ニュースレター国内版 2022年・春(285号)

日賑グローバル・ニュースレター国内版(第285号)

1. アマゾンのスタテン島従業員の組合結成の動きは全米に波及するか?
2. ウクライナでつくられた世界最大の航空機の被爆とウクライナの高度技術の行方
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化 
4. ロシアの徴兵状況
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1.アマゾンのスタテン島従業員の組合結成の動きは全米に波及するか?
ニューヨーク市のスタテン島にあるアマゾンの施設で働く従業員による労働組合結成の投票が先週行われ、会社側の反組合結成活動にもかかわらず、組合の組織化が決定された。今回の投票結果が従来の大企業やテック企業での社員の非組合化或いは組合弱体化のトレンドを転換する象徴的出来事となる可能性についてワシントンポストが詳しく報じている。今回の組合結成運動の特徴として、ワシントンの進歩的組織の指導に従うものでもなく、従業員自身が立ち上げり、効果的なネットワークを設け、会社側による従来型の反組合戦法をかいくぐってボトムアップで勝利に導いた点にある。  
この投票後、アマゾンは、投票結果への異議申し立ての可能性に触れつつ、「(組合を経ず)会社と直接の関係を持つことこそ従業員にとってベストであると信じており、今回の決定に失望している」との声明を出した。今回の投票前にも、同じニューヨーク州のバッファロー市にある6つのスターバックスの店舗で同様に従業員組合の結成が実現している。こちらも業界の横断組合など、社外の力を借りず、組合結成を進めようとする従業員一人一人が個人的に他の従業員の説得に当たり、その根拠も賃金や職場環境の改善のみならず、人権や気候変動の問題に対する従業員の声を集約する目的に置いたりしている。 
アメリカにおける組合組成率(全従業員中の組合所属者の割合)は過去40年間で一貫して下がってきており、昨年は10.3%と1983年の値の約半分にま
で落ち込んでいる。本ニュースレターでも度々取り上げた“Great Resignation”と呼ばれるパンデミックに伴う800万人に及ぶ就労年齢者の就労離脱や、毎月400万人もの退職者が発生している現象は 人手不足を悪化させ、結果として賃金を5.6%押し上げている。 
一方、パンデミックに伴う供給問題にウクライナ情勢が加わり、インフレが7.9%と高く、生活を圧迫してきている。多くの企業が史上最高益を挙げている中で、組合の力を通じた生活の改善を求めるエネルギーが高まっている。組合員の実力行使としてはアラバマ州ブルックウッドの石炭鉱山労働者が雇用主であるWarrior Met Coalに対し、ストライキ中で、去る4月1日でストライキ開始から丸一年を迎えた。その間の、組合員の生活費は一般や、労働者支援団体からの寄付で賄われているが、今回のアマゾンのスタテン島での組合結成のニュースはこうした労働者を大いに力づけている。 
同様に刺激を受けたのが鉄道労働者である。アメリカでは鉄道労働者は大統領の承認が無いとストライキを打つといったことができないが、5万6千人もの鉄道労働者メンバーを持つ Brotherhood of Locomotive Engineers and Trainmenのトップはバイデン大統領に現在の労使間の交渉を仲裁する代表を指名するか、鉄道労働者にストライキの権利を認めることを求める嘆願書を準備中であるという。インテルの創業者のロバート・ノイスが1985年に著した“Silicon Valley Fever”の中で彼は、「会社が非組合組織であり続けることが(シリコンバレーに象徴されるテック)企業の生き残りにとって重要である。もし組合を持つ企業の就業規則を持つならば我々は皆、市場からお払い箱となろう」とまで言っている。この考え方はテック企業にいまだに浸透しているもののアップルのストアやグーグルの従業員が独自の組合を結成させ、処遇改善を求めつつある。「組合結成の推進」はバイデン大統領の選挙公約の一つでもあり、連邦政府の力が及ぶ範囲においては積極的に組合組成を支援してきている。ホワイトハウスの報道官は今回のスタテン島のアマゾン従業員の投票結果に関し、「大統領は喜んでいる」と記者会見で伝えた。パンデミックにおいて「エッセンシャルワーカー」と称えられた現場労働者だが、“エッセンシャル”の名に相応しい処遇には無く、貧富の差が一層拡大している。組合結成を通じた労働者の力の結集がテックカンパニーを含め高収益をあげている全米の企業の従業員に浸透するうねりとなるか注目される。
2.ウクライナでつくられた世界最大の航空機の被爆とウクライナの高度技術の行方
重量において世界最大の航空機としてギネスブックに掲載されているウクライナのアントノフ製AN-225機(別名ムリーヤ)は人工衛星など大型で高価な「商品」を長距離で輸送する際にチャーターされるなどして、世界中で活躍していた(わたくしの前職の商社でも利用していた記憶があります)。  
ムリーヤの離陸重量は705トン(ジャンボジェット機は450トン)、翼幅は88メートル(同64メートル)であった。2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻し、首都キーフに侵攻する航空拠点としてキーフ郊外にあるHostomel空港を攻撃した際、機体整備中であったムリーヤだけが同空港に止まっていたため格好の標的となって破壊されてしまった。他の航空機は事前に安全なところに飛び立っていた。その後、ウクライナ軍による反撃が功を奏し、Hostomel空港は奪還され、ウクライナ軍の管理下にある。その証拠として、破壊されてしまったムリーヤの残骸の前でウクライナ軍の兵士が撮った集合写真がアメリカのメディアに流れている。中国の初の空母「遼寧」はソ連時代にウクライナの造船所で製造されたものであり、中国の戦闘機のエンジンもウクライナ製のものがあるという。ロシアによるウクライナ侵攻は、両国が多く生産する小麦やトウモロコシなど農産物や鉱物・エネルギー資源の流通へのインパクトが懸念されているが、ウクライナの航空機、造船、兵器、そして原子力といった高度技術者や整備士などの供給の面でもインパクトが生じるかもしれない。 
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1)  中国
*  習近平国家主席による韓国次期大統領への電話
中国の習近平国家主席は、韓国の次期大統領となるユン・ソクヨル氏と電話協議をした。中国政府・外交部によると、習近平国家主席は、「中国は一貫して韓国を重視している。韓国と共に国際的、地域的協力を強めていきたい」と語り、韓国とも良好な関係を維持することに期待感を示した。
これは、ユン次期大統領に対して、これまでの米中間に於ける韓国の立ち位置を変えるなとの意向を示唆したものとも見て取れる。
*  中国国内にてミャンマーと外相会談
中国の王毅国務委員兼外相は、クーデターで権力を握ったミャンマー国軍が外相に任命したワナマウンルウィン氏と中国にて会談した。中国側は南シナ海問題などでの連携を求める一方で、ミャンマーの各勢力と交流をしていきたいとし、ミャンマーの民主派勢力にも一定の配慮を示している。中国政府は、ミャンマーに対する楔も入れながら、混沌の国際情勢の中で、外交的リーダーシップを取るべく、水面下の活動を活発化している。
*  ロシア問題でインドに気を配る中国
日本の岸田首相が訪印し、インドとの外交関係緊密化を確認した直後、中国の王毅国務委員兼外相がインドを訪問し、ジャイシャンカル外相らと会談している。ウクライナ情勢を巡り、米国から、「中国はロシア寄りではないか」と批判されていることから、中国は、本件で、中立を貫く姿勢を一応示しているインドとの関係を重視、国境問題を抱えつつも、それに譲歩してでも接近を図る可能性が出てきていると見られている。
これに対して、ロシアとの関係も一定程度あるインドは、中露印と日米豪印4カ国(クアッド)のバランスの上に立ち、キャスティングボードを取り、米中露それぞれからインドとしてメリットが取れるような外交を展開してくる可能性が出てきた。
(2) 韓国/北朝鮮
*  次期大統領の原発政策
ユン・ソクヨル次期大統領は、脱原発政策の白紙化を意識した動きを始めている。これまで、停止されてきた原発工事の再開を早めるとの姿勢も示している。こうしたことから、文在寅政権時には70%台に留まっていた原発稼働率も80%台半ばに高まるとの見通しも出ている。また、海外に原発輸出するとの動きも加速化する可能性も出てきた。
*  固体燃料ロケット初の打ち上げ成功
こうした中、韓国政府・国防部は、韓国の技術で開発した固体燃料ロケットの性能検証に向けた初の打ち上げ実験を国防科学研究所(ADD)が行い、成功したと発表している。そして今回の成功を機に、小型偵察衛星や超小型衛星の打ち上げロケットの開発に弾みを付けたいとの意欲も示している。固体燃料ロケットは、その使用を制限していた韓米ミサイル指針が昨年5月の韓米首脳会談を機に撤廃されたことを受け、国防部とADDの主導で開発が加速していたものであり、ADDは昨年7月、固体燃料エンジンの燃焼実験を成功させており、それから8カ月で新たな成果を収めたとしている。
[主要経済指標]
1.    為替市場動向
韓国:1米ドル/1,216.99(前週対比+4.41)
台湾:1米ドル/28.67ニュー台湾ドル(前週対比-0.01)
日本:1米ドル/122.43円(前週対比-0.52)
中国本土:1米ドル/6.3609人民元(前週対比+0.0071)
2.     株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,739.85(前週対比+9.99)
台湾(台北加権指数):17,625.59(前週対比-73.47)
日本(日経平均指数):27,665.98(前週対比-444.41)
中国本土(上海B):3,282.717(前週対比+32.453)
4.ロシアの徴兵状況
ワシントンにある法律事務所の大成DENTONSの情報によれば、ロシア軍による徴兵は毎年春に行われるとのことで、18歳から27歳までの男性から13万4千人を募集するという。現在ロシア国内に徴兵対象となる男性は11百万人いるという。徴兵期間は1年間となる。ただ、該当する男性の多くとその両親はこの制度に強い懸念と不満を持っており、実際多くの若者がこの徴兵を避けるべく国外に逃避している。今回、徴兵される新米兵士が訓練後、どこに配属されるのか、特にウクライナの東南部やキーウへの再侵攻に用いられるのか軍事専門家が注目している。