1.「先週何を達成したか」のメール報告義務にまだら模様の対応をする連邦政府職員
今年2月22日、イーロン・マスク氏とドナルド・トランプ大統領が、すべての連邦職員に対し、毎週達成した業務を5つ箇条書きにしてメールで報告するよう命じた際、「従わなければ辞職と見なす」という警告も加えていた。
マスクは、このメールを「連邦政府職員に“脈がある(ちゃんと仕事をしている)”か確認するためのアカウンタビリティ(責任)手段」だと述べた。
件名が「先週何を達成したか?」というそのメール報告義務に連邦職員の多くは戸惑いと反発を感じ、結果としてホワイトハウスはその後「各省庁の長官が、自分の部下にこのメール報告を課すかどうかを判断してよい」と釈明している。
最近では、このメール報告義務から撤退する省庁が増えつつある様子をワシントンポストが報じた。
環境保護庁(EPA)は3月下旬、職員に対して「この報告義務は“任意”とする」とメールで通知している。
また、国立衛生研究所(NIH)も今月、職員宛のメールで「この義務は終了した」と伝えた。
NIHの通知では「当機関は独自のパフォーマンス評価プロセスを有しており、必要があれば個別に通知するため、こうしたメール報告は不要」としている。
これとは対照的に、一部の政府機関ではこのメール報告制度を正式に制度化したり、自動化された報告フォームを導入したりしている。
たとえば、証券取引委員会(SEC)は、日々の社内ニュースレターで繰り返し職員にこのメール報告義務についてリマインドを送っている。
以下はその他の省庁でのこのメール報告に関する対応例である。
- 国防総省: 最初は1通のメールだったものが、毎週のリマインダーメールになったと職員は話す。
木曜か金曜にリマインドが来て、火曜までに上司をCCしてメール報告を送るよう求められる。
報告内容はチームリーダーがまとめ、さらに上位の上司に集約された形で送信される。
- 農務省(USDA): 初めは「メール報告はしないように」と指示されたが、後に「した方がいいかも」と言われ、最終的には「報告を作成し、直属の上司に送るように」と言われた模様。
ただし「義務」とは明言されなかったとのこと。
- フロリダの退役軍人局(VA): 「返信しないと評価に響く」と警告されたという職員もおり、その職員は毎週欠かさず報告を送り続けている。
- 食品医薬品局(FDA): 毎週「曖昧な表現での5項目」を送っているという職員もいる。機密性の高い薬事承認情報などを避けるためという。
- 住宅都市開発省(HUD): ある職員は“反抗心”から、ChatGPTを使って毎週10〜20ページの“意味不明な文章の羅列”を生成して送っているとのこと。
この週次報告メールのやりかたは、マスクが経営する企業でも頻繁に使われており、社員にプレッシャーをかける労働文化を促進する手段として、また人事判断の参考データとしても利用されてきている。
Twitter(現X)では、ソフトウェアエンジニアのクリストファー・スタンレー氏がマスク氏と共に移籍し、これらの週次メールの確認を担当していた。
ある関係者によれば、Twitterでは「解雇などを検討する際に、過去の週次報告が参考にされる」とのこと。
「レイオフ(解雇)を計画する場合、これらのメールを振り返って内容を見て判断する。誰を解雇すべきかの“もうひとつのデータポイント”になる」との証言もある。
イーロン・マスクの特別連邦職員としての地位は5月末に終了予定でだが、彼は自らの離任が「自身の主導する“DOGE”プロジェクトの力や影響を弱めることにはならない」と考えている。
DOGEチームのメンバーはすでに数十の連邦機関に配属されており、彼らが活動を継続するという。
この週次メール報告義務が米企業ではどのように見られているのか興味あるところですね。
2. トランプの強権に屈する米企業や大学組織と、それに抗議する職員
強権で反DEIを進めるトランプ政権に屈する法律事務所やコンサルティング企業と、それに抗議する形で退社する中堅職員の様子をワシントンポストが報じている。
今年2月、アクセンチュアがトランプ政権の圧力を受けてダイバーシティ優遇政策を終了した直後、同社中堅社員のジョン・モリスは「怒りの辞職」をした。
10年にわたるテック戦略部門でのキャリアを放棄したことになる。
モリスのように、トランプ大統領による多様性やジェンダーアイデンティティに関する保守的な命令を容認した雇用主に失望し、抗議の声を上げるアメリカ人専門職の数は増えつつある。
これらの抗議者が集団を形成し、その雇い主である法務事務所、民間企業、大学など、トランプ氏の要求に屈した組織への圧力が高まっている。
3月、Skadden, Arps, Slate, Meagher & Flomは、他の大手法律事務所Paul, Weissに続きホワイトハウスと合意し、トランプ支持の活動のために1億ドル相当の無料法務サービスを提供し、大半のDEI(ダイバーシティ・公正・包括)プログラムを廃止する意向を示した。
Skaddenの元弁護士ブレンナ・フレイ(40歳)は、内部でこの合意が通知された後に辞職した。
4月には、Kirkland & EllisやLatham & Watkinsなど、他の法律界の巨頭も同様に政権との取引に署名した。
トランプは以前対立していなかった事務所からも、高額な無償奉仕を引き出すようになっている。
これまでのところ、トランプが法律事務所から引き出したプロボノ(無料)業務の総額は10億ドル近くに上るという。
世界最大の収益を誇る法律事務所のKirkland & Ellisに勤務していた27歳のジャッキー・ピットマン氏は、政権向けの案件に関わることを想定される若手弁護士たちの一人として抗議の辞職を行い、LinkedInでその意思を公表した。
トランプの批判者たちは、彼の「民間企業や組織への圧力」が権力拡大の一環であると見ている。
そのターゲットの一つが大学で、学生による反イスラエルの抗議運動を抑え込まない場合にはその大学への補助金を削減すると警告している。
3月初旬にコロンビア大学に4億ドルの研究資金カットを警告したのに続き、最近ではプリンストン大学、ハーバード大学、ブラウン大学にも同様の圧力をかけた。
ハーバードは政府の監視や人事制度の変更要求を「違法」として拒否し、政権はその報復として20億ドル以上の資金凍結を発表した。
バラク・オバマ前大統領は最近の発言で、「金銭的損失があっても信念を守るべき」と企業や組織に呼びかけている。
「脅迫されている法律事務所は『多少の仕事を失っても原則を守る』と言うべきだ」と述べた。
一方、冒頭紹介のアクセンチュアのCEOジュリー・スウィートは、同社のDEI方針の変更を「米国の変化する状況に対応するため」とし、スタッフ向けのメモで「最近の大統領令に従う必要がある」と述べた。
コロンビア大学は、研究資金を守るために反イスラエル抗議の取り締まり強化、警備強化、中東研究プログラムの見直しを受け入れた。
反トランプ共和党員のサラ・ロングウェル氏は、「(トランプ政権が)個別に標的を定めることで団結して反撃するのを困難にしている」と述べ、「ライオンが群れから1頭のガゼルを分断して狙うようなもの」と例えた。
トランプ勝利後、企業は彼に従順な行動を取っていると批判されている。
例えば、ABCニュースはトランプからの名誉毀損訴訟に対し1,500万ドルを支払い、Metaはトランプのアカウント停止問題を2,500万ドルで和解した。
一方で、トランプ政権の指示に抵抗する企業もある。
AP通信は「メキシコ湾」と表記したことでホワイトハウスのイベントから締め出され、それに対して訴訟を起こした。
また、いくつかの法律事務所も大統領令に対し法的措置を取っている。
2029年のポストトランプで、或いは来年の中間選挙の結果如何ではトランプに屈した企業に対する内外からのバッシングが逆に厳しくなりそうな気がしますね。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国・台湾
l 米中対立の狭間で揺れるNVIDEA
米国のトランプ政権は、NVIDIAの低仕様人工知能(AI)加速機である、「H20」の対中輸出を無期限に規制することにした。
米国政府の関税政策に中国政府が強く対抗していることを受けて、トランプ政権は核心AI半導体輸出統制で対中圧力を強めようとしているとも見て取れる。
こうした米国政府の動きを受けて、韓国や台湾の半導体業界は悪影響を懸念し始めている。
そして、NVIDIA自身も、今四半期に最大55億米ドル程度の被害が出るとの見方も出ている。
米国政府がNVIDIAに対して、中国市場向けに設計した人工知能(AI)用半導体「H20」の輸出にライセンスを取得する必要があることを通知したことから、懸念が広がっているものである。
一方、中国のAI半導体メーカー、特にNVIDIAと競合する製品を提供する華為技術(ファーウェイ)(HWT.UL)に恩恵を齎す可能性があるとの見方も出ている。
即ち、ファーウェイの半導体設計とソフトウェアの能力は、より多くの顧客と開発経験を得ることで急速に進歩する可能性があるとの見方も出てきている点、付記しておきたい。
l 5四半期連続で増収の台湾積体電路製造TSMC
世界最大の半導体受託製造会社とされる台湾積体電路製造(TSMC)は、3月までの本年3カ月間での売上高と利益は増加したと発表している。
5四半期連続の増加は、人工知能(AI)向け半導体の堅調な需要を背景に実現したとされている。
TSMCは4月17日、売上高がニュー台湾ドルベースで前年同期対比41.6%増の8,392億ニュー台湾ドル、当期純利益は60.3%増の3,615億ニュー台湾ドルに達したと発表した。
尚、TSMCの会長兼CEOであるウェイ会長はオンラインブリーフィングで、同社初の日本工場での生産は順調に進んでいるとも述べている。
(2) 韓国/北朝鮮
l 韓国大統領選最新情勢
韓国の次期大統領選に向けて、保守系与党の動きが鈍いのに対して、進歩系最大野党・共に民主党の動きは早い。
今般は、キム・ギョンス前慶尚南道知事が立候補を表明し、同党の主な候補者はこれで出そろい、党の候補を決める予備選は世論調査でトップを走るイ・ジェミョン前代表と、現職知事や前知事らの争いになることとなった。
キム氏は故・ノ・ムヒョン元大統領らに近いとされ、国会議員や南東部にある慶尚南道の知事などを務めてきた人物である。
キム氏は、ユン・ソクヨル前大統領が非常戒厳を出して罷免されたことに触れて、「圧倒的な政権交代で内乱を完全に終わらせなければならない」と出馬の決意を示した。
こうした中、実施された共に民主党の候補を選ぶ予備選の最初の地域別投票の結果が4月19日に発表され、イ・ジェミョン前代表が約88%を得票して他の2人の候補に大差をつけた。
イ・ジェミョン氏は、世論調査でも他の与野党の候補を大きく引き離しており、本選に向けて中道層の取り込みを意識した動きを続けている。
一方、保守系サイドでは、ユン・ソクヨル前大統領の弁護団の若手メンバーらが設立しようとしていた新党構想が、記者会見開催の告知から数時間後に「留保」になると言う事態となった。
背景には保守系与党側の強い反発があり、保守層の分裂と混迷が浮き彫りになったとの見方が出ている。
こうした過程を経て、韓国の次期大統領選に向けた与党と最大野党の予備選の候補者登録が、4月15日にいずれも締め切られ、保守系与党・国民の力は11人と乱立し、進歩系最大野党・共に民主党では3人が登録した。
党の候補を決める争いがそれぞれ本格的にスタートし、5月初めまでに候補が決まる予定となっている。
こうした立候補の状況を見ていると、現段階では、野党に纏まりを感じ、結果、有利ではないかとの見方が出ている。
l 韓国のトランプ関税対応状況
米国のトランプ政権は、所謂、トランプ関税としての相互関税の対象からスマートフォンなどを「一旦」、除外した。
米税関・国境警備局(CBP)が4月11日夜に通達したとされている。
中国で主に生産される米国・アップルのスマホ「iPhone(アイフォーン)」の大幅な値上がりが懸念されていた中での米国政府の対応である。
そして、この措置により、韓国の三星電子やアップルなどが恩恵を受けることになる見通となっている。
ノートパソコンやメモリーカード、半導体製造装置なども除外となると見られている。
トランプ政権は中国に対しては125%、そのほかの国に対しては一律10%の相互関税をかけており、今回の措置はこれらの関税を発動した4月5日に遡り、適用されるとしている。
尚、各メディアは、「今回の措置が一時的なものになり得る」とし、近く別の形の関税が適用される可能性があると指摘している。
韓国政府は、韓国製銅製品にトランプ関税が課されれば米国に投資した韓国企業の投資活動が阻害される恐れがあるとして米国政府に対して友好的な措置を要請している。
米国政府の官報によると、韓国政府・産業通商資源部は4月1日、米国の銅の輸入を巡る通商拡大法232条に基づく調査に対する意見書を米国・商務省に提出している。
同部は意見書で、「韓国製銅製品は米国の国家安全保障の脅威にはならず、むしろ米経済とサプライチェーン(供給網)の安定性に肯定的に寄与する」と強調している。
また、銅製品への関税賦課が米国内の銅価格を引き上げ、究極的には米製造企業の競争力が低下しサプライチェーンに支障を来すなど米国の安保と経済に被害を与えかねないと主張している。
l 米国に研究用原子炉設計技術を輸出する韓国
韓国は、原子力ビジネスの中枢国の一つである米国に対して、研究用原子炉(研究炉)設計技術を輸出することとなったと発表している。
1959年、米国の支援で研究炉を導入され、原子力技術の第一歩を踏み出した韓国がそれから66年で、米国に原子力ビジネスを逆輸出することになったとの見方となっている。
尚、韓国の研究界では、次世代がん治療医薬品の生産や輸出などと共に、韓国が輸出主導国に跳躍するきっかけが、今回の原子力ビジネス分野の対米輸出によって、出来たという期待も出ている。
[主要経済指標]
1. 対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,423.49(前週対比+7.64)
台湾:1米ドル/32.58ニュー台湾ドル(前週対比-0.23)
日本:1米ドル/142.17(前週対比+0.68)
中国本土:1米ドル/7.2995人民元(前週対比-0.0011)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,483.42(前週対比+50.70)
台湾(台北加権指数):19,395.03(前週対比-133.74)
日本(日経平均指数):34,730.28(前週対比+1,144.70)
中国本土(上海B):3,276.730(前週対比+38.503)