ニュースレター国内版 2021年・夏(269号)

日賑グローバル・ニュースレター国内版(第269号)

 

1. バイデン大統領のインフラ計画の行方

2. ジャーナリストやビジネス幹部のスマホまでハッキングするイスラエルのスパイソフト

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化 

4. 中東フリーランサー報告8

5.【訂正】 寺島実郎氏出演番組

 

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1.バイデン大統領のインフラ計画の行方

 

今年3月にバイデン大統領が発表したJobs Planと言う名の、巨大なインフラ調達計画は、その資金源に増税を想定していたことから議会共和党の強い反対にあっていた。これに対し、上院民主党と共和党の超党派議員10名が1兆ドル規模の新たなインフラ調達計画を増税を避ける形でまとめ上げ、これに対し、バイデン大統領も賛同を示し、その内容で法制化に歩を進めていた。バイデン大統領と議会民主党の考えとして、まずこのインフラ計画を超党派で議会を通したうえで、並行して3兆ドルもの連邦セイフティネット法案を上程を狙っている。後者の方は上院でのフィルバスター(議事妨害)を超える60票を必要としない予算審議手続きで過半数のみで通す戦術であると報道されている。 

 

今週がこのインフラ調達計画の法案の成否の山場となっている模様だが、大筋で超党派合意ができていたはずの法案の建てつけに対し、具体的にどのインフラを入れ、どう支払うかといった詳細の法案審議に入って両党間の対立が目立っていて予断を許さない状況にある(今朝の米国の報道では上院の民主・共和両党の数名ずつのメンバーが最終的な妥協案に到達したとのこと)。 

尚、ハードの方のインフラ整備計画の主な内訳は下記の通りである。

 

1,150億ドル   公共輸送、旅客・貨物鉄道。米国史上最大規模の近代化と延伸

1,90億ドル    道路、橋梁と大型案件 気候変動の悪影響緩和とレジリエンス、平等と安全を強調

730億ドル    発電と送配電網 数千マイルもの新たなレジリエントな送電線を築くと共に再生可能エネルギーの導入・拡張を容易にする

650億ドル    各家庭にインターネットブロードバンド導入。電力供給と同じインフラとする。

550億ドル    水道インフラ 1千万世帯と40万もの学校や保育園に上水道を設け、鉛の水道管を除去する。

470億ドル    レジリエンス 気候変動やサイバーアタック、極端な気象条件の悪影響に備える

250億ドル    空港整備 空港を、そのターミナルの改修やマルチモーダルな接続を実現するかたちで近代化する。

890億ドル    その他として、環境修復、インフラ融資、港と水路、安全、EVインフラ、電動バス、西部貯水池、地域間の再接続。

 

尚、前述の3兆ドル規模のセイフティネット法案は、ミドルクラスと気候変動対応に焦点を当てた人間インフラの投資計画となる。即ち、メディケアの予算拡大、チャイルドケアの拡充、短大授業の無償化、雇用への導線づくり、そして気候変動に対応したエネルギーシステムへの転換に資金が投下される。コロナ対応では支持率を高めているバイデン政権が、自らの目玉と位置付けるこれらの法案を議会で通せるかどうか、注目される。

 

2.ジャーナリストやビジネス幹部のスマホまでハッキングするイスラエルのスパイソフト

 

イスラエルのNSOグループから各国政府に貸し出された軍事レベルのスパイソフトを、各国政府はテロリストや犯罪者の追尾はもとより、ジャーナリストや人権活動家、ビジネス幹部、そしてトルコで殺害されたサウジアラビア人ジャーナリストのジャマール・カショギ氏に近い女性2名の計37台のスマートフォンのハッキングのために利用していた事実が判明したとワシントンポストが報じた。同紙と、パリに拠点を置く、16ものメディアが加盟するジャーナリズムのNPOForbidden Storiesの共同調査の結果として公表された。ワシントンポストの記事で紹介されている事実関係のみを下記する。  

 

今回の標的になった37ものスマートフォンは5万以上もの数のスマートフォンのリストの中の一部で、その広大なリストは専らNSOグループの顧客である国々で、自国の市民の監視を行っている国々の中のスマートフォンが対象となっている。誰が何の目的でこのリストを作成し、実際にどれだけのスマートフォンがこれまでにハッキングされてきたかは明かされていないこの5万以上ものスマホの番号のリストには属性は付されていないが、別途、記者が調べたところでは1000人を超える人々が4大大陸に現存する人物として確認されているアラブの王族の者が数名、少なくとも65名ものビジネス幹部、85人の人権活動家、189人のジャーナリスト、そして600人以上の政治家と政府高官が特定されている。 

 

その中には大臣や外交官、軍や安全保障関係の高官、さらには国家元首や首相も含まれていたペガサスと呼ばれるNSOグループのスパイソフトのライセンス使用条件には、使用目的をテロリストや重大犯罪者の監視に限り、NSOグループは顧客がその使用目的に沿って同スパイソフトを利用しているかを監視するとしていた。ワシントンポストやForbidden Storiesからの今回の指摘を受け、NSOグループは事実関係を調査し、適切な対応を取るとしている。上述のリストで判明した1千人強の中に日本人がいたかどうかは不明である。  

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国

l  デジタル人民元の浸透度に関する白書発表

中国の中央銀行である中国人民銀行は、電子マネーに人民元と言う「法定通貨」をチャージさせた通貨である「デジタル人民元」の実用化に向けて粛々と動いてきているが、その研究状況に関する白書を発表した。デジタル人民元の実験を始めた2019年末から今年6月末までで、取引回数は7,075万回、取引金額は345億人民元に上っていると発表している。中国の経済規模からするとまだ局所的な傾向ではあるが、徐々に確実に進展しており、また、タイ政府との間では、本格的なデジタル人民元実用化に向けた委員会を立ち上げており、デジタル人民元がタイからじわじわと東南アジア諸国に浸透していく可能性もイメージさせるような動きを示している。

 

l  南シナ海での中国の権利主張の却下判決から丸5

南シナ海に於ける中国の権利主張を否定した国際司法裁判所の常設仲裁裁判所の判決から、12日で5年を経た。しかし、受け入れを拒否する中国はこの間、国際社会からの批判を事実上無視、着々と実効支配を進めてきている。領有権を争う東南アジア諸国は反発しつつも、軍事的衝突を回避しようとすれば、決定的な対立には踏み切れず、中国の思惑通りに事態は進展している。国際司法裁判所の判断を無視してでも、既成事実化を推進、これを得意とする中国の術中にはまる南シナ海情勢に今のところ切り札はない。

 

l  アフガニスタンを巡る上海協力機構と米国の思惑

中国が主導し、そこにロシアが食い込んでいる地域協力機構であるところの、「上海協力機構(SCO)」の外相会議が7月13日、タジキスタンで開幕し、様々な議論が出る中、米軍撤退で内戦激化の懸念が高まるアフガニスタン情勢も盛んに議論されている。

中国は、隣接する新疆ウイグル自治区にアフガニスタン情勢が影響することを警戒していると見られ、周辺国を巻き込んで安定化を図る姿勢を示している。

 

一方、これに対抗する形で、米国は、アフガニスタン、パキスタン、ウズベキスタンの4か国で、アフガニスタン和平の実現を後押しするための新たな外交枠組みの設置で合意している。尚、こうした中、「米国は、アフガニスタンの不満を米国ではなく、中露に向ける仕掛けを、水面下では図り始めている。」

 

(2) 韓国/北朝鮮

l  20%のデジタル税の提案

ホン・ナムギ経済副首相兼企画財政部長官は7月10日、世界的な大企業が支払うデジタル税の税率を20%と定めてはどうかと国際社会に対して提案したと発表している。9日から2日間、イタリア・ベニスで開催された、「2021年第3回G20財務相・中央銀行総裁会議」に出席したホン副首相は、その会議で以上のように提案したと韓国記者団に対して明らかにしている。

 

l  イランから7千万ドルの債権回収に成功

米国の対イラン制裁によってイランから韓国企業への支払いが滞っていた輸出代金7,000万米ドルが回収された。韓国政府は、トランプ政権による2018年のイラン制裁以降、韓国企業約40社が輸出代金7,000万米ドルを回収できていなかったが、先月末にイラン側から回収したが、韓国国内では米国にバイデン政権が今年3月、イランの資金に関する制裁規定を緩和したおかげであるとの見方も出ている。

 

l  ソフトバンクグループ、韓国の宿泊・旅行予約アプリ「ヤルノジャ」に投資

韓国の宿泊・旅行予約アプリである「ヤノルジャ」が世界最大のベンチャー投資ファンドと言われているソフトバンク・ビジョンファンドから8億7,000万米ドルの投資を受けた。英国・フィナンシャルタイムズが報じたものであり、ヤノルジャは今回調達した資金でホテル予約、公共交通機関、レジャー、レストラン予約までをカバーする、「スーパーアプリ」のほか、旅行に先端技術を取り入れるテクノロジー企業として生まれ変わりたいとしている。ビジョンファンドによるヤノルジャへの出資比率は10%となり、ビジョンファンドによる韓国企業への投資規模としてはクーパンに次ぐ2番目となる。

 

[主要経済指標]

1.    為替市場動向

韓国:1米ドル/1,140.86(前週対比+4.19)

台湾:1米ドル/27.96ニュー台湾ドル(前週対比+0.02)

日本:1米ドル/110.20円(前週対比-0.23)

中国本土:1米ドル/6.4705人民元(前週対比+0.0095)

 

2.    株式動向

韓国(ソウル総合指数):3,276.91(前週対比+58.96)

台湾(台北加権指数):17,895.25(前週対比+233.77)

日本(日経平均指数):28,003.08(前週対比+62.66)

中国本土(上海B):3,539.304(前週対比+15.216)

 

4.中東フリーランサー報告8

 

三井物産戦略研究所のシニアフェローでおられた大橋誠さんから掲題のレポートを頂戴しましたので共有させていただきます。大橋さんからは以下のメッセージを頂戴しております。

 

今回は、イラン、イスラエルの新政権誕生に加え、特にご意見、ご質問の多かった「ガザ戦争」について、私の見解を纏めました。実は戦火が激しくなる中で書き始めたところ、突然停戦となり、また構想を練り直したりして時間がかかった次第です。中東情勢は本当に流動的です。日本ではコロナ対策が揺れ動く中で、東京五輪はいつの間にか開催と言う運びとなり、今や無観客かどうかが焦点と言うズルズル論争が続いています。

 

しかし無観客是非の議論に、入場料収入が中心を占めると言うのはなんとも複雑です。私が知る1964年の東京五輪は(永田町小学校から観戦させて貰いました)、今から思えば開会式も聖火リレーもスポーティーでストイックでした。やはり商業五輪となったのは1984年のロスアンジェルス五輪からなのでしょうが、この流れはもう変わらないのでしょう。であれば、今回日本はもっと早く無観客を覚悟して、逆にTV局をフル動員して、五輪全種目を予選から洩れなく全て実況中継するとしたらどうだったでしょうか(数か国語でのサブチャネル付き)。初めてメディア的に開かれた五輪として、日本の放送技術を喧伝できたのではないでしょうか。日頃局数が多すぎると自民党にいじめられているNHKも、ここぞとばかり存在理由を主張できたと思うのですが・・・。

 

勿論ネット配信でも可能でしょうが、それ以上に番組の公平性とライブ放送の興奮が保て、地味な種目が意外と注目されたり、小さな種目の選手を送り出した小国の人々にも東京五輪の感動を伝えられるのではないかと思った次第です。妄想ですが(笑) 

 

中東フリーランサー報告8はこちらにクリックいただき、ご覧ください。 

 

5.【訂正】 寺島実郎氏出演番組

 

一般社団寺島実郎文庫のサポーター事務局の林遼太郎さんから下記の訂正連絡が入りましたので皆様に共有させていただきます。

 

先日皆様に8月の番組放送日時を記載したご案内をお送りいたしましたが、誤った日時を記載しておりました。

 

(誤)

818日(日)11:0011:55 TOKYO MX1「寺島実郎の世界を知る力」第10回放送

825日(日)11:0011:55 TOKYO MX1「寺島実郎の世界を知る力-対談篇 時代との対話」第4回放送

                                      ↓

(正)

815日(日)11:0011:55 TOKYO MX1「寺島実郎の世界を知る力」第11回放送

822日(日)11:0011:55 TOKYO MX1「寺島実郎の世界を知る力-対談篇 時代との対話」第5回放送