ニュースレター国内版 2021年・秋(275号)

日賑グローバル・ニュースレター国内版(第275号)

1. コロナによる供給・輸送網へのダメージがもたらす物価高に翻弄されるバイデン政権

2. 画期的な国際課税システムへの合意

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化 

 

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1.コロナによる供給・輸送網へのダメージがもたらす物価高に翻弄されるバイデン政権

 

米国の失業率は記録的な低さにあり、賃金は過去20年では見られなかった速さで上昇し、株価は過去12か月で35%以上も上がっている。 

こうした経済状況は、本来であれば政権にとって追い風に働くはずであるが、物価高の逆風の方が強く、バイデン大統領の支持率が下がっている。 

フォックスニュースの世論調査では回答者の87%が物価高騰を非常に懸念しており、大統領の経済政策の支持率は約20%も下がっている。 

ギャラップによる米市民の経済信頼感は4か月連続で下がっている。 

 

CNBCの調査では79%が経済は「普通」か「良くない」と答えている。来年の中間選挙まで丁度1年となり、バイデン大統領のスピーチの中に、現在の有権者の関心事である「物価」と「財政赤字」対応といったかつてなかった言葉が多く組み込まれるようになっている。「不況」という経済問であれば、需要不足からの脱出には消費者の購買欲を刺激する政策が処方箋であったが、今回の場合、需要は十分にあるものの供給に問題を生じている。 

 

輸送コストの急増、出荷遅延、そして製品不足が現状5.4%ものインフレ率に貢献している状況にある。バイデン政権の高官は来年半ばまでにインフレは収まると語り、またG20ローマサミットにおいて、欧州の鉄鋼やアルミへの関税率を下げると発表している。バイデン大統領肝いりの社会保障と気候変動対応の大型プロジェクトはまだ議会を通過していないが、仮に通過しても、それが現状の経済をどう改善するかを説明することは難しく、即効性のある内容でもないことから有権者への訴求は難しい。かかる状況下、荷揚げを待つコンテナ船であふれる西海岸の港の1つであるロスアンゼルス港を休みなく24時間稼働させるとか連邦政府所有地を解放しておよそ15万本分のコンテナの仮置き施設を設けるなどと政権のスタッフは強調したが何一つ実行には移されていない。 

 

エコノミストが注目する個人消費支出のコアインデックスは5カ月連続で下がってきており、価格上昇圧力は下がってきているが、ガソリンがガロン当たり3.4ドルと7年来の高値で、今年1月時点からは1ドルも値上がっていることが消費者・有権者の不満を募っている。共和党はこれをバイデン政権の経済政策の失政として攻勢を強め、トランプ前大統領は、電子メールで“INFLATION NATION”とインフレ失政を強調するメールを発信している。注目されていた今週のバージニア州知事選も共和党に奪われたところである。パンデミックに伴う、一時的な供給障害であって、早々に物価が沈静化できるのであればともかく、物価が高止まりで新たな巨額の需要創出のプログラムを起こそうとした場合に、その間の悪さは失政と言われかねず、1年後の中間選挙に影響を与えることとなろう。

 

2.画期的な国際課税システムへの合意

 

多国籍企業が法人税の低い国に本社を移す課税逃れを抑制するため、15%を最低法人税率とする国際合意がG20サミットの機会に参加国の財務大臣により調印された。同時に一定以上の規模の多国籍企業に対し、当該国に物理的なプレゼンスが無い場合でも課税を認めることになる。これはGAFAなどの巨大テックカンパニーを想定している。これらの合意は国際課税システムとして画期的、革命的な出来事と称されている。この合意は、G20以外の130を超える国々からも同意を得られ、そこにはタックスヘブンで著名なアイルランドやシンガポールも含まれている。 

 

一方で、この合意には様々な例外規定もある。従業員規模や有形固定資産或いは企業構造によっては対象外となる。また、英国は、銀行等の金融業がその本店以外の地で上げた利益への本合意の適用除外を取り付けた。多くのアフリカ諸国が鉱物資源採掘企業への課税に関する本合意の適用除外を求めている。さらにはこの国際合意を各国が持ち帰り、夫々の税法に反映するに際し、多国籍企業を新たに迎え入れるための税率以外の魅力ある条件、例えば税控除項目の新設等を設けるかもしれないと言われている。  

 

今回の国際的合意に基づき、日本でも多国籍企業の国内はもとより、従来は対象としていなかった海外での収益にも徴税の目を向けていくと共に、合意執行のための強制メカニズムが求められてくるようである。 

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国

 

*  政治的に石炭価格を抑えようとする中国

 

中国の主要な石炭生産業者の一部が、今年の冬と来年春の一般炭価格を抑制すると表明している。中国政府当局が政府系企業に対して、「コストを度外視してでも、石炭と電力の安定供給に努めるように」と求めていることを受けた動きと見られている。豪州との政治的トラブルもあり、豪州炭の輸入が滞る中、中国の一般炭価格は今年200%超上昇し、過去最高値を記録、鉱山の安全点検や反汚職調査、主要な生産地

域の洪水で供給も減少していたことなどから供給と価格が不安定となっていたとされている。

 

*  米政府の半導体情報開示の求めに応えるTSMC

 

米国政府は、産業のコメとなる半導体の世界的な不足を警戒している。そして、こうした半導体不足を解消する為に、半導体業界が米国政府に対して関連情報を提供してくることを要請しているが、台湾のファウンドリメーカーである台湾積体電路製造TSMCは、11月には米国政府に対して情報を提供したいと発表した。尚、米国政府・商務省は、Intel、Infineon、SK ハイニックスなどの企業にも同様の依頼をしていると見られている。

 

*  加盟国が104カ国となったAIIB

 

中国が主導する国際金融機関であるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の第6回年次総会が3日間の日程を終えて閉幕した。新たにナイジェリアの加盟を承認し、2016年1月に創設メンバーの57カ国で業務を開始して以降、6年弱で加盟承認数は104カ国・地域となり、立派な国際機関となっている。尚、今回の総会はアラブ首長国連邦(UAE)が主催し、新型コロナウイルス流行の影響で、前年に続くオンライン開催となっており、次回総会は来年、ロシアの主催で開かれることとなっている。 

 

*  農業ビジネスへの興味を示すアリババグループの創業者

 

中国を代表する私営企業グループであるアリババ集団は、これまで、税制の恩典などを受けながら発展、中国経済の牽引車的役割の一翼を担ってきたが、ここにきて、人民解放軍の中国共産党創立百周年を意識した、「中国型共産主義への回帰」を前提とした共産主義原理主義の動きの中で、新たな経営姿勢を示さなくてはならない状況になっている。こうした中、アリババ集団の創業者゛ある馬雲(ジャック・マー)氏は、中国共産党が食糧自給の更なる確立と格差是正を求めて地方の農業の発展を目指していることを受けて、農業ビジネスに関心を示し始めている。欧州に滞在中のマー氏が農業関連の施設を次々に訪問しており、上述したような背景もあって、習近平政権がIT業界への締め付けを強める中、中国本土政府が重視する問題へ協力する意思をアピールしている。

 

(2) 韓国/北朝鮮

 

*  韓国大統領/選野党候補の状況

 

韓国の世論調査機関であるリアルメーターが10月28日に発表した調査結果によると、韓国野党で大統領選の公認レースを争う候補のうち、ユン氏の支持率は今月中旬に実施した前回調査からほぼ横ばいの33.1%となっており、前回から10ポイント以上伸ばし、38.2%となった国会議員のホンジュンピョ氏に逆転されている。ユン氏は検事総長時代、進歩(革新)系の文在寅大統領の側近を精力的に立件、この為、保守層から人気を集め、野党の最有力候補と目されてきたが、検事総長だった昨春に与党政治家の立件を狙い、野党議員に告発を促すよう自らの側近だったとされる検事に命じたとされる疑惑が浮上、また、「貧しい人には、品質が悪い食品でも食べられる選択の自由を尊重すべきである」、「福島原発から放射能の流出は基本的になかった」などといったコメントが失言とされ、徐々に人気を落としていると見られている。

 

*  コロナ後の回復が顕著な貿易

 

韓国の本年の年間の輸出入合わせた貿易総額は過去最短で1兆米ドルを突破している韓国政府・産業通商資源部と関税庁は、輸出額5,122億米ドル、輸入額4,878億米ドルを突破、輸出と輸入を合計した貿易総額が1兆米ドルを既に超えたと発表している。10月に1兆米ドルを突破したのは、1956年の統計開始以来初めてとなり、これまでは2018年の11月16日が最短となっていた。韓国の年間貿易総額は2011~2014年と2017~2019年の計7回1兆米ドルを突破しているが、昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で1兆米ドルを割り込んでいたが、今年は回復した格好である。

 

[主要経済指標]

 

1.    為替市場動向

韓国:1米ドル/1,173.13(前週対比+1.10)

台湾:1米ドル/27.84ニュー台湾ドル(前週対比+0.03)

日本:1米ドル/113.88円(前週対比+0.51)

中国本土:1米ドル/6.3999人民元(前週対比-0.0065)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,970.68(前週対比-42.45)

台湾(台北加権指数):16,987.41(前週対比+99.55)

日本(日経平均指数):28,892.69(前週対比-362.86)

中国本土(上海B):3,547.336(前週対比-39.665)

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