ニュースレター国内版 2021年・春(265号)
日賑グローバル・ニュースレター国内版(第265号)
1. トランプと共に従来の共和党からの変態を模索する共和党
2. バイデンの超党派スタイルは結果を出せるか?
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
-------------------------------------------------------------------
1.トランプと共に従来の共和党からの変態を模索する共和党
オバマ大統領が一期目で就任した2009年に共和党保守層から生まれたのが、小さな政府と財政均衡を求める茶会党(Tea Party)運動であった。
これはAmericans for Prosperityという共和党支持の自由市場唱道のグループが起こした運動である。このグループは今も財政均衡と自由市場を求める運動を継続しているが、今の共和党が置かれている環境が2009年とは大きく異なっている様子をワシントンポストが特集した。全米議会共和党委員会が行った世論調査では、有権者の富裕層に対する怒りと、富裕層増税を快く思っている結果が明らかとなっている。バイデン大統領のJobs Planに対して、それが企業や富裕層への増税で賄われるのであれば支持するという有権者が、民主党支持と共和党支持が拮抗する激戦区でも56%もいた。
また、同じく激戦区の4人に3人は「一握りのエリートと特別な利益代表等が権力を握り、普通の人々を搾取するシステムをつくっている」とか「政府は、自分の利益だけを重視する富裕層や企業によって動かされている」という認識を示した。
トランプは共和党の伝統的な方針であった小さな政府と財政健全化は全く気にせず、こうした有権者の不満にストレートに呼応する形で2016年の大統領選に成功し、前回の大統領選でも得票数を伸ばしててきた。共和党としては、現在のようにホワイトハウスと、上下両院の与党の地位を失ったオバマ政権一期目に、財政を乱発する政権と議会民主党を茶会党の運動で攻め、2010年の中間選挙で下院与党を奪還したをストーリーを繰り返すのではなく、引き続き財政を気にせず、トランプ路線で突き進むことが有権者の意に沿っていると考える共和党幹部もいる。
実際、下院野党共和党リーダーのケビン・マッカーシー議員(カリフォルニア州選出)等は共和党のキャッチフレーズとして、「労働者のアメリカが共和党で、コーポレートアメリカが民主党」と語り、従来の民主党=労働者支持、共和党=大企業支持の構図を逆転させようと考えている。
彼自身、トランプ政権時の税制改革で、法人税を恒久的に減税し、個人の所得税減税を一時的なものにしたことは失敗であったと感じているという。追加の経済刺激策や最低賃金の上昇、さらにはアマゾンでの組合結成運動といった従来の共和党が反対してきた政策や動きを好意的に見る共和党議員も何人か出ているという。
1980年の頃の共和党保守派の教本の内容をトランプという“地震”が大きく揺り動かし、それに耐えて残った建物だけは継続され、残りは捨て去られ、移民制限や貿易是正といったトランプが立てる建造物が幅を利かせていく過程にあるようである。
2.バイデンの超党派スタイルは結果を出せるか?
今年1月に大統領に就任したバイデンは3月末に1.9兆ドルものコロナ対応支援法を通し、次いで2兆ドルを超えるインフラ整備を中心としたJobs Planの成立のために共和党サイドに働きかけを行っているが、共和党が示した代案とは大きく隔たりがある状態にある。
党派対立の緩和と、超党派の合意の模索をキャンペーン時に主張していたバイデン大統領は、前出の大型案件についてはホワイトハウスから直接共和党幹部に働きかけ、対話の場を設けつつ、警察改革法や銃規制法、移民改革法等については担当省庁の人間と共和党議員のスタッフとの間での情報共有や対話を促し、現場に権限移譲した形をとっている。
この権限移譲のスタイルが功を奏したのはU.S. Innovation and Competition Actで、これは中国の増大する影響力に対抗すべく米国内の研究開発を強化する法案で、ホワイトハウスは直接タッチせずに近々の議会通過が見込まれている。
ただ、それ以外の党派対立が顕著な法案については対話の場はあっても、無為に時間が経過している感があり、ホワイトハウス側も焦りといらだちを見せつつある。
というのも7月には、連邦政府の借り入れ総額が法律で認められている上限に到達する見通しにあり、今後その上限枠を増大させるかどうかの議論に議会両党の時間とエネルギーが忙殺されると見込まれることから、その前に大物案件を通しておきたいため。
そして、来年には中間選挙が待っている。
バ
イデン大統領の超党派スタイルとして、部下やスタッフを信じ、十分に時間を取って共和党側と対話させるボトムアップと、大物案件では自らの上院時代の人脈と、8年間もの副大統領時代の共和党幹部との人脈を生かして直に動くトップダウンをバランスよく使い分けているわけだが、どこまで我慢強くそれを続け、超党派の努力を残したうえで、それでも妥協しない共和党陣営をどの時点で振り切って結果を出そうとするのか(例えば予算措置とひも付のreconciliationに持ち込み、共和党の議事妨害(フィルバスター)を避ける戦術等)、そのタイミングが迫っている。焦って一方的に自らの政策を押し通そうとすれば中間選挙でしっぺ返しを受ける恐れもあるが、結果を出せない場合のマイナス評価は大きい。
昨年5月25日に黒人のジョージ・フロイトがミネソタ州ミネアポリスで警官に不当な拘束のされ方で命を落とした事件から既に1年が過ぎ、その間、黒人の人権尊重と人種差別の撤廃を求めるBlack Lives Matterの運動がアメリカはもとより世界に広がり、民間企業ではS&P500の企業の多くで黒人の取締役を起用しているという。また、悲惨な銃撃事件も多発している。党派間の融和を求めつつも、政治にも警察改革、銃規制、移民改革、そしてインフラ整備といった結果が求められている。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国
l 台湾、56年ぶりの干ばつの半導体産業への影響
台湾は56年ぶりの干ばつで深刻な水不足に陥っている。
台湾は、「世界の半導体生産基地」と言われているが、半導体生産には大量の水が必要であり、台湾積体製造TSMCは給水車を増やすことで何とか対応していくとしている。
また、発電所の事故も発生し、大規模停電が発生し、電力供給の不安も改めて浮上しており、水と電力の不足が顕在化すれば、台湾の半導体生産に支障を来す可能性もある。
l TSMCの米国大型追加投資
世界最大の半導体ファウンドリー(受託生産)メーカーである台湾積体製造(TSMC)が米国に大型追加投資を行い3ナノ以下の最先端半導体生産ラインを構築する計画を立てているとロイター通信が報道している。
当初TSMCは3ナノ以下の最先端プロセスは、台湾現地でのみ動作すると考えだったが、台湾の深刻な干ばつに米国のバイデン政権の対中政策の変化の影響もあって、米国政府から大きな支援策が受けられるのではないかとの状況になり、投資計画の修正に乗り出したのではないかと見られる。
l 中国の4月の産業生産高、小売売上高、固定資産投資高大幅増
中国政府の最新経済データによると、新型コロナウイルスの感染拡大の大きな打撃を受けた後、世界第二位のGDP規模を持つ中国本土経済は回復しつつあると見られる。
即ち、中国政府・国家統計局によると、本年4月の産業生産高は、企業が製造用の電気自動車とロボットの生産を復活させたことを大きな背景として、前年同月対比で9.8%増加した。
また、買い物客がスポーツ用品や宝飾品を求めて消費を拡大したことなどを主たる背景として、小売売上高も前年対比17.7%急増した。
更に、固定資産投資は、不動産開発とハイテク産業への投資の拡大により、2021年1~4月で前年対比19.9%増加している。
(2) 韓国/北朝鮮
l 韓国の幸福度ランキング35位
韓国の主要紙の一つである朝鮮日報は、「世界幸福度ランキングで、韓国は経済協力開発機構(OECD)全加盟国37カ国中、35位だった」と報道している。
これは、韓国政府系Think-Tankである韓国開発研究院(KDI)経済情報センターが5月19日に発刊した『国の経済』5月号を引用したものであり、2018~2020年の平均国幸福指数(10点満点)で、韓国は5.85点となっている。
韓国より低い国はギリシャ(5.72点)とトルコ(4.95点)だけ。
日本は5.94点。 1位はフィンランド(7.84点)、2位はデンマーク(7.62点)、3位はスイス(7.57点)などとなっている。
l 在韓米軍の域外展開の可能性を語る次期在韓米軍司令官
次期在韓米軍司令官に指名されたラカメラ米国・陸軍大将は、「在韓米軍は、米インド太平洋軍に域外(即ち、朝鮮半島以外の地域)の緊急状況と域内のリスクに対応できる選択肢を与えられる」
とコメントしている。
在韓米軍の朝鮮半島以外への投入が検討され得るという意味であり、ラカメラ大将はまた、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が政権存立に危機を感じて、核兵器を使用する可能性があるとも指摘している。
[主要経済指標]
1. 為替市場動向
韓国:1米ドル/ 1,125.00(前週対比+2.81)
台湾:1米ドル/27.94ニュー台湾ドル(前週対比+0.01)
日本:1米ドル/108.87円(前週対比+0.40)
中国本土:1米ドル/6.4337人民元(前週対比+0.0007)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数):3,156.42(前週対比+3.10)
台湾(台北加権指数):16,302.06(前週対比+474.97)
日本(日経平均指数):28,317.83(前週対比+233.36)
中国本土(上海B):3,486.557(前週対比-3.819)
-------------------------------------------------------------------------------