1.政府規模の縮小と民営化を急速に進めるトランプとマスク
トランプ政権は、郵便や対外援助など政府の機能や保有資産の多くを民営化しようとしており、イーロン・マスクがそれに拍車をかけている様子をワシントンポストが報じた。
マスクが率いる連邦政府効率化省(通称DOGE)の大胆なコスト削減アプローチが、民活移行への道を開いているためである。
元々共和党保守派を中心に信奉されていた「企業の方が政府よりもコスト削減や人々のニーズへの対応に優れている」との考えは、シリコンバレーでも広く支持されている。
DOGEと提携している一般調達局(GSA)では、当局者たちがひそかに、政府所有の建物数百棟を民間企業に売却しようとする取り組みを進めている。
売却後、取得企業が政府に建物をリースバックすることが可能となり、理論上は、税金を使う保守・維持費の削減につながるとされている。
郵政公社ではDOGEへの反発や法的な問題から全面的な民営化の計画は勢いを失っているものの、民間企業は、郵便物や荷物の取り扱い、長距離トラック輸送ルートの業務委託、そして採算の取れない郵便局のリース契約の解消など、政府による段階的なアウトソーシングの動きに備え始めている。
内務省では、ダグ・バーガム長官が、西部一帯の連邦所有地に民間の開発業者が建設を行うことを認める提案を行っている。
政府の対外投資機関「国際開発金融公社(International Development Finance Corporation: IDFC)」のトップに指名されたウォール街の投資家は、すでに閉鎖された米国国際開発庁(USAID)の400億ドルの予算の大部分を、発展途上国で活動する投資家やスタートアップ企業、および民間企業に振り向けることを提案している。
軍事請負業者のエリック・プリンスは、国防や移民取締りの機能を民間の警備会社に委ねるよう推し進めており、すでにアフリカでの作戦実行計画を米政府関係者に提案していたという。
また、CNNは、プリンスがイエメンのフーシ派反政府勢力に対する作戦を、民間軍事請負業者に実行させる案も打診していたと報じている。
しかし、マスクとシリコンバレーの仲間たちは、この民営化の流れを他の誰よりもはるかに先へ押し進めようとしている。
今月開催されたモルガン・スタンレーのテクノロジー会議で、マスクは「できる限りすべてを民営化すべきだ」と発言した。
一方、連邦政府向けのソフトウェアやプログラムなど夫々数十億ドルもの契約を抱えているオラクル、マイクロソフト、IBM、ServiceNowなどの大手企業は、それらの契約がDOGEによって打ち切られつつあることから、株価は大きく下落しており、トランプ政権の民営化推進が、一部の企業には恩恵を与える一方で、他の企業には打撃を与え、株式市場の不安定性を高めるという「諸刃の剣」になりうることを示唆している。
シリコンバレー流の民営化アプローチとは、まず情報を公開すること(マスクがXに予算の詳細を投稿したように)であり、その上で契約については、技術革新を優先する、より厳格で透明性の高い入札プロセスを採用することだという。
共和党の民営化政策の歴史としては、1980年代、ロナルド・レーガン大統領は、民間部門に移行すべき政府のプログラムや事業を特定する取り組みを開始した。
ジョージ・W・ブッシュ大統領は社会保障制度の一部を民営化することを提案したが、超党派の激しい反対に直面し、その計画を断念した。
米政府の統計によると、連邦政府の支出は、1980年代には米国経済のおよそ21%だったが、現在では約23%に増大している。
日本ですら国鉄や郵政業務はかなり以前に民営化がなされており、米国政府がアムトラックやUSPSをいまだに運営しているのは確かに不思議ですね。
2. 米国の有権者の今後の投票行動に影響を与えようとするトランプ大統領
先週、トランプ大統領が出した複数の大統領令には選挙の管理に関するものが含まれていた。
この大統領令は、「選挙制度に不正が蔓延している」という、トランプの長年の被害者意識に基づいている。
これにより彼は、州および地方の選挙管理者に対し、今後の選挙の実施に関して、この大統領令に基づくルールに従うことを命じた格好となる。
アメリカ合衆国憲法では、選挙に関する権限の大部分は州に委ねられている。
ジョー・バイデン大統領の政権下で民主党が「H.R.1」と呼ばれる多角的な投票権法案を推進していたとき、保守派の反対派はそれを「連邦政府による州権の乗っ取り」と非難していた。
しかし今回のトランプによる選挙管理への介入に対しては、右派からは目立った抗議の声は上がっていない。
今回の大統領令は“不正防止”というより、「彼(トランプ)が考える“自分に投票しない人々”の投票率を下げることが目的だ」と政治専門家は語る。
ワシントンポストによれば、今回の大統領令は、具体的には選挙日の後に届いた投票をカウントから除外し、市民に限定する有権者登録の方法の厳格化(移民排除)を命ずるもの。
多くの州では、選挙日までに消印が押されていれば、選挙日の後に投票用紙が届いたとしても有効投票として集計することを認めている。
今回の大統領令では「投票は法律で定められた選挙日までに投じられ、かつ受け取られなければならないことを求める」とうたわれており、一部の法律専門家によれば、「統一された選挙日」という主張を極端に解釈すれば、すべての投票はその指定された一日に行わなければならないということになりかねないという。
つまり、選挙日以降に届いた投票の集計だけでなく、近年多くの州で導入されている期日前投票までも排除される可能性があるという。
ただ、こうしたトランプの一方的な選挙ルール変更の試みに立ちはだかるのがEAC(アメリカ選挙支援委員会)という聞きなれない委員会である。
EACは、2002年の「アメリカ投票支援法(Help America Vote Act)」に基づいて設立された委員会で、議会によって超党派の独立機関として設立され、党派的な政治からできる限り隔離されるよう設計されている。
EACは4人の委員で構成されており、共和党2名・民主党2名となっている。
投票に関する重要な決定は少なくとも3人の賛成がなければ承認されない。
今回の大統領令が、2026年の中間選挙を睨んでなのか、はたまた“大統領選3選(?)”を狙っての地ならしなのかは不明だが、本当にやり放題ですね・・。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国・台湾
l 中国本土による台湾封鎖に備える台湾政府
最近、国際社会では、「中国本土の台湾封鎖計画が前例のない準備段階に達している」との見方が出ている。
こうした中、台湾国内では、中国本土が台湾を封鎖した場合、台湾の水、電気、食料がどれだけ持つのか懸念の声も出ている。
これに対して、台湾政府は、「我々は対応策を持っている」としながらも、問題はどのくらいの期間持ちこたえられるのかについては、明確な回答を示していないと台湾国内では不安を示す見方もある。
l 中国本土情勢(党の綱紀粛正、米国とのハイテク競争、外資誘致とスパイ取締)
中国共産党は、習近平政権の発足時に廉潔な政治を訴えて打ち出した「八項規定(8カ条の御誓文)」を再度学ぶ、全党的なキャンペーンを開始している。
習近平国家主席の側近と言われた軍幹部の汚職も含めて、党幹部の汚職の摘発が続く中、「ぜいたく禁止令」として国民からの評価も高かった規定の精神を再び強調して求心力を維持したいとの意向とみられる。
しかし、これは、それが出来ていないことの表れでもあり、習近平政権に対する不満が出てきていることに対する対応とも見て取れる。
また、今後の「人事の季節」への準備との見方も出ている。
中国は国家方針として、米国の規制下で、ハイテク分野の優位を目指していると見られている。
米国は輸出規制で中国と技術優位を競っていると見られているが、この動きの中、中国政府は中国国内企業のハイテク開発の促進を側面支援していると見られている。
一方、中国政府当局は、2023年3月に拘束した米国の調査会社である「ミンツ・グループ」北京事務所の中国人社員5人を解放している。
中国当局は社員の拘束時、同社事務所の捜索も実施しており、中国メディアはその後、顧客企業に提供する情報の内容や取得経緯が問題視された可能性を報じていた。
共産党政権は欧米勢力の中国社会浸透への警戒感から、外国政府や企業への「スパイ行為」への取り締まりを強めていると見られている。
中国経済の不調が続く中、外資企業の誘致を進める一方、「国家安全」を重視する姿勢も今のところ崩していない。
尚、同社が摘発された2023年3月には、帰国間際だったアステラス製薬の男性社員がスパイ容疑などで拘束されており、こちらにも動きが出るのか否かも注目される。
(2) 韓国/北朝鮮
l 産官学連携でトランプ関税に備える韓国
経済副首相が主宰していた対外経済懸案懇談会が大統領権限を代行するハン・ドクス首相主宰の、「経済安全保障戦略TF(タスクフォース)」に格上げされることとなった。
ハン首相が3月25日に開催された通商関係閣僚会議で決めた。
米国のトランプ政権の関税政策など対外の不確実性が高まっていることに対応して、通商と安全保障の連携を強化する狙いとされる。
対米通商環境の変化の影響を受ける主要企業と緊密に意思疎通出来るよう、官民の共同対応体制も強化したいとしている。
ハン首相は、「既に、現実のものとなった貿易戦争で韓国の国益を確保する為、政府と民間の全ての能力を注ぎ込む時期となった」と述べ、来月2日に発表される米国の相互関税への対応を徹底するよう指示もしている。
韓国らしい産官学金融の連携体制である。
l 遅延する韓国「ミニイージス艦」開発
韓国では現在、「ミニイージス艦」と呼ばれる8兆ウォン規模の、「韓国型車器具縮艦(KDDX)」の導入事業が再び遅延していると危惧の声が出ている。
軍艦分野の国内ライバルであるHD現代重工業、ハンファオーシャン間の競争が過熱し、この事業を主管する防衛事業庁も容易に結論を出せていないのが遅延の原因ではないかとの声も出てきた。
既に、計画より1年以上遅れており、韓国海軍の核心的戦力の導入事業が「ゴールデンタイム」を見逃す危機ではないかとの指摘まで出始めている。
[主要経済指標]
1. 対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,464.90(前週対比+1.59)
台湾:1米ドル/33.10ニュー台湾ドル(前週対比-0.10)
日本:1米ドル/150.32(前週対比-1,35)
中国本土:1米ドル/7.2636人民元(前週対比-0.0150)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,634.94(前週対比-8.19)
台湾(台北加権指数):21,951.76(前週対比-257.34)
日本(日経平均指数):37,782.36(前週対比+105.30)
中国本土(上海B):3,373.749(前週対比+8.918)
4.LEC 東京リーガルマインド様にコラムを掲載頂きました
各種国家資格や公務員試験受験指導から企業研修まで幅広いサービスを提供されている株式会社東京リーガルマインド様のウェブサイト上に、当社で紹介中の「ファシリテーションを重視したアメリカ生まれの協働的リーダーシップ術」のコラムが掲載されましたので下記リンクからチェックいただけますと幸いです。
https://partner.lec-jp.com/biz/topics/topics_35991.html