読者の皆さまへ
日賑グローバルのブレットです。第5回目のコラムのテーマは、ワークショップ後に残る付箋や模造紙など紙ベースの制作物をどう扱うかです。
模造紙、付箋、ポスターなど、セッション中に参加者が議論や思考の過程で書いたり分類したりする制作物は、終了後は往々にしてその場限りで廃棄されがちです。しかし、それら制作物には参加者に様々な気づきを与えるきっかけとなった視点、視座、環境認識、事実があったり、自分のアイデアをさらにリファインするための他の参加者からのアドバイスやコメントが書き添えられていたり、思いもつかない発想が記されていたりすることもあります。また、かなりシリアスな議論がなされた場合に、その議論の起承転結を示す思考過程を“可視化”して整理している図柄もあったりします(ファシリテーターの頑張りにもよりますが・・)。これらの“制作物”をきちんと整理して保存していれば、後日、結論は覚えていてもなぜそこに至ったのか忘れていても、その思考過程を簡単に思い出すことができますし、別の機会に新たな視点や視座を必要とする際の参考にもなります。もちろん会議で決まったとおりに行動が進んでいない場合には改めてこの制作物をエビデンスとして行動内容の再確認をすることもできます。
この話題は、弊社の米国のパートナーのボルテージコントロール社によるコミュニティ「Facilitation Lab」の中でも取り上げられ、プロのファシリテーターたちによる豊富な知見がシェアされていました。本稿では、そこで語られた実践知を基に、制作物をデジタル化・活用するための3つのアプローチをご紹介します。
🔑 ワークショップ成果を活かすための3つの工夫
1. AIやアプリで書き起こし&要約
近年、ChatGPT、Claude、GeminiといったAIツールを使って、付箋や模造紙に記した内容を写真から読み取り、テーマごとに分類・要約する方法が注目されています。ボードの写真をアップロードし、「内容を書き起こして分類して」と指示するだけで、短時間で初稿ができあがります。
実際、Facilitation Labに参加の多くのファシリテーターが「80〜90%の精度なら十分」と述べています。一人はこう語っています:
「ボードの写真をAIアプリにアップし、アクティビティごとに分類・要約させれば、だいたい80〜90%の成功率で整理できます。」
ただし、日本語の場合、手書きの漢字がAIにとって難しいケースが多く、人の目による補正が必要になる場合もあります。それでも、手作業での書き起こしと比べれば、大幅な時短につながります。
以下のツールも便利です:
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Post-it® App
最大200枚の付箋を1枚の写真でキャプチャし、テキストに変換。Miro、Trello、Excel等に出力可能。→ 公式サイト -
Miro
AIが画像から付箋内容を読み取り、クラスタリングまで支援してくれるボードツール。 -
Googleドキュメント+音声入力
付箋を一つずつ音読し、「音声入力」機能を使ってGoogleドキュメントに書き起こします。その後、MuralやMiroに貼り付けてAIでクラスタリング。あるストラテジストのコメント:
「AIのおかげで読み違えるリスクがなくなります。自分で分類した後にAIで確認するのが一番フェアな流れだと思います。[MOU1] 」
2. セッション中にデジタル化を組み込む
事後にまとめるのではなく、セッション設計の段階からデジタル化を取り入れるという考え方もあります。あるファシリテーターはこう述べています:
「最近はMentiやMeahanaを使って、参加者自身に付箋の内容をツールに入力してもらうようにしています。」
- Menti(Mentimeter):リアルタイム投票&共有スライドツール。スマホから直接投稿可能。
- Meahana:ワークショップ設計・記録・可視化を支援する協働型プラットフォーム。
多くの人がスマホを持っている今、対面の場でもブレインライティングをデジタル入力で行うことで、より読みやすく、整理された情報をその場で可視化することができます。
3. 記録ではなく「意味のある成果」として再構成する
別のファシリテーターは、こんな本質的な視点を共有してくれました:
「私は付箋をそのまま書き起こしたりしません。写真を撮ってPDF化はしますが、あくまで“試作段階の記録”です。本当に価値があるのは、そこから抽出された洞察(インサイト)や結論なんです。PDFには誰も戻りませんが、“可視化されたインサイト”には戻ってくるのです。」
つまり、記録を残すことが目的ではなく、伝わる形に再構成することがゴールです。要点をスライドにしたり、ビジュアルストーリーやマップにまとめたりすることで、参加者にとってもクライアントにとっても記憶に残る資料になります。次回のセッションの冒頭に使えば、前回からの流れもつなげやすくなります。
手間はかかりますが、参加者の記憶に残し、行動につなげるという意味で、非常に効果的です。
💡 なぜこのテーマを選んだのか?
ワークショップ後の“流れ”を維持するのは、ファシリテーターにとって最大の課題のひとつです。セッション中に出たパワフルなアイデアも、終了と同時に忘れられてしまうことはよくあります。クライアント側としても、チームの時間とエネルギーを投じたなら、それが「意味ある価値」につながってほしいと願っているはずです。
だからこそ、私たちがセッションで生み出した付箋や模造紙、ポスターなどの「アナログ制作物」には意味があります。それは単なる紙の切れ端ではなく、チームの知的生産の証、イノベーションの種です。
付箋はゴールではなく、むしろスタート地点。適切なツールと少しの工夫で、それを「意味のある成果物」に変えていくことが可能です。セッションの成果を単なる記録で終わらせず、次のステップにつながる資産として活かしていきましょう。
📩 最後に
われわれがボルテージコントロール社のサーティフィケーションコースに参加した際に、今回取り上げた「制作物」のことを「artifact」と呼んでいました。人間がつくりだした「作品」といったニュアンスがあります。
アプリ、AI、リアルタイム入力、あるいは地道な手書き整理——どんな手段であれ、ワークして気づいたこと、議論してインスパイアされた内容を大切な“作品”として「保存・再構成・共有」していくことがチームと個人の成長の第一歩だと思います。付箋が剥がれたあともセッションが価値を持ち続ける、そのために必要な工夫を、ぜひ現場で取り入れてみてください。
今回ご紹介した内容や、ファシリテーションに関するご相談・ご質問がありましたら、どうぞお気軽にご連絡ください!
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日賑グローバル株式会社
ヒューステッス・ブレット
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