ニュースレター国内版 2022年・夏(301号)

日賑グローバル・ニュースレター国内版(第302号)
1. トランピーとバイデンスキー
2. 米国大手石油会社の脱炭素化に向けた本音と建前
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化 
4. 寺島実郎さんメディア出演情報
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1.トランピーとバイデンスキー
2019年にトランプ大統領が米国南部国境沿いに壁を建設するために60億ドルもの予算承認を議会に働きかけたが認められず、同大統領は、国境沿いに国家非常事態があるとして大統領の持つ非常事態権限を行使し、軍事建設予算から36億ドルを壁建設に回そうとした。 
州政府からの訴えを受けた連邦控訴審は、このトランプ大統領の行為が憲法の三権分立に反するとの判断を示した。トランピーと称されるこのトランプ的言動と似たような行動をバイデンが取っているのではないかとワシントンポストがオピニオン欄で警鐘を鳴らした。敢えて称すれば“バイデンスキー”と呼ぶようである。バイデン大統領の場合は、選挙公約で掲げたコロナ禍における大学生の学資ローン返済免除政策のごり押しである。 
議会での予算付けが難しいと見るや、バイデン政権は、9-11の国家非常事態に伴う戦役参加者の学資ローンの返済を猶予するジョージ・W・ブッシュ時代に制定されたHero‘s Actに伴う大統領に付与された非常事態対応権限を流用しようとした。即ちバイデン大統領は一人の学生当り最大2万ドルの学資ローンの免除する計画を発表、額面通り実行されれば国庫負担は4千億ドル(約56.5兆円)にも及ぶ。
これに対しネブラスカ州やミズリー州など6つの州が大統領にその権限はないとして訴えを起こし、最高裁は先々週、政権が計画を実行することを差し止める判断を下している。但し最高裁は、政権の考えを来年2月に聴取することにはしている。バイデン大統領は、パンデミックは9-11に匹敵する非常事態であり同等の救済を行うに値すると主張し、Hero’s Actの適用を合法とするが、同法の趣旨は支援の次元が、非常事態発生以前の個人的財務状況と同等のところまで戻すことにあるのに対し、仮にパンデミックを非常事態と認定したとしてもバイデンの計画は学生の借金の元本を帳消しにするので非常事態以前の財務状況より改善してしまうという問題がある。本来法の救済措置は返済猶予までという議論である。
一方、大統領の権限行使に異議がある場合、誰が裁判所に訴える権利があるのかという問題もある。トランプの壁建設の場合も、今回のバイデンの徳政令の場合も州政府が訴訟を起こしているが、一般市民でも議員でも利害関係者として訴訟を起こせると言えなくもない。ミズリー州は州立の学資ローンNPOを持っており、バイデンの徳政令が発行されると当該NPOが損害を被るという直接の利害関係がある。三権分立の憲法の精神を守り、“トランピー”なことをすべきではないという民主党内のリベラルサイドの意見もあるが、その観点よりも大統領選や知事選をにらんでの州知事とホワイトハウスのぶつかり合いと言う極めて政治的なにおいのする話題でもある。    
2.米国大手石油会社の脱炭素化に向けた本音と建前
中間選挙の結果、下院与党民主党は来年1月3日から野党に下り、様々な委員会の委員長ポストも失うことになる。その中の一つである監督・改革委員会が収集した大手石油会社の内部資料から、大手石油会社の経営幹部は再生可能エネルギーが化石燃料を早い段階で代替する可能性を否定しつつ天然ガスの将来をしっかり固めようと努力しようとしている姿勢が見えており、下院与党として最後の委員会の場において民主党が石油会社の欺瞞を暴こうとしている様子をワシントンポストが報じた。大手石油会社は、例えば自らが保有する権益から生ずる二酸化炭素の排出責任を少なく見せようと、中小の事業者にオイルサンズの権益を売りぬいている。
また、化石燃料に投資を続けているにもかかわらずクリーンエネルギーにコミットしているとの宣伝広告を流すいわゆる“グリーンウォッシュ”と呼ばれる活動が目立つという。このような大手石油会社の継続的な欺瞞や、気候変動を証明しようとする科学を台無しにしようとする姿勢を委員会では厳しく批判している。来年1月3日に下院与党となる共和党は気候変動問題よりも化石燃料保護に関心が強く、彼らがこの監督・改革委員会の委員長を出すことになれば上記のような大手石油会社に対する追及は無くなると予想される。
こうした中、今の最大の関心事はヒューストン南部での二酸化炭素捕捉(CCS)プロジェクトで、この1千億ドルに及ぶプロジェクトにエクソンモービルも参画しようと努力しているが、パートナー候補企業からは気候変動対策に真剣に取り組んでいるという世間の評判や認知がある企業とのみ組みたいと言われ拒絶されているといういわゆるレピュテーションリスクにエクソンとしてどう対処するのかということ。
インフレ削減法の下で、石油・ガソリンの増産をバイデン政権に求められた石油会社だが、民主党の追及がなくなることをよいことにそのまま石油増産に突き進むのか、あるいは政治と関係なくレピュテーションリスクや会社の対消費者ブランド価値の棄損を挽回すべく今まで以上に天然ガスにシフトしつつCCS技術などへの投資でグリーン化に本格的にシフトするのか注目される。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1)  中国・台湾
*  ゼロコロナ後の経済成長に自信を示す李克強首相
中国の李克強首相は、安徽省黄山市で国際機関である国際通貨基金(IMF)や世界銀行など六つの国際機関トップと会談、会談後の共同記者会見で、新型コロナウイルスを厳格に封じ込める「ゼロコロナ政策」を大幅緩和したことによって、中国の経済成長率は引き続き上がり続けると強調し、経済持ち直しに自信を示している。
中国経済はゼロコロナ政策の長期化で、個人消費や企業投資の低迷が常態化していると言われており、2022年の経済成長率は3%台程度と、中国本土政府が目標に掲げた5.5%前後の達成には遠く及ばないと見られているが、来年は一気にアクセルを踏み込んでくるものと見られている。
*  インテルCEOの台湾訪問
台湾経済の一つの基軸は電気・電子・半導体産業にある。従って、台湾経済にとっては、世界の中核企業の一つであるインテルにも高い関心が寄せられている。こうした中、今般、インテルのゲルシンガー最高経営責任者(CEO)が台湾を訪問した。半導体サプライチェーンの変革に向けての動きをインテルが示しているのではないかと言うことで、注目をされている。
(2)  韓国/北朝鮮
*  評価が高まる韓国自動車ブランド
現代自動車グループは、英国・有力自動車専門メディアである「BBCトップギア」の「2022トップギアアワード」で優秀モデルに贈られる「インスタント・アイコン・アワード」に現代自動車の「N Vision 74」、優秀メーカーに贈られる「マニュファクチャラー・オブ・ザ・イヤー」に起亜自動車がそれぞれ選ばれたと発表している。
現代自動車の高性能ブランド「N」が今年7月に発表したN Vision 74は、水素ハイブリッド車を量産化する前段階で検証の為に製作されたものである。1974年に発売されたポニークーペのコンセプトカーをヒントにデザインされ、バッテリー駆動モーターと水素燃料電池を組み合わせたハイブリッドシステムで最大出力500キロワット、充電1回当たりの航続距離60キロを実現したとしている。トップギアは、「N Vision 74を通じ、現代自動車の過去のデザインと未来の高性能車両開発に向けた推進力を垣間見ることが出来、韓国車ブランドの自信も示した」と選定理由を説明している。韓国車にとっての自信に繋がっている。現代自動車の子会社である起亜自動車は、本年11月の世界販売台数が前年同月対比15.0%増の25万2,825台となったと発表している。国内販売は13.4%増の5万2,200台、海外販売は同15.4%増の20万625台となっている。
国内ではエコカーの売り上げが前年同月対比27.4%増の1万5,552台を記録。多目的レジャー車(RV)の「ソレント」「スポーテージ」のハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)専用モデル「EV6」などが好調となっている。海外では「スポーテージ」が3万3,573台と最大の売り上げを記録している。
*  男女賃金格差が最大の韓国
国際機関である経済協力開発機構(OECD)が公表した男女賃金格差に関する統計によると、2021年時点で韓国の格差は31.1%となり、39カ国の中で最悪となっている。韓国に次いで格差が大きいのはイスラエル(24.3%)、日本(22.1%)、ラトビア(19.8%)の順となっている。韓国のワーストは1996年のOECD加盟以降、26年連続となっている。日本以外の主要7カ国(G7)を見ると、米国(16.9%)がワースト6位、カナダ(16.7%)が同7位、英国(14.3%)が同10位、ドイツ(1
4.2%)が同11位となっている。
また、同一の職種、職務内での男女の賃金格差も韓国は主要15カ国中、それぞれワースト1位、同2位となっている。男女が主に従事する職種が異なる為に賃金格差が生じるとの指摘があるが、韓国では同一の職種、職務、事業所でも男女格差が主要国でワーストレベルであり、問題は大きいとされている。
*  日韓航空路線運航回数コロナ以前に回復へ韓国政府・国土交通部は、金浦(ソウル)―羽田(東京)線の運航回数をこれまでの週56往復から週84往復に増便すると発表している。これにより、同路線の運航回数は新型コロナウイルスの感染拡大前である2019年の水準を回復することになる。金浦―羽田線は新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年3月に運航が中止され、今年6月29日に週8往復で運航が再開され、以降、増便に伴って運航回数が増加していた。ウイズコロナによる交流拡大が経済拡大にもつながるとの期待が出ている。
[主要経済指標]
1.    対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,302.93(前週対比+0.96)
台湾:1米ドル/30.65ニュー台湾ドル(前週対比-0.05)
日本:1米ドル/136.56円(前週対比-1.13)
中国本土:1米ドル/6.9559人民元(前週対比+0.0631)
2.      株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,389.04(前週対比-45.29)
台湾(台北加権指数):14,705.43(前週対比-265.25)
日本(日経平均指数):27,901.01(前週対比+123.11)
中国本土(上海B):3,206.950(前週対比+50.806)
4.寺島実郎さんメディア出演情報
一般社団法人寺島文庫殿から掲題の最新情報を頂戴しましたので共有させていただきます。
●TOKYO MX1「寺島実郎の世界を知る力」
【第3日曜日】第27回放送:12月18日(日)午前11時~
番組前半では、「2022年の総括と2023年への展望」をテーマに、全員参加型秩序に向かう世界の現状や、世界の中で埋没する日本のあるべき姿等について、寺島独自の視点で踏み込みます。
後半では、「『世界を知る力』で求められるネットワーク型世界観」をテーマに、寺島の著書で、これまでNHK出版より刊行されている『大中華圏』(2012年刊)、『ユニオンジャックの矢』(2017年刊)、そして12月20日に発刊される新著の『ダビデの星を見つめて 体験的ユダヤ・ネットワーク論』を取りあげながら、文献研究とフィールドワークを通じて築き上げてきた「ネットワーク型世界観」について、寺島が語ります。
※サンスター様のコーナーに、「みねるばの森基金」の活動に関連して、寺島文庫広報犬・エリゼも出演致します。
※新著『ダビデの星をみつめて 体験的ユダヤ・ネットワーク論』の詳細はこちらをご覧ください。
 サポーターの皆様には、年明けに寺島のサイン入り書籍を順次お送り致します。 
【第4日曜日】「対談篇 時代との対話」第21回放送:12月25日(日)午前11時~
<ゲスト>:真壁昭夫氏(多摩大学 特別招聘教授)、白井さゆり氏(慶應義塾大学総合政策学部 教授)
今回の鼎談では、世界及び日本の経済情勢と金融政策における2022年の総括と2023年の展望をテーマに議論いたします。是非、ご視聴頂けましたらと存じます。