ニュースレター国内版 2021年・春(266号)

日賑グローバル・ニュースレター国内版(第266号)

 

1. 米国―イスラエル関係の行方 - ネタニヤフ首相退陣?

2. 在外米国人にワクチンを提供していないバイデン政権

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化 

 

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1.米国―イスラエル関係の行方 - ネタニヤフ首相退陣?

 

イスラエルの政党リクードの党首のベンジャミン・ネタニヤフ氏は2009年に2度目のイスラエルの首相に就任後、オバマ政権の8年間とトランプ政権の4年間を経て、バイデン政権に至るまで米―イスラエル関係の動きの先頭を走ってきた。将来を嘱望された優秀な軍人であった兄が対テロ作戦で殉職し、国民の英雄となる中、アメリカでビジネスキャリアを積んでいた弟のベンジャミンもイスラエルに戻り、政治家となって国の安全保障のために、最大の脅威の対イランはもとより、パレスチナ人に対しても時に強硬な姿勢を示し、国の安全を図ることで政治的求心力を保ってきた。イスラエルでは政党の数が多く、単独与党となることはまずなく、ネタニヤフ首相も中道右派のリクードの党首としてユダヤ教超正統派の利益を代表する宗教右派との連立を組みながら実績を残すことで安定した政権運営を維持してきた。 

 

それが長期政権の驕りのせいか、ここ数年は自身や妻の収賄問題等のスキャンダルで人気が地に落ち、連立がスムーズに組めない状況に陥っていたが、新型コロナウィルス感染症発生のため、政争を一旦わきに置き、挙国一致内閣の必要性を求心力としてギリギリのところで政権を維持してきた。 

ところが、最新の状況ではネタニヤフ首相が連立を組むことに苦労する中、極右の新右翼や中道のイェシュ・アティッドなど野党8党が連立政権樹立で合意し、明後日613日に首班指名の投票が議会で行われることとなっている。各党員が党首の方針通り投票すれば、ネタニヤフ首相は首相の座を降りることになるこの野党8党連立の合意内容として、新右翼の党首ナフタリ・ベネット氏が来る2年間の首相を務め、そののちイェシュ・アティドのヤイル・ラピド党首が首相を引き継ぐこととなっている。ネタニヤフ首相はこれら野党8党の党員に直接働きかけ、寝返りを促そうとしており、13日の投票が終わるまではまだ先が読めていない状況にある。米国のイスラエル政策は、「中東における米国の最も重要な同盟国支援」で超党派で一貫してきているが、ネタニヤフ首相のこれまでの対米外交関係は明らかに共和党支持であった。特にオバマ政権はイラン核合意を推進するなど、対イラン強硬姿勢のネタニヤフから見た時には宥和政策としかとらえられず何かと軋轢を残していた。例えば、20103月にバイデン副大統領(当時)がイスラエルを訪問中、アラブ系が大半を占める東エルサレムへのユダヤ人入植拡大をネタニヤフ政権が発表し、バイデンの面目を失わせたことはその象徴的出来事であった。 

 

方や、トランプ政権となってからはアメリカによるエルサレムの首都公認からゴラン高原の占領地のイスラエル帰属承認を取り付けるなどトランプ政権との蜜月ぶりを強調した。バイデン政権となってから勃発したイスラエルとパレスチナガザ地区のハマスとの戦闘の収束後、ブリンケン国務長官はイスラエルを訪問してネタニヤフ首相と面談すると共に、パレスチナのアッパース大統領とも面談、バイデン政権としてのイスラエル・パレスチナ二国共存方針支持の姿勢を示している。ブリンケン国務長官はユダヤ系アメリカ人であり、義父がホロコーストの生き残りとして著名な人物であることからネタニヤフ首相も歓迎姿勢を示してはいた。

 

一方、次期首相となるかもしれないベネット新右翼党首は、元々はパレスチナとの二国共存に反対し、イスラエルが占領する地域をイスラエルに併合することを主張していた。今回の連立合意の中にはアラブ系イスラエル人の利益代表の党も入っており、そのような過激な方針は慎まれることになり、米国との良好な関係が営まれると見られるが、いずれにせよこの8党連立の求心力の原点は反ネタニヤフであり、6月13日にそれが実現した後の「烏合の衆」が政権の体を為せるのか注目される。

 

2.在外米国人にワクチンを提供していないバイデン政権

 

米国内では昨日の時点で17,210万人(人口の51.8%)がワクチン接種を少なくとも1回以上終え、希望しさえすれば、いつでも接種できる状況にある。むしろ接種を望まない人間に対し無料の宝くじやお土産を与え、“買収”するかたちで接種を募ったりしている。 

米国を訪れる他国の旅行者も接種可能で、ジョンソンエンドジョンソンのワクチンであれば1回接種で完了となることから日本などの遠方からも短時間で接種訪米を行う人々も増えている。

 

さらには、バイデン政権は中国に負けじとワクチン外交として5億回分のファイザー製ワクチンを途上国向けに無償提供することを発表している。

ところが、海外在住のアメリカ人には「アメリカのワクチン」の接種を強く希望しても得られるめどが立っていないという。現在約9百万人ものアメリカ人が海外駐在員等の立場で海外で暮らしている米国務省は世界にある米国大使館の職員向けには「アメリカのワクチン」をようやく展開させている状況だが、そこから先の現地邦人への「アメリカのワクチン」供給チャネルの構築は検討されていないアメリカに一時帰国すればすぐに接種は可能だが、家族共々の米国往復となれば航空運賃だけでも馬鹿にならず、多くの在外邦人は夫々の国のワクチン接種計画に則り、地元市民と同じペースとルールで接種することを待つしか他に選択肢はない状況にある。 

 

ただ、アフリカや一部のアジア諸国においてのワクチン接種のペースは遅く、一方で糖尿病などの既往症や肥満などハイリスクなアメリカ人の割合が高いことから在外アメリカ人の懸念は高まっている。バイデン政権がその動向を強く意識する中国に目を転じると、共産党政府はワクチン外交をアジア、アフリカに展開するだけでなく、海外在住の中国人に対する「中国のワクチン」の供給体制を積極的に整えているという。在外中国人は本国中国がいざ有事となって安全保障上の必要がある場合は、夫々の在外地で母国のための協力(情報活動等)を行うことが求められているが、国民としての義務だけでなく、同等の権利も得られることを見せつけている。

 

日本人が海外駐在となれば派遣先の税金を払っても、日本の税金を払う必要はないが、アメリカ人の場合は海外に居住しても米国政府に対する納税義務も残る。在外米国人が居住する相手国政府や国民への配慮もあるのであろうが、義務ばかりが残って、権利の行使ができない在外アメリカ人の問題は、人権問題で中国を厳しく追及する米国の灯台下暗しの1つと言えよう。 

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国

l  「中朝血盟関係」を強調する中国

中国の王毅外相は、北朝鮮の駐中大使である李リョンナム大使と面会し、「中朝は共に社会主義国家である」と、中朝の“血盟”関係を強調した上で、米韓を強くけん制している。中国と北朝鮮が「血の同盟関係」を基にした連携関係を改めて世界に示したことが改めて注目されている。

 

l  半導体の日台連携

世界をリードする半導体チップメーカーである台湾積体電路製造は、半導体製造技術を更に高める為に日本企業と提携することを計画している。日本政府は、台湾積体が関与するこのプロジェクトに、約190億円を拠出することを計画しているとの見方が出ている。 また、この研究施設を中心とする施設は、東京に近い茨城県つくば市に置かれるとの見られている。その台湾積体は、7ナノメートルから5ナノメートル、その後に3ナノメートルへと開発準備を進めており、2022年後半のそれらの量産が期待されているが、同社Wei総裁は、米国・アリゾナで12インチウェーハファブの建設を開始し、2024年に5ナノメートルのプロセスチップを大量生産する予定であることを確認、更に、2ナノメートルファブ生産用の土地を米国で取得することを検討していることを示唆しており、日台のみならず、日米台の半導体連携となれば、日本にとっては、更にリスクは低く、リターンの高い連携になっていくのではないかと思われる。また、世界的な半導体チップの不足により、主要な半導体製造工場への投資が加速しており、国際半導体製造装置材料協会が発表した最新の「世界半導体装置市場レポート」によると、世界の半導体製造装置の出荷は、第1四半期に236億米ドルに達している。これは、前年同期対比で51%の大幅な増加であり、前四半期対比で21%の増加となっている。

 

l  福島原発汚染水処理を国際問題に位置づける中国

対日関係に関しては、ここのところやや控えめ、慎重な姿勢を示している中国ではあるが、今般、王毅国務委員兼外相は6月1日に開催されたBRICS外相会議に於いて、日本政府による東京電力福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出方針に関して、「利害関係国と国際機関との協議を纏める前に、勝手に放出してはならない」とテレビ会議形式で演説している。王外相は、福島での汚染水処理問題を、パレスチナ問題やイラン核問題と並ぶ国際問題と位置付けてもいる。

 

(2) 韓国/北朝鮮

l  タイとの関係強化を図る文政権

文在寅大統領は、タイのプラユット首相と電話会談を行い、「P4Gソウルグリーン未来首脳会議」への出席に謝意を表した。文在寅大統領は、「プラユット首相の出席は気候危機の対応と国際協力の為のタイの高い意志を示すものと考えている」と述べて対話を始め、続けて、文在寅大統領は、「タイは韓国の永遠の友邦であり、かつ韓国政府の新南方政策の重要な協力パートナーである。タイと韓国間の『戦略的パートナー関係』を更に発展させていくことを期待する」とコメントしている。

 

l  女性に対する徴兵制を20代女性の過半数が支持

韓国に於いては、女性に対する徴兵義務が議論されている。こうした中、韓国国民の半数ほどが、女性の義務的な軍服務に賛成であるという調査結果が出ている。今回の調査では、特に女性側で賛成意見が多く、20代では過半数が賛成している点が特筆されている。「女性徴兵制」もしくは「男女平等徴兵制」は、このところ韓国の若者層のジェンダー対立が深刻になる中で社会的課題ともなっている。

 

そして、男性側は「男性のみ徴兵」51%、「男女とも徴兵」44%という結果が出たのに対して、女性側は「男性のみ徴兵」43%、「男女とも徴兵」47%となっており、女性も徴兵すべきという主張に、男性よりも女性の方が多く賛成している。もともと芯の強い韓国人女性が、権利も義務も、名実ともに男女平等を向かって動き始めているとも見られ、

 

また、それは、韓国人女性の自信も表れとも見られる。特に、実際に徴兵対象となる20代(18~29歳)でも女性の徴兵賛成の意見が優勢であったことが注目される。尚、志願制についての賛否が半々の、42%は「現行の徴兵制を維持すべき」とし、43%は「徴兵制を廃止して志願制を導入すべき」と回答した。また、「軍隊生活は人生の役に立つ」という回答者は68%ではあるが、2011年の82%、2016年の72%から次第に減少してきている。

 

[主要経済指標]

1.    為替市場動向

韓国:1米ドル/1,116.01(前週対比-2.38)

台湾:1米ドル/27.71ニュー台湾ドル(前週対比-0.02)

日本:1米ドル/110.09円(前週対比-0.22)

中国本土:1米ドル/6.4092人民元(前週対比-0.0424)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):3,240.08(前週対比+51.35)

台湾(台北加権指数):17,147.41(前週対比+276.55)

日本(日経平均指数):28,941.52(前週対比-207.89)

中国本土(上海B):3,591.845(前週対比-8.039)

 

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