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日賑グローバルニュースレター第357号

1.Make White (?) America Great Again

 

公民権法制定後何十年もの間、連邦政府は実社会における差別をあぶり出すために統計データ分析を活用してきた。

その結果、住宅ローンの貸付審査、教育現場、警察・消防等の採用で見られた人種差別に関し、訴訟を通じて是正がなされてきた。

ワシントンポストは、そのような人種差別改善の動きをトランプ政権が逆行させる取り組みを報道した。

ここ数週間で、司法省は、黒人やラテン系住民の住宅ローン申請を組織的に抑制していたとされるアトランタの銀行との業務改善合意から撤退した。

また、教育省は、ネイティブ・アメリカンの生徒が白人の生徒よりも高い割合で懲戒処分を受けていたサウスダコタ州の学区との指導改善合意を打ち切った

さらに、連邦検察は、州および地方の警察(2020年にジョージ・フロイド氏が警官によって殺害されたミネアポリス警察を含む)に対する複数の人種差別是正合意を取り下げている

司法省の公民権局を率いるハルミート・ディロン女史によれば、現在同省では過去の全ての案件を精査しており、「法的に妥当でなく、バイデン政権下で『政治的に悪用』された」多数の人種関連案件をすでに却下・終了したと述べている。

「我々は、政治利用ではなく、正義の目的にかなう形で公民権法を執行します」と彼女は述べている。

これについて、マイノリティの公民権擁護を長年行ってきた非営利団体「リーガル・ディフェンス・ファンド」の上級政策顧問であり、イコール・プロテクション・イニシアティブの共同責任者であるアマレア・スミルニオトポロス氏は、「トランプ政権が目指しているのは、米国において平等を保障するために使用されてきた手法を破壊することだ」と警鐘を鳴らしている。

この手法とは、「差別的影響分析(disparate impact analysis)」と呼ばれるもので、差別の意図がなくとも組織が中立的な立場を取り続けると差別的な結果をもたらすことがあるという理論で、1971年の最高裁判決「グリッグス対デューク・パワー事件」で明示された。

ノースカロライナ州の企業の社内昇進試験の内容が黒人従業員の昇進を妨げているとのこの訴訟において、統計的証拠に基づき、「差別」が立証された

この法理論は、連邦規則に組み込まれ、議会によって雇用法にも明記されており、最高裁でも一貫して認められてきている

しかし、トランプ大統領は20254月、この「差別的影響分析」を「違憲」と宣言し、連邦政府による公民権規制、執行行為、和解案件の徹底的な見直しを命じた

その結果、冒頭の司法省や教育省の例の通り、性別、人種、障害に基づく差別に対処するために差別的影響分析に基づいて締結された政府合意や命令が次々と取り消されている

差別的影響分析」は、白人に対する機会の平等を否定し、割り当て制度(クォータ)に繋がる恐れがあるとして、保守派は長年その理論を否定的に捉えてきたものの、過去の共和党政権は、最高裁の判例や政治的リスクを理由に、この問題に深入りすることを避けてきていた

しかしトランプ大統領は、DEI(多様性・公平性・包括性)プログラムを「違法かつ非道徳的」と呼び、ホワイトハウス復帰直後にそれらを一掃する複数の大統領令を発出し、多様性担当部署の閉鎖とその職員の解雇を命じた

返す刀で4月に「差別的影響分析」に矛先を向けた際には、それを「個人の努力や成果を無視する有害な動き」と呼び、連邦機関に対し、当該理論に基づくすべての案件や合意を見直し、必要に応じて破棄するよう命じた

なお、最高裁は2015年の住宅ローン貸付に関する差別判断で、「差別的影響分析」の論拠を認めているが、その判決は54の僅差であった。

その後、最高裁判事は保守派多数となったため、似たような案件では違った結論に至る可能性もあると一部の保守派は期待しているという。

「トランプ政権が目指しているのは、最終的にこの問題を最高裁に持ち込み、その分析手法を排除させることだ」と、前述のスミルニオトポロス氏は懸念している。 

 

マーチンルーサーキング牧師の公民権運動は機会の不平等を是正する公民権法につながり、その結果を出すためにアファーマティブアクションのようなデータに基づく施策が進んできたが、マジョリティ側の白人男性からは“逆差別”の声が生じ、白人低所得者層の不満をトランプがうまく吸い上げていることはご承知の通りです。 

本来の敵は貧富の差であり教育の差なんでしょうが、そこを政権はうまく人種問題や性別・DEI問題にすり替えて求心力に用いています。 

先日のホワイトハウスでの南アフリカ共和国の大統領との会談の様子を見ると、トランプ自身の目指すものは白人によるガバナンス、コントローラビリティの確保であり、人口動態的に米国内での白人シェアが著しく減る状況が危機感となり、アメリカをして第二の南アのようにしないための国家作りを行っていると感じますが読者のみなさまはどのように感じておられるでしょうか?

 

2. 石炭火力発電所の閉鎖を阻止したトランプ政権

 

老朽化した石炭火力発電所を閉鎖するというミシガン州の計画にも拘らず、トランプ政権が同発電所の継続を命じたことをワシントンポストが報じた。

ミシガン湖東岸に位置し、運用開始から63年の歴史を持つこのJ.H.キャンベル発電所今閉鎖しても電力不足は生じないとみられていた。

当初この発電所は2040年までの稼働が計画されていたが、所有者であるコンシューマーズ・エナジー社は、地域社会との2022年の合意の一環として、また石炭からの完全移行計画の一部として、今年の閉鎖を選択していた

ただそれ以上に、早期閉鎖の主因は経済的理由であり、ガスや風力、太陽光の方がより安価に電力を供給できるためという。

ところが、トランプ政権は、中西部が不安定な風力と太陽光に過度に依存していて電力不足を起こしかねないと主張、エネルギー省のクリス・ライト長官は、当初531日に予定されていた同発電所の閉鎖を差し止めた

この命令により、同発電所は今後3か月間、もしくはそれ以上操業を続けることが求められることになる。

トランプ大統領は4月の大統領令で、ライト長官に対し、風力や太陽光で代替されようとしている大型の化石燃料発電所を閉鎖させないために必要な措置を取るよう指示を出している。

政権はキャンベル発電所の閉鎖阻止を正当化するために、北米電力信頼性協会(NERC)の報告書を引用している。

同協会は、電力網の崩壊を防ぐ準政府機関であり、中西部が今夏、電力逼迫に直面する可能性を警告している。

NERCの幹部は、トランプ政権の措置を歓迎すると述べている。

一方、この措置により、中西部の電力利用者の電気料金は石炭燃料の再調達、運搬や人員の再雇用などで数千万ドル単位の費用増大となると、ミシガン州当局は述べている。

「この(キャンベル発電所継続運用)命令は誰にとっても驚きでしたし、なぜこの発電所を選んだのか理解に苦しみます」と、電力会社を監督するミシガン州公益事業委員会の委員長ダン・スクリップス氏は述べた。

「この命令を望んだ者はいません。電力網の運営者も、発電所の所有者である電力会社も、州の規制当局も誰も望んでいませんでした。」

トランプは大統領1期目の際、州レベルのゼロエミッション目標の撤回を試みたが、大きな成果は得られなかった。

今回の彼のアプローチはヘリテージ財団による「プロジェクト2025」に一部導かれており、地域電力網でどのエネルギーを優先すべきかを連邦政府の権限で命じるという発想に基づいている。

5月30日の夜遅く、ライト長官はこの権限を使い、フィラデルフィア近郊にある1960年代のエディストーン発電所(ガスと燃料油を燃やす発電所)の廃止手続きを停止させた

再生可能エネルギーが電力供給を不安定にするという政権の見解に対し、多くの専門家は異を唱えており、バッテリーや高性能な送電システムの発展により、風力や太陽光に依存した電力網でも安定運用が可能だとしているが、ホワイトハウスは、太陽光や風力による発電は不安定で、AIなどによって急増する電力需要に対応できなくなると主張している。

ホワイトハウスは、エネルギー省に対し、電力網の新しい算定式を作成するよう指示しており、それは風力・太陽光プロジェクトといった気候変動への考慮を後回しにするもので、その結果、膨大な温室効果ガスが大気中に放出される可能性がある。

エネルギー省はまた、独立規制当局や電力網運営者から、一部の電力供給規則の策定権限を奪取した。

トランプはまた4月の命令で、州や市が掲げているクリーンエネルギーの目標値を「負担であり、イデオロギーに基づく」と断じ、司法省に対して、それらの目標を採用した最大25州に対する法的措置の準備を命じた。 

 

イーロンマスクがAIプロジェクトのために巨大なデータセンターをテネシー州メンフィスに設置するという計画に関し、大量の電力を消費することなど地元への影響が大きいことが話題になっているが、テック企業が相次いで巨額投資する高度なAIプロジェクトがどこまでの電力需要増大を生じるか、透明性や説明責任が求められますね。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  世界初の宇宙スーパーコンピュータを構成する衛星12基の打ち上げに成功した中国

中国は超高性能宇宙スーパーコンピュータ構築の為の衛星12基をロケットに載せて打ち上げることに成功している。

これは5月14日昼12時、北西部の江蘇省にあるチュチュアン衛星発射センターから打ち上げられた。

衛星は世界初の宇宙スーパーコンピュータになる、所謂、「三体コンピューティング(Three-Body Computing Constellation)」の一部として、全てインテリジェント・コンピューティング・システムを搭載していると見られている。

衛星ごとに毎秒744兆の演算が可能で、衛星同士の接続・通信を達成、全衛星が繋がれば、高度の演算処理が可能となると見られている。

今後、より多くの衛星を打ち上げて全衛星群を完成し、毎秒1京の演算も可能な能力を備える計画であるとし、基本的には、スーパーコンピュータとしての役割を果たすことができるとの期待も受けている開発である。

更に、この三体コンピューティングシステムを完成した後は、地上最高のスーパーコンピュータに先駆けて新たにコンピューティングシステムを宇宙に構築するという計画も立てている。

 

l  住宅価格上昇に中国本土からの不動産投資を警戒する台湾

台湾国内では、「出生率の低下は住宅価格に影響を与えないのか?」

「香港の住宅価格は深刻な出生率低下にも拘わらず依然として上昇中なのは何故か?」との声があり、

「近年、香港の出生率が1.2から0.7に低下し、台湾の出生率も1.18から0.89に低下、いずれも過去最低を記録している。

しかし、香港と台湾の住宅価格は上昇し続けている」との指摘もあり、域内、国内の少子高齢化現象は不動産市場には悪影響を与えていないとの見方をしている者もいるが、一方で、

「香港や台湾の不動産価格を支えているのは共に、中国の不動産投資があって支えられているのである」との声もあり、中国本土との付き合い方に懸念や疑問を持つ、台湾国民には、警戒感を示す者もいる。

 

(2)  韓国/北朝鮮                                  

l  在韓外国企業対応窓口設置

韓国の国民権益委員会は、在韓外国企業からの苦情を受け付ける専用窓口を開設したと発表した。

窓口の開設は、先月17日に開かれた在韓外国商工会議所の役員を対象とする政策懇談会での議論を受けた措置であるとされている。

同委員会のヤン・ジョンサム企画調整室長職務代理は、「企業経営には予測可能で一貫性のある行政手続きが何より重要である」

とし、今後も在韓外国企業と定期的にコミュニケーションを取り、企業活動のし易い行政環境を作ると述べている。

当然に、日本企業も対象となっている。

尚、参考まで、苦情は電子メール(acrc@korea.kr)と電話(044-200-7155・7832・7834)で受け付けている

 

l  海外の海軍の目を引く韓国の国際海洋産業展

釜山のBEXCOで5月28日に開幕した、「国際海洋防衛産業展(MADEX)2025」が開幕した。

HD現代重工業のブースでは軍服姿のサウジアラビア海軍の参謀総長とその一行が暫くの間、同社の社員から、無人機を主力として運用する未来型航空母艦「無人戦力母艦」についての説明を聞くといった場面も見られた。

サウジアラビアに続いて、軍服姿のフィリピン、バングラデシュ、ペルー海軍の高官らが同社のブースを訪れ関心を示していた。

輸出型駆逐艦・潜水艇などにも高い関心が寄せられていた。

 

l  韓国法人設立とソウル事務所開設を発表したオープンAI

対話型の生成人工知能(AI)の「チャットGPT」などを開発した米国の新興企業であるオープンAIのジェーソン・クォン最高戦略責任者(CSO)は5月26日、ソウル市内のホテルで開いた記者懇談会で、韓国に法人を設立し、数カ月以内にソウルに事務所を開設、韓国での事業を本格化すると発表した。

AI向けのインフラ構築などで韓国当局や韓国企業との協力を拡大する。

韓国政府や企業との協力を推進する為の人材採用を近く始めるとも発表している。

同社が支社を置いているアジア地域の都市はこれで、日本の東京とシンガポールに次いで韓国・ソウルとなる。

また、これを含めて同社がこの1年で支社を設置した都市は英国のロンドン、アイルランドのダブリン、ベルギーのブリュッセル、フランスのパリなど11都市である。

同社は韓国法人設立に先駆け、韓国政府系の韓国産業銀行と国内データセンターの開発、国内スタートアップの育成などに関する金融協力を発表しており、IT大手のカカオ、ゲーム大手のクラフトン、通信大手のSKテレコムとも先端AI技術の導入に関するパートナーシップも締結している。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,378.68(前週対比-11.45)

台湾:1米ドル/29.88ニュー台湾ドル(前週対比+0.07)

日本:1米ドル/144.00(前週対比-1.26)

中国本土:1米ドル/7.1942人民元(前週対比-0.0144)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,697.67(前週対比+105.58)

台湾(台北加権指数):21,347.30(前週対比-304.94)

日本(日経平均指数):37,965.10(前週対比+804.63)

中国本土(上海B):3,347.487(前週対比-0.885)