「モチベーション・サンドイッチ」:本当の変化を促す3つの要素
読者の皆さまへ
日賑グローバルのブレットです。今回から新たに、ファシリテーションの最新動向をお届けするコラムをスタートいたします。特にアメリカの実践や知見に焦点を当て、皆さまが組織内で協働的リーダーとして成長するための実践的なヒントをお届けしていきます。
記念すべき第1回は、研修後の行動変容をいかに起こし、持続させるか、というテーマです。
セッション直後は「よし、変わろう!」とモチベーションが高まっていても、その気持ちは時間とともに薄れてしまうことがよくあります。多くの方が本気で変わりたいと願いながら、実際には続けることが難しい――なぜでしょうか?
それは、変化は難しく、そして良き意図は非常に脆いものだからです。
⚔️ 変化を阻む見えない敵
欧米では「どんな計画も、敵との最初の接触までは完璧だ」という諺があります。この場合の“敵”とは、私たちの中にある現状維持の力、つまり習慣や忙しい日々です。
セッションで学んだことを実行に移そうと思っても、すぐに忘れてしまったり、ノートを見返す時間がなかったりして、何も変わらないままになってしまう。
でも、それを防ぐ方法があります。
🥪 モチベーション・サンドイッチ:3つの要素
記憶や意思の力だけに頼るのではなく、現実の行動変容を支えるシンプルな3層構造のモデル——それが「モチベーション・サンドイッチ」です。
· 内発的動機付け(Intrinsic Motivation)
· 笑ってしまうほど小さなスコープ(Laughably Small Scope)
· 外発的動機付け(Extrinsic Motivation)
順に見ていきましょう。
🔥 1. 内発的動機付け:内側から始まる力
本当に意味のある変化は、自分の内側から湧き出る動機から始まります。
ダニエル・ピンク氏の著書『Drive』では、内発的動機の3要素として以下が挙げられています:
· 自律性(Autonomy) – 自分で「何を、どう、いつ、誰とやるか」を選べるか
· 熟達(Mastery) – 取り組む中で自分の成長を実感できるか
· 目的(Purpose) – この行動は、自分の生き方や価値観と一致しているか
🎯 2. 笑ってしまうほど小さなスコープ
「もっと傾聴力を高めたい」という目標は素晴らしいですが、あいまいで実行に移しにくいものです。
持続可能な変化は、日常の業務にすぐに取り入れられる小さく具体的な行動から始まります。
例:「会議中、誰かが話したあとに必ず1つ質問をする」
シンプルで、明確で、すぐ実行できるものです。
🤝 3. 外発的動機付け:環境による支援
· アカウンタビリティ・パートナーの存在
· チーム内での公言・進捗の見える化
· ファシリテーターや上司からのフォローアップ
· 実行した際の報酬や、実行しなかった場合の小さなペナルティ
こうした外的支援が組織文化に組み込まれていれば、学びは一過性のものではなく、日常の行動として根付いていきます。
米国パートナーの事例:フォロー・スルーの設計
弊社の米国パートナー、Voltage Control社の社長のDouglas Ferguson氏は「フォロー・スルー(実践の継続)」を研修設計の中に組み込むことの重要性を強調しています。たとえば:
· 研修後のチェックイン – 実践状況や課題を共有する短時間のフォローアップ
· 習慣の積み重ね(ハビット・スタッキング) – 既存の習慣に新しい行動を結びつける(例:「メールを開いたあとに2分間、ファシリテーションのヒントを振り返る」)
· ピア・コーチング・ポッド – 2~3人のグループで定期的にお互いを支援
· ナラティブ強化 – 実践内容の内省文やブログ、動画を共有し、モチベーションを保つ
🗣️ リーダーの役割
もう1つの重要な要素は、組織からの支援です。
リーダーが何を重視すべきかを明確に伝え、それを実行で示すことで、研修の学びは日々の仕事の中で生き続けるようになります。
✨ まとめ
「良い意図」だけに頼らず、自分を支えるための仕組みを構築しましょう。
モチベーション・サンドイッチを使えば:
· 自分自身にとって意味がある(内発的動機)
· 小さくて明確な第一歩(スモールスコープ)
· チームや環境からの支援(外発的動機)
この3層の支えが、持続可能な変化をつくります。
もしこのアプローチをご自身のチームに導入してみたいと感じたら、ぜひご連絡ください!
🧠 なぜこのテーマを選んだのか?
このテーマを選んだ理由は、「良い意図を行動に変える」という課題が誰にとっても身近なものであると感じたからです。「モチベーション・サンドイッチ」というコンセプトに出会ったとき、それはまさにシンプルでありながら効果的な枠組みだと直感しました。
この用語に初めて出会ったのは、Allan Ryan氏による投稿でした。彼はVoltage Controlの「Facilitation Lab」卒業生コミュニティの一員であり、SessionLabのシドニー地域リードも務めています。彼自身はビジネスコーチのメールでこのアイデアに出会ったそうで、正確な出典は不明とのことです。それでもなお、このモデルが非常に有用だったため、ぜひ皆さんと共有したいと思いました。
そして私にとってこのアイデアが特に響いたのは、兵庫県でALT(外国語指導助手)として教えていた頃の経験と強く重なったからです。英語という教科は、多くの生徒にとって抽象的で実生活と結びつきにくいため、どうやってモチベーションを維持するかが毎回の授業設計の中心課題でした。
その中で最も効果があったのが、内発的・外発的動機をうまく組み合わせることでした。「英語で通じた!」「少しわかった!」という小さな成功体験を積み重ね、その努力をポジティブなフィードバックで支えること。この2つが授業の中核になっていました。
この体験は、今のファシリテーターとしての仕事にも直結しています。教室と同様、企業研修の場でも、人が内側から支えられ、成長を実感し、他者からの励ましを受けることで、本当の変化が生まれるのです。モチベーションの設計は、学校だけでなく職場でも重要な鍵なのです。
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日賑グローバル株式会社
ファシリテーター
ヒューステッス・ブレット
huestis@nisshin-global.com