ニュースレター国内版 2021年・春(264号)

日賑グローバル・ニュースレター国内版(第264号)

 

1. Republican States of Americaの大統領として共和党を牛耳るトランプ前大統領

2. コロナ禍はアメリカの雇用類型に大きな変化をもたらすのか?

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化 

4. 中東フリーランサー報告7

5. 寺島実郎氏TV出演情報

 

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1.Republican States of Americaの大統領として共和党を牛耳るトランプ前大統領

 

下院野党共和党序列第3位でジョージ・W・ブッシュ政権の副大統領のディック・チェイニー氏の娘のリズ・チェイニー下院議員(ワイオミング州選出)が、自らに対する2度目の弾劾裁判に賛成票を投じたことを執拗に責めるトランプ前大統領は、共和党幹部に働きかけ、今週水曜日に行われた下院幹部選任投票でチェイニー議員を幹部から追い落とし、彼に忠誠を尽くすエリス・ステファニク下院議員(ニューヨーク州選出)に代替することに成功している。 

 

トランプ前大統領は共和党内幹部役員人事はもとより、来年の中間選挙の予備選立候補予定者の誰を支持するかの判断を通じた将来の共和党を担うメンバーへの影響力も維持・強化している。通常は大統領を辞めれば、自叙伝を著し、高額の印税を得ると共に、自らの名前を冠に頂く図書館を建設するのがこれまでの習わしであったが、トランプは少なくとも図書館の方には全く興味を示さず、自らの政治的求心力を高めることに専念している様子をPresident of Republican States of Americaと揶揄してワシントンポストが特集した。 彼の影響力が衰退していると見られる例として、彼の発言が以前に比べ耳目を集められていないとの声がトランプ陣営関係者はもとより批判側からも聞かれる。 

 

また、ツイッターやフェイスブックはトランプ前大統領のアカウントを閉鎖したままにあることも彼の情報発信力を抑え込んでいる。 その情報発信のために設けた彼の専用ウェブサイト“From the desk of Donald J. Trump”は内容に迫力が無く、面白くないと批評されている(トランプグッズはしっかり販売しているhttps://www.donaldjtrump.com/desk/desk-hgnfasttbf/)。また、上院野党共和党院内総務のミッチ・マコーネル(ケンタッキー州選出)は世論調査ではトランプの認知度が下がりつつあると語っている。 

 

一方、彼の影響力が維持・強化されていると見る根拠は、今月初頭に行われたテキサス州での下院の補選で、当初は分が悪かったSusan Wright女史に対しトランプが支持表明をした結果、他の22人の立候補者を破り、共和党候補の座を勝ち取ったという事実がある。また、トランプの別荘であるフロリダのマールアラーゴには現役の上下両院議員や知事、立候補予定者が彼の支持を求めて集まると共に、共和党全国委員会が春季支援者イベントの会場を設けたりと、共和党の党内の力学の重心になりつつある。 さらには彼自身が動いて選挙資金集めのゴルフトーナメントを彼のコースで熱心に行っている(彼とのプレー費を25千ドルに設定)。そして、近々トランプメディアグループ(仮称)という彼の発言や発言などを発信していくメディア創設を予定し、その中に新たなSNSも含まれるという。 

 

この記事からは、ホワイトハウスを去った後のトランプが、当初は選挙結果の否定や弾劾裁判政治への怒り、そして戦犯・造反者への憎しみといった感情に捕らわれていたものが、自分の岩盤支持層を裏付けとした共和党支配の面白さを感じ、病みつきとなり、これからの本番(2024年大統領選)に向けモチベーションを高め、「トランプの党」を作りつつあるとの印象を受けました。

 

2.コロナ禍はアメリカの雇用類型に大きな変化をもたらすのか?

 

57日に発表された米国の4月の新規雇用者数は266千人と、ウォールストリートやホワイトハウスが期待していた100万人には程遠い数となった。 

失業率は6%とまだ高く、820万人もの求職者が失業者として登録されている状況にある。一方で、中小零細のサービス業では人手不足が深刻な状況にあり、共和党側はバイデン政権による寛大なバラマキ政策で潤った失業者が売り手市場となって簡単に求人に飛びつかないためと批判している。ワシントンの独立系のシンクタンクのピューリサーチセンターが今年行った世論調査では失業者の66%が失業前の職域と異なる職を真剣に検討していると回答、この割合の高さは大恐慌時の調査結果よりもはるかに高い数値となっている。

 

例えばコロナ前にレストランや観光関係に勤めていた人々は倉庫業や不動産といったより収入の高い職を求めている或いはコロナに象徴される伝染病への感染のリスクが少なく、かつ伝染病の影響を受けない業態の職を求めている(先月1か月だけで食料品店は49千人もの首を切っている。) エコノミストはこの現象を、経済における職業の類型が変化しており、人々は少し時間を取って自分がどのような新しい類型の職を得るべきか、そしてそのためにどのような新たなスキルを準備すべきかを検討するための「労働力の一種の再配分のためのぶつかり合い」と表現している。もちろんその変化の原動力はパンデミックによる労働者の心理の大きな変化にあるという。

 

一方、サービス産業では今、大いなる人手不足に悩まされている。4月の国勢調査では飲食含めた接客業の小規模事業者の内の37%が人手不足で影響を受けているという。そしてその原因には上述のパンデミックによる労働者心理への影響や、9月まで続く手厚い失業給付金と共に、幾つかの要因が影響し合っている。1つは、求人がほぼ同時に再開しだしているため求職者とのスムースなマッチングには至っていないこと。 

 

次に、アマゾンがある。 アマゾンは最低時給を15ドルに引き上げ、昨年だけで50万人もの労働者を追加採用しており、その中に接客業で職を失った人々も多く含まれると見られる。そして次にトランプ前政権が昨年出した外国人の派遣社員雇用禁止令がある。これは今年331日で失効したが、当面の接客業の労働力不足を今から外国人派遣社員で補えるかは微妙だという。かかる状況の中で、レストランではスタッフ採用のために面接に来るだけで謝礼を支払い、採用となればボーナスを出すといったインセンティブを出しているようである。アマゾンを中心とした倉庫業等、さほどスキルアップを必要としない分野や、風力発電タービンの製造、メンテといった多少のスキルアップで対応できるものまで接客業労働者が半永久的に職域を変えるか、接客業が給与などの雇用条件を大幅に改善するのか或いは無人化・ロボット化に進むのか、はたまたバイデン政権で拡大する外国人移民が一気にその穴を埋めていくのか、その動向が注目されよう。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国

l  台湾、中国本土への人材流出抑制

台湾政府・労働部は、台湾国内の人材派遣会社に対して、中国本土での雇用と欠員情報などの情報公開を完全に削除するよう要請し、これに違反した場合には、最高500万ニュー台湾ドルの罰金を科すこともあると発表している。台湾から中国本土に人材が流出し、高度な技術流出に繋がるのではないかと言った懸念に対する対応策と見られている。しかし、これに対して、台湾の野党・国民党の革命実践研究院の羅志強院長は、「今回の政策が実行されれば、これにより、台湾の若者の職場機会獲得のチャンスは奪われる」と厳しく批判している。また、台湾の人材業界の中にも、「今回の政策は、素人的な発想から生まれた政策であり、愚かとしか思えない」といった批判もあり、その効果を疑う声もある。

 

l  スエズ運河事故を起こした長栄海運の状況

長期船がトラブルに見舞われた後、スエズ運河の事故が発生し、日本の船主である正栄汽船から一部損害賠償負担も要請されている長栄海運は、保険によって、そうした損失をカバーしようとしていると伝えられており、補償の悪影響は限定的ではないかとの見方が出ている。

 

l  中国の4月の輸出は前年同月比32.3%

中国政府の税関当局によると、中国の本年4月の輸出は前年同月対比32.3%増の2,639億米ドルを記録している。これは、新型コロナウイルス感染拡大により、世界中の人々が家にいる為の、所謂、「巣ごもり需要」により、電子機器の需要が高まっている中で起こっている現象であると考えられている。パソコンやスマートフォンの出荷が特に多かったと報告されている。

 

l  中国初の国産空母南シナ海にて訓練実施

中国海軍は、中国初の国産空母である「山東」などの艦艇が南シナ海で訓練をしたと発表している。中国海軍は、「今後も常態的に同様の演習を行う」としており、国産空母・山東の本格的な運用に向けて訓練を繰り返し、実戦能力を高める狙いがあると見られている。そして中国海軍は更に、「年次計画に基づく定期的な訓練を行ったものである。国家の主権や安全、発展の利益を守る能力を向上する為の訓練である」とコメント、その訓練の正当性を改めて、内外に訴えている。

制海権拡大を目指す中国本土の動きは更に顕在化している。

 

l  中国本土、5連休で26700万人が国内移動

中国国営新華社通信は、中国政府・交通運輸部の推計として、5月1日からの労働節(メーデー)の5連休で、中国本土では延べ2億6,700万人が国内を移動したと伝えている。新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けた前年同期を大きく上回り、感染拡大前の2019年の水準を回復したとしている。

 

(2) 韓国/北朝鮮

l  イスラエルとの自由貿易協定締結

イスラエルの貿易担当大臣がソウルを訪れ東アジアにおいて初の自由貿易協定を韓国との間で締結した。昨年の両国の貿易高は24億ドルで、約3分の2が韓国からイスラエルへの輸出となっている。

 

l  世界9位の外貨準備高

中央銀行である韓国銀行が発表した本年4月末の韓国の外貨準備高は前月末に比べ61億8,000万米ドル増の4,523億1,000万米ドルとなり、過去最高を更新している。これまで過去最高だった本年2月末の4,475億6,000万米ドルより、約47億米ドル多い水準である。韓国銀行は増加の要因について、米ドル安で米ドル以外の外貨建て資産の米ドル換算額が増えた影響であると説明している。尚、韓国の外貨準備高は3月末現在、世界9番目の規模であり、1位は中国本土(3兆1,700億米ドル)、2位は日本(1兆3,685億米ドル)、3位はスイス(1兆520億米ドル)となっている。

 

l  洋上風力発電5大強国を目指す韓国

韓国の文在寅大統領は、韓国南東部のウル山市が推進中の浮体式の洋上風力発電施設の建設事業に関連して、「大規模な洋上風力施設はエネルギーの転換や、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする『カーボンニュートラル(炭素中立)』に向かう近道だけでなく、未来の成長エンジンになる。同施設が完成すれば洋上風力の5大強国に近づく」と強調し、これを推進することに意欲を示している。

 

[主要経済指標]

1.    為替市場動向

韓国:1米ドル/ 1,111.02(前週対比+2.27

台湾:1米ドル/27.80ニュー台湾ドル(前週対比+0.10

日本:1米ドル/108.60円(前週対比+0.32

中国本土:1米ドル/6.4310人民元(前週対比+0.0348

 

2.       株式動向

韓国(ソウル総合指数):3,197.20(前週対比+49.34

台湾(台北加権指数):17,285.00(前週対比-281.66

日本(日経平均指数):29,357.82(前週対比+545.19

中国本土(上海B):3,418.874(前週対比27.982  

 

4. 中東フリーランサー報告7  

 

三井物産戦略研究所の元シニアフェローの大橋誠さんから掲題のレポートを頂きましたので皆様に共有させていただきます。 大橋さんからは以下のメッセージを頂いております。

 

盛り上がらないGWを如何お過ごしでしょうか。中東はまだラマダン中ですが、日本の都心部もラマダンみたいになってしまいました。ただこれがラマダンだと理解されるのも問題ではありますが。いずれにせよ、こんな状態で煮え切らないGWとするよりも、いっそGWは来年に持ち越しとし、コロナが過ぎたら、ゴルフのニアピンではありませんが「二階建てのGW」にして、その時は全国民思いっきり遊ぼうとか(だからテキ屋も儲かるとか)、そんな希望を持たせてくれないと、なかなか国民一致してのモチベーションが維持できないのではないかと思います。勝ちのパターンが共通認識されない限りは、達成感につながらない。道筋も見えず、ひたすら平和を願うだけでは、なかなか難しいと思います。と言う事で(もないのですが)、今回はUAEのシノファームワクチン内製化と、関係者の背景を探っていく内に、「ヘルスケア」の美名の下、中国のクラウドがMoUを通じて中東を覆いつつある現実を見た思いがして、この点に焦点を当てました。しかしこれは、単に中国に押し倒されている訳ではありません。そこには中国をも米国のカウンターとして上手に使う中東らしいしたたかさが感じられ、今後の進展に目が離せないと思いました。そして日本人の我々は、自分たちの立場に置き換えてみて、これをどのように評価すべきかと言う思いが強くした次第です。

 

このところ中東ではイラン、トルコ、シリア、はたまた東地中海と言ったところでの動きが目立ちますが、それだけ他の世界にもリンクして、メディアの注目も集めるようになってきたのだと思います。こうした記事のフォローはメディアにお任せし、今回はいささかマイナーですが、掘り下げ型のレポートにしました。認識不足で内容に誤解があるかも知れません、読者の皆様の厳しいご指摘を期待します。

 

5.寺島実郎氏TV出演情報

 

㈱寺島文庫・GIN総合研究所様から掲題情報を入手しましたので皆様と共有させていただきます。

 

TOKYO MX1「寺島実郎の世界を知る力」

【第3日曜日】第8回放送:516日(日)午前11時~

番組前半では、前回に続き、日本経済の本質的な課題に迫ります。前回は家計消費構造の変化を取り上げ、今回は日本企業の置かれている状況を分析致します。日本企業の経営における変化や雇用者を取り巻く環境の変化について、寺島独自の視点で詳しく掘り下げます。

 

後半では、先月より「日本とロシア」をテーマに据えており、今回は第2弾です。今回は、ロシアを考える上で欠かせないウクライナの存在について触れた上で、1920世紀にかけての日露関係の近現代史の視点から、日本とロシア(旧ソ連)の関係に多大な影響を及ぼしたシベリア出兵とシベリア抑留の2つの悲劇について、寺島ならではの広く、深い視座で踏み込みます。ぜひご視聴ください。

 

【第4日曜日】「対談篇 時代との対話」第2回放送:523日(日)午前11時~

「対談篇」では、時代に真剣に向き合ってこられた先達と寺島が向き合い、対談を通じて、日本人が持つべき時代認識を広く・深く掘り下げることを試みております。今回は、昨年1223日に亡くなられた作家・作詞家のなかにし礼氏が20173月と8月の2回、寺島文庫で収録致しましたBS11の寺島との対談番組にご出演いただいた際の映像を、BS11のご協力のもと、一部使用しながらお送りいたします。作家・作詞家として数々の著書及びヒット曲を生み出されたなかにし氏が紡ぎ出す言葉の奥深さや背後にある哲学について触れながら、1938年満州国生まれのなかにし氏の原点となった戦争体験と3度の「棄民」という極限の体験から、現代日本人が学ぶべきことについて迫ります。戦後民主主義の意味や国家の在り方について、問いかけ続けてこられたなかにし氏が遺されたメッセージを、最後のご著書『愛は魂の奇蹟的行為である』の一節を取り上げながら、寺島がさらに深く掘り下げます。ぜひご視聴ください。

 

第3日曜日「世界を知る力」(第1回~第7回までの放送)・第4日曜日「世界を知る力-対談篇-」(第1回放送)につきまして、

おかげさまでYouTubeでの再生回数が合計97万回以上となりました。日本国内にとどまらず、米国、東南アジア、欧州、南米など海外在住の方にもご視聴頂き、大変多くの反響を頂いております。ぜひ皆様のネットワークご関係者へ、引き続きお知らせ頂ければ幸いです。

 

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