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日賑グローバルニュースレター第360号

 

1.トランプの移民政策推進に伴うカネとヒトの米国からの流出

 

強制送還への不安がワシントンD.C.地域を覆う中、エルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラ出身の移民たちが母国への送金額を増やしている様子をワシントン・ポストが報じた。

VM Servicesのような現金持ち込みの店頭送金サービスに見られるこの傾向は、在留資格の違いに関係なく幅広い移民に及んでいる

これは、不法入国者に対する逮捕の増加や、多くの中米出身者を保護してきた一時的滞在許可制度を廃止しようとするトランプ政権の動きによるものとみられる。

さらに、トランプ大統領が最近署名した「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法案」に盛り込まれた、送金への課税措置(来年1月開始)の報道から、移民たちの送金の動きを加速させている。

ワシントンD.C.の政策シンクタンク「インターアメリカン・ダイアログ」で、移民・送金・開発プログラムを統括するマヌエル・オロスコ氏は、送金の増加が、他のどの指標よりも、トランプ政権の政策に対する移民の恐怖度の高さを象徴しているという。

116万人の移民が暮らすバージニア州では、トランプの大統領就任から6月初旬までの間に、3,300件を超える移民逮捕が発生しており、2024年の同時期と比べて4倍以上となっている。

不法移民を直接対象とした逮捕の増加に加え、この地域ではホンジュラス人やニカラグア人の数千人が、長年保持してきた一時保護資格(TPS)を最近失っている

彼らは祖国での暴力や自然災害から逃れてきた人々である。

また、バイデン政権下で人道的仮釈放(humanitarian parole)を認められていた人々も、その保護期限が更新されないケースが出てきている

永住権(グリーンカード)を持つ人ですら、安全とは言い切れないと感じており、逮捕に巻き込まれるのではないかという不安を抱えている。

オロスコ氏は、これらの恐怖や不安が中米への送金の持続的な増加をさらに加速させていると述べた。

特に今年1月から3月にかけては、過去同時期を大きく上回る伸びを見せており、エルサルバドルへの送金は14%増加、ホンジュラスは20%増、グアテマラは21%増となった。

「一度拘束されてしまえば、送金はできなくなる。だからこそ今のうちに、できる限りの金額を送っておこうとする」とオロスコ氏は語る。

移民たちの共通認識として、トランプは“全力で移民政策を進める”、すなわち、『MAGA』は『Make Aliens Go Away(外国人を追い出せ)』の意味だと受け取られており、いかなる手段を使ってでも移民を排除することを意味している」 

今や、中米出身の移民たちは、何十年にもわたって米国内に築き上げてきたキャリアや小規模ビジネスがあるにもかかわらず、強制送還されるのではないかという不安から、以前より多くの資金を母国に送っている。

オロスコ氏の調査によれば、中米地域のGDPに占める移民送金の割合は、2010年の10%から昨年は23%にまで上昇している。

その結果として、中米地域全体で450億ドル以上が送金として経済に流入しており、これは単なる「社会的セーフティネット」にとどまらず、エルサルバドル、ホンジュラス、グアテマラといった国々における社会的流動性(モビリティ)を支える原動力となっている。

米国からの移民たちは、これらの送金を使って母国の地域に家を建て、学校や教会を整備し、基礎インフラの改善を進めている。

こうした送金の増加は、移民の増加率をはるかに上回るペースで進んでいる。

しかしながら、この送金の増加傾向はメキシコには当てはまらない

ロサンゼルスやシカゴなどに多くの移民を抱えるメキシコは、本来であれば最大の送金受益国であるが、昨年4月から今年にかけて、メキシコへの送金額は約12%減少し、過去10年以上で最大の落ち込みとなっている

オロスコ氏はまた、中米への送金の伸びも今後は鈍化する可能性があると警告している。  

ということで、トランプ政権の移民取り締まり強化から中南米移民者が母国への送金が増やすとともに、強制送還を含め、母国への帰還者が増え、その後送金額が減っていくというパターンがメキシコを先頭として起こっているように見えます。

前回のニュースレターでの報告のとおり今年米国では移民の流入よりも流出が増える可能性が高く、その影響が中南米への送金額の減少につながるのかもしれません。 

米国内の不法移民は中南米出身者が多いのかもしれませんが、多くのレストランなどサービス業や建設現場、そして収穫期の農業の現場で労働力不足の問題が顕在化し、それが物価にも悪影響を及ぼすと思われます。

 

2.イーロン・マスクの新党結党の可能性

 

イーロン・マスクの新党立上げの話題が日本でも報道されているが、ワシントン・ポストがその実現可能性を特集した。

ギャラップ社は2003年から毎年、米国の有権者に対し、共和党、民主党に匹敵する有力な第三の政党の必要性に関する調査を実施しており、その最初の2003年だけは、共和党と民主党のみで良いとした回答が過半数であったものの、2004年以降は「第三の政党が必要」が多数となっている。

昨年10月の調査では、58%の人が「第三の有力政党が必要だ」と回答した。

無党派層が明確に第三政党を望むという傾向は、自らを「独立系」と認識するアメリカ人の割合が増えているという政治的潮流とも一致している。

昨年の調査では、43%が自分を無党派と回答し、民主党・共和党はいずれも28%にとどまった

一方、二大政党から立候補せず、独立系として大統領選に立候補した主なケースは以下の通りだが、いまだかつて大統領の地位を獲得した候補はいない。

 

テキサスの億万長者ロス・ペローは、1992年の大統領選で19%の得票率を獲得したが、共和党のH.ブッシュ大統領の表を奪ったかたちで民主党ビル・クリントン候補の勝利を呼び込んだ。

1968年にはアラバマ州知事ジョージ・ウォレスが南部5州を制し、得票率は約14を獲得。

1912年には元大統領のセオドア・ルーズベルトが「ブル・ムース党(進歩党)」から出馬して6州を獲得、27%の得票を得たが、共和党票を分断したことで現職タフトを敗北に追い込み、民主党のウッドロー・ウィルソンが当選する結果となった。

 

緑の党やリバタリアン党などは組織として定着しており、大統領選に定期的に候補者を立てているが、支持基盤は非常に限られており、州や地方レベルでも影響力はわずかである。

イーロン・マスクの試みがこれまでの第三政党と最も違うのは明らかに「資金力」である。

彼は世界一の富豪であり、推定純資産は4000億ドル近く、あるいはそれ以上ともされている。

昨年の大統領選では、トランプの支援に25000万ドル以上を費やした。

新党を作るにあたって、イーロン・マスクは党是として財政赤字や国家債務に焦点を当てる可能性は高い

ワシントン・ポストとイプソスによる最近の世論調査では、国家債務がすでに36兆ドルに達している中、さらに3兆ドル増えるのは容認できないと63%が回答している。

マスクは、2026年の中間選挙で特定の脆弱な議員を標的とし、上院や下院でキャスティングボートを握る少数のグループを形成することを目指すと示唆している。

そのために、一部の選挙に資金を集中投入する可能性がある。

ただし、個人献金の制限があるため、資金はスーパーPAC経由で拠出する必要がある。

とはいえ、資金は重要だがすべてではない。

最大の課題は、イーロン・マスクの構想に共鳴し、共に立候補してくれる有力な人材をどう確保するかである。

既存政党に対抗するために必要な候補者の選定、リクルートそして育成のための組織インフラをどう構築するのかが問われる。

もう一つの障壁はバロット・アクセスである。これは候補者として投票用紙に党名と候補者名が記載される正当な党・候補者としての地位の獲得である。

その地位の承認要件は州ごとに異なるため、各州に申請して認定を得る必要があることから、多数の弁護士や有料署名スタッフ(候補者としての有権者の署名収集)を必要とする。

これは不可能ではないが、来年の中間選挙に間に合わせるのは困難となる可能性がある。

仮にマスクの目標が一部の下院または上院の議席確保に絞られているのであれば、「無所属候補」として出馬する方が現実的である。

さらに問題なのは、マスク本人の人気が低いことと、テック業界全体が不人気であることである。

カリフォルニア大学バークレー校の政府研究所(Institute of Governmental Studies)によるカリフォルニア州民向け世論調査で、どの組織・機関が「公共の利益のために行動すると信頼しているか」を尋ねた結果、9つの選択肢においてテック企業とそのリーダーは最下位となり、79%は彼らを、「少ししか信頼していない」または「まったく信頼していない」と回答している。

一般論として、無所属に比べ、政党として立候補すると政治資金の獲得や支出、当選後の議会での委員会所属やそのリーダー選抜の権利など様々なメリットが得られるが、イーロン・マスクの場合、自らが立候補するのではなく、自らの政策に賛同する候補者を通じ国の債務増大を抑制するといった特定の政策を推し進めることが目的であるのなら時間がかかっても新党立ち上げが筋なのでしょうね。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化 

 

(1)  中国・台湾

l  アジア・ビジネス・サミット参加メンバー向けに台湾のCPTPP参加を認める支持を求める台湾商工会議所

台湾商工会議所はアジア・ビジネス・サミット(ABS)の参加メンバーを意識、「台湾は重要な国際貿易・投資パートナーであり、台湾の参加無しに地域経済機構が動くのは不完全である」

とし、ABS会員に対して、台湾の環太平洋パートナーシップに関する包括的協定(CPTPP)への加盟申請を支持するよう呼びかけている。

アジア・ビジネス・サミットは、もともとは日本の経団連の提唱により、2010年から毎年開催されている会議である。

 

l  米台交渉継続中のランプ関税

米国・トランプ政権は7月9日、新たな関税措置を発表したが、台湾はその対象に含まれなかった。

台湾国内では、「世界は米国と台湾の関税措置の進捗状況に注目している」との見方を強めている。

これに対して、台湾行政院は、「台湾の対米交渉チームは依然としてワシントンD.C.に滞在しており、米台双方は主要な交渉テーマで合意に達し、その後の交渉テーマについても意見交換を行っている」

と説明している。

米台双方はまた、交渉を引き続き前進させ、次の実質的な交渉に向けて交渉していくことで合意しているとも報告している。

 

l  NVIDIA台湾本社用地台北に確保の見通し

NVIDIAの台湾本社の土地利用に関して、新光生命保険は、台北市政府に対して正式に書簡を送り、台北市サイエンスパークT17とT18の土地をNVIDIAに直接譲渡する意向があることを示唆したと伝えられている。

 

(2)  韓国/北朝鮮                                  

l  中国人・中国企業を想定した対韓不動産投資規制動向

韓国では外国人による不動産取得を防ぐ為の対策を盛り込んだ法案が提出されている。

現在の届出制を許可制に切り替え、外国人の不動産取得・保有手続きが相手国で韓国人に適用されているのと同等の水準であるかどうかを調査、公表する義務も課す内容が検討されている。

今般、キム・ウンヘ国会議員(国民の力)は、不動産取引申告法の一部改正案を提出した。

外国人が不動産を取得、保有しようとする場合、事前に官庁の許可を受けることを義務付ける内容が含まれている。

現在は外国人が不動産を取得した場合、契約締結してから60日以内に担当官庁に届出を行えばよいこととなっている。

また、競売などで取得した不動産については、6カ月以内に届け出ればよいこととなっている。

韓国国内では、他の諸外国と同様、中国人や中国企業による不動産投資規制姿勢を更に強化しようとしている。

 

l  韓国空港国際線利用者数過去最高を更新

本年上半期(1~6月)に韓国の空港での国際線利用者数が4,600万人を超え、上半期として過去最高を更新した。

国土交通部、仁川国際空港公社、韓国空港公社の統計を総合すると、本年1~6月に国内空港を発着した国内外の航空会社の国際線利用者数は計4,602万9,842人となっている。

前年同期対比7.6%増え、同部の統計でこれまでの最高だった2019年上半期の4,556万人を上回っている。

国際線の便数も26万4,253便となり、同5.6%増加している。

利用者数が最も増加した路線は中国本土路線(利用者数約781万人)で同24.3%増加した。

中国本土路線の利用者数増加は昨年11月に中国本土政府が実施した韓国人の短期滞在ビザ(査証)免除措置が大きく影響した。

また、韓国政府が7~9月期に中国本土団体旅行客の短期滞在ビザの取得を一時的に免除する措置を施行すれば、現在回復中の訪韓中国人観光客の数が本格的に増えると見られている。

中国本土路線に次いで日本路線も利用者数の増加率が高かった。

同9.9%増の約1,343万人が利用している。

 

l  インドの造船・海運の成長を睨みインド造船業との連携を図る韓国造船業

今後「10年間商船1,000隻確保」を含む造船・海運業の育成を宣言したインドが「K造船」」、即ち韓国の造船業と連携する意向を示していると韓国の国内では期待する見方が出ている。

韓国最大の造船会社であるHD現代がインド最大の国営造船所と業務提携して造船業全分野で協力することを内定している。

HD現代の朝鮮部門中間持株会社であるHD韓国造船海洋は、インド国営のコーチン造船所(CSL)との間で、「長期協力の為の包括的了解覚書(MOU)」を締結したと発表している。

コーチン造船所はインド南部のケララ州にあるインド最大規模の造船所であり、インド政府が67.91%の株式を保有している企業であり、商船から空母まで多岐に亘る船舶を設計・建造・修理をしてきた経験があるが、日中韓の造船所と比べると技術力向上が不可欠となっている。

今後、HD現代はコーチン造船所と設計・購入支援、生産性と品質向上の為の技術協力、人材教育などあらゆる分野に亘って協力を推進するとしている。

 

l  過去最高を記録した韓国のアイスクリーム輸出

韓国のアイスクリームの本年上半期(1~6月)の輸出額が過去最高を記録した。

農林畜産食品部によると、上半期のアイスクリームの輸出額は6,550万米ドルとなり、前年同期対比23.1%増加している。

上半期の輸出額を年度別にみると、2021年の3,850万米ドルから2022年は4,470万米ドル、2023年は5,530万米ドルと増え続け、昨年は5,320万米ドルとやや減少したが、今年は再び増加に転じ、6,000万米ドルを超えている。

最大の輸出先は米国。輸出額は2,490万米ドルで全体の38.0%を占めた。

次いでフィリピン(560万米ドル)、中国本土(540万米ドル)の順となっている。

このペースが続けば年間輸出額は今年初めて1億米ドルを超え、過去最高を更新することが期待されている。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,375.39(前週対比-12.88)

台湾:1米ドル/29.19ニュー台湾ドル(前週対比-0.25)

日本:1米ドル/ 147.35(前週対比-3.04)

中国本土:1米ドル/7.1682人民元(前週対比-0.0060)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):3,175.77(前週対比+121.49)

台湾(台北加権指数):22,751.03(前週対比+203.53)

日本(日経平均指数):39,569.68(前週対比-241.20)

中国本土(上海B):3,510.177(前週対比+37.858)