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日賑グローバルニュースレター第312号

1.米中関係に対するヘンリー・キッシンジャーの提言 

 

今月で100歳となったキッシンジャー氏はユダヤ系アメリカ人で、第二次世界大戦を経験し、ホロコーストで親族を十数人殺されている。

ニクソン政権で大統領国家安全保障担当補佐官や国務長官を歴任し、今日も各国首脳の特使として訪問や親書を送る外交安全保障のプロといえる。

そのキッシンジャー氏がG7広島サミットをの前にエコノミストとのインタビューを通じ米中対立が悪化し第三次世界大戦とならないようにするためのアドバイスを行った。ポイントのみ紹介する。

 

l  中国側は「米国が中国を抑えつけるためなら何でもする」と言い、米国側は「中国がアメリカにとって代わろうとしている」と言い、そのままでは衝突コースを歩む。

l  アメリカの言うルールに基づく国際秩序とはアメリカのルールでありアメリカの秩序であって中国には受け入れられない。中国のルールと秩序を変えさせるために大国としての地位などという恩着せがましい言い方をされるのは中国にとっては屈辱。

l  中国は、米国が中国を決して対等に扱わないと思っている。

l  中国はマルクス主義というよりも儒教のシステムに近い。国家としての能力を高め、その実績を、敬意を以て認知されることを望む。中国のリーダーは国際的なシステムにおける国益において(他者でなく)自らが最終判断者となる。ただ、覇道を進むということはないのではないか。

l  米中が全面戦争とならず共存する可能性はあるが共存の難しさもある。試金石は台湾問題。ニクソン大統領と共に初訪中した際、毛沢東は、台湾問題の解決は、100年は待てると語ったが、そこから50年近く経て、そのニクソンと毛の台湾に関する了解はトランプにより貿易での譲歩を引き出すためにひっくりかえされ、そのままバイデン政権に引き継がれている。自分が外交・安全保障担当であれば、その道を選ばなかった。ウクライナのような戦いに陥れば台湾はもとより世界経済への悪影響は計り知れない。

l  台湾問題に関しては米中両サイドに譲歩の余裕が殆どない。自分が担当ならまず過熱気味の関係を冷却させる努力をし、次いで信頼醸成を図り、実務関係を築く。その上で両国トップが互いに自制を促すための会談を設ける。実務レベルでは、有事には具体的に米軍がどのように派兵するか検討しつつも、中国に対しては台湾の独立を米国が支援するのではとの疑いを持たせる振る舞いを行なわない。

l  次に米中共通の大きな目標を設け、その達成に協働するよう仕向ける。台湾問題は世界規模の問題に比べれば小さい。

l  米国は中国の政権転覆をはかるべきではない。中国が民主国家となることは望まれるものの共産党政権崩壊後は内戦やイデオロギーの対立などで混乱が世界に生じかねない。

l  習近平主席のウクライナへの和平工作はジェスチャーでなく、世界外交の一環と見るべき。

l  ウクライナ和平が成立したら、ウクライナをNATOに加盟させ、一方でロシアとの友好親善を模索すべき。ロシアとの事実上の同盟関係を築く中国にとって収まりが良い。ロシアが崩壊しても、ウクライナがロシアに併合されることも中国の考える国際秩序にとっては好ましくない。

l  米中で話し合うべきもう1つのテーマがAI16世紀、17世紀の戦争勃発につながった印刷技術の発明と同じような安全保障上の影響をAIは与えかねないため。両国で良く話合い、信頼関係の下でAIの軍事利用への制限を設けるべき。

l  米国のリーダーは半永久的同盟関係で自らの国益を縛るのではなく、インドのような国益に基づく是々非々のプラグマティックな外交も参考とすべきと。自由、民主主義、資本主義の価値を世界に浸透させようと干渉していくことは米国の国益と必ずしも一致しない。意思決定は相手国にある。もっと良い案を考え続ける前に“理想”の名の下で軍事力を使う懸念が米国にはある。

l  インドは中国のカウンターバランスになるが、色々と問題もある。日本は同盟国だが、核武装を望んだ場合に米国はプラグマティックに対応できるかが試金石。

l  米中相互確証破壊やAIの脅威を鑑みれば米国のリーダーは欧州や中国、インドも参加できるようなバランスの取れたルールに基づく世界秩序を構想すべき。

 

G7の共同コミュニケでは中国を名指しで非難したが、追い込むのではなく首脳会談を含めコミュニケーションのパイプを太く持って緊張緩和に努めるべきと言うのが氏のメッセージであろう。

 

2.バイデンもトランプもNO、でも二者択一ならバイデン?

 

ワシントンポストが市場調査の一つの手法であるフォーカスグループインタビューを用いて来年の大統領選を占った。 

インタビューされたグループのメンバーは全員が2016年にトランプに投票し、2020年ではトランプ支持を止めバイデンに投票した人々でいわゆるスイングボーターある。

参加メンバーの構成は無党派が8名、民主党支持層が4名、共和党支持層が3名の計15名で、ペンシルバニア州、ジョージア州、アリゾナ州及びウィスコンシン州といったスイングステーツ出身者。 

9人は白人、4人は黒人、2人がアジア系であった。 

彼らがテレビやPC上でバイデンを観た場合の印象は、“混乱”、“懸念“、”心配“、”悲痛“、”哀れ“であり、中には”パニック“という表現を使うものもいた。

15人全員がバイデンもトランプも次期大統領選には出て欲しくないと回答

一方、同選挙が2020年同様両者の戦いとなるなら、9名は2020年同様バイデンに投票し、3人はトランプ支持に戻り、残りの3名は投票しないか、第3の党の候補者を支持すると回答している。

バイデンが80歳、トランプが76という後期高齢者同士の戦いは望んでいないというのが少なくとも中間層の雰囲気のようである。 

実際、15人中13人が民主党予備選ではバイデン以外の候補も出馬して論戦して欲しいと回答している(但し、民主党の誰に立候補して欲しいかは決まっていない)。

2016年も2020年も彼らの投票行動が最終的な勝利者を決める大きな要因になっていることから、今回の調査結果は最終的にはバイデンに有利な内容と言えるかもしれないが、それ以上に投票のチョイスが無いことへの中間層の大きなフラストレーションを象徴しているといえよう。 

尚、昨晩たまたま視聴したNHKNC9では、最新のアメリカの世論調査結果を紹介、今投票するならバイデンに48%、トランプに46%、もしバイデンとデサンティス フロリダ州知事の戦いならバイデン46%、デサンティス47%と報道していました。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国・台湾

l  台湾のWHO加盟を支持する8カ国会議

台湾と国交を締結する国が数が減少する中、台湾にとっては国際機関への加盟は大きな外交的メリットとなる。

こうした中、在台湾米国研究所(AIT)とオーストラリア、英国、カナダなどの8カ国会議の事務局は、共同プレスリリースを発表し、世界保健機関(WHO)への台湾の加盟への支持を確認している。

台湾を先ずは、WHOへのオブザーバーとして参加させることを前提とした動きである。

 

l  高速増殖炉の完成を急ぐ中国

観測報道ではあるが、中国福建省霞浦県で建設中の高速増殖炉の完成が近いと見られている。

衛星写真の分析から、核兵器に使用される高濃縮プルトニウムの大量抽出が可能な福建省の高速増殖炉の建設が最終段階に入ったと見る観測報道であり、ウクライナ紛争さなかに、更なる核に対する不安が拡大する可能性がある。

尚、この高速増殖炉は年内の稼働が見込まれており、本格運転が開始すれば年間100発以上の核弾頭を製造できる量のプルトニウムが生成可能であるとの見方も出ている。

 

l  中国で韓国サッカー選手逮捕

中国のプロサッカーである「スーパーリーグ」の山東泰山でプレーしている、サッカー韓国代表MFであるソン・ジュンホ選手が中国本土の公安当局に拘禁され、取り調べを受けている。

韓国大使館によると、「中国遼寧省の公安当局がソン選手を拘禁状態で取り調べていることを把握した。管轄地域の韓国領事が面会申請をするなど、必要な助力をしている」としている。

ソン選手は、上海空港から出国しようとして公安当局に逮捕され、四日間にわたり取り調べを受けていると見られている。

中国政府・外交部は、ソン選手拘束に関して、「韓国国民1人が非国家工作人員収賄罪の疑いで遼寧省公安機関により法に基づいて刑事拘束されたことが把握された」と発表している。

山東省・泰山チームの監督が八百長をしたという容疑を最近持たれているが、ソン選手を含む同チームの選手たちも共に取り調べを受けているものであると中国メディアは伝えている。

 

(2)  韓国/北朝鮮

 

l  「シニアタウン」への関心が高まる韓国

韓国は人口推移からして、日本と同様、或いはそれ以上の高齢化社会への対応が必要な国と言われている。

こうした中、韓国国民が老後を過ごす、「シニアタウン」への関心も増えていると言われている。

韓国で言われている、この「シニアタウン」とは高齢者の為に、医療施設や体力作りの為の施設はもちろん、食事管理や生活便宜施設、商業施設などまで備えた一つの街を指している。

かつてはシニアタウン・シルバータウンといえば、子どもが直接、親を世話出来ないときに訪れる場所という否定的なイメージが強かったが、最近は、経済的に余裕のある高齢者が快適な老後生活を送る為に選択することが出来る街として注目され、人気が高まっている。

 

l  電気推進型韓国版ミニイージス艦

世界的な軍事的脅威が高まる中、韓国は自国防衛の為、そして防衛装備品を輸出して外貨獲得をする為、産官学、金融、力を合わせて、防衛産業育成に努めている。

こうした中、韓国政府・防衛事業庁などは、次期駆逐艦KDDXに関し、国内最初の「統合電気式推進システム」を採用するとしている。

同艦は排水量6,500トンで「韓国型ミニイージス艦」と呼ばれるものであり、同システムはガスタービン発電機とディーゼル発電機からつくられた電力でスクリューを回して推進し、大量の電力も供給出来るものとなっている。

自動車の内燃機関車から電気自動車(EV)へのシフトと同様という。

騒音が低減され対潜水艦戦でも有利になるほか、レーザー兵器などの次世代兵器にも対応可能となり、また、ステルス性能向上のため統合マストが採用される。

防衛事業庁は年内に基本設計を終える計画であり、開発に成功すれば海軍が建造費約6兆ウォンをかけ、2036年までに6隻を確保するとしている。

また、防衛事業庁は、初の国産超音速戦闘機となるKF21(通称「ポラメ=若鷹」)が「暫定戦闘用適合」判定を受けたと発表している。

2024年の量産開始に向けた要件を備えたことになる。事業構想から20年余りで、量産を間近にしている。

 

l  エネルギー分野国際会議初開催

世界の気候変動危機に対応するエネルギー分野の最新技術が一堂に会する大規模イベントとなる「気候産業国際博覧会(World Climate Industry EXPO、WCE)」が、5月25~27日に韓国南部・釜山の展示コンベンションセンターBEXCOで開催されることとなっている。

韓国政府・産業通商資源部と釜山市によると、初開催となるWCEは「気候危機を越え、持続可能な繁栄へ進む道」をテーマに同部と環境部、外交部など11の韓国の中央官庁と釜山市、大韓商工会議所、韓国貿易協会など14の関係機関が共催することになっている。

韓国の三星電子、LG電子、現代自動車と傘下の起亜自動車、SKグループ、ポスコ、ロッテグループ、現代重工業、ハンファQセルズ、斗山エナビリティーやドイツのBMW、RWE、ノルウェーのエクイノールなど国内外の500社(2195ブース)がグリーンテクノロジーを紹介すると見られている。

 

[主要経済指標]

1.    対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,325.20(前週対比+11.10)

台湾:1米ドル/30.61ニュー台湾ドル(前週対比+0.17)

日本:1米ドル/137.95円(前週対比-3.01)

中国本土:1米ドル/7.0060人民元(前週対比-0.0535)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,537.79(前週対比+62.37)

台湾(台北加権指数):16,174.92(前週対比+672.56)

日本(日経平均指数):30,808.35(前週対比+1,420.05)

中国本土(上海B):3,283.542(前週対比+11.180)

 

4.寺島実郎さんメディア出演情報

 

寺島文庫ビルの皆様から掲題情報を入手しましたので共有させていただきます。

 

【第4日曜日】「対談篇 時代との対話」第26回放送:528日(日)午前11時~

<ゲスト>:古川元久氏(衆議院議員)、古川禎久氏(衆議院議員)

今回は、(一財)日本総合研究所が事務局を務め、日本医師会・日本歯科医師会・土木学会等、

20社以上の企業・団体と連携して推進する「医療・防災産業創生協議会」における、

超党派の国会議員による推進議員連盟の中心メンバーでおられるお二人の衆議院議員をお迎えし、

産業基盤の創生のために日本の政策科学をどのように錬磨していくのか、

そして、日本の民主主義における石橋湛山という存在の重さや日本の政治の未来について等、

鼎談を通じて議論を深く掘り下げます。

 

寺島の一人語りの第3日曜日と対談篇の第4日曜日は、これまで放送された全56回のYouTube視聴総数が880万回に迫り、

地上波放送・エムキャスでの視聴総数もほぼ同数と、熱心に番組をフォローして下さっている視聴者が大変多く、

日本国内・海外在住の幅広い年代層の方々にご視聴いただいております。

 

《メディア出演情報(一覧)》

2023/5/21(日)08:00

TBS系列「サンデーモーニング」

 

2023/5/21(日)11:0011:55

TOKYO MX1 「寺島実郎の世界を知る力」 第32

 

2023/5/28(日)11:0011:55

TOKYO MX1 「寺島実郎の世界を知る力-対談篇 時代との対話」 第26

 

2023/6/9(金)06:45頃~

NHKラジオ第一「マイあさ!」 ※うち、「経済展望」コーナー

 

2023/6/11(日)08:00

TBS系列「サンデーモーニング」

 

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TOKYO MX テレビ】 

『寺島実郎の世界を知る力』、『寺島実郎の世界を知る力-対談篇-時代との対話』

<見逃し配信>

Youtubehttps://www.youtube.com/playlist?list=PLkZ0Cdjz3KkhlIA30hZIT5Qnevsu0DBhY

エムキャス

(第3日曜日):https://mcas.jp/movie.html?id=749856148&genre=453017953

(第4日曜日[対談篇]):https://mcas.jp/movie.html?id=749856661&genre=453017953

 

*寺島文庫ウェブサイトからもアクセスできます。

https://www.terashima-bunko.com/minerva/tokyomx-2020.html

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