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日賑グローバルニュースレター第321号

1.中国による遺伝子情報収集に神経をとがらせる米国

 

中国の深センにあるバイオテクノロジー企業のBGIの活動を特集した記事がワシントンポストに掲載された。 

この中国企業は2013年にComplete Genomicsという米国サンノゼの遺伝子配列技術で米国トップの企業を118百万ドルで買収している。

その後、2015年に中国政府は“中国製造2025計画”を発表。 その中でバイオテクノロジーを政府の重点投資先並びに同国の経済の将来の柱と位置付けている。  

COVID-19の感染が世界に広がり始めた2020年4月の欧州のセルビアに中国政府はBGI社製Fire-Eyeというウィルスの遺伝情報解読装置を援助提供している。 

この装置はウィルスだけでなく人間の遺伝情報も解読できる。 

その後コロナがパンデミックとなった後にはカナダ、ラトビア、サウジアラビア、エチオピア、南アフリカ、オーストラリアを含む20か国を超える国々にこのFire-Eyeが提供されている。 

中国政府はBGI社に対し、中国国立遺伝子銀行の設立と運営を任せ、そこに世界から集まる遺伝情報が集積されていくという

かかる状況下、米国防省は昨年BGIを米国内で活動する中国の軍事会社のリストに加えている

さらには米国の諜報機関はBGIを中国政府の指示に基づき、米国を含め世界中からDNA情報を収集していると指摘。 

ただ、その米国諜報機関の読みとしては、中国のこの世界的遺伝情報収集の意図は軍事ではなく、経済での優位性確保にあるとみている。

すなわち、バイオテクノロジーでライバルの米国の先を行くことが経済的にも戦略的にも優位性を保てるというもの。

とはいえ、世界向けに新薬を開発する場合には単にDNA情報を集めるだけでなく、患者の履歴情報などが大切となり、人種、種族など多様なデータを意味のある量(クリティカルマス)集める必要がある。 

BGIによる前述の米企業買収はそうした布石の一つといえる。 

2019年までに20を超える数の中国企業が米国の患者の遺伝情報と履歴情報を得る権利をビジネスパートナーシップや株式取得を通じて得ている。 

中国はそうした正規ルートとは別に、ハッキングでも米企業の患者情報を盗もうとしているという。 

2019年に起訴された中国人工作員は8千万人以上ものDNAを含むアメリカ人のヘルスケアデータに不法にアクセスしていた。

BGIの製品にはNIFTYと呼ばれる新生児の遺伝情報解読キットがあり、50か国以上で販売されているが、ノルウェー、ドイツおよびスロヴェニア政府は妊婦に対し、この検査キットを通じて得られる情報が中国政府にも流れる可能性があるとして注意を喚起するとともに、実態調査を行っているという。 

中国政府はチベットやウィグルといった国内のマイノリティの民族の遺伝情報収集を通じた取り締まり強化も行っている。 

トランプ前政権はもとよりバイデン政権は中国のバイオテクノロジー会社をブラックリストに載せている

さらに今年3月には商務省はBGIの子会社が、収集したDNA情報を中国軍に横流ししている可能性を根拠として米企業がそれらの企業と取引することを禁じた

中国軍が運営する国防大学は2017年に更新した軍事戦略の中にバイオ戦の項目を設け、特定の人種や種族、そして個人の遺伝子を攻撃する可能性をうたっている。 

ただ、高い多様性を保つ米国対し、漢民族が90%以上を占める中国の方がこの手の“遺伝子攻撃兵器”に脆弱であることから、その開発においてゆめゆめ米国に先を越されないようにするという問題意識が中国を突き動かしているともいえそうである。 その意味では日本の脆弱性はさらに高いのかもしれない。

 

2.相対的に収入を減らしてきた自動車工の反転攻勢はなるか?

 

かつてのアメリカの豊かさの象徴の一つは中間層の生活レベルの高さで、その中でも自動車メーカーの工員の収入の高さは製造業の中のトップクラスにあった。 

そのアメリカの自動車工の豊かさが収入減少と共に凋落している様子をワシントンポスト報じた。 

物価調整後の価格で1990年代初頭は自動車工の収入は時給換算で今のドル価で43ドル、それが現在は32.7ドルに落ち込んでいる。 

但し、現在の条件では、業績が良い場合は正社員に限り別途インセンティブや賞与が出る(逆に業績が悪ければ収入カットもある)。

自動車工の収入減の大きなきっかけは2007年にビッグ3GM、フォード、クライスラー)の経営が傾いた際にUAW(全米自動車労働組合)が労使交渉の中で経営側に譲歩した、「従来と別枠の低賃金、低社会保障条件の正社員カテゴリーを設けること」があった。

その後、リーマンショックが起こりGMとフォードが政府から財政支援を受けた際には組合はさらなる譲歩として従来あった物価調整給を放棄させられている。 

さらに組合は収入の高いシニア層正社員の早期退職を迫られ、安い賃金の若手正社員にシフトさせられ、加えて「2015年までのストライキ禁止条項」も飲まされた。 

自動車工のもう1つの変化として、勤務先が従来はミシガンを中心とした中西部に集中していた工場であったものが、今やカリフォルニア州やテキサス州などサンベルト地帯に分散していること。 

さらにはテキサスでの生産量を増やすテスラのような非組合員中心の自動車工も増えている

このように労使関係は労働者側に不利な状況がコロナパンデミックまで続いたが、これまで本ニュースレターでもたびたびお伝えしたように、パンデミックをきっかけとしてアメリカでGreat Resignationという労働者の流動性の高まりが生じ、労働市場はかなりの売り手市場となっている。 

こうした状況を背景にUAWがビッグスリーに対するストを起こしている。 

労働者側がこれまで譲歩してきたものをどこまで経営側から取り返すことができるのか注目される。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  中国主要70都市中52都市で新築住宅価格が下落

中国政府が発表した最新データによると、本年8月には、多くの主要都市で新築住宅価格が下落していることが判明している。

国家統計局は、中国国内主要都市70都市中、52都市で新築住宅価格が7月対比下落したと発表している。

7月の49都市からから3都市増えており、不動産価格の低迷が中国全土に広がっていることを示唆している。

こうした現状もあり、中国本土の大手不動産会社は深刻な経営苦境に立たされている。

業績回復のペースが遅く、中国本土経済にとっての大きな懸念事項となっていることは明白である。

 

l  政治化する中国杭州アジア大会

中国杭州で9月23日から始まったアジア大会であるが、中国政府は、インド人女性の3選手に参加許可証を適正に発行していない事態が起きており、出場が危ぶまれている。

インド政府は、その背景には国境問題があるのではないかとの見方をしており、中国側の対応に反発している。

一方、「かつて国際スポーツ大会で一糸不乱の応援で注目を集めた北朝鮮の女性応援団が杭州・アジア大会で再びその姿を現した」との見方が出ている。

杭州アジア大会男子サッカーのグループステージF組初戦で北朝鮮と台湾が対戦した9月19日、会場の中国浙江省金華市の競技場に薄いピンクのTシャツと帽子をかぶった北朝鮮の女性応援団4人が訪れ、選手たちに声援を送った姿に対して示されたコメントである。

 

(2)  韓国/北朝鮮

 

l  産業用機械・ロボット産業の育成に走る韓国の産官学

韓国の産業界では、「機械化、ロボット化技術は決して高くない」との見方が一般的である。

しかし、ここにきて、HD現代をはじめ、韓国の産業界では産業用機械の開発に注力し始めている。

即ち、これまで韓国は、国家的視点から見ると、産業用機械、ロボットを、「購入する国家」であったが、今後は、輸入代替化を進めた上で、これを「輸出産業化」していく動きを示しているのである。

正に、「防衛産業で見せた韓国の産官学連携による産業育成」と同様の動きを見せていると言うことにもなる。

2021年基準で見ると、韓国の産業用ロボット単品と部品輸出額は僅か1兆3,500億ウォンに過ぎず、ロボットの世界市場の規模である約243億米ドルの4%水準に留まっていた。

しかし最近、HD現代、斗山、三星、ハンファなどの歓呼を代表する大企業がロボット市場に参入してきている。

                                        

l  産業大転換への道を探る産官学

韓国は、産官学金融が産業を推進する国家である。

かつては、政府が有望成長産業を指定し、財閥企業を軸にしてその産業分野の育成に注力、主要金融機関が政策方向性に合わせて資金を融資する体制を取ってきたという経緯もあり、こうした金融体制のことを、

「官治金融」とも呼んでいた。

こうした中、韓国政府が先端技術投資を主導する投資持株会社を設立、海外な優秀人材も含めて破格の好条件を提示、先端産業を育成していく為に、「優秀な人材に対するレッドカーペット」を準備するなど、半導体産業に続いて、韓国経済を支える産業を育成する為に、「グローバルトッププロダクト」の開発を進めたいとしている。

韓国が日本の、所謂、「失われた30年」をそっくりそのまま踏襲するのではないかという危機感に立ち、企業・経済人・経済団体・大学・研究機関、金融機関が共に産業大転換の為の

「6大ミッション、46の課題」を克服しなくてはならないと、韓国の主要経済機関の一つである大韓商工会議所は提言しており、

「経済界と研究機関80人余りの民間専門家で構成された産業大転換フォーラムを継続した結果、上述したような産業大転換提言を韓国政府に伝達している」

とコメントしている。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,335.77(前週対比-7.65)

台湾:1米ドル/32.17ニュー台湾ドル(前週対比-0.28)

日本:1米ドル/148.23(前週対比-0.45)

中国本土:1米ドル/7.3026人民元(前週対比-0.0263)

 

2.    株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,508.13(前週対比-93.15)

台湾(台北加権指数):16,344.48(前週対比-576.44)

日本(日経平均指数):32,402.41(前週対比-1,130.68)

中国本土(上海B):3,132.432(前週対比+14.689)

 

4.川崎市産業振興財団主催『外国人活躍応援フォーラム』に登壇いたします

           

来週103日(火)の午後2時半から川崎市産業振興会館にて掲題フォーラムが開催されます。 

企業や自治体で外国人材に活躍してもらうための環境づくりなどについて関係者が議論する場となっております。 

わたくしも登壇いたします。 

ご興味のある方は是非添付のチラシに基づきお申し込みください。

 

 

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