ニュースレター国内版 2020年・春(237号)

 

1. クルーズ船とコロナ感染の蔓延

 

 

2. パンデミックに見るリスク認識の違い

 

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

 

4. 中東フリーランサー東京報告48

 

 

5. 外国人材アクセス.comをリニューアルしました  

 

 

6. 月刊『人事マネジメント』に拙稿 「ジャパンドリーム - 外国人材はなぜ日本を目指すのか?」掲載 

 

 

 

 

 

 

1.クルーズ船とコロナ感染の蔓延

 

 

 

2月初頭に横浜の大黒ふ頭に停泊したアメリカのクルーズツアー会社カーニバル所属のダイアモンドプリンセスから新型コロナウィルス感染者が出たことが、わが国はもとより世界中に報道されたが、世界における新型コロナウィルス蔓延とクルーズ船の航海の関係についてワシントンポストが一大特集を組んだ。 

 

 

とても長い記事なのでここでは要点のみを紹介する。 

 

 

記事はエクリプスとコーラルプリンセスという2隻のクルーズ船の乗員乗客のインタビューを交え、両船がその他の多くのクルーズ船同様、ダイアモンドプリンセスでの感染状況が判明した後も、そして米国の保健省関係者が止めるよう忠告したにもかかわらず、遠い目的港に向けた航海に出港していった経緯と結果を細かく取材している。 

 

 

例えば、321日には乗員乗客が夫々の船の甲板で大集合してコロナと戦う医療従事者を称えるパーティをしている。 

 

 

現在、政府とメディアの発表を総合するとこの2隻を含め少なくとも55隻のクルーズ船で乗員乗客に感染者が見つかっており、死者は65名に達している。 

 

 

保健関係者によれば、世界に感染が一気に広まった要因は圧倒的に空の旅で、昨年だけで45億4千万人の人々が飛行機で移動している。 

 

 

これに対し、クルーズ船の乗客数は全部で3千万人と少ないが、船上では人々が集まって食事をし、泳ぎ、ダンスをする濃厚接触状態を何日にもわたり繰り返すという。

 

 

トランプ大統領のコロナ関連の会見で常に隣に立つアメリカの感染症専門家のトップのアンソニー・ファウチ博士は、2月の時点で、「クルーズ船上以上に細菌の増殖に恵まれた環境は無い」とその危険性を語っていた。

 

 

ところが、取材を受けたエクリプスとコーラルプリンセスの乗客の証言で、航海時、船長からは「この船は感染の無い安全な船である」と度々告げられ、船上にインフルエンザのような症状の乗客がいてもコロナ感染の可能性は一切否定し、隔離するといった処置も怠っていたという。 

 

 

ダイアモンドプリンセスを含め100隻を超えるクルーズ船を運航するカーニバル社のアーノルド・ドナルド社長は「コロナ感染拡大の責任をクルーズ船に求めるべきではない」と語る。

 

 

ところが、米保健省幹部はクルーズ船が船上はもとより寄港地を通じコロナ感染を拡大させた1つの要因である証拠があると語る。 

 

 

今月、航海禁止令が少なくとも100日間まで延長されたが、米国CDC(疾病管理予防センター)のロバート・レッドフィールド所長は、クルーズ船業界とそれを受け入れる国や市町村当局による管理が不十分なためコロナ感染の世界蔓延を悪化させていると語る。

 

 

船が所属する欧米はもとより、アジア各国に感染を広げ、そしてカリブ海のジャマイカやケイマン諸島、プエルトリコではクルーズ船の乗り入れが明らかな感染発生源となっている。

 

 

本来2月初めのダイアモンドプリンセスでの教訓をクルーズ船業界と、船を受け入れる寄港地各国が良く学び備えているべきであったが、クルーズ船側の対応は、直近で中国を訪問した人の乗船を認めないことと消毒液を多く積み込む程度の対応であった。 

 

 

一方、ファウチ博士は3月8日に年配者や基礎疾患のある人は乗船を止めるよう警告していた。 

 

 

CDCが調べたところではクルーズ船上の罹患率は比類なき高さで、家庭内に感染者がいた場合の感染率よりも高いと驚きを隠さない。

 

 

クルーズ船がもたらす経済効果の大きさはジャマイカのような国には無視できず、またカーニバル社の会長がトランプ大統領と知己であることやクルーズ業界がホワイトハウスのコロナウィルスタスクフォースのトップのペンス副大統領にロビーイングしてきたことも同業界に対する決定的な制限が遅れたことに繋がっている

 

 

23日から313日までの間の米国でのコロナ感染者の17%がクルーズ船由来であることが判明し、翌日3月14日にCDC30日間の航海禁止令を出したが、既にその時点で多くの船が洋上にいた

 

 

世界第二位のクルーズ船運航会社のロイヤル・カリビアン・クルーズ社も首位のカーニバル社同様、アメリカのマイアミに本拠地を置くが、新造船Celebrity Apex41日のデビュー前の乗員訓練をフランスの港で行っていた。 

 

 

その結果、1400名の乗員中、本記事出稿の時点で284人の感染者を出す状況にある。

 

 

数千名もの乗客が豊かで楽しい時間を共に過ごすクルーズの旅が、今回のコロナ危機では逃げ場のない感染増大の場となっている。 

 

 

ダイアモンドプリンセスでの教訓が生かされず、他の船上の感染者、死者を積み上げていったことは人災とみなされても止むを得ない、というのが記事の主旨と感じた。

 

 

 

2. パンデミックに見るリスク認識の違い

 

 

 

アメリカの総合法律サービス会社のDENTONS今回のコロナ危機対応で見られたアメリカ人のリスク感性についてのレポートを挙げていたので要点を紹介する。

 

 

オレゴン大学心理学のPaul Slovic教授によれば、人々は“ひどく恐れるリスク”と分類されるリスクを過大評価しやすいという。 

 

 

それは予想のできない制御不能な出来事で、発生の確率が非常に小さいとしても、一旦発生すれば多くの人々の命を奪うようなものといえる。 

 

 

例えば冷戦時代にはアメリカ人は核戦争で死ぬことを必要以上に恐れていたし、今でも人々はテロにより死ぬことを過剰に恐れている。 

 

 

いずれもその発生確率は低いにもかかわらず、前者は核の破壊力が、後者はテロの予想不能性がことさら恐怖を煽ってきた。 

 

 

一方、ブラウン大学のローズ・マクダモット教授(国際関係論)によると、人々は発生の可能性が高いものの制御可能で予測可能な出来事のリスクを過小評価しがちだという。 

 

 

例えばパンデミックの場合、死亡率が高いにもかかわらず、医療機関の存在と感染ということに対する無知・誤解から自分にとってはリスクの低い、恐怖をあまり感じないこととして感じてしまいがちという。 

 

 

多くの人々のこのリスク認識の過ちが本人の準備不足はもとより政策決定に悪影響を与える。 

 

マクダモット教授によれば、実際COVID-19に対する発生当初の警戒レベルは、米国はもとより多くの国々で非常に低く、それはその時点でそのリスク(致死率と制御不能性)を過小評価していたためであるという。 

 

 

一方、このリスクに適切に備えられていた成功例としては感染経路を追跡できる監視システムを持っていた国々で、これには当然プライバシーの問題との兼ね合いとなるとノートルダム大学のEugene Gholz教授(国際安全保障)は語る。 

 

 

感染リスクが顕在化していない時点でプライバシーに抵触する政策はコンセンサスを得難い。 

 

 

この点、SARSやエボラ出血熱を経験したアジアやアフリカの国々では、かかる準備態勢が築かれて今回のウィルス抑止に成功している。 

 

 

一方、米国ではそれがなく、当初パンデミックのリスク認識は(科学者不在の)政治利用のみでなされていた。 

 

 

他国で生じたことを謙虚に他山の石としてそのリスクを想像し、認識したうえで準備をしておくことが本来の政府の役割であるというのがこのレポートの趣旨であろう。

 

 

翻ってわが国の場合も「対岸の火事」の状況から「延焼」状況に至る中でこれを教訓として将来の様々な起こり得るリスクに対する感性と創造力、政策準備に活かす必要があろう。 

 

 

ただ、今回のパンデミックと関係なく、日頃よりマスクを着用している日本人が多いことが仮に日本の感染率の低さと有意な相関があるならば、政府以上に日本人のリスク感性が高いということであろうか・・。

 

 

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

 

 

(1)  中国

 

l  南シナ海での米海軍による中国けん制

 

ロイター通信は、米軍関係者の話を引用して、「南シナ海のマレーシア沖で、中国の船が調査活動を始めた為、米国が海軍艦艇2隻を海域に派遣した」

 

と報道している。

 

中国は南シナ海で軍事拠点化を強行しており、調査は海域で領有権を争うマレーシアに対する圧力と見られている。

 

 

 

l  台湾の蔡英文総統を称えるタイム誌

 

台湾の新型コロナウイルス対策を紹介する蔡英文総統の寄稿が米国のタイム誌の新型コロナ関連特集に掲載されている。

 

この特集には世界の著名人50人以上の文章や提言が収録されているが、蔡総統はアジアの国家元首として唯一人、同特集に協力している。

 

台湾の現政権の政治的リーダーシップは世界的にも高く評価されつつあり、中国の反発と嫉妬は強まるばかりである。

 

 

 

l  原油処理減産から回復に備える製油所

 

中国政府・国家統計局が発表した最新データによると、中国本土の製油所の原油処理量は本年3月には、2018年12月以来の低水準となっている。

 

新型コロナウイルス感染拡大により燃料需要が減少する中、大幅な生産削減が続いている。

 

但し、感染防止策が緩和されるに伴い、回復の兆しも見えつつある。

 

即ち、本年3月の原油処理量は5,004万トン(日量約1,178万バーレル)で前年対比6.6%減少しており、1~2月は日量1,207万バーレル、2019年3月は日量1,249万バーレルとなっていた。

 

1~3月の処理量は1億4,928万トン(日量約1,198万トン)で、前年同期対比4.6%減少している。

 

国営の製油所は、新型コロナ感染拡大防止に向けた制限措置が実施される中、稼働率を抑え、点検整備を実施してきていた。

 

 

 

(2)韓国/北朝鮮

 

l  韓国版ニューディール

 

文大統領は非常経済会議で、新型コロナウイルスの感染拡大による雇用危機の克服の為、政府が50万人の雇用を創出する方策を含む特段の対策を打ち出した。

 

特に、国が主導する大規模プロジェクトの「韓国版ニューディール」事業を迅速に推進し、雇用問題の解決からさらに踏み込んで「ポストコロナ」体制に備えた革新成長の足場を築くと強調している。

 

そして、文大統領は、これまで行われた4回の非常経済会議で、約150兆ウォン(13.2兆円)に上る支援策を発表している。

 

これに加え、更に約90兆ウォン規模の追加対策を決定し、特に、基幹産業を守るとしつつ、その関連企業には雇用維持を義務付けるとしている。

 

即ち、文大統領は、40兆ウォン規模の「基幹産業安定基金」など総額90兆ウォン規模のコロナ追加対策を発表し、雇用安定特別対策(10兆ウォン)、民生・金融安定追加支援(35兆ウォン)も含めて運用するとしている。

 

そして、基幹産業支援では「雇用維持」が支援条件となっている。

 

尚、韓国の外貨獲得産業の一つに海運業があるが、文在寅大統領は、

 

「世界5位の海運強国への飛躍を目標に『海運再建5カ年計画』を強力に推進し、二度と浮沈の歴史を繰り返さない」と海運業の発展、底上げに意欲を示している。

 

 

 

l  米韓防衛費分担でトランプ大統領が韓国の提案を拒否

 

米国のトランプ大統領は、米韓防衛費分担金交渉について、「韓国は米国に一定の金額を提示したが、私が拒否した。韓国は高い比率を負担すべきである」

 

との考えを示している。

 

即ち、韓国は、米国に対して、防衛費分担金を前年比最大で13%引き上げる案を提示したが、トランプ大統領がこれを拒否したと言うことである。

 

昨年、韓国が負担した1兆389億ウォンを1兆1,700億ウォン台にまで引き上げるという提案をトランプ大統領が拒否したこととなり、昨年9月から始まった米韓防衛費分担金特別協定(SMA)に向けた交渉は、更に今後長期化する可能性は高い。

 

文政権は中露を後ろ盾にしつつ、米国に対して、「米軍の韓国駐留を今後拒否する」との姿勢を可能性も出てきているとの見方も一部には出てきている。

 

 

 

[主要経済指標]

 

1     対米ドル為替相場

 

韓国:1米ドル/1,233.52(前週対比-16.25)

 

台湾:1米ドル/30.08ニュー台湾ドル(前週対比+-0.00)

 

日本:1米ドル/107.59円(前週対比+0.26)

 

中国本土:1米ドル/7.0763人民元(前週対比-0.0003)

 

 

 

2.      株式動向

 

韓国(ソウル総合指数):1,889.01(前週対比-25.52)

 

台湾(台北加権指数):10,347.36(前週対比-249.68)

 

日本(日経平均指数):19,262.00(前週対比-635.26)

 

中国本土(上海B):2,808.529(前週対比-29.966)

 

 

 

4. 中東フリーランサー東京報告48

 

 

 

三井物産戦略研究所の大橋研究員から掲題の報告を頂戴しましたので皆様と共有させていただきます。 大橋さんからは下記のメッセージを頂戴しています。

 

 

 

新型コロナウイルス禍でますます動きが取れなくなっていますが、皆さま如何お過ごしでしょうか。前号からわずか2週間、事態はますます深刻化し、今や世界恐慌以来の危機と言われています。しかし、100年前のスペインかぜのパンデミックを言及するメディアはあるものの、その経済的影響についての考察はとんと聞きません。これは恐らく、パンデミックと世界経済の関係が、100年前はまだ低かったと言うことなのでしょう。逆に言えば、現代の世界経済に対して、ヘルスケアの重要性が比較できないほどに高まっていることを示すものであると思います。AI万能の時代が来るように喧伝されて来ましたが、やはり世の中は人間が主役であったと言う事実に、不安と共に少し安堵する次第です。

 

 

 

5.外国人材アクセス.comをリニューアルしました  

 

 

 

弊社が運営しております中堅・中小企業経営者向け外国人材紹介サイトの外国人材アクセス.comhttp://www.gaikokujinzai-access.com/) を今般リニューアルいたしました。

 

お時間あるときに覗いてみて頂ければ幸いです。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 

 

 

 

6.月刊『人事マネジメント』に拙稿 「ジャパンドリーム - 外国人材はなぜ日本を目指すのか?」掲載 

 

 

 

月刊誌『人事マネジメント』に先月から寄稿させて頂いておりますが、今月号が出版されましたので拙稿の部分を共有させていただきます。 ご笑覧賜れれば幸いです。

 

 

 

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