ニュースレター国内版 2020年・夏(244号)

日賑グローバル・ニュースレター国内版(第244号)

 

1. トランプ大統領を狂信するQAnon

2. 副大統領候補を決めかねるバイデン

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化 

 

4. 中東フリーランサー東京報告51

1.トランプ大統領を狂信するQAnon

 

QAnonはオンラインの活動で、“Where we go one, we go all”をモットーに、トランプ大統領が、悪魔と児童取引を信奉するディープステート(闇の政府が共謀で政治を抑えているという陰謀説)の破壊活動家の秘密結社と懸命に戦っているという、いわゆる陰謀説を信じる人々の集団である。

2017年秋にインターネット上のメッセージボードに”Q”と名乗る自称政府内部者の人間が“陰謀”内容を投稿したことがきっかけで口コミで広がってきている

FBIQAnonを「反政府で、特定のアイデンティティに基づく過激な政治陰謀説信奉グループの1つで、国内の過激派を動機づけて犯罪や暴力的な活動を起こさせる脅威」と定義して警戒している。

このQAnonの信奉者たちをトランプ陣営が再選キャンペーンに取り込もうとしている様子をワシントンポストが報道した。 

トランプの選挙応援集会ではQAnonの信奉者はそのロゴ入りの衣服やプラカードを掲げて参加している。 

トランプ選対本部の広報部長はQAnonのラジオ番組に出演し、リスナーに選挙活動への協力を呼びかけ、ホワイトハウスのSNS担当官もQAnonからトランプ大統領への支持を受け入れるだけでなく、彼自身が彼らの文化表現(ミーム)を投稿している。

大統領自身、74日の独立記念日だけでQAnonの信奉者たちのツイートを12回もシェアしている。 

トランプ政権がQAnonの活動を増幅させることからその考えが右翼や、次期国政選挙を狙う候補者たちに浸透し、議会にこの陰謀説の影響が及ぶことを懸念する政治アナリストもいる。 

というのも、QAnonの信奉者による“救済”のビジョンでは「軍を掌握し、民主党員を大量検挙する」といった過激な主張が含まれているため。 

既にQAnonの考えに触発されているトランプ支持の議員候補が12おり、11月の選挙を待っている。 

そのうちの一人でジョージア州共和党下院議員候補に選ばれたAngela Stanton-King女史は、車盗難組織のメンバーの一人として逮捕、収監され、2年を経て大統領の減刑を受けた経緯を持つ。

釈放後、彼女はインスタグラムにQAnonのビデオ“なぜ彼らは国民にトランプを嫌わせるように働きかけているか”がその筋の人気を博している。  

一方、QAnonへの支持や信奉を表明する人々の中から最近だけでも2件の殺人と1件の誘拐、2件のバンダリズムを含め計10件の逮捕者が出ている。

ツイッターはこの陰謀説に関するアカウントを7千以上閉鎖し、フェイスブックも新た規制を検討中と言われている。  

ピューリサーチセンターの調査ではQAnonのことを聞いたことがあるというアメリカ人は全体の4分の1にとどまっている。 

QAnonの実態を知らずに、その信奉する考えだけが出回ると、その都合の良いところだけが右派のメディアに取り上げられ喧伝されていくことを危惧する専門家もいる。 

実際、保守系のウェブサイトやトランプ支持のOne America News、そしてFox Newsに徐々にその考えが浸透しつつあるといわれる。 

コロナウィルス流行に対する反科学的見解も目立ってきている。

仮にトランプが大統領選挙の獲得選挙人数で敗れても、 “不法な郵便投票”を理由にその結果を受け入れないと発表した場合、QAnonを始めとした彼の信奉者とそれ以外の人々との対立が発火点に達すると危惧される。 

元々トランプ大統領に見初めてもらうことが目的であったQAnonの活動者にとって、トランプ選対本部の公式メディアにQAnonのシンボルが登場するようになったことは至福の喜びとなっている。 

そしてここにきてトランプ大統領の初代の国家安全保障補佐官であったマイケル・フリン氏が事実上QAnonを承認していることが、半ば面白半分でQAnonを支援していた層を真剣な信奉者に変える重みを与えているようである。 

弊社が日本企業に職業紹介したアメリカ人の女性から聞いた話で、彼女の夫の家族がオクラホマ州に住んでいるが、コロナウィルスを信じず、何度お願いしてもマスクをしてくれないと語っていました。 

有権者の3割を超えるトランプの岩盤支持層が陰謀説に傾くほどアメリカの感染拡大が増えていくことを懸念します。

 

2. 副大統領候補を決めかねるバイデン

 

民主党大統領候補に事実上確定しているジョー・バイデン前副大統領は自らのキャンペーンパートナーとなる副大統領候補の決定を81日に発表するとしていたが、それを1週間遅らせると語り、最近になってさらにもう一週間延ばすと発表した。 

この決定の遅れが不必要に党内の状況を混乱させている様子をワシントンポストが取り上げた

弊ニュースレターで以前ご紹介したように、副大統領候補と目される有力女性候補はおり、ロングリストとして12いると言われる。

本来その中からショートリストと称して2-3名の候補に絞り込み、そこから1人を選ぶというのが従来のパターンであるが、バイデンは未だに自分の好みを示さず、まだ5人も6人もの候補者とインタビューを行う状況にあるという。 

その中でカリフォルニア州選出のカマラ・ハリス上院議員と同じくカリフォルニア州のカレン・バス下院議員、フロリダ州のヴァル・デミング下院議員、そしてオバマ政権時代の国連大使や国家安全保障補佐官を務めたスーザン・ライス女史といった黒人女性の副大統領候補争いが取りざたされている。 

ハリス上院議員は民主党大統領候補選に参加してその志の高さを見せており、同志と共にバイデンとそのチームに対する公私にわたる猟官活動が目立っている。 

一方でそのあからさまな彼女の活動に批判的な向きも多い。 

ハリスはこの批判をも公開しつつ自らを女性の地位向上のための戦士として位置づけている。

2008年に当時の民主党大統領候補であったオバマ大統領がバイデンを副大統領候補に選んだ際には、オバマはバイデンに対し「副大統領職があなたのキャリアにとっての最高位のポジションであると考えて欲しい」と語り、バイデンはオバマとの関係を(大統領と副大統領の関係の)1つのモデルであると語っていたが、それを今回の副大統領候補との関係に求めているかどうかは不明である。。  

オバマキャンペーンの2008年及び2012年の際の大統領候補の発表は民主党大会直前になされており、今年の党大会が817日から開催されるので仮にバイデンが815日に副大統領候補を発表したとしても特に不都合があるわけではない。

メディア等で副大統領候補の話題が出るたびにトランプ陣営から攻撃や非難、揶揄が飛ぶのは想定されていたが、今回は蚊帳の外に置かれた民主党内の男性陣からも不満の声が飛んでいるようである。 

本来党内の女性の能力にスポットライトを当てる期間であったものが決めきれないバイデンに対する非難として裏目に出ているところが記事のポイントといえる。 

ただ、それだけ例の人種問題が黒人副大統領候補を求める圧力につながり、バイデン候補の決定に影響を及ぼしているのかもしれない。

バイデン候補がどの女性を選ぼうが、キャンペーンが勝利した場合にはアメリカにとって初の女性副大統領となり、敗退した場合には2024年の大統領候補となり得るという点でオッズはかなり高まっている。

 

3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化

 

(1)  中国

l  「英国海外市民」旅券の無効化を進める中国政府

中国政府は、香港住民が保有する「英国海外市民(BNO)」の旅券の無効化を検討すると表明している。

中国による香港国家安全維持法(国安法)の施行を受けて香港住民の受け入れ策を進めている英国政府への対抗措置で、中国政府は、

「英国が香港と中国の内政にみだりに干渉している。」と英国政府を非難している。

この特殊旅券は、香港の主権が中国本土に返還された1997年以前、申請した香港市民を対象に発行されていたものであり、ロイター通信によると英国政府は、このBNO資格を有する香港市民に対する受け入れ支援策を来年1月に始めると表明しており、中国政府は、これに反発しているものと見られる。

 

l  南シナ海での米中のつばぜり合い

香港メディアの報道によると、人民解放軍の95180部隊は海上閉鎖を発表し、7月25日から8月2日まで南シナ海の雷州半島の西の海域で大規模な実弾実習を実施した。

対応する海域での全ての海上航行と操業は禁止され、船舶は港に係留するよう警告された。

発表の対象範囲は広く、また、本格的な軍事演習で、許可なく当該海域に侵入した場合、偶発的に爆撃される危険性が高いと見られていたものである。

人民解放軍の実施した、このライブファイアー演習の前夜には、米国は頻繁にこの近海での軍事行動展開し、5機の軍用機も派遣されたことは注目に値する。

そして、中国政府・国防部は、中国軍が南シナ海で、新型の轟(H)6爆撃機による軍事訓練を行ったと発表した。

詳しい実施海域は発表されなかったが、昼夜に海上の攻撃目標を打撃する訓練だったと見られている。

また、年度計画に沿った訓練としているが、米国トランプ政権が南シナ海での対中圧力を強めていることに反発し、急きょ実施した可能性もあると見られている。

また、北京大学海洋学研究所の「南シナ海戦略的状況認識プログラム」チームによって発表された情報によると、

「米国のP-3C対潜哨戒機が7月23日、台湾の南海から南シナ海に進入し、西への距離を飛行してから戻った。

同日午後8時から午後9時まで当時、米空軍のRC-135W偵察機とP-8A対潜哨戒機が台湾南部海域から南シナ海に進入し、広東省方面に飛行していたが、同日、米空軍KC-135Rもいた。

西太平洋の海域に出現し、そのうちの2つは南シナ海に入った。」としている。

また、米国海軍空母は、日本の海上自衛隊、オーストラリア国防軍と共に、フィリピン海で合同軍事演習を行っていた点も留意しておきたい。

 

l  2025年までの5か年計画並びに2035年までの長期計画の策定開始

中国共産党指導部は本年後半にも主要会議を開き、米国との新たな緊張の源となる可能性がある次期長期計画について話し合う予定であると見られている。

国営の中国中央テレビ及び多くの中国本土国内メディアは、中国共産党中央委員会の本会議が10月に北京で開催されると報じ、また、習近平国家主席が主宰する委員会の政治局の会合でスケジュールが設定されたとの報道を行っている。

そして、次期会議では、2025年までの5か年計画について検討することとなっている。

この計画では、基本的な経済政策と重要なプロジェクトが提示され、また2035年の長期目標も議論される予定である。

2018年には、中国はハイテク産業における世界的な優位性を巡って米国と激しく戦うこととなった。

 

(2)韓国/北朝鮮

l  「玄武4」弾道ミサイル

韓国の文在寅大統領は、韓国国内・大田の国防科学研究所(ADD)を訪れ、同研究所が開発した「玄武4」弾道ミサイルなど先端戦略兵器の視察を非公開で行った。

玄武4の射程は北朝鮮全域を打撃可能な800キロに達し、弾頭重量は2トンとされているミサイルである。

文大統領のこの日の訪問は、来月6日のADD創設50周年に先駆けて行われたものである。

 

l  核融合エネルギーの国際協力に参加する韓国

韓国政府・科学技術情報通信部は、欧州連合(EU)と韓国など7カ国で構成されたITER(イーター、国際協力によって核融合エネルギーの実現性を研究する為の実験施設)関連国際機関が、フランス・カラダッシュのITER建設現場で、「装置組み立て着手記念式典」を開いたと発表した。

 

[主要経済指標]

1     対米ドル為替相場

韓国:1米ドル/1,189.30(前週対比+10.27)

台湾:1米ドル/29.32ニュー台湾ドル(前週対比+0.10)

日本:1米ドル/105.11円(前週対比+2.05)

中国本土:1米ドル/6.9744人民元(前週対比+0.0269)

 

2.      株式動向

韓国(ソウル総合指数):2,249.37(前週対比+33.18)

台湾(台北加権指数):12,664.80(前週対比+251.76)

日本(日経平均指数):21,710.00(前週対比-1,041.61)

中国本土(上海B):3,310.007(前週対比-15.103)

 

4.中東フリーランサー東京報告51

 

三井物産戦略研究所の大橋シニア研究フェローから掲題のレポートを頂戴しましたので皆様と共有させていただきます。 大橋さんからは下記のメッセージを頂いております。

 

「コロナ禍の中、如何お過ごしでしょうか。中東フリーランサー東京報告51をお届けします。前号のメールに対して、多くの読者の方々から暖かい言葉を頂き、大変感激しました。正直10月以降はどうしようかと思っていたのですが、皆様の声に励まされて、本レポートは続投することと致しましたので、引き続きご愛読のほどよろしくお願いいたします。

さて、本日はお知らせがございます。

7日金曜日午後3時より、酒井啓子千葉大教授が主催されている「中東木曜フォーラム」で、1990年の湾岸危機時のイラク人質抑留事件を取り上げることとなり、「元人質」として小生が登壇し、往時を回想することとなりましたのでご報告申し上げます。あれからもう30年経ったのかと感慨無量ですが、9月末の卒業を前に、45年にわたる物産生活の最後のひと花のつもりです。公の場で人質経験をお話しするのは初めてで、おそらく最後だと思います。一緒に登壇されるのは、当時バグダッドの日本大使館におられた森元前駐オマーン大使で、司会進行は酒井教授、モデレーターは同じく当時クウェートの日本人大使館におられた保坂日本エネルギー経済研究所中東研究センター長ですから、まあ同窓会のような顔ぶれではありますが、ご興味があれば参加登録してください(下記ご案内の通り。後日動画も配信されると思いますが)」

 

開催日時:202087日(金)15:0017:00

開催場所:zoomを利用したオンライン開催(登録者の皆さま宛てにURLなどを通知します)

 

参加登録:以下のURLから参加登録をお願い申し上げます(前日までを推奨)

https://forms.gle/2kX9vtqq5mQ1JsJ78

 

司会・聞き手: 酒井啓子(千葉大学)/保坂修司(日本エネルギー経済研究所)

登壇者:

森元誠二 (東京大学大学院総合文化研究科中東地域研究センター客員教授・当時在イラク日本大使館参事官)

 

大橋 誠 (株式会社三井物産戦略研究所シニア研究フェロー)