ニュースレター国内版 2022年・冬(281号)

1. 利上げ観測と共に“根拠なき高騰”から“根拠に基づく手じまい”に向かう米国の株式市場
2. 造反者を血祭りにあげトランプ求心力を強化する共和党
3. 中東フリーランサー報告11
4. ウィニーの本が出ます!
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1.利上げ観測と共に“根拠なき高騰”から“根拠に基づく手じまい”に向かう米国の株式市場
米国FRBの2008年のリーマンショック後の一連の金融政策はゼロ金利政策と市中に流動性を供給するQE1~3の量的緩和政策が中心であった。その後、米国経済も復調した2015年には連銀はテーパーリングと称してこれらの政策を手じまいしたが、2017年に就任したトランプ大統領による対中貿易戦争などで景気が後退し出したことからトランプ政権の後半にはまたほぼゼロの低金利政策と5兆ドルにも及ぶ債券買取による量的緩和を復活させている。そこで市中に出回ったカネは株式、債券、暗号通貨、そして住宅に流れ、それらを総じて高騰させている。
実際、ダウジョーンズ平均工業株化は2020年3月の値に比べ、先月初頭で2倍になっている。その中でもシリコンバレーのテック企業の株価の“根拠なき高騰”と言われるレベルに達していた。本来であれば業績推移・予想やパンデミックの影響などを慎重に評価し、値踏みするというプロセスを飛ばしているように見える投資家に対し、連銀やIMFはここ数か月警鐘を鳴らしていた。かかる状況下で、連銀のパウェル議長が来月の利上げを示唆したことで、株式市場にも急速に変化をもたらしている様子をワシントンポストが伝えている。  
先月のNASDAQの指標は、2008年以降で最悪で、アマゾンが10%ダウン、マイクロソフトが8%、グーグルとフェイスブックが夫々7%、アップルが2%下げている。そして今月に入り、先週の木曜日にはフェイスブックの株価が26%も下がり、失われた企業価値は2,300億ドルにも及んだ。これは1929年10月の暗黒の火曜日に株価暴落で市場が失った価値全体に匹敵する規模である(インフレ調整後の比較)。連銀の利上げを前に株式からの手じまいを始める投資家がテックカンパニーの先行きを値踏みする中で、ユーザー数が頭打ちになっていることや日々の実ユーザー数が初めて減少に転じ、TikTokなどのアプリにより多くの時間を使っていること、そしてアップルのiPhoneでユーザーを追跡することに制限がかかるようになったことによる年100億ドル相当の収入減などのニュースが、フェイスブックの「売り」に拍車をかけた模様。 
同じく先週水曜日にはPayPalの株が24%ダウンし、オーディオ企業のSpotifyの株価は17%減、そしてネットフリックスの株価は先月30%も下がっている。夫々のダウンには業績内容や予想の悪化など確たる裏付けとなる「根拠」がある。業績が今もしっかりしているグーグル、アマゾン、アップル及びマイクロソフトはその株価がある程度保たれている。過剰な流動性は人々をして投機的な“賭け”に向かわせるが、金利が上がり、流動性のコストが高まると、リスク判断の原理原則に則った「根拠」に基づく投資に戻るようである。問題はその利上げが景気を冷やさずにインフレだけを抑えるという連銀の狙い通りにいくかどうかである。
2.造反者を血祭りにあげトランプ求心力を強化する共和党
2月4日に米国では共和党の2つのイベントが開催された。1つはユタ州ソルトレークシティーで行われた共和党全国委員会(RNC)の冬期会議でもう1つはフロリダ州オーランドで開かれたFederalist Society in Floridaという保守系の弁護士などフロリダ州の共和党支持層の中のエリート層の集い。前者のイベントではRNC委員長のRonna McDaniel女史が共和党下院議員のLiz Cheney(ワイオミング州選出)とAdam Kinzinger(イリノイ州選出)を公式に非難し、懲戒決議を提出、圧倒的多数で承認された。懲戒の理由は、昨年1月6日の連邦議会乱入事件に対するトランプ前大統領の関与責任を追及する下院の委員会設立に両下院議員が賛成したためで、それが「破壊的行為で共和党に被害をもたらしたたため」と記されているという。
この承認の結果、党は両議員をもはや支援せず、その対立候補に選挙資金その他の応援を行うことになる。オーランドのイベントでは、主賓として招かれたマイク・ペンス前副大統領が講演の中で、昨年1月6日に議会で大統領選挙結果を認証する際に、バイデン大統領を選んだ幾つかの州からの選挙人を拒絶することで選挙結果を変えるようトランプ前大統領から求められた際に、それを拒絶したことに関し、「トランプ前大統領は間違っている。 彼の言う通りにすることはアメリカ人ではない(un-American)」と語り、参加者から盛大な賛辞を受けている。 
ただ、今後、ペンスの発言が党内の支持を増すかと言えば疑問で、むしろ彼がつるし上げを食うか、破門となるか・・といったうわさも立っているという。現職議員でも元共和党大統領候補おミット・ロムニー上院議員(ユタ州選出)のように公然とトランプ批判を展開する議員もいるが、現状は極く僅かである。上述の二人の下院議員を筆頭に、反トランプの造反者を血祭りにあげる(血を見せる?)ことでトランプ前大統領支持層を興奮させ、トランプを中心とした党の結束を固め、11月の中間選挙での与党奪還を目指すというのが共和党幹部のシナリオのようである。当のトランプは、今回の2つのイベントの最中はフロリダ州にある自らが保有するMar-a-Lago Clubで会員のためのパーティを開催し、DJ役を務めて
いたそうだが、ペンスの発言に対しては、以下の声明を発している。
「(昨年1月6日に行われた)選挙人による投票のカウントに関し、ただのベルトコンベヤーとなってOld Crow(ケンタッキー州の安バーボン)のミッチ・マコーネル(共和党院内総務)がバイデンを迅速に大統領とさせること以外に何ら権限を持っていないとのマイク・ペンスの声明を今見た。副大統領の立場は、仮に投票行為の不正の明らかな兆候があるか、異常があった場合、ただのベルトコンベヤーとはならないであろう。 だからこそ民主党や民主党もどきの共和党員はペンス及び彼の顧問らが1月6日の判断でうっかり根拠法としたまさにその法律を変えようとしているのだ」
このようにトランプ前大統領は機会あるごとに、「大統領選挙に不正があったこと」、「勝利が盗まれたこと」を支持層に繰り返し刷り込み、彼への支持の訴えの根幹に置いている。いずれにせよ、トランプ以上に支援者を集められる共和党の人物は一人もいないという厳然たる事実が彼をしてそのままこの主張を声高に行わせている。
3. 中東フリーランサー報告11
元三井物産戦略研究所研究員の大橋誠さんから掲題のレポートを頂戴しましたので添付の通り共有させていただきます。大橋さんからのメッセージの抜粋も下記させていただきます。今年初の中東フリーランサー報告をお送りします。今回は第8号の続編の形で、UAEの実力者No.2として最近の活躍ぶりが注目されているシェイク・タフヌーンと、彼の支配下にある(つまりは国の支配下にある)AI・クラウド会社「G42」が開発したネット通話アプリ「ToTok」(TikTokではありません)への関連疑惑と、UAEと中国のAI提携戦略について焦点を当ててみました。中国の中東への進出は、軍事進出や武器供与のような表面的なものは見られず、また周辺地域の「債務の危機」に軽々に陥るような貧乏国は、中国の地域戦略線上にはありません。中東なかでもGCCは中国にとって、周辺国への進出に当たっての発信基地の位置づけに見えているのではないかと思います。その点で活発なのがデジタル方面で、最近ではG5基地局の技術提供が米国の神経を逆撫でしていましたが、さらにソフトの分野で、中国のクラウドが、晴天の砂漠都市に、それこそ雲のように影で覆いつつあるように見えたのが今回のレポートのテーマです。
4. ウィニーの本が出ます!
以前弊社に在籍しておりまして、小説家を目指して独立したマレーシア出身のウィニー(タン・イジュンさん)がこの度、英文の本を出すことになりました。まだ小説ではなく、海外の旅行者に著名な“Lonely Planet Experience”というガイドブックのシリーズにおいて“Experience Japan”という日本でのアクティビティを紹介する本です。実際のリリースは3月ですが、以下のリンクで先行予約が可能です。是非皆様の海外のお知り合いにもご紹介お願いします。
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