1.AIゴールドラッシュ
1年前の今頃のシリコンバレーには陰鬱な空気が漂っていた。
ビッグテックの株価は軒並み落ち込み、暗号通貨バブルははじけ、レイオフが始まっていた。
それが昨年11月のChatGPTのリリースを皮切りとするAIの活躍でベンチャーキャピタルのカネが先月だけでAIのスタートアップに110億ドルも流れたという。
これは昨年同月比86%アップとのこと。
当初生成AI製品の市場投入に慎重であったマイクロソフトとグーグルもChatGPTの好評で方針を一転し、Microsoft Wordやグーグルサーチに自社の生成AIを投入している。
フェイスブックとアマゾンもそれぞれ独自のAI活動を進めており、アップルは今週の新製品発表会で同社のAI活動に触れるという。
GAFAMに限らず、AIの研究者がAIのプログラムを訓練するために大量の複雑なアルゴリズムを走らせることに必要となる特殊な半導体を製造するNvidiaの株価もうなぎ登りで、2019年に比べ今年年初で4倍に跳ね上がり、数少ない企業価値1兆ドルの仲間入りを果たしている。
テックカンパニーの上場企業を抱えるNasdaq 100は昨年の株価下落で上場企業の企業価値を約3分の1も落としていたがこのAIブームで価値を元に戻し、雰囲気も悲観から楽観に戻してきているという。
こうした状況下、テックカンパニーから独立し自らのAI企業を起こす起業家も増えている。
とはいえ、AI関連以外でのシリコンバレーの落ち込みは続いており、投資案件数やスタートアップの査定額の中位値は1年前の4割減の状況にある。
連銀による利上げはテックカンパニーの経営を圧迫し、AI以外の分野でのレイオフはまだ続くと見られ、サンフランシスコの住宅価格も下落してきている。
AI頼みのシリコンバレーといった様相である。
2.景気を下支えする米国労働市場の懸念の兆候
米国の5月の非農業部門雇用者数は前月比339,000人増大し、エコノミストの予想(約18万人)を大きく上回った。
連銀の継続的利上げによる景気減速や地銀破たんに伴う信用不安状況にもかかわらず、米国の労働市場はまだその力強さを示した。
一方で危険信号としてワシントンポストが取り上げたのが失業率の上昇で、わずか1か月で3.4%から3.7%とおよそ50万人が職を失っている。
テックカンパニーが引き続き多くのレイオフを実施しており、それが一つの原因となっている。
また、アフリカ系アメリカ人就労者の失業率が5月に5.6%にまで一気に高まったことも寄与していると見られる。
別のワシントンポストの記事ではChatGPTがコピーライターなどのホワイトカラーの雇用を奪っている様子を具体的に伝えている。
そもそもマーケティングやソーシャルメディアのコンテンツを書いていた人々の仕事はチャットボットにより失われてきていたが、コピーライティングや翻訳、書き換え、編曲、パラリーガルといった分野の職は今現在AIに代替されるリスクが最も高いという。
今年3月のゴールドマンサックスが出した予想では世界の雇用の18%がAIで置き換えられ、特に弁護士のようなホワイトカラー職はリスクが高いとした。
このワシントンポストの記事で登場するChatGPTに職を奪われた何人かのコピーライターの内の一人の証言では、「人間の文章の方が創造性や技術的精度、オリジナリティでChatGPTに勝る」との主張はクライアントに理解されているが、それでも「ChatGPTの方がはるかに安いため辞めてもらう」、と言われたという。
このコピーライターは現在、暖房換気扇のテクニシャンのスキルや配管工のスキルを身につけようとしているという。
さすがにこのAIによるホワイトカラー職代替が今回の失業率上昇に寄与していることはないであろうが、生成AIのサービス範囲と精度が高まると共に、労働市場への影響も生じてくるのかもしれない。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国・台湾
l ウクライナ和平に向けた中国外交
中国政府・李輝ユーラシア事務特別代表は、モスクワのロシア外務省を訪問、ラブロフ外相、ガルージン外務次官(旧ソ連圏担当)と会談した。
ロシアによる侵攻を受けて、大規模な反転攻勢を予告するウクライナのゼレンスキー政権に対し、中ロは対話を求める姿勢で一致している。
ウクライナ情勢を巡り、中国は和平案とされる12項目の「中国の立場」を提唱し、李特別代表は仲介役として今月中旬からウクライナや欧州を歴訪しており、その結果を最後にロシアで報告している。
l 中国と米国の宇宙開発競争
中国初の民間宇宙飛行士を乗せた有人宇宙船「神舟16号」が5月30日朝、中国本土北西部の酒泉衛星発射センターから打ち上げられた。
国営新華社通信によると、神舟16号は同日夕、中国独自の宇宙ステーションである「天宮」に接続、3人の飛行士は約5カ月、この宇宙ステーションに滞在し、科学実験などを行うこととなっている。
中国本土の宇宙開発技術は世界のトップクラスとなっている。
一方、米国の航空宇宙局、所謂、NASAとアリゾナ州立大研究陣は来る10月、小惑星・プシケに探査船を発射する計画があると発表している。
火星と木星の間に位置するプシケは、ほとんど金・ニッケル・鉄のような金属で構成されていると見られている小惑星であり、「宝の山」とも言える小惑星と言われている。
研究陣は、「幅が200キロ以上のプシケを構成する鉄の価値だけ1,000京米ドルに達するだろう」との見方を示し、制宙権を意識し、中国本土と真っ向対峙する姿勢を示している点、付記しておきたい。
l 中国初の大型旅客機機開発C919
中国は、これまでボーイングやエアバスに依存していた航空機を独自開発、その国産大型旅客機となるC919が5月28日、初めての商用飛行に成功したと発表している。
昨秋に国内での商用飛行に必要な安全性証明を取得し、試験飛行を続けてきたものである。
習近平国家主席は、欧米企業の寡占状態にある旅客機の製造について、国産化を更に進めていくとしており、先ずは国内路線でC919の使用を増やしていくと見られている。
(2) 韓国/北朝鮮
l 韓国の宇宙開発の進展
5月25日に打ち上げられた韓国独自開発の宇宙ロケットである「ヌリ号」3号機に搭載された衛星8基のうち6基が、地上に「生存信号」を送ってきたと報告されている。
韓国が、国産発射体で宇宙の軌道に衛星を配達する「宇宙産業」に参入することになったと韓国国内では評価されている。
軌道に上がった衛星は安定化作業を経た後、ミッションに本格投入されることとなっている。
まだ信号が捉えられていないキューブサット(ミニ衛星)2基は、生存確認に最大1週間かかると見られている。
l 韓国訪問外国人数前年同月比7倍
韓国観光公社が発表した統計によると、本年4月に韓国を訪問した外国人観光客は約88万9,000人となり、前年同月の7.0倍に増えている。
また、新型コロナウイルスの感染拡大前であった2019年4月の54%まで回復している。
国・地域別にみると、日本からの観光客が前年同月の57.5倍の約12万8,000人で最も多く、日本の4月下旬からの大型連休などが追い風になったと観光公社は分析している。
次いで、米国が前年同月の3.5倍の約10万9,000人、中国本土が同10.4倍の約10万6,000人。台湾(約7万7,000人)、タイ(約5万4,000人)、ベトナム(約4万1,000人)と続いている。
一方、4月に海外に出国した韓国人旅行客は前年同月対比7.0倍の約149万7,000人に上っている。
l 2030万博の釜山誘致
2030年国際博覧会(万博)の韓国・釜山誘致に向けて、三星電子のイ・ジェヨン会長をはじめ、韓国4大企業グループのトップらが今月下旬にフランスとベトナムを訪問し、誘致活動を行う。
三星電子のイ会長のほか、SKグループのチェ・テウォン会長、現代自動車グループのチョン・ウィソン会長、LGグループのク・グァンモ会長らが揃って6月19~21日にフランス・パリで万博の誘致活動を行う予定とのことである。
先進国にとっては、日本を含めて何処の国であっても、この時代に五輪や万博などの誘致を行うことが国益に適うことなのか疑問の余地はあると筆者は考えているが、文化・経済の発展を世界と共に共有しつつ、韓国経済を発展させたいという韓国財界の思いが結集された動きであると見ておきたい。
[主要経済指標]
1. 対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,304.94(前週対比+20.99)
台湾:1米ドル/30.69ニュー台湾ドル(前週対比+0.04)
日本:1米ドル/139.27円(前週対比+1.08)
中国本土:1米ドル/7.0755人民元(前週対比-0.0145)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,601.36(前週対比+42.55)
台湾(台北加権指数):16,706.91(前週対比+201.86)
日本(日経平均指数):31,524.22(前週対比+607.91)
中国本土(上海B):3,230.069(前週対比+17.565)
4.イスラエル関連イベント情報
日本とイスラエルのビジネスの橋渡しを行っているミリオンステップス株式会社(https://www.millionsteps.jp/)から下記のイベント情報を得ましたので共有させていただきます。
5/30(火)に東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで開催されたイスラエルメディアのCalcalist社のカンファレンスには、600名近くの方々が参加し、アジア初開催にして大盛況のイベントとなりました!
日本からは、岸田内閣総理大臣、加藤厚生労働大臣、竹中平蔵氏など、経済のトップリーダーが参加し、イスラエルからも大手銀行や航空会社のCEO、イスラエル空軍元将軍などが登壇しました。
日本とイスラエル間のビジネスの可能性や関わり方についての興味深い話が交わされた他、スタートアップ企業からのプレゼンテーションや日本の文化を紹介するコーナーも設けられ、参加者の間で積極的なコミュニケーションが行われました。
弊社クライアントの方からも、「とても活気があるイベントだと感じた」など好評の声を頂きました。
当日の内容や様子については、弊社ウェブサイトにも掲載しています。
https://www.millionsteps.jp/post/calcalist_eventreport_230530
そして、このカンファレンスを機に、弊社とCalcalist社が共同で、日本企業向けイスラエル現地視察ツアーを、10月末-11月頭に実施することになりました!
Calcalist社CEO・Noa Tamirも、当日以下の記事のように大々的に発表しています。
https://www.calcalistech.com/ctechnews/article/skb00hsxl3
日本企業の皆様に、今までの「視察ツアー」とは違った切り口での体験を提供するため、多種多様なイスラエル企業、VC、学術機関、政府機関、そして日本の企業やメディアなどとコラボして企画を練っています。
ご興味がある方は、どうぞお早めにご連絡ください!