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日賑グローバルニュースレター第322号

1.来年の選挙に向けて生成AIの有権者への影響を気にする米国の政治とメディア

 

生成AIに対し「2020年の大統領選に不正はあったか?」との問いに、ChatGPTやグーグルのホーム、アップルのシリは様々な根拠を示しつつ、「不正はなかった」との言説を紹介するのに対し、アマゾン社のボイスアシスタントのアレクサ保守系情報ソースのRumbleなどを参照しつつ、「2020年の大統領選は盗まれた」と回答していることをワシントンポストが取り上げた。 

現在7千万台を超える数のアレクサが米国で出回っている

アマゾン社では2020年の選挙の際に、アレクサが信頼のおけるニュースソースとなると喧伝していた。 

ワシントンポストからの指摘に対し、アマゾン社は、「そうした回答は数少ないエラーで、直ちに修正されており、選挙期間中はロイターやBallotpediaRealClearPoliticsといった信用のおけるソースと協働している」と回答。 

その後、ワシントンポストが再度同じ質問をアレクサに対し行ったところ、「申し訳ありませんが、その質問にはお答えできません」との回答であったという。

一方、質問の仕方を変えるとやはり2020年の選挙に不正があったと回答する。ただ、誰が勝利したかと尋ねると「民主党のジョー・バイデン」と答える。 

2024年には7500万人以上のアメリカ在住者が月に最低一度はアレクサを使用するとみられている。 

アレクサは他のボイスアシスタント装置と同様ニューラルネットワーク技術を利用、利用者の口頭質問の内容を文書翻訳し、関連性の高い情報をソースを紹介する形で回答する。

なぜアレクサだけこのような状況に陥っているかワシントンポストなりに調べたところ、幾つかの要因があるようである。 

1つは下院与党共和党の司法委員会のジム・ジョルダン委員長(オハイオ州選出)がアマゾン社のアンディ・ジェシー社長を今年2月に召喚し、バイデン政権が同社がオンライン上の情報を検閲することをアマゾンに強制しているのではとの嫌疑の圧力をかけたこと。 

もう1つはその影響かどうかは別として、アレクサの開発者が情報ソースを従来よりも広く、極端に左派、右派のソースにも依存するようにしたこと。 

そして3番目の理由が、アレクサが製品改良の狭間の時期にあるということ。 

いずれにせよ、政党、政権がこうしたAIの情報ソースを気にしていることは間違いない。 

因みに、民主党のエイミー・クロバチャー上院議員(ミネソタ州選出)がChatGPTに対し、「ミネソタ州の指定投票所のブルーミントンが投票者で混雑して時間がかかりそうな場合、どうすればよいか?」と尋ねたところ、ChatGPTは「1234 Elm Street(の会場)に行ってください」と回答したと。

ところが1234 Elm Streetという住所自体が存在しない、と同議員は説明、仮にこのやりとりが投票当日になされたばあい、有権者の混乱が想定されると指摘。 

特に投票率が上がるほど有利になる民主党にとっては由々しき状況ともいえる。

 

2.バトンリレー景気のアメリカ経済

 

9月の米国の新規雇用者数はエコノミストの予想の17万人をはるかに超え、336,000となった。 

連銀の度重なる利上げが過熱気味であった労働市場をクールダウンさせるものとみられていたがそうはならなかった。 

失業率は3.8%と低いままで、景気が悪くならないどころか賃上げのペースがインフレ率を上回ることからコロナ禍を契機に求職せずにいた人々が職を求め就労人口に加算されていくことから失業率は幾分上がるかもしれないとみられている。 

9月時点の平均賃金は1年前から4.2%上昇し時間当たり33.88ドル(約5千円)となっている。  

このアメリカの好景気をKPMGのエコノミストはバトンリレー競技にたとえている。 

それまで景気を引っ張ってきた産業部門が連銀の利上げで勢いを落としても金利に比較的左右されない別の産業部門にバトンが渡り、新たな景気の走者が生まれているという。 

現状のトップランナーは娯楽・サービス業部門で、次に政府系、ヘルスケア、士業部門と続く。 

この売り手市場の労働市場を背景にハリウッドでは16万人を超える俳優や映画関係者がストを行っており、約25千人の自動車工はビッグスリー企業に対し、また先週は75千人もの医療介護従事者がカイザー社に対するストを行っている

次年度予算に関する議会対立で連邦政府がシャットダウンする危機は11月まで先延ばしとなったが、与党共和党の下院議長は定まっておらず、仮に11月にシャットダウンとなれば労働市場に冷水をかける可能性はある。

また、賃上げを通じてインフレを持続させる懸念から連銀がさらなる利上げを行う可能性はあるが、財務証券市場が現状かなりタイトになっており、それが0.25%程度の利上げに匹敵する効果をもたらしているので連銀がアクションをとらない可能性もあるという。 

企業経営者はタイトな財務市場とタイトな労働市場に挟まれながら“バトンリレー競技”の景気の波に乗ろうとしている。 

かかる状況下、バイデン大統領は「バイデノミクスが功を奏し、アメリカの経済を再建、中間層を拡大させている」と宣言している。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  台湾総統選状況

来年1月13日に投開票が予定されている台湾の総統選まであと3カ月余りとなっている中、有力3候補が激戦を展開している。

EMS(電子機器の受託製造サービス)世界最大手・鴻海精密工業創業者の郭台銘氏が無所属での出馬を表明したことで、選挙情勢は複雑さを増してきてもいる。

世論調査では現在、与党・民主進歩党(民進党)の頼清徳副総統が相対的有利との結果を示しているが、ここへ来て各党それぞれスキャンダルが発覚し、各陣営は防戦に追われている。

郭氏は最大野党・中国国民党(国民党)の侯友宜・新北市長と第三勢力・台湾民衆党(民衆党)の柯文哲・前台北市長に野党勢力の結集を呼びかけており、実現の可否が最大の焦点となっていることも事実である。

 

l  米国の対中投資規制をけん制する中国

中国の国際貿易促進委員会(CCPIT)が米国に対して、中国のハイテク分野への投資を禁止または制限する規制を巡って、「慎重に検討するように」ち正式に申し入れたとしている。

米国のバイデン大統領は8月、半導体や人工知能(AI)など特定のハイテク分野に於ける対中投資を規制する大統領令に署名した。

中国の軍事力近代化に結び付く技術開発に米国の資本が投じられるのを阻止する狙いがあるとしている。

これに対して、中国政府・商務部の下部組織であるCCPITは、「米国の大統領令は投資家や取引の種類に対して曖昧で広範な制限を設けており、軍事目的と民生目的を区別していない」

と主張している。

 

l  ファーウェイを支援する台湾企業の存在

台湾の半導体関連テクノロジー企業4社が、中国本土の華為ファーウェイの半導体工場設立を支援している可能性があるとの見方が出ている。

これに対して、台湾政府・王美華経済部長は立法院に於いて、当面、法律違反はないとはしたものの、台湾企業としては台湾の規制を順守するだけでなく、米国の規制、特にサプライチェーン関連規制に対して注意を払う必要があるとの見解を示している。

 

l  米国よりも日本での工場建設が大幅に進むTSMC

台湾の台湾積体電路製造TSMCは日米連携の下、米国や日本での工場建設を進めている。

こうした中、TSMCは、日本の熊本工場の建設の進捗は、米国・アリゾナ州の新工場よりも大幅に進んでいるとの見方を示唆、米国では、工場建設や労働者の確保などについて、日本以上に多くの障害に直面しているのではないかとの見方も出ている。

 

(2)  韓国/北朝鮮

 

l  自国回帰に躊躇気味の韓国企業

韓国では、過去10年間で海外から韓国に戻り、工場を稼動しているUターン企業が54社となっている。

毎年5社余りに過ぎないということである。

2008年のリーマンショック・金融危機以後、各国が産業基盤拡大のためにリショアリング(生産拠点の自国回帰)に乗り出すと、2013年末に支援法まで制定し、Uターン企業誘致に乗り出した韓国の実態は、10年間ではこうした状況になっているということである。

韓国の政策があまり効果を示していない中、韓国国内では、「世界各国は遥かに韓国をリードして、自国回帰を促している。

米国はインフレ抑制法(IRA)、CHIPS法などを制定し、自国企業のUターンだけでなく、外国企業の現地化まで推進し、欧州連合(EU)は欧州版IRAと呼ばれる重要原材料法(CRMA)を定めた。

日本は税制優遇策で半導体・二次電池など先端産業基盤を自国に誘致しようといる」との認識を示し、韓国企業のUターン、外資誘致を促進すべきであるとの声が高まっている。

一方、こうした状況に対して、韓国の学識者や産業界の専門家たちは、

「現在海外進出している韓国企業は中国本土封鎖、ロシア戦争のような極端な事態が起きない限り、韓国に回帰する要因はない」と指摘している。

現地に構築したサプライチェーンとの取引関係を捨ててまで、韓国国内にUターンするには、韓国の高い生産コスト、不確実なインセンティブ制度、強硬な労組などのリスクが依然として存在する為であると、その理由を説明している。

更に、大韓貿易投資振興公社(KOTRA)が昨年、海外に進出した韓国企業734社を対象に行ったアンケートにても、「国内回帰の意向がある」と答えた企業は4.5%(33社)に留まっていた。

                                        

l  輸入ビールでトップに返り咲いた日本製ビール

韓国では、日本製ビールが本年1~8月の輸入先別順位で中国、オランダを抜いて1位に返り咲いた。

日本製ビールは2018年まで年間輸入量1位であったが、2019年の日本が実施したとする半導体の輸出規制を巡る日韓対立を主たる背景として、輸入が急激に減っていたのである。

今年は、通年でも5年ぶりに年間トップの座を奪還すると見られている。

韓国政府・関税庁の貿易統計によると、日本製ビールの輸入量は年初来8月まで3万6,564トンで、中国の3万2,153トン、オランダの2万9,243トンを上回っている。

輸入ビール全体の21.9%が日本製となったことになる。

また、輸入量は前年同期に比べると238.4%増えている。

日本製のビールは韓国ではやはり人気商品である。

それが、政治的要因で抑えられていたが、今年に入り、その品質を背景とした人気によって一位に返り咲いたのである。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,350.04(前週対比-1.75)

台湾:1米ドル/32.18ニュー台湾ドル(前週対比+0.45)

日本:1米ドル/148.92(前週対比+0.10)

中国本土:1米ドル/7.3010人民元(前週対比+-0.0000)

 

2.       株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,403.60(前週対比-61.47)

台湾(台北加権指数):16,520.57(前週対比+166.83)

日本(日経平均指数):30,994.67(前週対比-862.95)

中国本土(上海B):3,110.475(前週対比+-0.000)

 

4.寺島実郎さんメディア出演情報のこと

 

一般財団法人日本総合研究所から掲題情報を入手しましたので共有させていただきます。

 

TOKYO MX1「寺島実郎の世界を知る力」

【第3日曜日】第37回放送:1015日(日)午前11時~

202010月から放送を開始し、4年目を迎える今回の番組では、

9月の寺島のロンドン出張報告をもとに、

前半では「ロンドンから世界と日本の今を考える」をテーマに寺島が語ります。

英国におけるコロナとの苦闘、2020年のブレグジット後の英国世論の変化、

そしてウクライナ戦争がもたらした英国のパラダイム転換等について分析します。

後半では、これまでの放送を通じて考察を深めている「日本の国家構想」について、

日本と英国のコントラストを「通貨の価値」に焦点を当てながら、

寺島独自の視点でさらにその本質に迫ります。

 

是非、ご視聴頂けましたらと存じます。

 

なお、【第4日曜日】「対談篇 時代との対話」は、10月より隔月放送となり、

次回第31回は、1126日(日)午前11時から放送です。

 

 

寺島の一人語りの第3日曜日(202010月放送開始)と

対談篇の第4日曜日(20214月放送開始)は、

YouTubeでの視聴総数が943万回を超えました。

地上波放送・エムキャスでの視聴総数もほぼ同数と、

大変多くの視聴者に、考える「座標軸」として番組を熱心にフォローして下さっており、

日本国内・海外在住の幅広い年代層の方々にご視聴いただいております。

 

引き続き、皆様のネットワークご関係者へ、お知らせ頂ければ幸いに存じます。

 

 

《メディア出演情報(一覧)》

2023/10/15(日)11:0011:55

TOKYO MX1 「寺島実郎の世界を知る力」 第37

 

2023/10/22(日)08:00

TBS系列「サンデーモーニング」

 

2023/11/12(日)08:00

TBS系列「サンデーモーニング」

 

2023/11/19(日)08:00

TBS系列「サンデーモーニング」

 

※「寺島実郎の世界を知る力-対談篇 時代との対話」は、

10月より隔月放送となり、次回第31回は、1126日(日)午前11時から放送です。

 

 

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TOKYO MX テレビ】 

『寺島実郎の世界を知る力』、『寺島実郎の世界を知る力-対談篇-時代との対話』

<見逃し配信>

Youtubehttps://www.youtube.com/playlist?list=PLkZ0Cdjz3KkhlIA30hZIT5Qnevsu0DBhY

エムキャス

(第3日曜日):https://mcas.jp/movie.html?id=749856148&genre=453017953

(第4日曜日[対談篇]):https://mcas.jp/movie.html?id=749856661&genre=453017953

 

*寺島文庫ウェブサイトからもアクセスできます。

https://www.terashima-bunko.com/minerva/tokyomx-2020.html