情報のお知らせ

5. 寺島文庫「60de新常識」で登壇させていただきました

6. イスラエル大使館情報 - 日本からイスラエルへの投資額が過去最高

 

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1.インフレのスケープゴートとなりかねないバイデン政権

 

アメリカでは昨年通年で7%ものインフレが続き、国民の不満が募る中、バイデン政権は企業間のM&Aを通じた寡占化・独占化にインフレに関わる問題があるとして大企業を責め始めている。ただ、政権内にも、大企業のみが現在のインフレの原因であるとすることに疑問を示すものもいる。もともとバイデン政権はインフレ問題の登場以前から大企業の集中化の動きが消費者を害しているとして取り締まり強化の政策を検討していた。コロナ禍に伴うサプライチェーンの問題をきっかけとしてインフレが発生しても、バイデン政権は、当初は一過性のものと語っていたものが、今や国民が納得する新たな説明が求められている。かかる状況下、大企業の税引き後収益が2019年は1兆ドルであったものが、2021年には1.7兆ドルを超える勢いで増えていることから、ホワイトハウスは、大企業が大規模集約化や便乗値上げにより収益を拡大させているという大企業悪者論を1つの説明にしつつある。ただ、大企業の大規模集約化は最近始まった話ではなく、昨年突然高騰したインフレを説明することについては財務省関係者はもとよりホワイトハウス内のエコノミストでも懐疑的である。 

 

また、トランプ前政権が中国から輸入する3千億ドルもの物品にかけた制裁関税を解除することでインフレが収まるかと言えば、それほど大きな効果は見込まれないと試算されている。むしろバイデン政権が弱腰とみなされるマイナス効果が懸念されるという。保守派や共和党はバイデンが昨年3月にコロナ禍の経済刺激策として議会を通した1.9兆ドルの支出の仕方に責めを負わせる可能性があり、一方、民主党のエコノミストはやはりコロナ禍によるサプライチェーンの問題と消費パターンの変化、そして急激な人手不足などがインフレを生じさせているとしている。

 

今後、バイデン政権として便乗値上げの取り締まりを厳しく行い、物価の沈静化を図ろうとするのであろう。ただ、供給不足や人手不足というサプライサイドの制約に対し、日本でいうところのリベンジ消費の爆発がデマンドの急拡大となり、インフレを高止まりさせていると見る向きがあるようで、このままインフレが収まらず、大企業も責めを負うべき“悪者”とならない場合、ホワイトハウスがスケープゴートとして捧げられる可能性が高いかもしれない。

 

2.黒人奴隷制度の歴史を振り返ることはアメリカの人種間の相互理解につながるか?

 

前回2020年の大統領選における民主党大統領候補戦に参戦したCory Booker上院議員(ニュージャージー州選出)はアメリカ合衆国建国以来奴隷化されてきた人々の子孫に対する償いをどうすべきかを検討する上院の委員会を立ち上げる法案を上程している。彼の狙いは、その委員会での作業を通じ、単なる奴隷制度の歴史でなく、奴隷にされた人々の立場でその問題をリアルにとらえ、感じることで、現代も続く黒人人種差別の根の部分にスポットライトを当てようとするもの。このBooker上院議員の動きに絡んでか、ワシントンポストが特集で、アメリカの建国以来の連邦議員や大統領がどれだけ奴隷を所有していたか、そのデータを調べ、報じていた。それによると連邦議員による奴隷保有は建国時の18世紀はもとより、南北戦争以降の19世紀にも続き、20世紀の第二次世界大戦前まで続いていたことが判明した。累計では1,700人を超える連邦議員が奴隷所有者として登録されており、出身州も南部州のみならず東北部ニューイングランド地方や中西部、西部にも及ぶ計37州からの選出議員である。党派別では、民主、共和はもとより、フェデラリスト党、ホイッグ党など全ての党で奴隷所有議員がいた

 

ただ、数では民主党(以前は南部中心の奴隷制度維持を主張する保守党)が606人と最も多く、共和党(奴隷制度廃止を主張、北部中心の革新派)が481人となっている。大統領も初代から18代大統領までの内の12人が奴隷保有者で、その中でも8人は現職中に奴隷を使用していた。アメリカでは空港や道路といったインフラから公的な建物、組織、そして空母等の軍艦に過去の大統領や著名議員の名を冠してきているが、その中で、上述の奴隷保有者であった人物の冠については見直す動きも出ている。ブラックライブズマターの運動時に黒人奴隷を認めていた過去の著名な人物の彫像などが破壊されるといった動きがでて、企業なども黒人奴隷と関係のあった人物やブランドと距離を置くようになってきている。黒人奴隷問題をどこまで深くえぐるように過去を振り返るのか、そしてそれが黒人差別やアジア人排斥、そして移民排斥の問題を考える視点にどうつながり、ひいてはアメリカの人種間の融合に役立つのか、はたまた現在の分断を加速する火だねとなり得るのか注目される。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国

l  日台与党間対話実施

日本の与党・自民党と台湾の政権与党・民進党の政策責任者は、経済安全保障をテーマに話し合う与党間の政策対話をオンライン形式で開催し、台湾の環太平洋経済連携協定(TPP)加入や半導体の安定供給などを巡り、日台間の連携を深めることで一致した。

 

l  建国以来の最低値を更新した中国の出生率

中国の昨年の出生率は、一人っ子政策の修正を示したものの、1949年の建国以来最低の数字を更新し、 習近平政権は少子化の食い止めに躍起になっていると見られている。

中国の各地方政府は、育児資金の融資や産休・育休制度の充実など出産奨励策を相次いで打ち出していると報告されている。

 

l  中国スペースステーションとスペースX

中国政府・外交部は定例会見で、イーロン・マスク氏が率いる米国・宇宙企業「スペースX」の人工衛星が2021年に2度にもわたって中国本土の宇宙ステーションに接近したとコメントしている。

中国政府は、国連にもこれを通報している。

 

(2) 韓国/北朝鮮

 

l  最後の一年で南北対話推進と経済・金融リスクに備える文政権

韓国政府・統一部は2022年には南北対話を早期に実現し、朝鮮半島平和プロセスの再稼動に力を集中し、完全な非核化の土台づくりに向けて、文政権として最後まで責任を果たしたいとしている。統一部は、外交部、国防部と共にこうした内容の、「2022年朝鮮半島平和業務計画」を文在寅大統領に報告し、文政権の一貫した姿勢を示した。経済に目を向けると、洪楠基経済副首相は、昨年末、マクロ経済金融会議に出席した際に、「我々が十分に予想可能でも見逃しやすい灰色のサイ(グレーリノ)のようなリスク要因を確実に先制的に取り除く必要がある」と述べた。「灰色のサイ」とは2013年のダボス会議で最初に提示された概念で、巨体だが敏捷で鋭い角を持つ灰色のサイが危険な動物であることは誰もが知っているが、それを放置していると危機に直面しかねないという意味であり、国際金融市場では高い確率でそれが存在し、大きな問題を引き起こすにも拘らず、軽視されがちな材料を指している、Tail Riskとも言われるリスクである、恐ろしいリスクである。李柱烈韓国銀行総裁、高承範金融委員長も出席する中でのこの会議では、財政・通貨・金融当局のトップが一堂に会し、こうした議論がなされ、「不安と懸念」が示された。

 

l  軽空母建造計画

最近、激しい議論になっているものが、軽航空母艦(CVX)事業であるが、これについて文在寅大統領は、「北朝鮮に対する抑止力の為だけに必要というわけではなく、強大国に挟まれた韓国の自主の為に必要である」との考えを示した。

 

[主要経済指標]

1.    為替市場動向

韓国:1米ドル/1,187.82(前週対比-1.40)

台湾:1米ドル/27.59ニュー台湾ドル(前週対比+0.12)

日本:1米ドル/115.02円(前週対比-0.64)

中国本土:1米ドル/6.3546人民元(前週対比+0.0130)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,977.65(前週対比-34.78)

台湾(台北加権指数):18,218.84(前週対比+257.20)

日本(日経平均指数):28,791.71(前週対比+9.12)

中国本土(上海B):3,639.775(前週対比+21.721)

 

4.寺島実郎氏メディア出演情報のお知らせ

 

寺島実郎さんの今月のTOKYO MXテレビ出演情報を下記の通り共有させていただきます。

 

TOKYO MX1「寺島実郎の世界を知る力」

【第3日曜日】第16回放送:116日(日)午前11時~

番組冒頭では、「デジタル・トランスフォーメーションの時代」と題し、

日米の株式時価総額の対比を通じて、日本の産業・経済の置かれている現状について考えます。

また、これからの日本社会で問われる「分配と負担」の在り方について取りあげ、

健全な資本主義を追求し、日本社会がどうあるべきかについて深掘りします。

後半では、「米国の深層理解」の第3弾として、「山本五十六の評価と歴史の教訓」をテーマに、

人間の戦略企画構想力の基盤や現代日本に通底する課題等を、寺島独自の視点で踏み込みます。

 

【第4日曜日】「対談篇 時代との対話」第10回放送:123日(日)午前11時~

<ゲスト>:柳井正氏(株式会社ファーストリテイリング 代表取締役会長兼社長)

今回は新春企画といたしまして、ゲストに柳井氏をお迎えし、

ファーストリテイリング有明本部にて収録致しました。

 

戦後日本を生きてきた世代としての歩みを振り返りながら、

大学時代に世界を見てきた柳井氏の原体験や、「情報製造小売業」の追求を通じて、

業態転換・パラダイム転換を積極的に進めているイノベーターとしての「ユニクロ」が果たしている

経済産業史における役割、そして日本経済・社会に対する危機感とそのあるべき姿について、

対談を通じて深く掘り下げております。

 

5.寺島文庫「60de新常識」で登壇させていただきました

 

寺島実郎さんがつくられた寺島文庫での新しい試みとして提供されているオンライン講義シリーズ「60de新常識」の講師役として小生が登壇させていただきました。頂戴したタイトルは『ビジネスの新常識-グローバル化とダイバーシティ』です。3部構成で、第一部が世界における日本のポジティブなイメージとマクロ経済の実態のギャップ、そのギャップの原因で目立つ輸出の対GDP比と生産性の低さ、第二部がアメリカやイスラエルのイノベーションの背景にある外国人材(移民)の活躍と人材育成、そして第三部が日本における外国人材の位置づけを歴史的に振り返り、現在の中堅・中小企業での外国人材活用の事例とメリットをみていく内容になっております。  

リンクを下記させていただきます。

https://www.terashima-bunko.com/minerva/60min.html 

ご笑覧頂ければ幸いです。

 

6. イスラエル大使館情報 - 日本からイスラエルへの投資額が過去最高

 

日本からイスラエル企業への投資額が2021年、過去最高の294500万ドル(約3400億円)になったとの調査結果を同国のコンサルティング会社ハレル・ハーツ・インベストメント・ハウスがまとめた。半導体や医療など同国で台頭する新興企業への投資が広がった。調査結果によると投資額は20年の約2.9倍になった。海外からイスラエルへの投資額全体のうち日本からは15.8%を占めたという。投資件数も85件と前年の63件から増えた。21年のイスラエル企業の買収としては、10月にルネサスエレクトロニクスが半導体メーカー、セレノコミュニケーションズの買収を発表した。医療分野では旭化成が睡眠時無呼吸症の診断機器を手掛けるイタマーを、オリンパスが泌尿器向け治療機器のメディテイトを買収した。投資ファンドの進出も相次いだ。NTT傘下のNTTファイナンスが3月、ベンチャー投資のファンドを立ち上げると発表。ソフトバンクグループ傘下の投資ファンドは、イスラエルのベンチャーキャピタル大手アワークラウドに2500万ドルを出資した。イスラエルへの投資拡大は日本企業に限らない。現地調査会社IVCリサーチセンターなどの調査によると、イスラエルのハイテク企業が21年に調達した資金は前年の約2.5倍の256億ドルと過去最高になった。このうち外国からの投資は186億ドル強としている。