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日賑グローバルニュースレター#317

1.歴史教育と次期大統領選

 

かねてより当ニュースレターで伝えた米国政治における黒人奴隷歴史問題が次期大統領選と絡みつつある様子をワシントンポストが報じた。 

721日、フロリダ州知事で共和党大統領予備選候補者のロン・デサンテス氏は「奴隷制度は一部の奴隷にはメリットがあった」と解釈するフロリダ州の新たな歴史教育基準を擁護する演説を行った。

その数時間後にはカマラ・ハリス副大統領が、そのような教育基準は捉え方のプロパガンダであると非難した。 

そしてその4日後にはバイデン大統領が1955年に惨殺された十代の黒人女性Emmett Tillを国家史跡と宣言し、そういった歴史を暗闇に葬り、無かったことにしようとする勢力を非難すると語った。 

トランプ前大統領はデサンテス知事を攻撃しつつも、人種問題についてはデサンテスと似たような歴史の枠組みを支持している。 

こうした歴史の“政治化”は学校の歴史教育に及んでいる。 

米国の教育を研究する学者は、以前であれば歴史教育に関する議論は、歴史の物語にどこまで人物を登場させるかについてであったが、今はその物語自身のあり方について議論がなされ、アメリカとしての共通の物語が失われている、と警鐘を鳴らす。

この影響は教師の失職、授業の自主検閲そして教科書出版会社の存続の危機にも及んでいる

地方の教育委員会の歴史教育の議論が州政府、そしてホワイトハウスを経て次期大統領選の論点にまで上り詰めている

デサンテスの言う奴隷のメリットとはなにがしかの技能を奴隷でいる間に身につけ、それがその後役に立っているという議論。 

同じ共和党から大統領予備選に立候補予定のティム・スコット上院議員(アフリカ系、サウスカロライナ州選出)はデサンテスの歴史認識を非難している。 

今春、ワシントンポストとコンサルティング会社のIpsosが共同で行った世論調査では成人の回答者の半分強と黒人で成人の回答者の4分の3がアメリカの人種問題の歴史について公立学校で教育することを州政府が止めようとしていることに極端に或いは非常に懸念していると回答している。

一方で党派色も出ている。 

奴隷制度がアメリカであったことは今日の黒人の人々にとって影響を与えていないと考える回答者は共和党支持層が民主党支持層より圧倒的に多い。 

専ら共和党の強い18の保守州は2021年以降、教育者が人種や歴史、人種差別について語って良いこと内容を制限する州法や政策を実現している。 

その中でもフロリダ州他いくつかの州は人種についての不適切な言及のある授業や教科書は精査し又は排除している。

今年1月にはフロリダ州はアドバンストプレイスメント(高校の時点で大学の初期教育を施すもの)のパイロットコースからアフリカ系アメリカ人の歴史を除く決定をした。

理由は教育的価値がないためと。 

こうした歴史教育の政治的見直し、分断化の動きはトランプ前大統領の“Make America Great Again”の選挙公約的修辞と彼の政権中に生じたBlack Lives Matterのような人種差別問題に対するリベラルなムーブメントのぶつかり合いが背景にあるという。 

日本でも歴史教育が自虐史観に過ぎると保守サイドから圧力がかかることがあるが、今年、広島市の平和教育副教材から原爆の悲惨さを描いた漫画「はだしのゲン」が削除されるという動きも気になるところである。

 

2.中国との戦争への準備を促す米空軍機動空軍司令

 

米空軍大将で機動空軍司令のマイケル・A・ミニハン大将が今年1月に隷下11万人の兵士に出したメッセージが中国との戦争に備えることを求めるものであったことが物議を醸し出している。 

「自分の予想が間違っていることを望むが、私の直感では2025年には中国との戦争に入るであろう」、従い、「射手なら確実に敵の頭を撃ちぬけるよう練度を高めよ」と指令していた。 

この指令が部外に漏れて、ワシントンポストが報道するに至り、中国の知るところとなり、中国の国営新聞社のグローバルタイムズの解説者は「米軍では超タカ派の戦争マニアが跋扈している」と非難した。 

対中強硬派の代表格となる米議会下院中国委員会の委員長のマイケル・ギャラガー下院議員は、ミニハン司令の指令が「脅威を真剣にとらえ、必要な迅速さで準備を行うよう指示したことは称賛されるべき」と語った。 

ミニハン司令の上級幹部の一人は、2025年の対中開戦の根拠は特にないと語る。 

ただ、危機感をあおるには期限が必要であることも事実と語る。 

ワシントンポストが直接ミニハン司令に尋ねたところ、彼がアフガン撤収の空軍兵士から得た教訓は、「準備はしても、し足りなかった」というもの。 

実際の戦場は想定よりも複雑であり、準備した内容と現実とのギャップは兵士の勇気と不屈の魂で埋めている状況にある。 

このギャップを、膨大な規模の準備計画と徹底した演習で埋めるということが今回のミニハン司令の指令の意図であったという。

その演習も図上演習などでは疲労度がわからないので実際の超長距離を飛んで身体に覚えこませるといった実戦型である。

中国製偵察気球の撃墜以降冷え切った米中関係を、農務長官や国務長官そして財務長官による中国訪問で徐々に対話復活のムードに持ってきていたバイデン政権の対中姿勢にとっては必ずしも歓迎されるニュースではないものの、かえって対話の必要性を中国側に意識させる効果もあるのかもしれない。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  中国政府の本年度上期歳出3.9%増

中国政府・財政部が発表した本年上半期(1─6月)の歳入は前年同期対比13.3%増の11兆9,000億人民元となり、歳出は3.9%増の13兆4,000億人民元となった。

同省は、今後、地方政府に今後特別債の発行を加速させるよう指導するとしている。

上半期の地方政府による特別債発行額は2兆1,700億人民元となっている。

 

l  TSMCの米国および台湾での設備投資状況

半導体の受託生産で世界最大手となる台湾積体電路製造TSMCは、オンライン会見を開催し、米国のアリゾナ州に建設中の半導体工場での生産開始が、当初予定の2024年から2025年に遅れる可能性が高まったと発表している。

製造設備の設置を担う技術者の不足が遅延理由となっている。

米国でも人手不足が顕著となっている模様である。

こうした一方、TSMCは7月28日、北部・新竹県内で研究開発施設「グローバルR&Dセンター」の供用開始式典を開催した。

劉会長は、回路線幅2ナノメートル、1.4ナノ以下の高高度の技術を探っていく方針を示唆している。

また、TSMCによれば新竹県宝山郷に建設された同センターは地上10階、地下7階建てで、延べ床面積は30万平方メートル。サッカー場約42面分に相当し、今年2月から研究開発者が順次センターに入り、現在は約2,200人が勤務、これが今年9月には7,000人を超える見通しであるとしている。

 

l  中国政府のスパイ防止法適用拡大と外国企業への説明

中国政府当局は7月初め、スパイ防止法に違反する活動の範囲を拡大したが、その適用について外国企業を対象にした説明会を開催している。

中国商務部によると、会議は北京で開催され、出席者には、日本、米国、欧州、韓国の団体などが含まれていた。

同部高官は出席者に対して、中国政府は公平で透明性があり、予測可能なビジネス環境の提供に努めていると語ったと報告されている。

また、中国政府によるレアメタルの輸出管理の方法など、基幹産業に関する多くの問題についても説明されたものと見られている。

関係者らは、この措置により、中国国内の外国人や外国企業に対する取り締まりが更に拡大するのではないかとの懸念が高まっていると述べている。

 

(2)  韓国/北朝鮮

 

l  韓国科学技術院が航空機を操縦する人間型ロボットの開発に成功

韓国は防衛産業の育成を産官学金融連携で進めており、この延長線上で航空機産業の育成にも注力している。

こうした中、韓国科学技術院(KAIST)は、航空機のマニュアルを読み込み、直接操縦まで行うことができるヒューマノイド(人間型ロボット)を世界で初めて開発したと発表している。

今後は航空機だけでなく、自動車、戦車など様々な移動手段の操縦を人間に代わって行うロボットとして期待されるとしている。

                                        

l  在韓中国系銀行に厳しい姿勢を見せる韓国金融当局

韓国に進出している中国本土系銀行に対して、韓国監査院は報告義務に違反があると通告、猛省を求めるという行政指導を行っている。

即ち、金融監督院は、中国工商銀行・中国農業銀行・中国建設銀行のソウル支店に対する検査で、「役員選任・解任事実」に対する公示及び報告義務に違反したり、20%超過持分証券を担保とする担保貸出報告義務に違反した事実が認められたとして、これを厳しく指摘している。

韓国の金融当局が中国本土系金融機関に対してこうした厳しい姿勢を示すことはあまりなく、注目したい。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,272.83(前週対比+3.68)

台湾:1米ドル/31.33ニュー台湾ドル(前週対比-0.21)

日本:1米ドル/141.15(前週対比-0.84)

中国本土:1米ドル/7.1488人民元(前週対比+0.0270)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,608.32(前週対比+8.09)

台湾(台北加権指数):17,292.93(前週対比+128.04)

日本(日経平均指数):32,759.23(前週対比+268.71)

中国本土(上海B):3,275.926(前週対比+106.40)

 

4.中東フリーランサー報告22

 

三井物産戦略研究所の研究員でおられた大橋さんから掲題報告を頂戴しましたので共有させていただきます。

大橋さんからは以下のメッセージを頂いています。

 

暑中お見舞い申し上げます。本当に暑いですねぇ。中東で暑さには鍛えられてきたはずの私ですが、もう溶けそうです。ちなみに、関東で39度が記録された日に、UAE50度超が発表されました。UAE50度と言うと、クウェートではもっともっと暑いはずです。しかしあの国では50度超での野外作業は禁じられていますが、50度近くになると、気象庁発表が無くなってしまうと言うのが日常茶飯事でした(週末になると発表される)。しかし私の経験からすると、生活パターンの違いでか、案外なんとかなるもので、早朝のハーフラウンドではありますが、2リッターのPETボトルを2本も担いで、砂漠ゴルフ場(アハマディGC)を歩き回ったことを思い出します。

つまり、我々も湾岸諸国の生活様式を参考にすべき時代が来たのかも知れません。少子高齢化によるハイスキルの外国人誘致と言うのも、湾岸ではとっくの昔から常識化している話ですし、こんな形で湾岸諸国を手本にしなければいけないのかと思うと、中東ウォッチャーの私としても正直複雑な心境です。

と言うことで、暑さでいささかゆるい出来かもしれませんが、「中東フリーランサー報告22」をお送りします。皆様もどうかご自愛の上、暑さを乗り越えてください。 

 

5.新しい仲間のブレット・ヒューステッスを紹介します

 

先月から弊社にカナダ人男性のブレット・ヒューステッス君が正社員として参加しています。 

既に弊社に来ていただいている渡邉邦夫顧問やダイバーシティマネジメント研修プロジェクトリーダーの三田資子さんと共に、日本企業向けのDEIDiversity, Equity and Inclusion)とファシリテーション研修プロジェクトに参加します。 

折々に米国のDEIやファシリテーションの動向をブログで紹介することになります。 

彼の初ブログは下記リンクからご覧いただけます。

 

https://www.nisshin-global.com/barbiedei/

ダウンロード
中東フリーランサー報告22.pdf
PDFファイル 1.0 MB