社員とのウィンーウィンの関係づくり(リンクトイン創業者リード・ホフマン著『ALLIANCE』より

Yoneyama, Sept 2022

社員とのウィンーウィンの関係づくり(リンクトイン創業者リード・ホフマン著『ALLIANCE』(ダイアモンド社)より

 

前回、「アライアンス」と呼ぶ会社と社員の関係がフラットで対等なイメージを強調しましたが、それはさしずめプロスポーツチームとプレーヤーの関係に近い部分があるかもしれません。チームの勝利を目指して相互信頼と相互投資、そして互恵の原則が機能しているます。換言すれば、一流プレーヤーとしての実力があってこそのアライアンスと思われるかもしれません。実際、一流プレーヤーはFAやポスティング制度を使って所属チームが変えることも可能なほど選び選ばれる関係を築けます。

 

一方、企業においては上級管理職や経営幹部となるか、特別なイノベーションを起こしたエンジニアなど“一流”の地位にある人々はヘッドハントなどで所属を変えるような話もよくあります。

しかしながら、リンクトイン創業者のリード・ホフマン氏が著作『ALLIANCE』で伝えたかったのはそうしたある程度実績を残した社員に限らず、採用するすべての社員との間の関係において「アライアンス」の意識を持つことです。その“意識”の持ち方で成功を築いたのがシリコンバレーの企業だと彼は次の通り述べています。

 

シリコンバレーが成功した本当の秘訣は何か。一言で言えば、ここにいる人々こそが答えのすべてだ。確かにマスコミには業界の若き天才たちの話が山ほど出てくる。だが、この地の経営手法について取り上げた記事は驚くほど少ない。大手メディアはシリコンバレー成功の理由を見落としているのだ。それは、この地の企業が社員との間に築く「アライアンス」の手法にある。ここで大成功を収めた企業は皆アライアンスの手法を用いている。非常に力のある起業家タイプの人材を獲得してチームを結成し、彼らを上手に使いこなし、会社に留まりたいと彼らが思い続ける手法としてアライアンスを用いているから成功したのだ。

 

確かに起業家タイプの社員であればわかりやすいですが、それ以外のタイプの社員のほうが実際は多かったりします。特にオールドエコノミーと呼ばれ、日本の高度成長期のように経済が安定していた時代には、効率性が最重要の美徳であったことから会社は社員に一本道の固定コースを用意し、時間をかけて一つの専門性を究めさせてきました。それが、バブル崩壊後の需要低迷期やグローバル化時代においては会社が想定した一本道固定コースは資産から負債へとなりかねなめせん。そこで起業家タイプを含め、社員を様々なタイプとして受け入れながらそれぞれの特色を生かす形でアライアンス関係を築いていくと言うのがホフマン氏の提唱する人事戦略のようです。

 

では、だれがアライアンスづくりをリードすべきかといえば「アライアンスを導入するなら、CEOが主導して全社一丸で取り組むのが理想的だ」と『ALLIANCE』の著者でリンクトイン創業者のリード・ホフマン氏は語ります。CEOが最終意思決定者ですから当然とも言えますね。

 

ただ、「同時にアライアンス導入の一番重要な担い手となるのは現場のマネジャーであることも我々は認識している」とも語っています。末広がりの組織において末端に至るまで優秀な人材にモチベーション高く活躍してもらうためには現場の管理者がアライアンスの主旨、即ちある一定期間互いに頑張る方向を決めておくことで部下も成長し、チームも成長することを目指す対等な関係づくり、を良く理解して実践に努める必要があるわけです。

 

ここで言う「一定期間」をリード・ホフマン氏は「コミットメント期間(ツアー・オブ・デューティ)」と呼んでいます。「ツアー・オブ・デューティ」はもともと軍隊用語で、任務や配置の割り当て一回分を意味するようです。その期間の長さはまちまちで、1年もあれば年や3年、長いと5年というケースもあるようです。

 

特筆すべきは、このコミットメント期間後の社員の去就については社員の自由で、同じ会社に留まりたければ新たな相互目標とコミットメント期間の合意の下、関係を継続し、同じ会社では新たな成長は難しいと判断した社員は会社を去ることになります。リード・ホフマン氏は次のように語ります。「当社の社員がどこかの時点で会社を辞めるであろうことはわかっています。だからといって、彼らに投資しようという私の気力は一向に衰えません。それどころか逆に燃えます。私は部下にはっきりと伝えます。今後の君のキャリアについて一緒に話すのは大歓迎だし、仮にそのキャリアプランにリンクトインが含まれなくても全く問題ない、と。隠し事の無い正直なチームの雰囲気につながりますし、部下にしても、自分の成長が本人と私の共通の利益なのだと理解しやすくなります」

 

「リンクトインで共に過ごす数年間で彼らが最速で成長してくれるのが、双方にとってベストなのです。この点で会社と社員が同じ利益を共有しているということ。それが、私のマネジメント流儀で最も大切にしていることであり、部下に対する私個人の約束といっていいでしょうね。」

 

社員が中途で会社を去ることを想定しつつ、在籍している間は双方の成長のために努力していこうとする姿勢は社員と会社の双方に仕事への集中、相互信頼、そして目標意識を強く共有していくのでしょう。

 

前回、社員との「アライアンス」づくりはCEOがリードすべきであり、その趣旨をよく理解した現場管理者が夫々の部下との間で一定期間の単位で部下と組織の努力方向を確認していくという『ALLIANCE』でのホフマン氏の主張点を取り上げました。

なぜ一定期間単位で区切っているかといえば、ホフマン氏や同じシリコンバレーの成功企業のCEOは、有能でやる気のある社員はいずれ会社を辞めて他者に移ったり、創業したりすることを想定しているからでした。これは起業家精神が旺盛なシリコンバレーでの傾向かといえばどうもそうではなく全米を通じて活力のある会社は多かれ少なかれそうした想定をしているようです。ALLIANCE』の中でも世界的に著名なコンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループの話が紹介されていましたので以下に抜粋します。

 

「この社員はいずれ辞めるだろう」と認識することが、実は相手から信頼を得るベストの方法であり、それゆえ優れた人材に会社に留まろうと思わせるような関係を育てるベストの方法でもあるのだ。ボストン・コンサルティング・グループのCEOリッチ・レッサーは、これを「オプト・イン(本人の事前承諾)」カルチャーの育成と呼ぶ。「実際に雇用する側になってみるとわかりますが、会社に留まることを期待されているからといって、その期待に応える『義務』があるなんて社員は思っていません」とレッサーは語る。

 

「あなたは、できる限りいい人材を見つけて採用したんでしょう。その最高の人材が『自らの意思』で、この会社に居続けよう、時間を投資してみよう、と思えるような環境を用意する責任は、あなたにあるのです。この点を重視するようになってから当社の社員満足度はかつてないほど高く、トップ人材の定着率も10年前と比べて相当上がりました」」

 

ボストン・コンサルティングは日本にも法人を持って大いに活躍中だが、確かに同社の社員は生え抜きだけでなく、様々な業種の出身者であったり、あるいは同社社員が様々な業種に転職していったりする様子を筆者も垣間見たことがある。その辺は上述のレッサー社長の考え方が世界的に浸透しているのであろう。