· 

日賑グローバルニュースレター第352号

1.トランプとの関係が諸刃の刃となりつつあるイーロン・マスク

 

先週、トランプ大統領が個人的にテスラの電気自動車Model Sを購入し、テスラを経営するイーロン・マスクを応援する姿勢をメディアに示したことは日本の報道でも数多く見られたが、政治の分断が消費者の購買行動にも分断を与えかねない状況をワシントンポストが報じた。  

ホワイトハウスでのこのテスラ支援イベントは、株価急落、投資家の不満、消費者のボイコット、さらには国内各地の施設での時に暴力的な抗議活動に直面している同社への応援、特に保守派へのテスラ支援を促すメッセージとなった。

ところが、そのイベントは、マスクとトランプの深まる同盟関係がマスクに「恩恵」と同時に「重荷」ももたらす様子も浮き彫りにした。 

トランプとその側近たちは、テスラに対する破壊行為を行う者たちを脅し、反テスラの抗議者を「国内テロリスト」と位置付けると述べ、司法長官のパム・ボンディはFox Businessのインタビューで、「テスラに手を出すつもりなら、覚悟しておけ。我々が追い詰める」と語っている。

また、共和党の政治家やトランプ支持派のインフルエンサーたちは、支持者にテスラの電気自動車を購入するよう呼びかけている。

X(旧Twitter)で金曜日にテスラを指さす写真とともに、テッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)は「これまで見た中で一番クールな車かもしれない」と投稿している。 

このテスラ応援キャンペーンで、「テスラを買う」という検索が伝統的な保守派の多い州で増加したとGoogleトレンドのデータは示しており、テスラの株価もわずかに回復した。

しかし、この動きはテスラの初期の成功を支えたリベラルな顧客を遠ざけるリスクも抱えている。 

ニューヨーク大学スターン・ビジネスと人権センターの副所長であるポール・バレット氏は、「マスクがMAGA(トランプ支持派)を強く支持し、さらにその先頭に立つことで経済的な利益を得られると見込んでいるのは、控えめに言ってもリスクが高い」と語る。

マスク氏の企業は、多くの一般市民の目にはあまりにも汚名を着せられた存在となり、企業の評判に取り返しのつかない損害を受ける可能性がある」と。

マスクとトランプの同盟関係は、彼が2024年にトランプや他の共和党候補者の選挙支援に約29000万ドルを投じて以来、さらに強まっており、その結果、繰り返しトランプと共に公の場に姿を現すようになり、また、連邦政府効率化の「DOGE」を率いる形でメディアへの露出が高まっている。 

しかし、ワシントンポストとイプソスの世論調査によると、アメリカ国民のほぼ半数が、連邦政府内でのマスクの働きに否定的な見方を示している 

一方で、製薬会社の経営者であり、オハイオ州知事選候補者でもあるヴィベック・ラマスワミ氏を含む一部の右派のビジネスリーダーたちは、保守層だけをターゲットにした企業が大成功を収める可能性があると主張する。 

実際、Fox Newsは顧客を保守層に絞ることで成功を収めている

また、投資家のピーター・ティールや、ドナルド・トランプ・ジュニアと提携する投資会社のパートナーであるオミード・マリクなども、"反ウォーク(反リベラル)""並行経済"と呼ばれる新たな市場を掘り起こすことで成功は得られると主張する。 

しかし、一部のアナリストは、保守派からの支持だけではテスラの低迷を覆すには不十分だろうと指摘している。

テスラの株価は、株式市場全般の下落を約30%も上回るペースで下がっている

トランプ政権はテスラとは別に、マスクのインターネット事業であるStarlinkも支援しているように見える

一方、民主党の上院議員4名が米国政府倫理局(U.S. Office of Government Ethics)に対し、マスクとトランプによるテスラの宣伝活動について調査を求めている 

下院監視委員会の筆頭メンバーであるジェリー・コノリー議員(バージニア州選出・民主党)は、水曜日にトランプの顧問弁護士デイビッド・ウォリントン氏宛てに書簡を送り、潜在的な倫理違反について質問した。 

ホワイトハウスには326日までの回答が求められている。 

アメリカ国民は、食料品や保育、住宅費のやりくりに苦しんでいる。そんな中で、トランプ大統領が打ち出した経済危機への解決策が、“テスラの株価を押し上げることを狙った自動車の宣伝”とは驚くべきことだ。しかも、テスラを率いるのは、トランプ氏の最大級の選挙献金者であり、現役の連邦政府職員でもあるイーロン・マスク氏なのだ」 とコノリー氏はその書簡の中に記したという。

政治と共に市場も本当に並行経済などと称して二極化するのか、にわかには信じがたいですね。 

特に、電気自動車といったリベラルな州でポピュラーな製品を保守州だけで儲けようとするとはマスク自身も思っていないでしょうね。

 

2. 米国の観光業を直撃しているトランプの関税政策と敵対的発言

 

トランプ大統領によるカナダやメキシコ、EUとその構成国への挑発的乃至敵対的な発言や関税政策が米国観光産業に悪影響を及ぼしている様子をワシントンポストが報じた。 

カナダ人はフロリダのディズニーワールドや米国内各地での音楽フェスへの旅行を控え、ヨーロッパ人はアメリカの国立公園を避け、中国人旅行者は代わりにオーストラリアで休暇を過ごしているという。 

観光経済研究所(Tourism Economics)によると、今年のアメリカへの国際旅行は5%減少すると予測されており、旅行業界に640億ドルの損失をもたらす見込みである。

同研究所は当初、海外からの旅行者が9%増加すると予測していたが、先月末に「トランプ政権の分断を招く政策や発言」を反映して予測を修正した。 

関税だけでなく、相手を見下したような態度も原因となり、訪米需要が弱まっている状況です」と 観光経済研究所の社長アダム・サックス氏は述べる。

政府のデータによると、今年2月のアメリカへの海外旅行者数は前年比で2.4%減少した。

特に、アフリカ(9%減)、アジア(7%減)、中央アメリカ(6%減)からの旅行者が大きく落ち込んでいる

さらに、大統領の批判の的となることが多い中国からの旅行者は11%減少した。

サックス氏によると、国際観光は2017年~2020年のトランプ前政権中にも大きく減速し、約200億ドルの収益が失われている

これは新型コロナによる混乱が起きる前の時点のもの。

当時は、メキシコ、中国、中東からの観光客が減少し、政権による渡航禁止措置や関税、移民に対する強硬な発言がマイナスとなっていた。 

今回は、アメリカへの最大の旅行者供給国であるカナダが訪米拒否の先頭に立つ様相を見せている。

トランプは数週間にわたり「カナダを51番目の州にしたい」と発言し、これを受けて、カナダの元首相ジャスティン・トルドー氏は、カナダ国民に対し「アメリカで休暇を過ごさないように」と呼びかけた

宿泊・レジャー業界は、アメリカの労働雇用市場全体が成長している中で、2か月連続で雇用減少を記録している。

また、ここ数週間で経済の警鐘が次々と鳴り響いている。 

新たな関税が導入され、物価上昇への懸念が再燃しているほか、トランプやイーロン・マスクの「連邦政府効率化省(DOGE)」による政策の不確実性が、企業や家庭の将来計画を難しくしている。 

アメリカ国民の経済への不満も3か月連続で悪化しており、3月には消費者心理が2年以上ぶりの低水準に落ち込んだ 

大企業のCEOたちはここ数年で最も前向きな見方を示しているものの、中小企業からは経済の不透明さへの不安の声が出始めている 

金融市場も不安定で、ダウ平均株価は過去2年間で最悪の週を記録している。 

記事では日本の旅行者の動向には触れてませんでしたが、42日には日本にも例外なく関税増税がなされるとなれば、少なくとも観光では円安も有之で余計に訪米意欲が減退しそうですね。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  中国本土を「境外敵対勢力」と認識する頼総統

頼清徳総統は3月13日、中国本土を、「境外敵対勢力」とする認識を示している。

この言葉は、非平和的な手段で台湾に危害を加えると主張している国や組織などを指す言葉として、台湾の法律で定められているが、中国本土がこれに該当すると名指しするのは極めて異例であり、台湾国内で中国本土勢力が台湾国民に対して、中国本土と合併したいと言わせるような工作をしているのではないかとの疑念から中国本土に対する厳しい目が台湾国内では強まっている。

 

l  台湾キャベツの日本輸出

台湾政府は、野菜や果物の輸出に関連、「3月6日にキャベツ18トンを日本に輸出、台湾産キャベツの品質が高く評価されている。

引き続き、輸出が拡大される見込みである」としている。

台湾政府・農業部は、日本ではキャベツの価格が高騰しており、豊作となった台湾にとっては輸出の好機であるとの見方を示している。

台湾全土のキャベツの作付面積は約8,000ヘクタールあり、今シーズンはキャベツの生育に適した気候だった為、収穫量が例年の約1.2倍に伸びているとし、今後も輸出チャンスを探りたいとしている。

日本の他、カナダやシンガポール、ドバイにも輸出するとしている。

 

(2)  韓国/北朝鮮                                  

l  台湾TSMCの世界シェア拡大に危機感を募らせる韓国

世界1位のファウンドリ(半導体委託生産)メーカーとなっている台湾の台湾積体電路製造TSMCが昨年第4四半期の世界市場シェアを更に拡大したとの見方が韓国で広まり危機感が出ている。

市場調査会社であるトレンドフォースによると、TSMCの昨年第4四半期のファウンドリ市場シェアは67.1%となり、第3四半期より2.4%ポイント上昇した。

一方、韓国の三星電子の同期間のシェアは9.1%から8.1%に1%ポイント下落している。

当該両社の格差は第3四半期55.6%ポイントから第4四半期に59%ポイントに拡大したことになる。

尚、中国本土のファウンドリメーカーであるSMICのシェアも昨年第3四半期の6%から第4四半期には5.5%に落ちている。

韓国国内では、「韓国の半導体業界は、米国が作った技術模倣するだけである。韓国のR&DにはRなくDだけある」

とロボット工学の教授であるキム・サンベMIT教授が発言していることを注視している。

更に、キム教授が、「次はフィジカルAI時代になるだろう」とし、人工知能(AI)を搭載し、人間と同じ物理空間で動くロボットや自律走行車などが本格登場するとコメントしたことを受けて、韓国勢にビジネスチャンスがあるのか否かも注視している。

 

l  インドネシア向けKF21戦闘機の分担金変更

韓国が、インドネシアと共同で開発している韓国型戦闘機 KF21(通称「ポラメ=若鷹」)のインドネシア側の分担金を当初予定の3分の1に減額することを決めたことで、その悪影響が開発企業の韓国航空宇宙産業(KAI)に及んでいる。

投資銀行(IB)業界によると、韓国政府はこれまでの分担比率を考慮し、インドネシアの未払い分4,700億ウォンについて韓国政府が3,500億ウォン(74.5%)、KAIが1,200億ウォン(25.5%)という形で負担する案を検討している。

一部では、KAIがもっと負担すべきであるという意見も出ているという。

 

l  次世代宇宙展望鏡打ち上げが再度遅延

韓国が開発に参加した米国・航空宇宙局(NASA)の次世代宇宙望遠鏡スピアエックス(SPHEREX)発射が再び延期された。

スペースエックス発射体ファルコン9の離陸準備に問題が生じ、発射が10日以上遅れている。

 

l  13年ぶりの高水準の自殺者数

昨年、韓国で自ら命を絶った人が、2011年以降13年ぶりの高水準となった。

男性が女性の2倍以上で、年代別では50代の割合が最も高かったと報告されている。

これは、韓国生命尊重希望財団と韓国政府・統計庁が2月26日に発表したものでありそれによると、昨年1~12月の「故意的な自害」による死亡者数は1万4,439人(暫定)となり、昨年1年間で、毎日およそ40人(正確には39.5人)が自ら命を絶ったことになる。

昨年、自殺した人の数は前年の1万3,978人よりも461人(3.3%)増加した。

2年連続で前年を上回り、過去最多を記録した2011年(1万5,906人)以降、13年ぶりの高水準となったと報告されている。

人口10万人当たりの自殺者数を示す自殺率は28.3人(2024年の住民登録人口のうち暦の年央時点の人口基準)と推定され、2013年の28.5人以来、11年ぶりの最高値となっている。

 

l  日本進出を進める韓国ファッション通販大手ムシンサ

韓国のファッション通販大手であるMUSINSA(ムシンサ)は3月6日、東京・表参道に2~4日の期間限定でオープンしたポップアップストアが盛況のうちに終了したと発表している。

ムシンサが日本で単独ポップアップストアを展開したのは初めてである。

自社コスメブランドの「ODDTYPE(オッドタイプ)」「Whizzy(ウィッジー)」「R&R Beauty(レストアンドリクリエーションビューティー)」の商品を販売した。

主に10~20代の女性2,000人以上が訪れたと報告している。

同社は、「海外で初めて開催した単独ポップアップストアが現地の顧客から好評を得て、ブランド競争力が認められた。

グローバル流通チャンネルの多角化を通じた成長の可能性を確認した機会となった」とコメントしている。

 

l  ザ・ピンクフォンカンパニーの日本進出計画

幼児・子ども向け教育ブランド「ピンキッツ」を展開している韓国コンテンツ企業のザ・ピンクフォンカンパニーは、人気キャラクターである「ベイビーシャーク)」の誕生10周年を迎え、日本法人設立などの内容を盛り込んだ成長戦略を発表した。

同社は米国、中国本土、香港、シンガポールに続き5番目の海外法人を日本に設立し、キャラクター事業を強化するとしている。

IP(知的財産権)競争力と高品質なコンテンツを基盤にコンテンツの配給、ミュージカルなどの公演、各種提携事業を展開する計画であるとしている。

日本法人のトップはチュ・ヘミン事業開発総括取締役が兼任する。

各IPの新規コンテンツも年内に公開する。

アニメーション映画シリーズである「ピンクフォンシネマコンサート」の続編を公開するほか、「ベイビーシャーク」10周年を記念したロンドン交響楽団とのコラボレーション、ポップアップテーマパークなど多様なコンテンツを発表する予定となっている。

 

l  日韓ナノ共同開発進展中

韓国国内では、「日韓共同研究チームがナノメートル単位の大きさの分子レベルで起きる現象をリアルタイムで観測、制御する技術を開発し、これを通じて分子の量子状態制御をリアルタイムで行うことにも成功した」と報道されている。

韓国の光州科学技術院などは3月7日、同院のキム・ユス教授らが日本の大学や研究機関と共に出したこれら研究の成果を米国の科学誌である「サイエンス」に発表したとコメントしている。

これにより多様な光学現象を精密観測し操作することが出来、これと関連した技術である有機ELや太陽光パネルなどの効率を高める可能性を開くことが期待されているともしている。

研究には光州科学技術院の金教授らのほか、ウル山大、日本の理化学研究所、横浜国大、東京大、浜松ホトニクスなどが参加したとも報告されている。

研究チームが観測して制御した分子と電極の間の電荷が移動する現象は、様々な化学反応を起こす基本的な分子科学現象の一つであり、移動過程で電子が注入された負電荷や正孔が注入された陽電荷を持つ電荷状態あるいは二つが共存する励起子のような過渡的な中間状態が形成されるものと期待されている。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,455.11(前週対比-7.91)

台湾:1米ドル/32.98ニュー台湾ドル(前週対比-0.12)

日本:1米ドル/148.75(前週対比-0.92)

中国本土:1米ドル/7.2324人民元(前週対比+0.0140)

 

2.       株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,566.36(前週対比-9.80)

台湾(台北加権指数):21,968.05(前週対比-747.38)

日本(日経平均指数):37,053.10(前週対比-651.83)

中国本土(上海B):3,419.562(前週対比+38.464)