1.トランプ関税とサプライチェーンの米国内回帰の現状
ワシントンポストとABCニュースおよびマーケットリサーチ会社のIpsosが4月18日から22日にかけて行った共同世論調査によると、64%の回答者(無党派層では7割)がトランプ関税を支持せず、支持する割合は34%との結果となった。
また米企業の多くが、トランプ関税がもたらす不透明性は事業計画立案や新規投資計画を困難にしていると不満を述べている状況にあるという。
一方、トランプ関税を支持する企業の中で、サプライチェーンを米国内に設けることに成功し、結果を出している事例として、空港などのパブリックスペースのトイレによく見かける手洗い後の温風乾燥機を製造しているExcel Dryer社がワシントンポストの記事で紹介されていた。
同社はサプライチェーンとのすり合わせや顧客への迅速な対応のためには下請けや協力企業が近接しているべきとの考えから、2016年の第一期トランプ政権以前から米国内のサプライチェーン構築を進めていた。
そこに第一期トランプ関税、コロナ禍、そしてロシアのウクライナ侵攻という事態で国際的サプライチェーンの問題が生じ、そのサプライチェーンの国内化を加速することとなった。
Excel Dryerのサプライチェーン国内構築化努力の最後のチャレンジが温風モーターの供給で、長年中国製のモーターに依存していた。
それが、7年越しでようやくテネシー州にあるベンダーを見つけだしたものの、価格的には出荷費用を加えた中国製品価格より割高であることは事実であった。
そこに今般の第2次トランプ関税が、まず25%中国製モーターにかかることとなり、ここでExcel Dryer社はその調達先を中国から米国内に移す決心を後押しされたというストーリーとなっている。
中国のサプライヤーはアメリカまでの物理的な距離もこれありで、ひざ詰めのすり合わせや改善提案には非協力的であったようで、Excel Dryerにとっては今回のトランプ関税が、サプライチェーンの国内化のための最後のピースとなった模様。
ただし、この記事にはオチがついており、Excel Dryerに金型を供給する会社が用いるプラスチック製品は中国製品に依存せざるを得ない状況とのことである。
静脈を絶ったつもりでも中国との間で毛細血管が縦横無尽につながっている状況はサプライチェーンの底辺に近づくほどに顕著なのでしょう。
それにしても、売り手市場のアメリカの労働市場で、ただでさえ人件費が高騰する中、安い中国製品を排除していくことは明らかにアメリカの消費者の負担増となるのではないでしょうか?
2. 対米投資の皮算用で得点を狙うトランプ政権と政権追従+ロビーイングを強める米医薬品メーカー
日本でもTVニュース等で報道の通り、先週、トランプ大統領は、政権への支持を対米投資表明という形で示した内外の企業をホワイトハウスに集めて、その予定投資額を発表した。
ソフトバンクグループトップの孫正義氏もスピーチをしておられた。
今週、ホワイトハウスは“The Trump Effect”というタイトルの新たなウェブページを立上げ、この内外企業による投資予定額をトランプ大統領の功績として発信している。
トランプの政策は「米国の製造業、テクノロジー、インフラへの数兆ドル規模の新たな投資を引き起こした」と、そのサイトは主張している。
しかし、約束された対米投資内容を精査すると、一部の企業はすでにバイデン政権下を含め、以前から投資を決定していたことが明らかになっていたり、一部は通常の事業運営に伴う定期的な支出であったり、さらには具体的な支出の約束が伴っていないものもある状況をワシントンポストが報じた。
この”The Trump Effect”のリストには、複数の製薬会社による数十億ドル規模の製造投資の約束が含まれている点が1つの大きな特徴となっている。
彼らは、輸入医薬品への関税を課すというトランプ氏の脅しの影響を和らげようと、激しいロビー活動を展開していた。
それでもアメリカの製薬会社による生産ラインの海外移転に対するトランプや他の政治指導者たちによる批判は一貫して強いものがあることから、製薬企業各社が米国内での新たな生産を矢継ぎ早に発表した格好である。
その他の投資には、アップルやエヌビディアといったテック大手による5000億ドル規模の投資から、ヒューストン郊外で600万ドルの工場拡張を計画している、
プライベート・エクイティ所有の受託製造企業LGMファーマのような比較的小規模な投資まで幅広く含まれている。
ホワイトハウス報道官のクシュ・デサイ氏は「(過去の政権における口約束の投資)と実際の投資との違いが生じた理由は、“取引の達人”トランプ大統領が再びホワイトハウスに戻ったからです」
「規制の大幅緩和、エネルギーコストの引き下げ、関税の導入、そして民間部門との緊密な連携を通じて、トランプ政権は米国の偉大さを長期的に復活させるため、数兆ドルという歴史的な規模の投資の確約を内外企業から獲得しています」と、述べている。
このリストには、主要自動車メーカーであるステランティスが米国内の製造業に50億ドルを投資する計画が含まれており、イリノイ州ベルビディアにある工場を再稼働し、ピックアップトラックを製造する予定だと政権は述べている。
このプロジェクトについては、全米自動車労組(UAW)によれば、2023年の労使交渉の中で同社が約束したものであり、その後8月には開業の延期を示唆し、最終的には2027年の開業という当初の計画を再確認したとされている。
労組はこの動きについて、トランプ氏によるものではなく、ステランティス社の経営陣の交代によるものだと述べている。
これらの対米投資が実際の雇用や製品を生み出すまでにはまだ時間がかかり、その間に賃金上昇やインフレによる資材コスト高騰が加わると、インフレの連鎖が続きアメリカの消費者にとってはいかがなものかと思われます。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国・台湾
l 台湾最大野党の国民党による頼総統罷免の動き
台湾の最大野党である国民党は、頼清徳総統の就任から1年となる本年5月20日以降、罷免手続きを開始すると発表している。
台湾では、立法府に於ける激しい党派対立を背景に、与野党合わせて50人の議員を対象とした罷免運動が激化している。
野党が多数を占める台湾の立法府は113議席を占めている。
台湾検察は、国民党関係者を捜査し、罷免請願書には故人の署名なども偽造されていたと報告している。
台湾の国内では、中国人がビジネスと称して台湾国内に入り込み、実際には、「台湾人に中国本土と合併した方が良いと発言させる動きを強めている」との見方もあり、こうした中国本土の動きに国民党が連携しているのではないかとの見方も出始めている。
これを背景にして、台湾の政局が今後大きく揺れる危険性もある。
l インドからのチベット聖地巡礼を5年ぶりに認める中国政府
中国政府・外交部は、今夏にインドの巡礼者がチベットの聖地を5年ぶりに訪問出来るようにすると発表した。
中印両国の関係改善を背景とした動きであるとの見方も出ている。
中国のチベット自治区にあるカイラス山とマナサロワール湖は、チベット仏教やヒンドゥー教など多くの宗教の聖地になっているが、インドの巡礼者は2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大や中印両国の地政学的緊張の為、立ち入りが認められなくなっていた。
l 愛国買いが見られる中国株式市場
中国国内株式市場では、現在、「中国人投資家による愛国買い」が見られるとの見方があり、その背景には、「米国の対中制裁的対応」があるとの見方となっている。
米国のトランプ大統領が展開する「相互関税」の詳細が発表され、米中貿易戦争に拍車がかかった後は、更に、中国国内株式市場に投資しようとする中国人投資家が更に増えるとの見方も出ている。
(2) 韓国/北朝鮮
l 米中摩擦の間に受注を伸ばす韓国造船業界
HD韓国造船海洋・三星重工業など国内造船会社は、新たに計3兆ウォン規模のコンテナ船受注契約を獲得したと発表している。
HD現代造船は4月23~26日、計2兆5,354億ウォンに達するコンテナ船22隻をアジア、オセアニア素材船会社から受注したと明らかにしている。
米中摩擦が拡大する中、ライバルである中国の造船受注に代わって、韓国勢が良い受注をしているとの見方が出ている。
l 5千トン級の新型多目的駆逐艦を収益させた北朝鮮
北朝鮮の朝鮮中央通信は4月26日、5千トン級の新型多目的駆逐艦の進水式が25日に西部の南浦市の造船所で行われ、キム・ジョンウン総書記が出席したと報じている。
キム総書記は演説で、「我が国を海洋強国として急浮上させる突破口を開いた」と強調している。
韓国が急速に軍事力を強化していることに対する対抗でもある。
[主要経済指標]
1. 対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,433.70(前週対比+47.44)
台湾:1米ドル/32.26ニュー台湾ドル(前週対比+0.29)
日本:1米ドル/142.68(前週対比+1.13)
中国本土:1米ドル/7.26827.2864人民元(前週対比+0.0131)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,565.42(前週対比+19.12)
台湾(台北加権指数):20,232.63(前週対比+359.90)
日本(日経平均指数):35,839.99(前週対比+134.25)
中国本土(上海B):3,286.655(前週対比-8.405)
4.中東フリーランサー報告36
三井物産戦略研究所元研究員の大橋誠さんから掲題の報告書を頂きましたので皆様に共有させていただきます。
大橋さんからは下記のイントロメッセージを頂いております。
略2カ月ぶりになりましたが、中東フリーランサー報告36をお送り致します。今回は以前から気になっていた21世紀の湾岸鉄道開発状況を纏めてみました。いつもの内容とは毛色が違いますが、鉄道大国と自賛する日本の手が届かなくなりつつある湾岸の鉄道網の大発展ぶりに目を向けて貰いたいと思った次第です。