1.ウクライナ支援の是非で分かれる共和党大統領候補
ワシントンポストが先週時点で共和党次期大統領候補に立候補の意思や興味を示している9名に対ウクライナ支援に関する立場を報道した。
その内の5名のポジションを紹介する。
ドナルド・トランプ前大統領
ロシアの侵攻に反対することは欧州にとっては死活問題でも米国にとってはそうではないと語る。
ロシアの侵攻そのものは血塗られた高くつくもので、バイデンはロシアとウクライナの間の和平を仲介すべきとし、自分が大統領となれば追加のウクライナ支援は行わないとした。
ロシアの侵攻当初は、「プーチンは状況に明るく、その動きは天才的」と称え、「自分が大統領であったならロシアは侵攻していなかった」と語っていた。
ロン・デサンティス フロリダ州知事
ウクライナ問題は領土紛争であり、ウクライナとロシアの間の問題にこれ以上巻き込まれることは米国の国益にそぐわない。
米国は国防の範囲を超えて海外の戦争を加熱する形で介入すべきではないと。
この立場は、彼が2015年に下院議員であったときにロシアのクリミア半島併合に対し、ウクライナに兵器支援をすることを支持した立場から変わっている。
ニッキー・ヘイリー前国連大使
ロシアのウクライナ侵攻を止めることは米国の重要な国益。
ロシアが勝利すれば中国やイランはますます敵対的になる。
「この戦争は自由の戦いであり、米国は勝利しなければならない」
マイク・ペンス前副大統領
ウクライナでなされている戦いは領土紛争ではなく明らかな侵略であり武力で国際合意を踏みにじるもの。
米国は自由世界の盟主としてウクライナを支援し続けるべきと。
マイク・ポンペイオ前国務長官
ウクライナを助けプーチンの侵略をやめさせることがアメリカの重要な国益。
そうすることがアメリカの経済はもとより安全保障にも最も重要となる。
他の候補者以上に突っ込んだ軍事支援を容認する姿勢。
トランプとの差別化を図る陣営と、トランプの岩盤支持層を引き継ごうとするデサンティスのきれいな色分けが、ことウクライナ政策についてはできているようである。
2.悪玉から善玉として活躍する米大手金融機関
2008年のリーマンショックに端を発した世界の金融危機と同時不況の元凶にサブプライムローンに代表される米国大手金融機関の不動産を中心とした金融証券の無謀な拡販などがあった。
ただ、Too big to failの言葉に象徴されるように彼ら大手金融機関をつぶすわけにはいかず、大量の資本が連邦政府から注ぎ込まれたわけである。
ということで血税を用いて救われた悪玉のイメージが残った大手金融機関だが、今月10日のシリコンバレー銀行の破綻に端を発する中小規模の銀行破綻の連鎖を食い止めるために大手銀行が防波堤として活躍している様子をワシントンポストが報じた。
シリコンバレー銀行など破綻銀行から逃避する2千億ドルもの資産の安全な避難場所としてJPモルガン、バンクオブアメリカ、シティコープ、ゴールドマンサックス、ウェルスファーゴ、モルガンスタンレー、Bank of New York MellonそしてState Streetといった大手が受け皿となっている。
1994年には全米に1万以上あった銀行が2021年には4,237行にまで集約されている。
地銀のきめ細かなサービスを好んでいた中小企業にとっては地域連携が失われていくことに懸念する向きも多い。
集約していく方の大手金融機関の代表のJPモルガンは同行だけでフランス経済をしのぐ3.8兆ドルもの金融資産を預かるに至っている。
気になる傾向は、全米の全融資額の3分の2を占める商業不動産金融を担うのはシリコンバレー銀行よりもさらに規模の小さい地銀で、預金者が預金を引き揚げていく中で新たな貸し出しが困難になったり、預金金利を引き上げることで預金逃避を防ごうとする分、採算を悪化させたりしている。
このままではただでさえインフレとそれに伴う連銀の金利引き上げで景気後退傾向にある米国経済を急速に冷え込ませる危険性がある。
上述の大手金融機関8行を含めた11行はファーストリパブリカンバンクに連携して300億ドルもの預金を行い、同行の預金者の信頼回復を支援している。
その直前には同行の株価は半減していた。
ということで米国の大手金融機関は信用不安の連鎖を食い止める活躍をしているが、結果として米国のトップ5の大手金融機関で全金融資産13兆ドルのうちの47%も占め、バイデン政権が標榜する金融サービスの分散化政策とは逆行しつつある。
それでも金融機関や規制当局を経ない消費者や企業間金融の割合の伸びはさらに大きく、全米の過半を占めている。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国・台湾
l 3党三つ巴の様相を呈する台湾次期総統選
台湾の中央選挙委員会(選管)は、蔡英文総統の任期満了に伴う次期総統選の投開票日を2024年1月13日にすると発表した。
総統選の主な争点は対中政策と見られており、緊張が高まる台湾情勢に大きな影響を及ぼすことになる。
任期4年の総統は憲法上3選を認められておらず、現在2期目の蔡総統は、ルール上は、出馬できない。
与党・民進党は、中国本土が「台湾独立派」として強く警戒する党主席(党首)で副総統の頼清徳氏を擁立すると見られている。
一方、対中融和路線を取る最大野党・国民党の候補者には、新北市長の侯友宜氏や党主席の朱立倫氏らが今のところは有力視されている。
台湾民衆党からも前台北市長のカ文哲氏が出馬に意欲を示している。
l 中東外交の成果を強調する中国
中国の外交担当トップである、王毅共産党政治局員は、中国の仲介でサウジアラビアとイランが外交関係の正常化で合意したことについて、
「中国本土は善意で信頼できる仲裁者として、ホストの職責を忠実に果たした」と強調した上で、
「世界にあるのはウクライナ問題だけではない。当事者が適時適切に処理することが必要である」と主張し、ウクライナ問題に関与、ロシアを一方的に批判している米欧を暗に牽制する動きも示している。
l 中国によるウクライナーロシア停戦の模索
中国の秦剛外相は、ウクライナのクレバ外相に対して、中国はウクライナとロシアの停戦に向けて建設的な役割を果たすつもりであると語っている。
更に、両外相は、中国の習近平国家主席とウクライナのゼレンスキー大統領との間でオンライン会議を開催する計画についても話し合った可能性があると見られている。
秦外相は、ウクライナとロシアの紛争が今後更にエスカレートし、制御不能になる危険性についての懸念も表明、更に秦外相はクレバ外相に対して、中国は全ての当事者が出来るだけ早く和平交渉を再開することを望んでいると語ったと見られている。
これに対して、クレバ外相は自身のツイッターに、「領土保全の原則の重要性について話し合った」と投稿している。
クレバ外相はまた、ゼレンスキー大統領が提案した「ウクライナでの侵略を終わらせ、公正な平和を回復する」為の平和の公式の重要性を強調したと見られている。
ゼレンスキー大統領は、中国政府が先月提出した停戦と和平交渉を求める文書を慎重に受け入れ、また、習近平国家主席に会いたいという願望を表明している。
中国のロシア、ウクライナに対する建設的なアプローチをフォローすると共に、これによる中国に対する世界の評価と、英米に対する世界の評価も注視したい。
(2) 韓国/北朝鮮
l フィッチ、韓国国債格付けを据え置き
世界的な格付け大手と言われるフィッチ・レーティングスは3月13日、韓国の国債格付けを上から4番目に当たる「AAマイナス」、格付け見通しを「安定的」に、それぞれ「据え置いた」と発表している。
フィッチは北朝鮮を巡る地政学的リスク、ガバナンス指標、高齢化など否定的要因はあるものの、対外的な健全性やマクロ経済上の成果、輸出の勢いなどを反映したと説明している。
また、韓国の2023年の国内総生産(GDP)成長率を1.2%としている。
l 韓国の貧富の格差状況
韓国政府・統計庁によると、韓国の昨年の上位1%世帯の純資産は32億7,920万ウォンで、2021年の29億ウォンより4億ウォン近く増加したことが判明した。
平均金融資産は9億ウォンとなっている。
また、上位1%世帯の年平均所得は2億1,600万ウォンで、全体世帯平均(6,400万ウォン)の3.4倍となっている。
l 前年比マイナスが続くICT関連輸出
韓国政府・科学技術情報通信部は、本年2月の韓国の情報通信技術(ICT)分野の輸出額は128億2,000万米ドルと、前年同月に比べて32.0%減少したと発表している。
半導体メモリーをはじめ、多くの品目の輸出が振るわず、8カ月連続で前年同月対比マイナスとなっている。
輸出を品目別にみると、半導体は前年同月対比41.5%減少、このうち半導体メモリーは市況の低迷で出荷量と単価が下がり、輸出額も29億2,000万米ドルと53.9%急減している。
前月に続く50%台の落ち込み幅となった。
1月に33カ月ぶりのマイナスに転じたシステムLSI(大規模集積回路)は2月も26億9,000万米ドルに留まり、25.5%減となった。
ディスプレーの輸出額は42.2%、コンピューター・周辺機器は58.6%とそれぞれ大幅に減少した。
これらより小幅だったものの、携帯電話も5.5%減少した。
部品の輸出が4.8%増加した一方で完成品の輸出が36.2%減った。
尚、三星電子のスマートフォン新製品「ギャラクシーS23」を中心に、米国への携帯電話輸出は73.5%伸びている点は付記しておきたい。
[主要経済指標]
1. 対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,308.37(前週対比+3.41)
台湾:1米ドル/30.62ニュー台湾ドル(前週対比+0.07)
日本:1米ドル/131.79円(前週対比+2.81)
中国本土:1米ドル/6.8850人民元(前週対比+0.0175)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,395.69(前週対比+1.10)
台湾(台北加権指数):15,452.96(前週対比-73.24)
日本(日経平均指数):27,333.79(前週対比-810.18)
中国本土(上海B):3,250.546(前週対比-20.469)
4.中東フリーランサー報告19
三井物産戦略研究所の大橋研究員から掲題の報告を入手しましたので共有させていただきます。
大橋さんからは下記メッセージを得ております。
すっかり春めいて来ましたが、皆様如何お過ごしでしょうか。今日は東日本大震災から12年目。私は宇都宮駅前で被災しましたが、駅前広場の該当の電球が全て揺れ落ちて地面に散乱していたのを思い出します。その直後には、三陸海岸を中心に惨状が展開された訳ですが、今回のトルコ・シリア地震は、津波無しであれほどの大被害となったのですから、そのすさまじさは想像を絶します。
東地中海のトルコ沿岸を周遊していますと、海岸沿いの海底に古代の遺跡が横たわっている景勝地がいくつもあり、潜って見るとなんとも幻想的な光景が展開するのですが、その歴史的な経緯には、今回のような苛烈な地震があったことを想起すると、複雑な思いがして来ます。
と言うことで、今回の中東フリーランサー報告は、当初の予定を変更し、トルコ・シリア大震災の影響につきまして周辺情報を集めてみました。併せて、原油高に湧くサウジアラビアとUAEのテック産業と不動産開発への力の入れ具合の一端を覗いてみました。
皆様のご参考になれば幸甚です。