ニュースレター国内版 2021年・夏(270号)

日賑グローバル・ニュースレター国内版(第270号)

 

1. “子供たちのための世紀の進歩”法案通過

2. 米国雇用市場を襲う“Great Resignation(偉大なる退職)”の動き

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化 

 

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1.“子供たちのための世紀の進歩”法案通過

 

前回お伝えしたバイデン大統領のインフラ計画の実現を目指す1.2兆ドルもの規模の法案は超党派で米議会上院を通過した。 

同時に与党民主党はバイデン大統領の選挙公約にうたわれたメディケア(60歳以上の医療保険)を含むヘルスケア改革、教育、子女養育保障、家族保障、傷病休暇保障といった社会保障改革から移民制度改革、そして気候変動対応に重点的に予算を投じる3.5兆ドルもの来年度連邦予算の予算決議案を民主党単独で上院を通過させている。

 

この2つの法案が同時に下院に移ったところで、その2つの法案を扱う順番において下院民主党内の亀裂が生じていた。具体的にはJosh Gottheimer下院議員(ニュージャージー州選出)を筆頭に9人の中道派民主党議員がインフラ法案の方を先に通す投票をしなければ、予算決議案に賛成票を投じないとペロシ下院議長に表明していた。下院与党民主党は下院共和党との議席数差がわずか8しかないため、9人に棄権されるとマジョリティを失うことになる。 

 

一方、100人弱もの、民主党下院進歩派グループ(Congressional Progressive Caucus)の議員団は逆に、予算決議案を優先すべきであると強く主張していた。ペロシ議長はこの予算決議案を“10年に1度のチャンス”と表現し、後に、“子供たちの将来にとって大切な(100年に一度の)世紀の進歩をもたらす法案”と表現し直し、これを優先すべく、前述の中道派9人の説得にあたると共に、バイデン大統領とホワイトハウス及び関連閣僚を動かし、同中道派の説得にあたってきた。バイデン大統領にとっては中間層の雇用を増やし、中国に依存しないサプライチェーンを構築するためのインフラ法案も重要であることに違いはない。

 

ただ、フランクリン・ルーズベルト大統領のニューディール政策の背景などを歴史家から学ぶなど、“Go Big”を自らの使命と認識していたバイデン大統領にとっては、この社会改革・移民改革・気候変動対策のパッケージ法案である予算決議案が最優先であることは間違いない。  

ペロシ下院議長の説得が功を奏してか、上記中道派9名は棄権することなく、3.5兆ドルの予算決議案に投票することで同法案は825日、下院を通過した。インフラ法案の投票日もこれから決まることとなった。アフガニスタンからの撤退で支持率を落としているバイデン大統領だが、この2つの大型案件が実現すれば、選挙公約の大きな成功となり支持率のリバウンドが期待されよう。

 

2.米国雇用市場を襲う“Great Resignation(偉大なる退職)”の動き

 

7月のアメリカの新規雇用者数は943千と非常に強い求人需要を示し、失業率も5.4%にまで低下している。米労働省が発表した上半期末時点の求人数(就労者を採用できていない数)は1,010万人分と、エコノミストの予想を大幅に上回り、雇用市場の需給は人手不足状況でかつてないひっ迫度を示している。ペントアップデマンド(不況期に抑えられていた需要がまとめて戻ること)により住宅や車などの生産需要が高まっていることもあるが、コロナパンデミックに特有の要因も見られている。1つには、かつてなく寛大な失業手当のお陰で、失業状態のまま雇用市場に戻らない就労者がいる。

 

ただ、それ以上にコロナパンデミックはアメリカの就労者の心理面に多大なインパクトを生じ、彼らの行動形態を変えつつある結果がAchievers Workforce Instituteという研究機関の調査で判明している。 例えば、テレワークを通じ、かつてない規模の就労者が燃え尽き症候群や疎外感、孤立感を感じ、まず退職し、転職先を含め将来を検討していること。

 

また、逆に、業務が全てテレワークで行える仕事を探して退職し、転職先を探す就労者も増えている傾向にある。 デルタ株が猛威を振るうアメリカでは、オフィスでの通常業務に戻るタイミングを先延ばしにしている企業が多いが、上述の理由で、テレワークを続けても、通常業務に戻っても、退職者がさらに多く出てくると見られている。

 

また、パンデミックのストレスにさらされる中で、ワークライフバランスを見直しの必要性に気づき、退職して将来を考える就労者も増えている。人手不足の傾向は大企業だけでなく、地方の小売り、飲食店、サービス業にも目立っていることを今週のワシントンポストがテネシー州メンフィスの様子として伝えていた。昨年2月の頃のテネシー州の就労者数は320万人であったが、そこからパンデミックで38万人の雇用が一旦失われたものの、現在は完全に求人需要が復活しているにも拘らず、64千人もの就労者が上述したような理由で意図的に職に戻っていないことがわかっている。その結果、場末のデリやカフェでも時給を9ドルから12ドル或いは11ドルから14ドルにまで上げないと人を雇えない状況に陥っている。もともと最低賃金の大幅アップを公約に掲げていたバイデン大統領だが、パンデミックは改めて就労者の人としての重要性を浮き彫りにし、結果として賃金の上昇をもたらす結果を招いているといえよう。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国

l  半導体サプライチェーンに関するTSMC創設者張氏の主張

中国や米国では、サプライチェーンを自国に確立し、他国の依存度を下げて産業展開が出来るようにする産業政策姿勢が見られている。

台湾でも産業のコメと言われる半導体分野に於いて、台湾国内で、一気通貫で生産体制を整えるべく半導体工場の建設と独自の半導体技術の開発に投資、発展に注力している。

しかし、そうした中にあっても、台湾積体電路製造.TSMCの創設者である張氏は、「コストだけでなく、技術の進歩、改善が伴わないと、たとえ数千億米ドルという巨額の投資と時間を費やした後であっても、サプライチェーンの確立が必ずしも確かにものになるとは限らない」との考え方を示し、今後の経営により一層注力する姿勢を示している。

 

l  「個人情報保護法」可決の意図

中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会は、個人情報保護法を可決した。施行は本年11月1日となる。

習近平政権は、経済や安全保障面でデータ統制を重視しており、関連法と合わせて、重要なデータが海外に渡るのを厳しく制限するとしており、今回の個人情報保護法は、我々が認識する個人のプライバシーを保護することなどを目的としたものには非ず、情報統制する手段として、民主主義社会で使われている、「個人情報保護」という看板だけ掲げて、事実上の情報統制を強める法案が中国で可決したと見ておくべきであると筆者(真田教授)は考える。

尚、中国国内では、同じ商品やサービスでも顧客ごとに異なる価格がアプリ上で提示されることが問題視されており、同法ではこうした行為も規制、ビッグデータを積極的に活用するIT業界への締め付けが更に強まるとの見方もあり、更にまたデータ管理の強化を目的に、2017年に制定された、「サイバーセキュリティー法」に続き、今年9月には、データ安全法」を施行する予定であることから、これらの法律とのセットで情報統制が強化されるとの懸念が出ている点も付記しておきたい。

 

(2) 韓国/北朝鮮

l  コロナ前の水準をも大きく上回る韓国主要企業の上半期業績

韓国の主要企業255社は、本年上半期に総額105兆1,318億ウォンの営業利益を記録している。

前年同期の51兆6,145億ウォンの2倍以上の実績でふり、新型コロナウイルス感染症の発生前の2019年同期対比で見ても約65%増加している水準である。売上高も総額1,127兆4,212億ウォンと、前年同期対比10.4%増加している。

これは、企業情報サイトであるCEOスコアと連合ニュースが、主要500社のうち半期報告書を提出済みの255社に対する分析結果によるものである。

 

詳細を見ると、IT・電気電子や自動車、石油化学などの業種が好業績の主たる背景となっている。売上高の増加額はIT・電気電子が40兆2,500億ウォン(21.7%増)で最も大きかった。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた非対面サービスの拡大、巣ごもり需要、ペントアップ需要による効果(抑制されていた需要の回復)などが好材料となったと見られている。次いで、自動車・自動車部品が28兆7,749億ウォン(26.3%)、石油化学が27兆9,435億ウォン(23.5%)、鉄鋼が12兆1,380億ウォン(24.2%)の順となっている。

一方で、証券や銀行、造船・機械・設備などの業種は売上高が大幅に減少している。IT・電気電子の営業利益は前年同期対比13兆1,206億ウォン(68.5%)増えた。自動車・自動車部品の増加額は5兆5,859億ウォン(222.1%)、鉄鋼が4兆5,511億ウォン(284.9%)となっている。

 

一方、造船・機械・設備と公企業、エネルギー、サービスは減益となった。企業別にみると、三星電子が売上高を20兆7,688億ウォン(19.2%)、営業利益を7兆3,560億ウォン(50.4%)と増収増益を記録、共に他社を大きく引き離す増加額を記録した。次いで、売上高の増加額は現代自動車、起亜、LG化学、LG電子の順で大きかった。営業利益はポスコ、LG化学、Sオイル、HMMの順となった。CEOスコアは、「多くの業種が新型コロナウイルス感染拡大の打撃から脱し、緩やかな回復局面に移った」との見方を示している。

 

l  社員と研究開発投資を増やす三星電子

韓国トップ企業である三星電子の社員数は本年6月末時点で11万人を超え、過去最多を記録した。また、今度の発展を誘引する為、研究開発(R&D)費も本年上半期(1~6月)としては過去最大の予算を立て、実行している。即ち、同社の6月末時点での社員数は計11万1,683人となり、前年同期対比5,609人増加している。また、上半期の研究開発費も過去最大規模の10兆9,941億ウォンが既に投じられている。半導体やスマートフォンを中心に昨年の上半期(10兆5,800億ウォン)より4,000億ウォン以上増えている。一方で、中国本土のシャオミが本年第2四半期の東ヨーロッパ、ロシア、独立国家共同体(CIS)などを含む欧州市場で、三星電子を抜いてスマートフォン販売1位を記録したと見られている。

 

尚、シャオミと同じ中国の華為の穴を埋める形でシャオミが販売を拡大したことに加えて、三星電子が新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、一部の工場の生産に支障があったことなどを受けてのシャオミの一位獲得であると見られていることから、第3四半期には三星電子が再び首位を奪還するのではないかとの見方も今はある。

 

[主要経済指標]

1.    為替市場動向

韓国:1米ドル/1,182.65(前週対比-18.51)

台湾:1米ドル/28.02ニュー台湾ドル(前週対比-0.20)

日本:1米ドル/109.61円(前週対比+0.58)

中国本土:1米ドル/6.4985人民元(前週対比-0.0197)

 

2.    株式動向

韓国(ソウル総合指数):3,060.51(前週対比-110.78)

台湾(台北加権指数):16,341.94(前週対比-640.17)

日本(日経平均指数):27,013.25(前週対比-963.90)

中国本土(上海B):3,427.334(前週対比本土-88.965)

 

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