ニュースレター国内版 2020年・秋(251号)

日賑グローバル・ニュースレター国内版(第251号)
1. なぜブルーウェーブが生じなかったのか?
2. レイムダック議会とレイムダック政権、新政権移行チーム夫々の年内のシナリオ
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化 
4. 一般社団法人日米協会名誉会長に安倍前内閣総理大臣就任
5. 日本語能力コンテストJ LIVE Talkのご案内
6.「寺島実郎の世界を知る力」第2回放送11月15日(日)

 

1.なぜブルーウェーブが生じなかったのか?
前回、2016年の大統領選の際には、共和党は上下両院の与党の地位をキープすると共にホワイトハウスを民主党から8年ぶりに奪還、三タテを民主党に食らわせて
いる。 
2018年の中間選挙ではその上下両院のマジョリティを民主党が一気に奪還する「ブルーウェーブ」が起きると期待されていたが、実際には下院の多数党が民主党に移っただけで、上院は共和党が与党をキープした。
中間選挙後、トランプ大統領は自分が直に応援した州の上院選に全て勝利したことを以て、国民の自分に対する信任の高さの現れと長口舌を記者会見で振るっていた。今回の選挙でも様々なシナリオが事前に取りざたされていたが、一番正確であったのは「レッドミラージュからのブルーシフト」シナリオであった。
当たらなかったのはフロリダをバイデンが制することはもとより、テキサスといった共和党の牙城が激戦州となり、ブルーに変化し、オハイオとアイオワを含め地滑り的勝利となるとともに、下院で大差をつけ、また上院も久しぶりで与党を握るという「ブルーウェーブ」が今回こそ生じるというシナリオ。  
実際ふたを開けてみると、テキサスもフロリダも早々にトランプ大統領が押さえ、オハイオもアイオワも激戦にすらならずにトランプ大統領の手に落ちた。下院では民主党の当確者数は11月12日時点で過半数の218丁度(純減5議席)、共和党は203(純増6議席)で、残り14議席をまだ集計している状況にあ
る。 
上院選挙は共和党が今週2席を押さえ50議席を確保、48議席の民主党をリードしている。
残り2議席はジョージア州の分だが、夫々僅差のため、来年1月の決選投票まで結果が出ないという状況となっている。敗れたとはいえ、トランプ大統領は前回2016年の得票数よりも700万票以上多い約7,100万票を獲得している。
2008年の大統領選挙で「チェンジ」「ホープ」のキーワードとSNSを駆使して選挙人365人を獲得し、圧倒的な勝利を収めたバラク・オバマ大統領が得た得票数が約6,900万票であった。もちろんアメリカの総人口はその当時から今日までに3千万人以上増え、当然ながら有効投票総数も増えてはいる。 
とはいえ7千万人を超えるアメリカ人がトランプ大統領を支持し、同様に共和党の上下両院候補にメディアの予想以上に投票したわけである。筆者もこれまでトランプ大統領の支持層に「岩盤支持層」という表現を使っていたが、そういった層が4年でさらに700万人も増えたというよりは、やはり未登録有権者の掘り起こしと浮動票を相応に取り込む力が大統領にあったということであろう。 そしてその大統領の求心力の恩恵を共和党上下両院議員候補が大いに得たということであろう。
ワシントン在の保守系のコンサルタントによれば、国内メディアや左派がトランプ支持層に、「人種差別主義」、「白人至上主義」、「外国人嫌い」、といったレッテルを貼り、返す刀で、ロシア疑惑などで散々トランプを責めたにも拘わらず、結果として「大山鳴動して鼠一匹すら出ない」状況に、「トランプ岩盤支持層」でない浮動層の人々であってもメディアや左派に対する疑問、や嫌悪感、懸念が募り、そこにトランプ大統領による「社会主義」の恐怖をあおる最終盤のキャンペーンメッセージが功を奏したのではとみられる。
  
確かに選挙最終週で、大統領が激戦州を回り「社会主義の恐怖」を叫ぶほどにバイデンとの支持率の差が縮まっていったことも事実である。オクトーバーサプライズとも言われたトランプ大統領自身のコロナ罹患で、激戦州で予定されていた数日間のキャンペーンのキャンセルがなければ結果はさらに拮抗していたかもしれない。
CNNが出していた選挙結果の分析の中で、同じマイノリティの中でもヒスパニックは必ずしも一枚岩ではなく、特に社会主義国キューバからアメリカに渡った人々は民主党の左傾化を恐れ、マイアミを中心にトランプのフロリダ勝利に貢献したようである。ヒスパニックの人口比は黒人(約13%)をはるかに超え、20%に迫る勢いにあり、政治的なプレゼンスも高めている。CNNは逆に今回のバイデンの勝利の要因として、地方のカウンティ(郡)の有権者の掘り起こしが功を奏したと解説している。 
その結果、4年前のヒラリーの際にはトランプに敗れたラストベルトやサンベルトの地方カウンティで勝利をおさめ、結果として接戦ながらもその州の選挙人を獲得するに至ったという。この追加の有権者の掘り起こしがなければラストベルトもサンベルトもトランプ支持のままであった可能性を示唆している。バイデン次期大統領は「分断」から「融和」を目指すとスピーチしたが、圧倒的勝利ではなかったことからこの7,100万人を超えるトランプ支持層に具体的にどのようなブリッジをかけようとするのか、そしてそれが逆に民主党内の「分断」を招かないか気になる所である。
2.レイムダック議会とレイムダック政権、新政権移行チーム夫々の年内のシナリオ
11月3日の選挙が終わり、来年1月3日に第117議会が招集されるまでの第116議会と、来年1月20日にバイデン氏が第46代大統領として執務を始めるまでのトランプ政権は夫々レイムダック(役立たない)議会とレイムダック政権と呼ばれたりする。先の選挙で敗れた議員と大統領にとって、これから年末までどれだけ頑張っても”次の目標“がないため、何か事を起こすモチベーションに欠けるためである。 
一方、選挙に勝利したバイデン陣営が、1月20日を待たずに、急増するCOVID-19感染者対策や経済刺激策を含めたコロナ対応の準備と、それに必要な2021会計年度予算をこのレイムダック議会に働きかけようとしている様子をワシントンポストが伝えている。 
現在、2021会計年度予算は党派対立のお陰で新年度に入った今も短期暫定予算で進められているが、このコロナ緊急情勢下、経済刺激策を含めた予算案(法案で計12本)を一刻も早く通すべきという点においては両党のリーダー間でコンセンサスがあるという。 
即ち、今回の選挙で再選された下院与党民主党ナンシー・ペロシ―議長と、同じく再選された暫定上院与党共和党のミッチ・マコーネル院内総務は、上記予算法案すべての年内決着と、新たな経済刺激策並びに国民向け医療救済支援の必要性には合意している。特に、国民一人ひとりに1200ドル程度の小切手を送り付ける支援策に概ね超党派の合意があるという。 
一方で、マクロの経済刺激策では、ペロシ―が2兆ドル規模を要求するのに対し、マコーネルは最新の失業率が6.9%にまで改善したことから5千億ドル程度とすべきとして乖離がある。肝心のトランプ政権はコロナ対策には特に関心を示していない、というか大統領選挙に不正ありとして法廷闘争に持ち込むことに全精力を注ぎ込んでいる。議会共和党において「バイデン勝利」の選挙結果を尊重しているのは今のところごくわずかで、ミット・ロムニー上院議員(ユタ州選出)がバイデンに祝電を送った数少ない共和党議員である。
一方、リンゼイ・グラハム上院議員(サウスカロライナ州選出)は今週Foxニュースに出演し、ペンシルバニア、ミシガン、その他で投票に疑いがある、と公言しているが、そこまでトランプ大統領の主張を表立って支援している議員の数も限られており、多くは沈黙を守っている。  
欧州も再びロックダウンのような規制が強まり、我が国も感染者数が増す中、米国での感染者数の急増は予断を許さず、仮にレイムダック期間中に議会と政権の停滞から感染者数の急増と、それに伴う各州のロックダウン→経済の再度の大幅な落ち込みという連鎖が起きると、新政権のスタート時点でのアメリカの様相は大きく異なってくる。かつてないほどにレイムダック期間の政治活動の重要性が注目されている。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1)  中国
*  バイデン勝利を好感する台湾産業界
米国大統領選挙に関して、バイデン勝利に台湾の産業界は、比較的楽観的な見方を示している。
例えば、中国生産性センターのXuShengxiong会長は、バイデン大統領誕生となれば、米国と中国本土の関係が改善され、輸出志向の台湾経済にとってはメリットが出る可能性があると考えられ、バイデン候補の当選は、「台湾経済にとっては決して悪いことではない」とコメントしている。
しかし一方で、台湾機械業界の長老たちは、「米国で誰が大統領になるかは台湾経済にはあまり大きな影響はない。我々は、むしろ、中国本土を過小評価してはならず、中国本土を警戒すべきである」との見方を示している。
*  本年度GDP成長率予想を1.91%に上方修正
台湾民間シンクタンクである台湾経済研究院は、台湾の2020年の実質国内総生産(GDP)成長率が前年対比1.91%になるとの見通しを示している。
本年7月に示した前回予測から0.08ポイント引き上げた。
第3四半期(7~9月)に入り世界で経済活動が再開したことで、半導体や電子機器の輸出販売が拡大していることが見通し引き上げの背景となっている。
*  アント・グループの上場中止の背景
中国の有数企業グループの一つであるアリババグループのフィンテック(金融技術)子会社であるアント・グループが中国政府当局の一言によって上場を中止しつ
つ、約350億米ドル規模のIPOの申込証拠金が返金される事態が起きていることは御高尚の通りである。
そして、中国証券時報と香港サウスチャイナ・モーニングポスト(SCMP)などによると、4日の香港株式市場では、6日に上海のハイテク企業が主に上場する株式市場である「科創板」での払い戻しが始まったと報じられている。
アント・グループは、香港株式市場と科創板市場で同時に上場する計画であった。
全申込参加人数は670万人であり、上場に成功したら、アント・グループは約350億米ドルの資金を集めることができる予定でもあった。
中国本土、そして一帯一路でのデジタル人民元普及拡大の主役の一つであるアリババに外国資本が入る危険性を危惧、更に創業経営者であるジャック・マー氏から、その経営の実権を中国政府が事実上奪い取り、その経営を水面下でコントロールし、デジタル人民元を中国本土と一帯一路の国々に一気に拡大、定着させ、米ドル基軸というスタンダードを変え、通貨覇権を米国から奪い取るとする中国政府のファーストステップとしての動きとも見られる。
(2) 韓国/北朝鮮
*  韓国情報機関による北朝鮮コロナ情報
韓国の情報機関である国家情報院は11月3日の国政監査で、北朝鮮が新型コロナウイルス対策を怠った幹部を最高刑で死刑とする、「コロナ怠慢罪」を新設したことなどを報告した。
北朝鮮は自国の防疫体制の脆弱さを認め、新型コロナウイルスの感染拡大によって、「30万人死ぬか、50万人死ぬかわからない」とする文書も作成していたと報告されている。一方、韓国の李仁栄統一部長官は、「南北間常時疎通ルートを復元するのが関係回復の祈願である。南北連絡ルートを復元したい」とコメント、北朝鮮に対して対応を促した。
*  アシアナ航空、無償減資にて再建へ
韓国有数企業の一つであったアシアナ航空は、「債権銀行と協議して新型コロナウイルス感染拡大による欠損を補填し、財務構造を改善するために、3:1無償減資を推進する」と発表した。これにより、既存のすべての株主の株式が3分の1に減ることになる。
即ち、資本金を減少させる「減資」のうち、会社の純財産を減らすことなく減資を行うこととなり、欠損の補填による経営立て直し」を目的とする実施される見通しである。
11月14日に行われる、アシアナ航空の株主総会で無償減資案件が最終決定される見通しである。
[主要経済指標]
1.      為替市場動向
韓国:1米ドル/1,122.34(前週対比+11.28)
台湾:1米ドル/28.58ニュー台湾ドル(前週対比+0.05)
日本:1米ドル/103.31円(前週対比+0.74)
中国本土:1米ドル/6.6085人民元(前週対比+0.1000)
2.      株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,416.50(前週対比+89.83)
台湾(台北加権指数):12,973.53(前週対比+310.62)
日本(日経平均指数):24,325.23(前週対比+993.29)
中国本土(上海B):3,312.159(前週対比+39.432)
4. 一般社団法人日米協会名誉会長に安倍前内閣総理大臣就任
元駐米特命全権大使の藤崎一郎氏が会長を務められる一般社団法人日米協会からのご案内で、2020年11月10日付にて、安倍晋三 前内閣総理大臣が同協会の名誉会長として就任されることとなったそうです。
日米協会からのご案内文を下記の通り共有させていただきます。
安倍前総理の祖父である岸信介元総理は当協会第6代会長(1968年〜1984年)であり、また安倍前総理自身も米国に留学するなど米国との縁も深く、歴代最長となる総理時代にはオバマ、トランプ両大統領との友好を通じて米国と強固な同盟関係を維持発展させました。
ますます重要となる日米両国の関係の強化のためには、より一層の民間交流が必要であり、安倍前総理の名誉会長就任は大きな意義を持つと考えられます。
<安倍晋三新名誉会長よりご挨拶>
このたび一般社団法人 日米協会の名誉会長に就任させて頂くことになりました。 
私は学生時代、カリフォルニアに留学し、多様性や上下関係にとらわれない実力主義などに強い印象を受けました。 世界で最もチャンスに溢れた国であることは今でも米国の魅力です。
日米両国の同盟関係は、今や単に二国間のみならずインド太平洋地域、ひいては世界の平和と繁栄への礎となっています。私が総理在任中に平和安全保障法制を導入したのはまさに日米同盟関係維持強化のためです。さらに日米両国の関係を、明日を開く「希望の同盟」に昇華させていくためには、両国民の草の根レベルの交流を強化していくことこそが重要であると思います。 私の祖父、岸信介は総理退任後、日米協会第六代会長として両国間の民間交流に長く尽力しました。
今般、私が祖父も携わっていた日米協会において名誉会長をお引受けすることになったのはたいへん嬉しく、皆さまとお会いできる日が来ることを楽しみにしています。
5.日本語能力コンテストJ LIVE Talkのご案内 
ジョージワシントン大学主催の日本語能力コンテストが現地ワシントンDCの11月14日(土)午後5時から、日本時間で翌15日(日)朝7時から行われ、その様子がライブストリーミングで配信されるとの案内を受けましたので皆様に共有申し上げます。
詳細は添付のフライヤーでご確認ください。 念のため案内文も下記いたします。
You are cordially invited to view the 6th Annual J.LIVE Talk (Japanese Learning Inspired Vision and Engagement) on Saturday, November 14, 2020. Due to the COVID-19 pandemic, we will have the Final Round on ZOOM, which will be live streamed on YouTube. The event is open to the public. Although we cannot award summer study abroad trips to Japan this year due to the COVID-19 pandemic, we thank our sponsor schools for their warm support in regular years and also the Japan~US Friendship Commission for
giving us a grant extension until next year.
Date: Saturday, November 14th, 2020
Starting Time:
5:00 pm  (Eastern Time)
4:00 pm (Central Time)
3:00 pm (Mountain Time)
2:00 pm (Pacific Time)
1:00 pm (Alaska Time)
12:00 pm (Hawaii Time)
7:00 am (Japan Time)
6.「寺島実郎の世界を知る力」第2回放送11月15日(日)
(株)寺島文庫・GIN総合研究所の林部長から掲題のTV放送のご案内を下記及び添付のとおり頂きましたので皆様と共有させていただきます。「10月から始まりました「寺島実郎の世界を知る力」の第2回放送が今週末11月15日(日)です。
今回、番組の前半ではアメリカ大統領選挙から見るアメリカの分断、中国の展望、そして日本の選択について、後半では「戦後日本の出発点」として1945年ミズーリ号、1951年サンフランシスコ講和会議に焦点を当てて深掘りします。
現在、第1回目放送分の見逃し配信が無料アプリ「エムキャス」および「ユーチューブ」よりご覧いただけます。
詳しくは寺島文庫ウェブサイトをご覧いただき、是非、ご視聴ください。