ニュースレター国内版 2021年・夏(271号)

日賑グローバル・ニュースレター国内版(第271号)

 

1. デルタ株が米国民の心理に与えている影響 

2. アメリカにおけるパンデミック収束のシナリオ

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化 

4. 文藝春秋10月号にイスラエルのコロナ対策プロジェクトマネージャーインタビュー記事掲載

5. 中東フリーランサー報告9

6. 寺島実郎監修「第12期寺島文庫リレー塾2021〔後期〕」のご案内

 

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1.デルタ株が米国民の心理に与えている影響 

 

74日の独立記念日にはコロナとの戦いの勝利を祝うかのようなバイデン大統領と国民の様子が報道されていたが、その後2か月間のデルタ株による感染急拡大(一日当りの全米の感染者数は10倍以上)で国民の心理に大きなインパクトを与えている。その様子を先週行われたワシントンポストとABCニュースの共同世論調査の結果で紹介する。6月末時点ではコロナ感染・発症のリスクありと答えた割合は18%であったものが、今回は47%に急増ワクチン接種を1回以上行った成人で感染を懸念する割合も32%から52%に増大ワクチン未接種の成人では22%から35%に増加1回以上のワクチン接種者の割合が7月初頭の67%から94日時点で75%に拡大4月の時点で共和党支持層か共和党寄りの無党派層の40%がワクチン接種を拒絶していたが、今回は29%にまで下がっている。民主党支持層と民主党寄りの無党派層の90%は既に1回以上の接種を済ませている従業員にワクチン接種を強制する企業も増えているが(現状18%、一方、ワクチン未接種の労働者の72%が、医学上の或いは宗教上の理由による例外化なしにワクチン接種を強制されるなら仕事を辞めると回答。バイデン大統領のパンデミック対応の支持率は6月末には62%であったものが、52%にまで下がっている。 大統領の総合的な支持率は50%から44%に落ちており、下降の原因にアフガン撤退の問題がある。

 

職場でのワクチン接種の強制に関し、民主党支持層の8割はこれを支持、一方共和党支持層では6割が反対となっている。回答者の3分の2は学校で教師やスタッフ、そして生徒が皆マスクを着用することを義務付けることを支持CDC(アメリカ疾病予防センター)もこの義務化を支持しているが、共和党出身知事のうちの9つの州はこの義務化を禁じようとしている。民主党支持層の9割、無党派層の6割が支持、共和党支持層の6割が反対となっている。回答者の59%は教師とスタッフにワクチン接種を求めることを支持し、生徒も、ワクチン接種の年齢制限が下がれば接種すべきとの回答が54%となった。白人層よりも非白人層が、男性よりも女性の方がワクチン接種やマスク着用義務を支持している。 

 

現状、成人の4分の3がワクチン接種を受けているが、「ワクチン接種を絶対に或いは多分行わない」と回答した割合は4月時点の24%から17%に下がっており、全米の接種率の上昇余地がまだあることを示している。ワクチン未接種と解答した者の7割はワクチンの安全性や有効性を信じられないと回答、また6割が、感染による発症のリスクは低いと感じている。 

 

ただ、最近のFDAによるファイザー社製ワクチンの正式承認で16%の未接種者が摂取する気になっているという。  

最後に、人とのかかわりとワクチン接種の関係において、接種者の58%は、自分を気にかけてくれる人の勧めで接種を受けている一方、未接種者の場合、彼らを気に掛ける人はワクチンに関わらないようにしている人々であるという。

 

2.アメリカにおけるパンデミック収束のシナリオ

 

今年4月のNBCによる世論調査では61%がコロナ感染の最悪の状況は過ぎ去ったと回答していたが、8月は37%に大幅に下がっているといった先行き不透明な状況下、パンデミックの収束のシナリオはあるのか、あるならば具体的にどのようなものかについて、ワシントンポストが有識者の見解をまとめた。1つのシナリオは死者の数が減って、インフルエンザで毎年亡くなる人数程度になるまで待つというもの。もう1つは11歳未満の子供にもワクチン接種を徹底させることによる収束のシナリオ番外編として、日々の制限に疲れたアメリカ人が勝手に元の生活に戻ってしまうというシナリオ。  

 

最初のシナリオは感染症の専門家でカリフォルニア大学の教授のモニカ・ガンディ女史による。今年10月半ばには新型コロナウィルスがインフルエンザ波に弱毒化するというコロナウィルスとしては、現在のデルタ株の感染力が最強で、その後は変異を来すごとに弱まると見ている。これに対し、ペンシルバニア大学のイーゼキール・エマニュエル教授は、デルタ株の存在はもとより、ワクチン接種拒絶者の存在、そしてワクチン接種が許されていない子供たちが新たな感染媒介となる可能性から、どんなに早くても来年の春、恐らくはもっと後にならないと通常の生活には戻れないと予想する。

 

このように専門家の見通しはバラバラで統一した見解はないが、少なくともこれまでのパンデミックと同様、新型コロナウィルスはいずれ止む、ということについてのコンセンサスはあるという(例外はマラリアであると)。天然痘は人類により根絶できたが、多くのパンデミックは風土病のようになり、最終的にインフルエンザや普通の風邪のように弱毒化しつつ存在し続けるという。

 

問題は、いつどのようにその収束を定義するか。スタンフォード大学のJay Bhattacharya教授は、ワクチン接種が収束点であり、「感染症の緊急事態の状況は既に終わっており、メンタリティーを緊急事態のモードから元に戻す努力を一生懸命行う必要がある」「今や、Covid-19は人間に影響を与える200もの病気の内の1ついう位置づけで扱うべき」と語る。 「新型コロナウィルスは今後も変異し続け、季節性や地域性のクラスターを突発させ続けるであろうが、新たな感染者数の増大の度に右往左往していては正しくないパニックを繰り返すのみ」と語り、ワクチン接種とマスク着用などの予防をしつつパンデミック以前の活動に戻るべきと語る。前述のガンディ教授も、今がパンデミックのピークで、デルタ株は感染力が強い分、多くの免疫を社会に残しており、その結果、将来の変異種で重症化していく可能性は減っていくと結論付けている。ウィルス自身は存在し続けても、人類に害を及ぼす度合いが下がっていくということ。むしろ今のアメリカの問題は、民主党とその支持層並びに共和とその支持層の間で、前者はパンデミックの致死率を過大に見積もり、後者は過少に見積という分断があること。 

 

これが社会をして通常の生活に戻ることを遅らせている前者が、インフルエンザシーズンでも普通に行っていたイベントを再開しようとせず、一方、後者はインドアの混雑したイベントを再開しても参加者がワクチン接種やマスク着用を拒んでいるといった問題である。民主党が強い州ではいまだにロックダウンや学校閉鎖に対する住民の抵抗は少ない。 

 

一方、ノースカロライナ州立大学のシステム技術者でH1N1パンデミックの際のCDCの顧問を務めたジュリー・スワン女史はガンディ教授の見解が楽観的に過ぎると見る。即ち、パンデミックの収束と通常の生活の再開はもっと後になると見ている。「ガンディ教授が言う、デルタ株の感染蔓延が社会に免疫を与えるという考えは世紀末的で、社会の隅々に感染が広がるまで命のリスクを晒すよりは皆でマスクを着用し、感染予防すべき」と語る。スワン女史の計算モデルでは、通常の生活再開の道筋は少なくとも5歳以上の子供へのワクチン接種をがカギとなるという。残念ながら既にフロリダ州では多くの子供が感染している状況にある。 スワン女史が考える通常の生活再開への最も効果的な道筋は、5歳から11歳の子供へのワクチン接種が承認され、その接種を進めつつ、マスクの着用とPCR検査の拡充であるという。子供用ワクチン接種の承認は良くて年内、同接種開始は来年初めからという流れが予想されている。コロナウィルスがインフルエンザと同程度の脅威に落ち着くには10年はかかるとスワン女史は予想する。 

ただ、ベストケースシナリオとして、子供のワクチン接種が進めば、来年中に、部分的に通常の生活再開が病院への過負荷なしに実現することはあり得ると語る。  

 

一方、同じアメリカ人でも、自己判断で通常の生活に戻ろうとする人と、感染リスクを恐れて自重する人との間の通常の生活再開の条件に関する政治的、社会的コンセンサスづくりには数年(長ければ次の大統領選挙まで)を要すると語るのは、メディア出身の小説家アレックス・ベレンソン氏。これに対し、前出のBhattacharya教授は、政治的コンセンサスよりも、政府疫病専門当局が、様々なワクチン接種のデータを収集、解析した結果を基に、どこまで接種していたらどういった生活に戻れるかという説明を論理的に行うことが最良であると語る。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国

l  共同富裕の達成に進む習近平政権

中国指導部では、「共同富裕の達成」という議論が盛んになっている。

中国指導部は「共同富裕は社会主義の本質的要請である。共同富裕は人民全体の富裕であって、一部少数者の富裕ではない」と改めて強調しており、故鄧小平氏が示した「先富論」の事実上の軌道修正ではないかとの声も出始め、習近平体制の足場固めが改めて強化されているとも見られている。

尚、こうした中、中国の電子商取引の主要企業グループの一つであるアリババ・グループは、国の富の格差を縮小するという政府の目標を達成する為に、2025年までに約155億米ドルを投入する予定であるとコメントしている。習近平政権は先月、「共通の繁栄」キャンペーンを強化し、企業や裕福な個人に富を分かち合うことを奨励したことを受けての対応であると見られている。

 

l  台湾与党民進党と自民党間の外交・安保オンライン協議開催

日本の自民党と台湾の与党、民進党は、外交・防衛政策の責任者同士でオンライン形式での初協議を実施、東シナ海や南シナ海への中国本土の進出をどう抑止していくかなどを議論した。中国本土を意識し、国家レベルではなく与党レベルでの、「外務・防衛2プラス2議員外交」を展開したと見ておきたい。

 

l  中国のネット利用者数10億突破

中国政府系機関である中国インターネット情報センターは、「2021年6月末時点の中国のネット利用者数が10億1,074万人になった」と発表している。1年間で7,090万人増え、初めて10億人を超えたとしており、人口に対するネット普及率は71.6%に上昇したとも報告されている。

 

(2) 韓国/北朝鮮

l  日本の防衛費を抜く勢いの韓国国防予算

韓国政府・国防部は、2022年の国防予算案を発表したが、総額は前年対比4.5%増の55兆2,277億ウォンとなり、日本の2021年度防衛費とほぼ同水準となっている。今後も大幅な増額を計画しており、数年内に日本を逆転する可能性もあるが、韓国の防衛力強化は南北融和の流れの中で一層、推進されていくものと見ておきたい。

 

l  NASAの精密カメラを装着する韓国初の月軌道探査船「KPLO

韓国政府は、来年8月に打ち上げを予定している韓国初の月軌道探査船「KPLO」に、米国航空宇宙局(NASA)の精密カメラである「シャドーカム」を装着すると発表し、韓国の宇宙開発が米国との連携であることを匂わすコメントをしている。シャドーカムは月の「永久影地域」を撮影する特殊カメラであり、永久影とは、太陽光が全く当たらず氷が存在すると予想されている場所で、月の極域にある深いクレーターなどに分布しているもので、光が当たらない地域の撮影となる為、一般のカメラでは撮影が難しいことから、シャドーカムのような特殊装備が必要となることを背景とした連携であると見られている。

 

[主要経済指標]

1.    為替市場動向

韓国:1米ドル/1,155.96(前週対比+13.02)

台湾:1米ドル/27.63ニュー台湾ドル(前週対比+0.30)

日本:1米ドル/109.95円(前週対比+0.19)

中国本土:1米ドル/6.4541人民元(前週対比+0.0205)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):3,201.06(前週対比+67.16)

台湾(台北加権指数):17,516.92(前週対比+306.99)

日本(日経平均指数):29,128.11(前週対比+1,486.97)

中国本土(上海B):3,581.734(前週対比+59.577)

 

4.文藝春秋10月号にイスラエルのコロナ対策プロジェクトマネージャーインタビュー記事掲載 

 

本日発売されます文藝春秋10月号に、イスラエル政府コロナ対策最高責任者のサルマン・ザルカ氏並びに前コロナプロジェクトコーディネーターのロニー・ガンズ氏とのオンラインインタビューの記事が掲載されます。文藝春秋殿のご手配で、わたくしが、インタビュワーを務めさせて頂きました。 コロナ禍において、イスラエルらしく独自に道を切り拓こうとする姿勢を参考にしていただければ幸いです。

 

5.中東フリーランサー報告9

 

三井物産戦略研究所にて研究員をされていた大橋誠さんから掲題のレポートを頂戴しましたので共有させていただきます。大橋さんからは以下のコメントを頂いております(一部のみ)。

 

またまた2か月のご無沙汰となりましたが、コロナ禍第5波の中で、皆さま如何お過ごしでしょうか。「中東フリーランサー報告9」をお送りします。オリパラ終了と共に、多少感染数が減少傾向にあるようにも見えますが、感染経路と年齢分布は拡散しており、これもひとつの「多様化」なのかと言っている場合ではなく、皆さんどうかお気を付けください。さて、今回はこの2か月間の大きな出来事として、東京五輪とアフガニスタン情勢を取り上げました。どちらも中東案件そのものではありませんが、中東との関係や、中東への影響がある話題です。決して中東情勢が夏枯れと言うことではありませんが、今回はこの二つのお題でページを使ってしまいましたので、別の話題は次号に回します。  

 

6.寺島実郎監修「第12期寺島文庫リレー塾2021〔後期〕」のご案内 

 

()寺島文庫・GIN総合研究所 寺島文庫リレー塾事務局殿より掲題のご案内を頂きましたので共有させていただきます。

 

「寺島文庫リレー塾」は、寺島実郎監修のもと、国際情勢や政治、経済、歴史文化やジャーナリズム等の各分野を代表する識者を招き、リレー形式の連続公開講座として、2010年から毎年開催してまいりました。コロナ禍ではございますが、11月より「第12期寺島文庫リレー塾」〔後期〕を開講いたします〔以前の案内(20221月)から、回数を増やして11月からの開催へ変更〕。12期〔後期〕は新型コロナウイルスの感染拡大防止を考慮し、収容人数200名の会場を、受講者数を50名に限定した「ライブ」(日本工業倶楽部会館)での受講方法に加えて、WEB配信による2週間限定の「オンデマンド」での受講の2通りを予定しております。

 

お申し込みの際は下記の点にご注意ください。

①サポーター向けの特別ご優待は、「【全5回】オンデマンド(WEB配信)受講」に適用いたします。寺島文庫ウェブサイト上で公開されている受講料とは異なります。必ず専用のフォームまたは本メールに添付しているFAXにてお申込みください。

(専用URLhttps://www.terashima-bunko.com/bunko-relay12-a9ju8.html

 

②「ライブ受講」をご希望の場合は、通常の寺島文庫ウェブサイト上からのお申込みとなります(割引等の特典はございません)。

(サイトURLhttps://www.terashima-bunko.com/bunko-project/relay.html

・「ライブ」は受講人数を各回50名に限定いたします。お申し込みは先着順といたします。

 なお、各回の講義時間が「1800-1930」に変更となっております。

・お申し込みの際は「受講方式のご希望」をご記入いただきます。お申込人数により、第2希望での受講となる可能性がありますので、事務局より『受講方式の確定のお知らせ』と『受講料のお振込先のご案内』が届いてから、受講料をお振込みください。

 

③ライブ受講とオンデマンド(WEB配信)受講を組み合わせてご受講をご検討の場合、①にて「【全5回】オンデマンド(WEB配信)受講」をお申込み頂き、②にてご希望するライブ受講回をお申込み頂ければ幸いです。

 

④今後の状況により講義方式等に変更が生じた場合、改めて事務局よりご連絡致します。

 

講義の受講方式や受講料等の詳細は別添のご案内を確認の上、お申込みください。

お申込みは「910日(金)1500」より受付を開始いたします。

皆様からのお申込みをお待ちしております。

 

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