ニュースレター国内版 2020年・秋(248号)
日賑グローバル・ニュースレター国内版(第248号)
1. バレット判事の最高裁判事指名承認投票と11月3日の選挙の関係
2. 岩盤支持層はなぜトランプを支持するのか?
3. 東アジア情勢 -
4. 書籍紹介 『中国海軍vs. 海上自衛隊 すでに海軍力は逆転している』 トシ・ヨシハラ著、ビジネス社刊
1.バレット判事の最高裁判事指名承認投票と11月3日の選挙の関係性
故ギンズバーグ最高裁判事の逝去に伴う後任の判事としてトランプ大統領は9月26日エイミー・コニー・バレット連邦控訴裁判所判を指名した。
10月12日から指名承認に関する公聴会が上院司法委員会で開始される。
2017年にトランプが彼女を連邦控訴裁判所の判事に指名し、議会が審議した際には民主党側は、自らを正統派カトリックと呼ぶ彼女の敬虔なカトリック信者としての司法判断への懸念を露わにしている。
それほどに保守色の強さが鮮明なバレット判事の承認を大統領選間近の今、敢えて行うことの大統領選挙はもとより上下両院議員選挙への影響をワシントンポストが取りまとめていた。2016年に最高裁判事の欠員が出た折に、新しい判事の指名は次の大統領が行うべきとの共和党の強い主張をオバマ政権と民主党側は飲む格好となった。
今般、逆の立場となって、手のひらを返したように指名・承認を強行しようとする共和党に対し、民主党はどこまで強く反対するのか、そして最高裁判事の構成がこのままでは保守6名、リベラル3名となって保守系の過半数を確定してしまうことが「中絶問題」「銃の所持問題」といった社会を二分するような問題に対しバランスを欠く事態をどう避けようとするのか注目されている。
無論、2016年に共和党に譲歩したオバマ政権の副大統領であったバイデン大統領候補は「次期大統領が指名すべき」との声明を発表し、今週のディベートでもその主張を繰り返している。ただ、トランプ大統領により指名が強行された今、上院の構成は共和党が54議席の過半を握っていることからバレット判事の承認は現実的と言われる。
問題は上院による承認の賛否投票を11月3日の国政選挙の前に行うか後にするかに移っている。上院での審議がスムーズに進めば本選挙前の実施は十分可能と言う。ただ、それが選挙戦術的に共和党に有利に働くかどうかは不透明という。
一方、民主党側がムキになって承認に反対すると、7人の子供を育てる良妻賢母と言われるバレット判事への不当な仕打ちという心証を有権者に与えかねないという懸念もある。
2018年に欠員が出た最高裁判事としてトランプ大統領がカヴァノー判事を指名した際には、その年の中間選挙で共和党が強い保守州での上院議員の改選が多く、共和党が上院の過半数を維持することができている。
一方、今回はブルーステート(民主党が強い州)かスイングステートでの共和党の改選上院議員が多く、保守色が鮮明のバレットを議会で先に承認しておいて選挙戦で中道色を出すことは困難となる。
結果として、下院はもとより上院においても民主党がマジョリティを奪還する可能性が高まる。従い、共和党としては指名承認を焦らず、11月3日の本選の後、来年の新議会までのいわゆるレームダックセッションにおいて承認をすることも選択肢としてある。
ただ、アリゾナ州の共和党の現職マーサ・マックサリー上院議員は昨年選挙ではなく知事指名にてある種暫定的に上院議員となっているため、11月3日の本選挙で選ばれた候補者が11月30日に正式に上院議員として就任することになる。
仮に民主党のマーク・ケリー候補が勝利するとレームダックにおける党勢は共和党53:民主党47となり、バレット判事に対し共和党から3名ほどの離反者は十分にあり得るとのことからこのアリゾナの上院議員の1票が重要になるとの観測もある。そうなるとやはり本選挙前の共和党54人の状況で承認投票を行うべきとの意見も共和党内にあるという。
いずれにしても10月12日から始まる公聴会を通じ、バレット判事の人となりが見えてくるにつれて大統領選を含めた11月3日の選挙の両党の戦い方にも影響が出てくると見られている。
2. 岩盤支持層はなぜトランプを支持するのか?
これまで統計を取っている過去36年間の米国大統領選挙において、白人男性有権者の過半数は共和党候補に投票してきたという。その中で高卒以下の学歴の白人の支持率に関しては、トランプ大統領は過去36年の統計の中で最高値を得ている。そして過去4年間の彼の治世においても世論調査を通じこの層は常にトランプに最高の支持を表明し続けてきた。
前回に続き今回もトランプ大統領を強く支持するという岩盤支持層は絶対数が増えているかどうかは別として、その熱狂ぶりは前回に勝るとも劣らないようである。
「オハイオを制するものは全米を制する」と言われるほど決め手の一つとなる接戦州のオハイオ州のサンダスキー市で行われたトランプ支持者による典型的なパレードの様子と、参加者の背景をワシントンポストが取材していたので紹介する。
パレードは大砲や大きな国旗を積んだ何台ものボートを連ねたもので、船着き場にはオートバイかピックアップトラックばかりが並び、空をアンチークの軍用機が飛んでいるというこだわりの男連の集団。こういったオハイオの労働者層の男性たちは、ジャーナリストや政治戦略家或いは大学の研究者は実業ではないと考えている。
真の仕事とは身体を使い、手を汚して働くことと信じており、彼らは子供のころからそうしてきて、死ぬまでそうするつもりであるという。そしてその多くは頑張って働いた結果、彼らなりのアメリカンドリームを実現し、ボートやトラックを乗り回している。彼らから見るとバイデンはこれまでのキャリアを公職として過ごし、多くの収入と富を蓄える機会を得てきたという。
トランプもまた裕福な家庭に生まれたものの、彼の場合はビジネスをどうやってつくるか、そして社員への給与支払いのプレッシャーを良く理解していると彼らは語る。従い、トランプがバイデンを称して「弱い」と表現するのは正しい、と語る。
パレードの主催者の男性は、4年前の共和党の予備選で、トランプが政治家としての血筋の良いジェブ・ブッシュ元フロリダ知事をディベートで打ち負かすところを見て好きになったという。
トランプの主張するアメリカファーストから対中姿勢まですべて支持するものの、環境問題ではトランプの立場と異なり、環境問題を気にしている支持者もいる。党派を超える何かがトランプにはあると語る別の支持者は実際2008年にはオバマに投票している。
そして人種間の不平等の問題に関しては「黒人がチャンスが与えられなかったのではなく、それを掴まなかった」と主張する。
むしろ「世界に約80億人の人がいて白人は7.8億人しかいないのに、アメリカでは白人がマジョリティで特権階級と言われる。でも自分の両親は何にも持っていなかったし、自分は10歳のころから今まで働き詰めてようやくここまできたんだ」と語る。
トランプの岩盤支持層の典型的なペルソナとしては40台以上の白人、高卒以下の学歴でブルーワーカーとなるが、その中でも苦労して会社を興し、成功して邸宅やボートを持つものもいれば、失業の憂き目にあって苦しい生活を強いられているものもいて必ずしも一様ではない。
その中で、共通してトランプを支持する理由に、職業政治家には無くてトランプにはある、彼らに強烈に訴求するパーソナリティがあるということなのであろう。
3. 東アジア情勢 -愛知淑徳大学ビジネス学部真田幸光教授の最新レポートを弊社にてダイジェスト版化
(1) 中国
l ニュー台湾ドル高騰
台湾外国為替市場では、今、台湾ドル高の勢いは衰えていないと見られている。
そして、こうした中、ニュー台湾ドルは一時、Ⅰ米ドル対比29ニュー台湾ドルを突破した。
元々は中央銀行が29ニュー台湾ドル水準を必死に防御すると見られていたがこれを上回るニュー台湾ドル高となり、台湾国内では、「28ニュー台湾ドル時代に突入するかもしれない」との声も出始めている。
l 抗議と弾圧が続く香港情勢
香港政府は、政府トップの林鄭月が行政長官が、終審法院(最高裁)の豪州籍判事であるジェームス・スピーゲルマン氏の辞任を認めたと発表している。
スピーゲルマン氏は、香港で反体制活動を取り締まる国家安全維持法(国安法)への懸念を理由に辞任を申し出ていたとされている。
豪中関係の悪化も背景にあろう。
一方、香港では9月21日、立法会(議会、定数70)の民主派議員が辞職すべきか留任すべきかを問う世論調査が始まった。
民主派政党が民間調査機関に委託して実施し、9月29日にも速報が発表される。
また、香港警察は、警察が記者に取材を認める条件として、香港政府への登録や著名な海外報道機関への所属を求めるとの新たな通知を出した。
香港記者協会はこれに対して、「報道の自由に対する重大な妨害である。」とする抗議文を発表している。
香港警察は、昨年10月の無許可集会に参加したなどとして、公安条例違反(無許可集会参加)と抗議運動の際に顔を隠すことを禁止する「覆面禁止規則」違反の疑いで、著名民主活動家の黄之ホウ氏を逮捕、9月24日午後に保釈された黄氏は、記者団に対し、「香港当局には、来月1日に予定されているデモを封じたい狙いがある」と述べ、逮捕には、中国本土の国慶節に合わせた毎年恒例の民主化要求デモを牽制する圧力であるとの見方を強調している。
(2) 韓国/北朝鮮
l 「未来のクルマ」に備える現代自動車グループ
韓国有数企業の一つである現代自動車とその子会社でもある起亜自動車は、人工知能(AI)とロボット分野の専門家である米国・マサチューセッツ工科大学(MIT)教授を諮問委員に迎え、新事業戦略でアドバイスを受けている。
「未来のクルマ」の開発競争に備えると同時に、持続可能な成長に向けた最先端技術開発で専門性を強化する狙いがあるとみられる。
l バッテリー技術特許で世界一となった三星
欧州特許庁(EPO)と国際エネルギー機関(IEA)は、バッテリー(電池)技術に関する国際特許の出願ランキングで韓国の三星とLGが世界1位と3位を記録したとする共同研究結果を発表した。
韓国にとっては次世代技術の一つの根幹となるバッテリー技術の開発促進に努めており、その効果が上がっていると言えよう。
[主要経済指標]
1. 対米ドル為替相場
韓国:1米ドル/1,174.18(前週対比-9.37)
台湾:1米ドル/29.23ニュー台湾ドル(前週対比-0.25)
日本:1米ドル/105.43円(前週対比-0.88)
中国本土:1米ドル/6.8207人民元(前週対比-0.0532)
2. 株式動向
韓国(ソウル総合指数):2,278.79(前週対比-133.61)
台湾(台北加権指数):12,232.91(前週対比-642.71)
日本(日経平均指数):23,204.62(前週対比-155.68)
中国本土(上海B):3,219.418(前週対比-163.672)
4. 書籍紹介 『中国海軍vs. 海上自衛隊 すでに海軍力は逆転している』 トシ・ヨシハラ著、ビジネス社刊
日清戦争から太平洋戦争を経て冷戦、そして21世紀にはいっても東アジアにおける日本の海上兵力の優位は保たれてきた。 ところが、今世紀に入ってからの中国の急速な経済成長と、それに支えられた軍事費の増大により同国の軍事力の伸長は著しく、なかんずくその海軍力はついに日本の海上自衛隊を凌駕するに至っていると米国シンクタンクCSBA上級研究員のトシ・ヨシハラ氏は本書の中で指摘する。
著者は中国側が日本の海上兵力をどのように分析し、中国自身の軍事力との比較をどのように評価しているか、中国の資料を読み込み紹介するという従来の米国の研究者には珍しい視点で本書をまとめ上げている。
本書の監訳は第32代海上幕僚長の武居智久海将が担当されている。
このトシ・ヨシハラ氏が共著で2012年に出版された『Population Decline and Remaking of Great Power Politics』を小生が和訳し『人口から読み解く国家の興亡』として2013年にビジネス社から出版させていただきましたが、同著の中でも日本の人口減少に伴う東アジアでの相対的なパワーバランスの変化を懸念する同盟国の米国の視点が披露されていました。
今般の書籍ではヨシハラ氏は海上兵力という定量的・定性的な指標でそのバランスの激変を示し、日本と日米同盟への警鐘を鳴らしています。ご参考まで本書籍のビジネス社のリンクをこちらいたします。