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日賑グローバルニュースレター第318号

1.アイオワ州でライバルをつぶしにかかるトランプ前大統領

 

大統領選挙の予備選は来年1月にアイオワ州からスタートするため、共和党予備選の立候補予定者は同州での緒戦を制すべくプレゼンスを高めようとしている様子をワシントンポストが報じた。

現状かなり先頭を走るトランプを他の共和党の立候補予定者が予備選で破るには、アイオワ州で勝つしかないと多くの共和党支持者は予想している。

先週土曜日、アイオワ州の州都デモインで同州名物の豚肉をグリルしたポークチョップを屋外で楽しむ恒例の政治イベントがあり、そこでキム・レイノルズ州知事が各共和党予備選候補者と野辺談話を行い、多くの州民を集めていた。

各候補者は配偶者や子供を連れてこのイベントに終日付き合うことでアイオワ州知事と州民に好印象をもたらすことを目的に参加していた。 

実際、フロリダ州のロン・デサンテス知事は妻と3人の子供を連れ、終日このイベントで過ごし、またレイノルズ州知事との野辺談話も行った

ただ、トランプ支持者はデサンテスの農業政策を批判するパンフレットを配り、デサンテスの態度が堅いと言われていることから“Be likable Ron!”と揶揄するバナーを引っ張った飛行機が会場上空を旋回させたりするなどの批判活動を行った。

一方、人種差別の歴史やLGBTQの権利を軽視するデサンテス知事を強く非難するリベラル派のグループは大音声の笛などを鳴らす妨害で警備員に排除されるまで野辺談話が聞き取れない状況であったという。 

トランプ前大統領自身は昼頃に飛行機で到着、ポークチョップのグリルには参加せず、支援者が詰める会場に直行し、デサンテス批判はもとよりレイノルズ州知事すら批判した。 

トランプを支持するフロリダ州選出の議員をわざわざ取り巻きとして連れてきてのデサンテス批判なのでトランプが如何にデサンテスを主たるライバルとみなしていることがうかがえる。 

同じ日にニッキー・ヘイリー前国連大使や起業家のビベク・ラマスワミーの立候補予定者も会場に来ていたが、眼中にないのかトランプは彼らに対する批判は行わなかった。 

アイオワ州にはキリスト教福音派のリーダーがいるが、彼らがデサンテス支持を表明していることが腹に据えかねるトランプは、そうした福音派リーダーすら攻撃した。  

トランプは終日どころか2時早々には州を離れており、他候補に比べてアイオワ州軽視とも見られかねないが、デサンテスを支持していたアイオワの人々もいざトランプが登場すると「We love Trump!」のシュプレヒコールが起こっていることから今のところアイオワ州の共和党支持層のファーストチョイスがトランプであることをワシントンポストの記事も示唆していた。

 

2.米国のインフレをどう見るか ― バイデン政権とサマーズの見解の相違

 

米国のインフレは昨年の最悪時の9.1%から今年7月時点で3.2%にまで抑えられてきており、連銀の目標値の2%も視野に入ってきている。 

連銀の継続的な利上げは経済に冷水をかけ、不況を呼び込むと懸念されていたものの、6月の新規雇用増は20万人強、失業率は3.6%と低いままで労働者不足が賃上げを生む労働市況となっている。

クリントン政権で財務長官を務め、ハーバード大学学長そしてオバマ政権で国家経済会議委員長を務めたローレンス・サマーズは、値動きの激しい商品を除いた基礎的なインフレがまだ4.5%近くと高く、これは失業率が56%レベルに上昇した状況で数年続かないと2%目標には到達できないと主張している。 

サマーズは、今回のインフレの原因に20213月、就任早々のバイデン大統領が打ち出した1.9兆ドルものコロナ対策の景気刺激策American Rescue Planの規模が過剰であったことを挙げている。 

この政府の大規模投資で加熱された需要がインフレを生み、それを鎮静化させるには痛み(失業)を伴う需要の緊縮が必要というもの。

昨年サマーズの予想通り急激なインフレが生じたときにはバイデン大統領は一過性のものであり、すぐに収まると語っていたが、実際には長期にわたって続き、その点で政権のエコノミストもサマーズの認識を認めざるを得ないところがあった。 

一方で、バイデン大統領は失業率の上昇を伴うサマーズの求めた景気引き締め政策を採用せずにここまで来ている

現在の表面的インフレ率と失業率の低さは、政権がもともと主張していたパンデミックとロシアのウクライナ侵攻に伴うサプライチェーンの乱れによるインフレという解釈にも信ぴょう性をもたらしている

以上の経緯から、民主党内もサマーズの解釈と政権側の解釈の間で意見が分かれている状況にある。

来年の大統領選を占うに当たっては、来年の今頃から10月にかけてのインフレ率や失業率などの景況感が重要となる。 

仮にサマーズの読みが正しければインフレは有権者中間層にボディーブローのように悪影響を与え、彼らの不満を積み上げ、投票行動に反映されることになるから早々に追加のインフレ対策が必要となる。

一方、政権のエコノミストの解釈が正しければ現状のままソフトランディングを図るということになる。 

バイデン政権として今の段階でいずれかのシナリオに賭けることはリスクが大きく、ホワイトハウスは頻繁にサマーズとの意見交換を行っているという。 

バイデン大統領はサマーズのことを“Lar”と呼ぶ仲で、オバマ政権時代から敬意をもって遇してきているが、来年の再選に向けては彼の政治勘とサマーズの経済勘の間の協働が求められるのであろう。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  豪州大麦に対する反ダンピング関税等の撤廃

中国政府・商務部は、豪州産大麦に対して3年間課してきた反ダンピング(不当廉売)関税と相殺関税を8月5日から撤廃した。

中国国内の大麦市場の状況変化が理由としたが、その背景には、やはり豪州の対中姿勢に歩み寄りが見られてきていたからではないかと見られている。

いずれにしても、中国政府からは詳細な説明はなかった。

 

l  対中で厳しい姿勢を見せるTSMC創業者

TSMCの創業者である張忠謀モリス・チャン元会長は、米国・ニューヨークタイムズとのインタビューに応じて、「中国は、米国との半導体競争には勝てないだろう」

とコメントしている。

張元会長はまた、米国が主導する日韓台湾の半導体同盟に言及し、

「我々が世界の半導体サプライチェーンの急所(chokepoint)をしっかり握っている限り中国に出来ることは何もない」とまでコメントしたのである。

張元会長は更に、米国政府の中国に対する先端半導体輸出規制に対しても支持を表明し、

「一部の米国企業が中国と事業する機会を失ったり、中国が半導体販売禁止を回避する方法を探ったりすることはあり得るが、それでも好ましい決定である」

とこれを評した。

また、張元会長は中国・浙江省出身ではあるが、

「自分は中国共産党を避けて台湾に来ており、1962年に米国で市民権を取った後はずっと米国人というアイデンティティーを維持してきた」

と強調している。

 

l  中国消費者物価下落

中国の本年7月の消費者物価は、需要低迷を受けて2021年2月以来初めて前年同月対比で下落している。

即ち、中国政府・国家統計局は7月の消費者物価指数が前年同月対比で0.3%下落したと発表している。

原油やその他のエネルギー価格が下落傾向にあると指摘、また、消費低迷が自動車やスマートフォン、その他の品目の価格下落に繋がったとコメントしている。

中国でも、消費者意欲がなかなか回復しない。

 

(2)  韓国/北朝鮮

 

l  中央アジアからの労働者受け入れ政策

韓国政府は建設業、農業、サービス業に携わる人材確保の為、ウズベキスタンとキルギスタンを対象に雇用許可制業種を拡大するとしている。

韓国政府は、

「ウズベキスタンの場合、建設業、農業、畜産業、漁業への雇用許可制拡大を要請し、キルギスに対しては農業、畜産、漁業、サービス業などの追加を年末までに検討する」

としている。

業種拡大による外国人労働者クォーターも増加すると見られている。

                                        

l  上半期最多の韓国出国ルートは仁川―関西線

韓国政府・国土交通部の航空統計によると、本年上半期(1~6月)に韓国の空港を出発する国際線で最も利用客数が多かった路線は仁川(ソウル)―関西(大阪)線で、約170万9,000人であった。

次いで仁川発の成田(東京)線が約163万7,000人、バンコク線が約141万人、福岡線が約128万6,000人、シンガポール線が約97万3,000人、ダナン線が約94万4,000人、台北線が約91万5,000人、ホーチミン線が約80万6,000人、マニラ線が約77万1,000人となっている。

また、10位は金浦(ソウル)―羽田(東京)線(約76万9,000人)となっている。

上半期の利用客数上位10路線のうち4路線が日本、5路線がベトナムやタイ、フィリピンなど東南アジアの路線となった。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,330.30(前週対比-20.29)

台湾:1米ドル/31.89ニュー台湾ドル(前週対比-0.20)

日本:1米ドル/144.96(前週対比-2.35)

中国本土:1米ドル/7.2367人民元(前週対比-0.0554)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,591.26(前週対比-11.54)

台湾(台北加権指数):16,601.25(前週対比-242.43)

日本(日経平均指数):32,473.65(前週対比+280.90)

中国本土(上海B):3,189.248(前週対比-98.836)

 

4.寺島実郎氏メディア出演情報

           

寺島文庫殿より下記の通り、寺島実郎氏のメディア出演情報を入手いたしました。

 

TOKYO MX1「寺島実郎の世界を知る力」

【第3日曜日】第35回放送:820日(日)午前11時~

番組前半では「シリコンバレー最新報告」をテーマに、

米国産業の活力を支えるシリコンバレーのビジネスモデルを支える原点の構造に迫りながら、

進展するDX時代の背後に存在感を示すシリコンバレーの光と影について、

寺島の出張報告を交えながら、独自の視点で分析します。

番組後半では、終戦記念日を迎えた今月、「21世紀日本の国家構想を考える」をテーマに、

明治期日本の国家構想を描いた先人のうち、福沢諭吉と石橋湛山に注目しながら、

21世紀の日本がどのような国家構想を描き、どう歩んでいくべきか、寺島が語ります。

 

【第4日曜日】「対談篇 時代との対話」第29回放送:827日(日)午前11時~

<ゲスト>:安西祐一郎氏(東京財団政策研究所所長、元慶應義塾長)

 

今回の対談では、団塊の先頭世代で同世代の安西氏と寺島が、

自身の経験を振り返りながら、戦後日本における教育の果たした役割やその本質、

そして日本の教育における課題と今後の在り方などについて、

議論を通じて、深く掘り下げます。

 

寺島の一人語りの第3日曜日と対談篇の第4日曜日は、

202010月から放送を開始し、YouTubeでの視聴総数が910万回を超えました。

地上波放送・エムキャスでの視聴総数もほぼ同数と、

大変多くの視聴者に、考える「座標軸」として番組を熱心にフォローして下さっており、

日本国内・海外在住の幅広い年代層の方々にご視聴いただいております。