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日賑グローバルニュースレター第327号

  1. トランプ勝利を見据えて現実路線を採ろうとする反中絶活動組織 (ソース:ワシントンポスト)

 

トランプ前大統領は共和党でありながら、中絶を禁止する連邦法制化や妊娠6週間からの中絶禁止といったアイオワ州の州法での取り締まりには反対している。 

トランプが反対する理由には同様の厳しい規制を行おうとしているフロリダ州知事で共和党大統領候補のデサンティス候補を追い落とすことも含まれていた。

このトランプの発言に対し、Pro-Life AmericaStudents for Lifeといった従来共和党候補を支援してきた反中絶活動組織は昨年までは強く反発し公けにトランプ批判を行ったり、トランプの演説会場で“Make Trump Pro-Life Again”というプラカードを掲げるなどしていた。 

ただ、トランプ陣営からすれば、共和党大統領候補の地位はほぼ手中に収めており、今年11月の本選で勝利するためには有権者の関心の高い中絶問題に関し、曖昧戦略で臨むことが得策と考えている。

即ち、共和党支持層の中でも中道寄りの女性票や無党派層そして民主党支持層のなかの反バイデン票を取り込むには反中絶のスタンスを強く示すことは得策ではないと判断しているとみられている。 

実際、保守派支持層に対しては、自らが大統領であった際に保守派の最高裁判事を3人も任命した結果、従来の中絶の合憲判断を違憲に覆させた実績をリマインドし、「(反中絶に関しては)自分はやるべきことはすでにやっており、後は各州で対応すればよい」と告げているようである。 

バイデン陣営にとっては中絶問題は、左派から中道まで広がる民主党支持層の求心力を高め、投票率も高め、本選勝利への大きな原動力となる

従い、トランプとの二択における大きな判断基準とすべく数十億円もの選挙資金をつぎ込んで広告を打ちトランプが大統領となれば女性の権利にとってかつてない危機となりかねないと喧伝している。  

かかる状況下、前出の反中絶活動組織は今年に入りトランプが大統領となることを前提として、かつ分裂する議会では反中絶法といった超保守的な法制を通すことは事実上不可能であるとの判断から、2025年のトランプ新政権の保健福祉省と司法省に対し中絶を規制する現実的な働きかけを行う戦術に切り替えている。 

前者には医薬品を承認する米国食品医薬品局(FDA)があり、そこでミフェプリストンといった中絶用薬品の使用を厳しく取り締まったり、もともとの承認に遡ってそれを取り消させたりすることまで視野に入れている。 

医薬品は人間の健康にかかわることから、FDAは通常政治問題には関与しないが、前例や伝統を壊すトランプなら承認取り消しも成し遂げられるとの期待が強い。 

司法省に関しては、中絶薬を郵送することを禁じるComstock法が1800年代に法制化されたものの今日まで休眠状態にあったものを、トランプ政権の司法省でその執行をよみがえらせるというもの。 

デサンティス候補はこれら反中絶活動組織の当初の法制化の主張を全面的に取り入れていたが、同候補に勝ち目はないとみたこれらの反中絶組織は、プロライフよりもプロトランプの姿勢を打ち出し2025年のトランプ政権を待つ姿勢をとっている。

プロトランプを広言する支援者の共通の理由に、「彼は約束したディールを必ず行う」というその実行力を語っている。

 

2.好調なまま新年に入った米国経済

 

昨年12月の米国の新規雇用者数は216,000人、失業率は3,7%であった。 

連銀による一連の政策金利上昇でインフレと共に過熱気味の労働市場もクールダウンすると見られていたが、まだ熱を保っている様子をワシントンポストが報じた。 

昨年1年間では270万もの新規雇用が生まれ、その数は2021年と2022年よりは小さいものの、パンデミック以前の4年間(要はトランプ政権時)のどの年よりも多い

失業率が25カ月間連続で4%未満であったのは過去1960年代以来初めてのことである。

平均時給賃金の上昇率もインフレ率を上回り続けている(過去12か月で4.1%の賃上げ、平均時給は34.27ドル。一方、11月のインフレ率は3.1%) 

これらの統計値はバイデン政権にとっては政治的に大きなプラスといえる。

一方、株式市場はこの新規雇用者数の発表に微妙な反応を示した。 

というのも、労働市場の過熱が止まり、景気減速の予兆が見られれば連銀が今春に利下げを行う可能性が高まり、それはとりもなおさず株価にプラスとなるが、労働市場にその予兆が感じられなかったため。 

サービス業、特にレジャーやホスピタリティ分野の新規雇用が増え続け、次いで輸送・倉庫業といった人手を必要とする分野での賃上げの伸びが二ケタ台と大きい。 

ただ、二桁台の賃上げ上昇率が続けばまたインフレに火をつけかねず、連銀の利下げを留まらせることになりかねない。

一方、順調に労働市場に戻ってきていた元求職者たちが、12月にはまた労働市場を去り、労働参加率が62.5%に下がったという事実も連銀を悩ませているという。

いずれにせよ、強い労働市場と、継続的な賃上げが個人消費を押し上げ、米国経済を強く下支えしており、それがまた労働市場でも弱者と言われる黒人の失業率が4.7%とかつてない低さをもたらし、また女性のかつてない高い労働参加率をもたらしている。 

労働市場のけん引力が、多くのエコノミストが予想していた景気の減速をかわす力をもたらしているが、さすがに今年こそ労働市場の過熱は収まると多くのエコノミストが予想する。

実際、労働統計局のデータでは、昨年11月の新規求人者数は減少傾向にあり、採用率は2019年のパンデミック前よりも大きく下がっている。 

但し、労働省のデータではレイオフの数はパンデミック前よりも少ないままであり、失業保険新規受給者数もかなり低いところに留まっている。 

これはパンデミック期間中にレイオフした後に景気が戻ってから採用を再開しても労働市場の過熱でタイムリーな採用ができなかった教訓によるものとみられている。 

ということで新年に入っての米国の景気も労働市場もまだ好調を継続しているが、後者がクールダウンしていることは間違いなく、連銀がどの時点で利上げから利下げにシフトして景気と雇用の継続を持続させようとするかが注目される。 

ただ、エコノミストは連銀の差配にはリスクを見ず、むしろ国内政治分断による連邦政府の閉鎖や、地政学的リスクが経済にもたらす悪影響のほうを取り上げていて、その意味では米国経済自身は当分安泰のようである。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  8年間の成果を誇る蔡英文台湾総統と世論調査でリードを保つ頼清徳副総統

蔡英文総統は元旦の新年の演説で、「現在の台湾は世界に認められ、世界を引きつけることができるようになった」と主張し、8年近い任期の最後の元旦にその成果を誇った。

また、中国本土に対しては、「平和を維持する責任を共に果たし、健全で秩序ある交流を再開したい」と平和的な呼びかけを行っている。

台湾のニュースサイトである「美麗島電子報」が発表した2024年1月の台湾総統選の世論調査結果では、与党・民主進歩党(民進党)候補の頼清徳副総統と蕭美琴氏のペアの支持率は40.0%で首位となっている。

2位は最大野党の国民党候補の侯友宜・新北市長と趙少康氏のペアで28.9%である。

頼氏と侯氏の差は11.1ポイントと、前回調査の9.0ポイントから拡大した。

野党の台湾民衆党候補のカ文哲・前台北市長と呉氏のペアは17.6%で3位となっている。

 

l  中国経済回復のための消費者金融規模拡大

習近平国家主席は、毎年恒例の新年の挨拶を、国営中央テレビ(CCTV)などを通じて発表した。

コロナ後も厳しい状況が続く経済について回復基調の維持を訴える内容で、習近平政権の危機感が反映されていると見られている。

尚、人民の生活に寄り添う姿勢を示す演出もあったと報告されている。

その一例として米国のボストンコンサルティンググループ(BCG)が発表した報告書によると、中国の消費者金融市場規模は2027年までに25兆人民元に達し、今後5年間の年間成長率は約7パーセントに到達すると期待されている。

当該報告書によると、中国本の消費者金融業界の顧客数と普及率は頭打ちになっているが、既存顧客の信用規模の拡大がこの分野の発展を後押しする原動力になるとの見方をしている。

 

l  軍の綱紀粛正と低迷が続く中国の製造業

昨年末、中国の全国人民代表大会(全人代)が、軍幹部ら9人の代表資格を取り消すと発表、新しい国防相が任命されたことはご報告申し上げたが、これに先立ち、軍に深く関わる国営企業の関係者3人が公職を罷免されるなど、こうした一連の動きは、前国防相らの解任劇との関連も含めて、「人民解放軍内部の汚職摘発に関連する動き」と捉えられており、この異例の汚職摘発の動きは更に広がる可能性があると見られている。

経済面に目を転じると、中国の製造業活動の主要指標は、好不況のラインである50ポイントを3カ月連続で下回っている。

2023年12月の購買担当者指数は49となり、11月から0.4ポイント低下している。

国家統計局は、指数を作成する為に製造業者3,200社を対象に調査を実施しており、50を超える数値は成長を示し、50を下回る数値は縮小を示すとされている。

中国の内需は、不動産セクターの長期低迷と雇用市場の低迷により停滞しており、輸出関連受注は低迷している。

 

(2)  韓国/北朝鮮

 

l  過去最高となった韓国向け対外直接投資(FDI

韓国に対する昨年の外国人直接投資(FDI)申告額は327億2,000万米ドルを記録し、過去最高となった。

半導体、二次電池など電機・電子分野と金融・保険などのサービス業を中心に外国人投資が増えた影響が大きかったと分析されている。

韓国政府・産業通商資源部が示したデータである。

FDIは申告基準で2020年が207億5,000万米ドル、2021年が295億1,000万米ドル、2022年が304億5,000万米ドル、昨年が327億2,000万米ドルとなっており、この4年間で57.7%増加したとも報告されている。

                                        

l  韓国の最大輸出市場が20年ぶりに中国から米国へカムバック

韓国にとって、米国が20年ぶりに中国を上回り、月間基準ではあるが、最大輸出市場(月別基準)にカムバックしている。

中韓間で活発であった国際分業がサプライチェーン再編過程で揺らぐ中、昨年は比較的好況をキープした米国経済に対して、韓国企業の対米輸出が再び拡大しているのではないかとの見方も出てきている。

対米輸出が増え、対米貿易収支の黒字は2002年以降21年ぶりに黒字化、一方、対中貿易は中韓国交樹立の翌年の1993年から黒字を続けてきたが昨年、31年ぶりに赤字となり、その貿易収支赤字規模も180億米ドルに達し、原油輸入の3分の1以上を占めるサウジアラビアに次いで、国別では、中国が韓国にとっては2番目に大きい貿易収支赤字相手国となっている。

 

l  過去最高を記録した2023年の韓国車の対米輸出

2023年に米国に輸出された韓国国産車は、8年ぶりに100万台を突破し、歴代最大輸出実績を記録したものと見られると報告されている。

米国は、韓国の全国産車の輸出のうち占める割合が60%に迫る最大輸出先となっている。

韓国自動車モビリティー産業協会によると、2023年1~11月に米国に輸出された自動車は計117万2,612台となっており既に100万台を突破、1986年、小型車「エクセル」を輸出して韓国自動車産業が米国に進出した後、最高記録となっている。

米国輸出台数が100万台を超えたのは2015年(106万6,164台)以来8年ぶりである。

また、韓国国内では、「昨年、過去最高の輸出額を記録した韓国完成車メーカーが相次いで年間販売台数記録を打ち立てた」と報告されている。

即ち、現代自動車、起亜自動車、韓国GM、KGモビリティー(旧:双竜自動車)、ルノー・コリアの韓国完成車メーカー5社では1月3日、昨年799万1,214台を国内外で販売したとしている。

韓国国内販売は145万2,051台、海外販売は653万9,163台で、前年よりそれぞれ4.7%と8.9%の増加となっている。

販売台数1位の現代自動車は昨年、国内76万2,077台、海外345万4,603台、合わせて421万6,680台を販売し、2022年より6.9%増え、現代自動車グループの起亜自動車は国内外で308万5,771台を販売し、1962年の創業以来、最高の販売実績を上げている。

現代自動車・起亜自動車の両社は昨年730万2,451台を販売し、トヨタ、フォルクスワーゲン・グループに次いで世界販売3位が有力視されている。

現代自動車・起亜自動車は目標販売台数を約744万3,000台としている。

 

l  回復基調に乗った韓国製半導体輸出

韓国の2023年12月の半導体輸出は前年同月対比22%増の110億米ドルを記録、グローバルな需要回復に伴って、韓国の半導体輸出も回復傾向に入ったとの声が聞こえ始めている。

そして、韓国の主力産業である、この半導体業界が長い不況のトンネルを抜け出していけば、韓国経済も回復するとの期待感も出ている。

グローバル景気の低迷と米中半導体争いによって半導体景気が大きく悪化、韓国の半導体輸出も減り、三星電子・SKハイニックスなど国内企業も業績を悪化させたが、最近の半導体価格の反騰もあり、輸出も20%以上増加している。

特に人工知能(AI)関連半導体需要が増加し、国内企業が関連新技術と製品を相次いで公開し、韓国半導体全盛時代が今年から再び始まるという期待が高まっている。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,317.71(前週対比-23.31)

台湾:1米ドル/30.98ニュー台湾ドル(前週対比-0.32)

日本:1米ドル/145.19(前週対比-4.19)

中国本土:1米ドル/7.1530人民元(前週対比-0.0552)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,578.08(前週対比-77.20)

台湾(台北加権指数):17,519.14(前週対比-411.67)

日本(日経平均指数):33,377.42(前週対比-86.75)

中国本土(上海B):2,929.183(前週対比-45.752)